騎士への一歩と最初の実験
『そんな事があったんですか!?学園の人達って色んな人達が居るんですね~。』
「全く、結局ノリと勢いに押されて承諾したけど、何を協力してほしいのかまだ聞いてないのよね。やっぱりもう少ししっかり聞くべきだったかしら…。」
はあ、とため息が出る。
別に嫌な気分というわけでは無いが、それはそれとしてため息の一つでもついてしまいたくなる気分だった。
登校初日、初対面の二人であるエスセナ嬢とウルティハ嬢の勢いに押されて魔法研究の協力の申し出を受け入れた。
その事を含めて色々な事を今日も魔力通話でソルスと話していた。
ため息をつく私に対して、通話越しのソルスの声はどこか楽し気だ。
「…ソルス、ご機嫌みたいね。そんなに、学園の話を聞くのが楽しいのかしら?」
少し、意地悪して聞いてみた。
『あっ、ごめんなさいマルニ様!でも…そうですね、学園に通えば、色んな人に出会えて、色んな事があるんだなって思ったら、とてもワクワクとドキドキで胸が高鳴っていて…!』
「私みたいに初日からハプニングに巻き込まれた人はほとんど居ないでしょうけどね…。」
素直だな、と思いつつ小さく苦笑する。
(まあ、そんな所も可愛いのだけど…)と心の中で付け足していると、ソルスは言葉を続ける。
『それに…。』
「それに?」
『マルニ様、なんだかんだ楽しそうですから!』
「うっ。」
…まさか、ソルスにまで言われてしまうとは。
実は魔力通話の前に部屋に戻ってきてフレリスと登校初日の事を話していた時にエスセナ嬢とウルティハ嬢の事も話したのだ。
最初は「あの噂のエスセナ嬢とウルティハ嬢が同学年、同じクラスとは…。」とフレリスも驚いていたが私の話を聞いていてだんだんフレリスはニヤニヤとした笑いになっていた。
それが気になって、「どうかしたかしら、そんなにニヤニヤして?」と聞いてみた。
そうすると、返ってきた言葉がこれである。
「いえ、声の弾み具合から察するになんだかんだ満更でもなさそうでしたので。」
「よいお友達になれると良いですね。」と良い笑顔で最後に締めくくられた。
…二人との事を話している時の私は、そんなに楽しそうだったり、笑っていたりしていたのだろうか?
そんな疑問符を頭に浮かべながら、私はこの日の魔力通話は終わって寝床に入る事にした。
(明日から、私の学園生活はどうなるんだろ…楽しくなると、いいんだけど)
そんなことを思いながら。
翌日。
いよいよ本格的に授業も始まり、家庭教師やフレリスから習っている事も習っていない事も盛りだくさんな授業に目が回りそうになる。
もちろんレクリエーション的な交流活動もあったが…まあ、悪役令嬢の定めというか、私の周りからの扱いがどうだったかは、察してほしい。
とりあえず言える事は…初日に話し相手が出来ていて良かった、という事だ。
仮に相手が問題児二人だったとしても、ソルスとアルデールが来るまでは独りぼっちだったかもしれない…そう考えると、気持ちを紛れさせてくれる相手が居るという物は大きい物だ、と感じざるを得ない。
まあ、当の本人達は…。
「ふっふっふ、放課後が楽しみだね、そうだろう、ウルティハ、マルニーニャ嬢!」
「逃げんなよぉ?逃げたらアタシ様開発の実験器具で実験倍プッシュだからなぁ???」
…いや、やっぱりこの二人と一緒は怖いかもしれない。
(これって、実質私はボッチというやつなのでは…)
そんな事を思いながら時間は過ぎて放課後になった。
「よぉーし、とうちゃーく!」
「いやあ、待ちに待った時間が来たね!」
「……。」
迷子にならないように(というのは言い訳で私が逃げないようにだと思うが)、昨日連れられてきた教室まで今日は二人に腕をしっかり組まれて連行された。
やはりというか、途中まで教師や生徒からは変な目で見られた。
…というか、今日もこの教室は人が居ないという事は、昨日が入学式だから人が居なかったのでは無く、やはりこの教室は空き教室なのだろう。
本当にどうやってこんな場所を見つけたのだろう、と思ったが、多分もう細かい事なのだろう。
とりあえず私は腕を離してもらうと、二人に向き直るようにして近くの備品の椅子に座った。
「とりあえず、まずは何を私にしてほしいのかしら?協力だとか見せてほしいと言われても、まずはそこを教えてほしいわね、エスセナ嬢、ウルティハ嬢。」
「私達は対等な協力関係だ、貴族らしく振る舞う必要は無いよ。ウルティハと同じように、呼び捨てでも構わないし、渾名で呼んでも構わないよ。」
「アタシ様も同じで良いぜ!ウルティハでも、ウルティでもな!あ、でもティハはセナ限定の呼び名だからな!」
「同じく、セナと呼ぶのはティハだけだ、申し訳ないね!」
「「はっはっは!!」」
肩を組んで笑う二人。
…ただ問題児の二人同士の慣れ合いだとか傷の舐め合いという可能性もあったが…。
この二人は、どうやらしっかりとした信頼関係があるようだ。
そこに自分を加えよう、と考えているのだ。
本人達としては別に大して気にしていないのかもしれないが…ある意味、この二人の器の大きさの現れなのかもしれない。
やっぱり、ある意味この二人は天才と呼べる部類の人間なのだろうか。
…そう考えるとやはり、闇属性以外の才能は特に無い私が呼ばれたのは偶然だったのだろうと思ってしまった。
「…マルニでいいわ、私のことも。身近な人は大体そう呼ぶから、エッセ、ウルティ。」
「マルニだね、わかったよ!」
「エッセにウルティか、悪くねえな!」
私の少しのネガティブな気持ちとは反対に、二人は楽しそうに笑う。
…こういう風に笑ったら、ソルス達も楽しいのだろうか、と少し思いながら。
「…ところで、結局何をしてほしいのかしら?」
「「あっ、そうだった。」」
(やっぱり何も考えてないのかもしれない…)
「えっとな、まずは協力の前に確認したい事あるんだけどよ。属性ごとに特性があるのは知ってるよな?」
「もちろん。」
魔法の属性には特性がある。
特性、と言っても、その属性でなければ出来ない、なんて事はあまり無い。
炎じゃなくても、雷で発火させたり出来るし、氷じゃなくても熱を奪って凍らせるみたいな事も出来る。
なので特性はあくまで、「その属性でやりやすい事」くらいの感覚で捉えて良いとされている。
だがそこは特性、「可能か不可能か」と「再現可能か不可能か」、それには結構大きな違いがある。
つまり、理論的には可能ではあるが、それを行うにはコストがかかりすぎるとか特殊な環境や魔法式や儀式、道具が必要なので現実的では無い、という状況が発生する事は魔法の行使の時によくある話である。
特に、その中でも難しいのが光属性と闇属性の魔法である。
そういう意味でも、ある意味この二つの魔法は唯一性と言っても良いくらいに独立しているのだ。
「光属性の特性である【反射】の特性、これも研究したいけど、今のところ僕達の知る範囲では光属性の使い手は見当たらない。だから、先に闇属性の特性の研究を君に手伝ってもらいたくてね。」
「闇属性の魔法の特性…【浸食】。」
「わかってんじゃねえか。そのサンプルにうってつけだったのがマルニだったってわけよ。」
なるほど…確かに自分以外にあまりうってつけは居ないだろう。
浸食の特性は少し独特な物だ。
物質や魔力、肉体に魔力を浸透させて魔力を奪ったりする。
物質の浸透からの操作は水属性でも出来るが、魔力などの浸透からの奪取などは今のところ、闇属性のほぼ専門と言っても過言ではないかもしれない。
もちろんシンプルな魔力の攻撃の破壊力増加としても使えるが、そういうトリッキーな使い方も出来るのだ。
そしてコントロールも、魔法を使う者の感性に委ねられる。
そういう感覚的な部分を含めて研究したいのだろう。
「何を研究したいのかは分かったわ。…で、私に何のメリットがあるのかしら?」
研究したい事はわかったが、ただ協力するだけ、というのは少し不満だ。
何かしっかりとしたリターンが欲しい。
「ふむ…まずはそうだね。君は、【破龍の儀】の事は知っているだろう?」
「知っているも何も…この国の人間なら知らない人の方が珍しいと思うけど。」
破龍の儀。
元から家庭教師に教えられていたし、そもそもゲームでも大きなイベントだった。
というか、何なら今日ジュビア先生の授業でもこの儀の話が上がっていた。
破龍の儀、それはこのインフロールの守護神である守護龍、ドラゴディオスを打ち破る、三年に一度行われる儀式であり祭典だ。
打ち破る、と言っても守護神を殺すわけではない。
ドラゴディオスは会話出来る知性を持ち、そのドラゴディオスに戦いの力と正しき心を認めてもらう事で守護龍を打ち破る力を認められた、という証になり、その三年間の平和を約束するという儀式である。
この破龍の儀に挑めるのはサンターリオ学園の生徒、二人一組であり、毎回その二人一組を決める為に学年や身分を超えた戦いが行われるのだ。
私達が破龍の儀に挑めるのは来年。
それまでに皆準備や鍛錬をしていると言っても過言ではない。
中には、破龍の儀を見て騎士をスカウトしたり、貴族としての身分を貰ったり地位を上げてもらう事もあったと聞く。
騎士志望の私にも無関係な話では無い。
その破龍の儀の話題を出す、という事は…。
「自分の魔法の研究が出来れば、授業で有利なだけじゃなく、強くなる方法が分かりやすくなるかもしれねえ。確か、マルニは騎士志望だろ?魔物退治に、いつかは破龍の儀の戦いにも使えるかもしれねえんだ、悪い話じゃないだろ?」
「…そう、ね…。」
正直、私が来年破龍の儀に出られるかは分からない。
可能なら、ソルスと組んで出たいとは思っている。
だが、私はこの作品の中で「悪役令嬢」という役だ。
もしかしたら、ソルスと仲良く話せる時間ももう一年を切っているかもしれない。
だが…もしも。
僅かな可能性で、ソルスと組んで儀に挑めるとしたら。
例えそれがばかばかしい、叶わない夢で、それが出来ないとしても、影からソルスの事を護れる騎士としての役割を果たせるとしたら。
その役割を果たす為に、力を得る機会が有るのだとしたら。
…断る理由は、きっと無いのだろう。
「…わかったわ、最初の実験、試してみようじゃない。」
「よっし、なら善は急げだ、早速実験の準備始めっから、待ってろよ!」
私は頷くと、最初の実験、【闇属性の特性の研究】が始まった。
自分でも意図していなかったですが、気づいたら世界観の深掘り回になってしまっていましたね。本当はもっと研究はさらっと終わる予定だったのですが…まあ次は恐らく出したい展開になる、と願いたいです。




