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三人の問題児を結ぶ闇魔法

「よっこいしょ、っと。」

私は空きの教室の椅子に座らされた。

今まで運ばれていたから混乱していたが、冷静になるとここは何処なのだろうか。

途中までは教師や他の生徒に明らかにびっくりか変な物を見る視線を送られていたが、この教室に着くころはそもそも誰ともすれ違わなくなっていた。

というか入学式の日に何でこんな人が居ない所を把握しているのだろうか。

「ふむふむ、どうやら私達が何故こんな所を知っているのか、と言いたそうだよウルティハ。」

「!?」

心を読まれたのかと思った。

確かに周りを見てキョロキョロしては居たが、まさかズバリ言い当てられるとは思わなかった。

「まあまあ、気持ちは分かるが落ち着けよ、別に悪い事しようって話じゃないって。な、エスセナ!」

「うんうん、むしろ君に声を掛けたくてうずうずしていたくらいだよ!」

「…私に?」

どういう事だろう。

少なくとも、私は二人の噂を聞いたことはあれど、会ったのは今日が初めての筈。

なのになぜ私の事を気にしていたのだろう。

その疑問はすぐに晴れた。

「まああまり焦らすような事はマルニーニャ嬢にも悪いだろうし、早速話すとしよう。」

「「せーの…闇属性の魔法見せてくれっ!!」」

「……はあ?」

二人が声を合わせて頭を下げてしたお願い。

その内容が意味がわからなくて思わず声が出た。

「えっと…どういう認識なのかはわからないけど、闇属性の力は別に見世物でも何でも…。」

「ああ、そこはわかってるわかってる、というか、別に馬鹿にしてるとか見世物にして笑いたいとかじゃねえって!」

「むしろ…マルニーニャ嬢、君も私達の噂は、知っているんじゃないかい?」

「…そうね。」

ああ、なるほど。

つまり、悪徳貴族の闇属性使いの令嬢、という事で私の事も貴族達の間で噂になっていたのか。

なるほど、確かに悪い噂として、話のネタとして最適なわけだ。

「『役者奇人』、『魔女』、『闇属性使い』…僕達は、噂話を盛り上げる恰好の的になっているわけだ。」

「でもよお、だからってアタシ様は別にそれを可哀想とか同情してるわけではないんだぜ?そりゃあ、多分有ること無いこと噂されているのはわかっているけど、アタシ様は魔法の研究、エスセナは役者仕事に没頭してるのは事実だし、多分マルニーニャ嬢が闇属性使いなのも事実なんだろ?」

「…そうね、実際に私の魔法は闇属性が基本よ。だから他の貴族達にも隠せなかった。…でも、貴方達二人とは一つ決定的に違う点があるわ。」

二人が言いたい事は何となく分かってきた。

だが、私と関わろうとする以上、聞かなければいけない事があるのも事実だ。

「貴方達二人は、ただの変わり者で済まされるかもしれない。でも、私の闇属性という力は明確に様々な人達から忌み嫌われる力よ。それが分かっているなら、貴方達も同じような目で見られるような事はしない方が良いんじゃないかしら?」

私は敢えて視線を鋭くして言い放つ。

騎士を目指してこの学校に来たが、私は恐らく運命的に悪役令嬢となる…と思う。

ならば、これも誰かを護る為に必要な事だ。

誰かを、いずれ来るかもしれない破滅に巻き込まない為に。

そう、自分に言い聞かせながら。

だが、二人は私の視線に怯む事も無い。

…両親や他の貴族の牽制の為に睨む眼力は昔より強くなった筈だが。

そんな視線にも二人は慣れている、もしくは元々気にしない、という事だろうか。

二人は目線を軽く合わせると、ウルティハ嬢から話し始める。

「あー、その、何だ。多分、闇属性を使うやつは心の闇が強いから使えるってやつだろ?アタシ様、そのデータを疑ってるんだよ。」

「…その教育を疑うって、国からすれば大問題のような気がするのだけれど?」

その問いにはエスセナ嬢が答える。

「マルニーニャ嬢、冷静に考えてみたまえ。人には必ず良い所も悪い所もある。ならつまり、普通に考えるなら片方だけだったとしても、皆光属性か闇属性を使えないとおかしいと思わないかい?」

「それを力として振るえるくらい心がどちらかに偏っている、と考える事も出来るんじゃないかしら。」

「だとしても、ならば君の闇属性と同じなのさ。人によって善悪の基準は変わる物なんだ。それに、犯罪者の全員が闇属性を使えるわけでもない、どころかほとんどが闇属性なんて使えないらしいしね。」

…思わず、言葉に詰まりそうになる。

多分、私は期待してしまっているのだ。

闇属性が、心の闇に起因する物では無い事を。

だが、まだ言葉を止めるわけにはいけない。

まだ聞かなきゃいけない事があるからだ。

悪役令嬢であるからこそ、簡単に認めるわけには、いかなかった。

「私の両親も闇属性の魔法使いよ。魔法の得意属性は親からの遺伝の影響もあると聞いたわ。…私の両親はお世辞にも良い人とは言えないわ。なら、それを受け継いだ私もきっと、その心を受け継いでいるのかもしれないのよ?」

「ふむ…確かに血族の間で受け継がれる魔法や属性の話は私達も聞いた事があるよ。…でも、君はコミエドールで奉仕活動をしたりしていたのだろう?」

「それは…。」

意外だ、そこまで把握されている事は今まであまり無かったから少し驚いた。

「君には君でメリットがあったのかもしれないけどそれはそれとして…マルニーニャ嬢がそうしたいと、コミエドールの人々の為に活動していたのも事実なんじゃないかい?」

「う……。」

エスセナ嬢が優しく微笑む。

…役者仕事をしているのもあるとは思うけど…この人の笑顔は優しい。

顔立ちはどちらかと言えば可愛らしい系の顔立ちな筈なのに、笑顔は綺麗で爽やかな感じがする。

これが人を舞台の上から惹きつける笑顔なのか…と思わざるをえないくらいに。

「で、でも私は…。」

「ったく、煮え切らねえなあ!」

対照的に先程から不満げな顔をしていたウルティハ嬢が声を大きくする。

「さっきからあれこれ考えてるのも、気後れするのもわかんねえけどよ、あれこれ理由を考えて自分を否定しようとしてるのは周りの為を考えたりしてるから自信無くて一歩踏み出せないんだろ!なら、そこから先に踏み出すのは、お前がどうしたいかだろ!」

…さっきからそうだが、エスセナ嬢もウルティハ嬢も、私の考えている事が何故こうも分かるのだろうか。

また図星である。

逆に私はウルティハ嬢を怒らせてしまったのかと思った。

多分、少しは実際怒っていたのかもしれない。


だが。


少しの間の怒った顔から、歯を見せた、少し野性的な笑みにウルティハ嬢の表情が変わる。

美しい顔が、攻撃的な笑みに変わり更に美しさが増したように感じて、一瞬ドキリ、とする。

「そういう事考えてる時点で、お前の心は闇に染まってなんかない筈だ、なんなら、この天才魔法研究家のアタシ様、ウルティハ・インベスティ様が証明してやるよ!」

「っ……。」

ウルティハ嬢が私に向けてすっと手を差し伸べる。

それに合わせてエスセナ嬢もそっと手を差し伸べる。


私達に着いてこい。


そう言うかのように。

「だから、アタシ様達にマルニーニャ嬢、お前の魔法を見せてくれ!」

「僕達は、僕達の為にも、君の為にも、その魔法が必要だと証明してみせるよ!」

…何と言えばいいのか。

これは、両親の無条件の私への肯定とも、ソルスの私に向ける信頼とも多分違う。

共に、同じ道を歩んでみないかという、仲間になりたいという、多分理由も根拠も無くて、でも何故か存在する自信から来ている、私への期待。


前世での私を、私は思い出していた。

前世の両親は、何度も何度も私に、「きっと病気は良くなる。」「きっと長生き出来る。」「きっと元気になれる。」と、笑っていってくれていた。

きっと神様は、運命は私を見捨てたりなんてしない、と。

…多分両親からすれば、不安と恐怖の中で、自分の娘が自分達よりもずっと早く死んでしまうかもしれないという、絶望の中で、それでも自分達自身にも言い聞かせるように言っていたのだろう。

未来は良くなるかもしれないという僅かな期待と願いを込めた、願いを。

…結局私はその期待に応える事が出来なかったが、何の因果か、記憶を持ったままこの世界に、マルニーニャ・オスクリダとして生まれ落ちた。


私が私の為に、私の大切な人…ソルスの為に。

一歩踏み出すには、自分がどうしたいか。

きっとそれは普段なら簡単には出ない答えなのかもしれない。

自分の為になる選択を、だとか。

自分がどうしたいか、だとか。

それって、多分、簡単に出すのは難しい答えだと思う。

(でも…)

今は、もう答えは、決まっている。


「…仕方ない、変な実験だったりしたら断るわよ?」

小さく笑みを見せて、二人の手を取った。

「ああ、任せたまえ!」

「凄い事を、いっぱい出来るようになろうぜ!」


こうして、サンターリオ学園の初日からいきなり、三人の問題児達は手を組む事にした。




予定ではもう少し書く予定だったのですがキリが良かったのでここでこの1話は切ることにしました。最近筆者の環境が大きく変わる事が決まったので、新しい環境に慣れるまで連載の更新速度が落ちたり大きく間が空く事もあるかもしれませんが、無理しない範囲で頑張って連載を続けて行こうと思います。どうか読者の皆さま、これからも転生悪役令嬢はヒロインの影になりたいをよろしくおねがいいたします。

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