予想外と予想以上
自分の好きな作品に影響されたりするという事はよくある事だと思います。こうやって、プロではないとしても一人の創作家として、その受けた影響や考え方を糧に、自分の最高到達点を高くしていきたいと、そう強く思います。最善の努力とは何かを考え続ける事は、無駄だとしても意味はあると信じて。
「えー、生徒の皆様、サンターリオ学園への入学おめでとうございます。この学園では皆様もご存じの通り、貴族や王族以外も通える学園でありながら国内最高峰の学園であり…。」
学園長の話が続く。
前世ではこういう長い話の場とかは貧血を起こしたりして倒れたりしたら迷惑をかけるからと不参加だったが、どうやらこういう偉い人の話は長いというのは万国共通どころか違う世界でも共通らしい。
学園長という事で多分この人も貴族だとか王家に関わるような偉い立場の人だろうとは思うが、周りの学生の人達も流石にだんだん長い話に疲れた顔をしたり朝の眠気が復活してきた人も居るようだ。
そして、どうやら話してる側も思っているよりその辺りはルーズというか、学園長の方もあまり気にしていないのか、特に他の教員や学園長が指摘したり咎めるような事もしない。
なんだか予想より堅苦しさの無い入学式の挨拶の中私は…。
(こ、これが入学式…!こんな感じなんだ…新鮮…!これは確かに何回も経験はしたくはないけど一回経験出来て良かった…感激!)
と、思っていた。
だって仕方ない、体育祭や文化祭、遠足や修学旅行みたいなお楽しみイベントどころかこういう形式的なイベントもほぼ未体験なのだ。
中学の入学式、卒業式だって不参加だったし高校はそもそも卒業する前に死んでしまった。
なので前世で出来なかった事を今出来ているのが、楽しくて楽しくて仕方ない。
そういえば、サンターリオ学園への入学試験の為の試験勉強の時にも家庭教師の先生に不思議がられたのを思い出した。
「必死に焦りながら勉強する人が多い中で、こんなに楽しそうに勉強している人は珍しい。」と。
前世でも高校入学の為に受験勉強は確かにした。
したはしたけど、それがしたくても身体がそれを許さない時間も少なくなかった。
だから、自分から勉強したり運動したりするのが楽しい。
地球の日本とこの世界で違う当たり前に混乱したりする事や、一般家庭の前世と違って貴族として学んだりする事が多い事に戸惑いも全くないでは無かったけど、その新鮮さが、日々の進歩が、成長の実感が、楽しい。
もしかしたら、この入学式で数少ない目を輝かせている生徒の一人なのかもしれない、私は。
そんなことを思いながら、入学式は終わって次はクラス分けからのホームルームになる。
そこから、私の予想外の出来事が待っているとは思わなかった。
この学園のクラスは1組、2組やAクラス、Bクラスみたいな分け方では無く、クラスごとに花の名前が付き、胸にそのクラスの証である花の飾りを付けるのが決まりだ。
私のクラスはアネモネ。
自分の席を探している…のだが。
ひそひそ。ひそひそ。
「あの人って…オスクリダ家の令嬢?」
「ああ、あの地方貴族でありながら民から重税を取っていると噂の…。」
「それに闇属性の魔法の使い手らしいわ…。」
「闇属性って、よほど心に闇が無ければまず使えないんじゃ…。」
「親も闇属性の使い手らしいから遺伝かもしれないけど、それが遺伝している事はつまりそういう事だろうな…。」
うう…やはりというか、オスクリダ家の評判はよろしくないし闇属性の使い手である事もあまり印象がよろしくない。
自分が魔法で誰かに危害を加えたりはしてはいないが、それだけで印象は良くはないし、そもそも両親の悪政を未だに完全には止められていない事も、闇属性を隠せないくらいには主に使っている事も事実だ。
正直何か言い返すべきなのかもしれないが言い返す言葉も浮かばないし、あまりこういう事で波風立てることはしたくないので今は我慢だ、我慢。
刺さるような視線と耳に入るひそひそ話から耐えながら、私は自分の席を見つけると、置いてあるアネモネの花飾りを胸に付けた。
紫のアネモネの花飾り…確か、紫のアネモネの花言葉は、「あなたを信じて待つ」、だったはず。
ソルスやアルデールの入学を待つ自分からしたらピッタリな花言葉な気がする。
それに、綺麗で好きな花だ、特別な思い出があるとかじゃないけど。
この時、とある人物からの視線に気づけなかったことは、ある意味運命的だったのかもしれない。
やがて皆自分の席に着いていく。
時間をしっかり守っているのはやはり貴族とかが多いから皆そういう事には気をつけているからか、それともまだ登校初日だからかは私にはまだわからない。
そんなことを考えていると、一人の男性が入ってきた。
胸に同じアネモネの花飾りは付けているが、マントは右肩に掛けてあるように付けている。
マントの色は黒、黒はこの学園では教師を表す色だ。
丸い眼鏡を掛けて、少し男性にしては長い黒い髪を軽く結っているその姿は…正直あまり貴族などの高貴な身分には見えない姿だった。
首元や袖が緩く、きっちりした姿には見えない。
大体歳は30行かないくらいだろう。
私は、その人に衝撃を受けていた。
いや、貴族の学校でこんな緩い姿の教員が居るのか的なカルチャーショックとかでは無く。
だってこの人は…あまりにも見覚えがある人だったからだ。
「えーっと…私が今年このクラスアネモネの担任を受け持つ事になった、ジュビア・ウービエントだ。
ウービエント家は貴族としては大きな家では無いが、その分教員としても私も君達が家柄がどうこうで判断する気もあまり無い。基本的な担当教科は歴史、特に神話、民話学なら少しは力になるだろう。まあ、1年ゆっくり宜しく頼む。」
(や、やっぱりジュビアだああああっ!)
心の中で叫ぶ私。
いや、心が心で叫ぶみたいなギャグでは無く。
多分私は今、視線は泳ぎ、小さく身体は震えているだろう。
「よ、宜しくお願いします…。」
そう小さく言いながら私は頭を皆と揃えて頭を下げる。
何故私がここまで動揺するのか。
答えは簡単だ。
ジュビア・ウービエントは、攻略対象の一人なのだ。
所謂大人と子ども、教師と生徒という関係の禁断の愛をソルスとする人なのだ。
ウービエント家はジュビア本人が言う通りあまり大きな貴族ではないが、歴史を担当するだけあって長い歴史のある伝統的な貴族である。
その伝統故のしがらみを、ソルスが紐解いていく内に二人は互いを思い合い…というのがジュビアとのルートだ。
一見少しだらしなさそうだが大人としてソルスを導き、それでいながら一人の男性として恋を辞めない。
そんな結末を辿る…予定の人だ。
私もアルデールには出会ったが、その時は素直に喜ぶ気持ちの方が強かった。
何故なら、アルデールはソルスの幼馴染という、「まだ出会う事が予想出来た相手」だったからだ。
だが、ジュビアは違う。
せいぜい学園内ですれ違うとか授業で担当になる事があるかもしれないくらいには思っていた。
だがまさか、クラスの担任になるとは。
可能性が全くないわけではなかったからそれを考えていなかったのは私の失敗だが…。
(こうやって授業じゃなくてじっくり見る機会があるなんて…かっこいいぃぃ…)
私にとってのサプライズになる出来事は衝撃が抜群だった。
たれ目気味の目に少し疲れたような雰囲気、それでいながらどこかデキる人の雰囲気を漂わせる眼鏡。
なによりしっかりした衣装を着れば間違いなく似合うと感じるし、緩い首元から覗ける、特に鎖骨は大人の色気を感じる。
そう、アルデールが熱い若々しいイケメンなら、ジュビアはくたびれた大人の色気あるハンサム、って感じだ。
…そう感じるのはもう心の年齢としては30歳を過ぎたからだろうか?
いや、多分違う…と思いたい。
そんなことを考えたりしながら、授業や学園生活の説明などをメインに、ジュビア…ジュビア先生のホームルームは進んで行く。
「さて、大体の説明は済んだか。まあ、私の口で説明するよりも実際経験した方が理解するのも早いだろう。時間が流れるのは早いが、まだ取り戻せない時間では無いだろう。ゆっくりと慣れていくと良い。」
「はい。」
私含め、クラスの皆が返事をする。
「お利口な返事も含めて、様々な事を学ばなければいけない君達の事を想うとつくづく大変そうだと思うよ、私が生徒ではなく教鞭を振るう側である事を感謝している。まあこちら側はこちら側でまた別の苦労があるのだがね。」
どこか他人事のような、面倒だと言うような雰囲気でジュビア先生は言う。
多分、大体の人達から、今彼は胡散臭く見えているのだろう。
だって、性格をある程度把握している筈の私でさえ今そう少し感じるのだから。
だけど…。
「…ここからは学園の方針だとかは関係なく、あくまで私個人の考えでの話だからどうでもいいと感じるのなら聞き流しても構わないのだが…。」
そう言いだしたジュビア先生の雰囲気が変わるのを感じる。
目つきがどこか鋭くなり、表情も真剣さが混じる。
同じ人物を見ている筈なのに、どこか別人に感じてしまう程に。
「かつては私もこの学園の生徒だった。そして、私はこの学園で私は学びたい物を見つけた。それこそ、ウービエント家の事すら忘れるくらいに。結果私は、ウービエント家からほとんど見放されたが、その代わりにこのサンターリオ学園で好きな歴史の教師になった。」
そこまで言うと、今までそんな人に見えなかったのに。
少しだけ、鋭い笑みを見せた。
「私のように勉強しろとは言わない。立派な立場になれとは言わない。君達にとって、大事に想える何かを見つけなさい。見つからないなら作りなさい。その何かの為に、努力出来る事は何か、後悔しない道は何か、上手くやれる方法は何か、考えて考えて考えて、選びなさい。」
「それが上手くいく、実を結ぶ保証はしないが、今の君達より何かが前に進んだ君達を、きっと未来の君達自身が保証すると、私は思っているよ。」
「…っ。」
教室がしんと静まりかえる。
でも、冷めた空気では無い。
表情に、言葉の迫力に、気圧されて。
でも、それ以上に…何か、何処か、心に感じる物があって。
多分、貴族や王族、平民にも色々あって。
何か大きな使命や役目を背負って、もしくは何か大きな夢や目標を持って、懸命に生きてきた人も居れば。
何となく、適当に流されて生きてきた、目の前の生きる事でいっぱいいっぱいの人達も居て。
そんな様々な人達がこの学園に、このクラスに集まっているのだろう。
この学園でやりたいことや、この環境になったからこそやりたいことが人それぞれにあって。
それは個人によって違うから、一つじゃないけれど。
多分、今はこのクラスのほとんどの生徒が、同じ事を思っているんだと思う。
今より前に進んだ自分が、今より高く飛べる自分が、今より進化した自分が居るのなら。
そうなれるかもしれないなら、今の自分には、そうなる為に何が出来るのだろう、と。
(…いつもめんどくさそうで、でも大人として生徒を導こうとする気持ちや歴史が好きな気持ちは本気で。…だからこそ、ソルスもこの人の事を好きになるんだよね)
心の中で噛み締める。
多分、今自分は表情は笑っているのかもしれない。
ソルスもアルデール思ったけど…。
やっぱりこの人も、ジュビア・ウービエント、本人なのだなと。
そう感じた。
(私の大事に想う事はソルスの事…ソルスの騎士として相応しくなる為に、鍛錬も魔法も勉強も、いっぱいいっぱい頑張らないと!)
そう自分の中で再確認するのだった。




