謎の夢と入学式の朝
第二章、サンターリオ学園1年生編開幕です…!早速予定より長くなってます、この調子で大丈夫か心配ですがここからがある意味大事になってくるのでどうぞよろしくお願いいたします!
私はまた暗闇の中に居た。
また…この暗闇を見るのは、もう何度目か。
幼い頃…確か、魔法の力を初めて使った次の日だっただろうか。
あの日に暗闇の中で、とても綺麗で、でもどこか怖い女性にであって…。
「…こうやって声を聞かせるのは初めてね。」
「っ!!?」
耳元で甘く囁くような声が聞こえた。
私はびくりっ、と反応…したはずだった。
だが、やはりというべきか、身体が動かない、というか、身体の感触がいまいち無い。
でも、耳元で囁かれた、という感覚だけは何故だかしっかりとある。
なら、しっかり身体はあってそれを動かせない、という事だろうか。
…それにしても、だ。
(今の声…私の声に似ていた?)
そう。
私の声によく似ているような気がするのだ。
自分に聞こえる声は実際の声は違う、とは聞くけど、それにしてもやけに似ていた気がする。
だが、似てはいるが雰囲気が違った。
なんというか、妖しいというか、甘く優しいような、なのにどこか恐怖感というか…危険な雰囲気を纏っていた。
声だけでない、いつの間にか私の頬に後ろから触れていた手も冷たく、それで優しい手つきで触れてくる。
(…怖い、なんだか、物凄く怖い)
身体は動かなくても心が鳥肌のようにぞわっとするというか、震えているように感じる。
それを見透かすかのように甘い声は続く。
「本当にそっくりね…そっくりで同じじゃない所が気に食わないけど。」
何を言っているのか分からない。怖い。
「怖がらなくて良いのよ…?…ゆっくり、ゆっくりと積み重ねて…。」
少しずつ、少しずつ…声が耳元に唇が触れるのでは、と感じる程に近づいてきた声。
その声は、少しずつクスクスと妖しい笑み混じりになる。
その声に、私は嬉しさも期待も出来ない、ひたすら、この恐怖から解放されたいという気持ちのみだった。
「ゆっくりと、私に身を委ねなさい。」
そう言われると、私は意識を手放してしまった。
「んん、ぅ……。」
明かりが窓から射す部屋で私はゆっくり目を開けて寝ぼけ気味に目を覚ます。
…見慣れない天井に辺りを見回す。
ここはどこだったか、まだ眠気の抜けきらない頭で考えると答えはゆっくり浮かんできた。
(そうだ、昨日には学園寮に入って…)
そう、入学式の前日である昨日に学園寮に入ったのだった。
見慣れないのも当たり前だ、そもそももうオスクリダ家の実家ではないのだ。
だんだんと意識が覚醒してきたのでゆっくりと身体を起こしてみる。
辺りを見回してみる。
荷物はもっと前に先に送っていたし、そもそもそんなに持ち運ぶべき物も多くは無かったので荷解きも割とすぐに終わった。
家具の配置などについてはまだ慣れないけど、特に不便は今のところ感じてはいない。
そう思っていると扉が開いた。
「お嬢様、朝です、起きて…あら、お早いお目覚めで。」
「おはよう、フレリス。つい目が覚めてしまって、今起きた所よ。」
「おはようございます、お嬢様。起こす必要が無くて私としても安心です。では、早速支度を致しましょう。」
お辞儀をし、朝の挨拶が終わると早速入学式に備えての身だしなみや着付けの作業が始まった。
サンターリオ学園の規則で、メイドや執事などの従者は基本的に5名まで連れてきて良い事になっている。
授業などで従者は干渉出来ないが、普段の生活の世話係としてなら学園の敷地の中に入れるのだ。
私はフレリス一人だけを連れてきた。
別にフレリス以外のメイド達と仲が悪いというわけでは無いのだが、フレリスとは大きな違いが一つある。
それは、主人である私の両親からの圧力や指示に意見できるか、という点である。
大体の子達は、両親に逆らえず悪いと思っている事も指示に従って働いてしまう。
大概そういう子はお金などに釣られたり立場に圧力をかけられるからである。
その点、フレリスはそういう事に対しては全く気にかけずおかしいと思った時には率先して意見する。
両親だけでなく私が間違っていると思う時も物怖じしない。
なのでフレリスを連れていく事を私は提案し、無事にその意見は通ったわけだ。
…本当はあと二人くらい、違うメイドの子を連れていくように両親は提案していた。
もちろん私への監視、敷いては私に見合う結婚相手辺りを探させる為であろう。
だが、この歳になれば流石に何も出来ない幼子時代とは違う。
私とフレリスを中心とした奉仕活動から始まったコミエドールの町の人々との関係作りはそのままコミエドール、そしてその周辺の町や村の人々へ影響を与えていた。
そしてそれはコミエドールの町を治めるオスクリダ家の、私の地位の確立に繋がっていた。
その結果私は、オスクリダ家でしっかりとした発言権を持てる立場になっていた。
もう一人娘が可愛いから我儘を通すのでは無い。
しっかり町の人々から支持を得て、それによりオスクリダ家である程度の力を得て意見を通す事が出来るようになったのである。
そしてそれを活かして従者で連れていくのはフレリスだけにしたのだ。
フレリスは多分私が連れていく事を察していたらしく、とっくに準備は済ませていたし、一緒に行くように提案されていたメイド達は長期の異動が無くなって助かったと言っていた。
というわけで、オスクリダ家は私とフレリスの二人がサンターリオ学園で過ごす事になった。
フレリスに髪を整えたり、薄く化粧をしてもらっている間に今日見た夢を思い出す。
今日見た夢…これまで見た夢とは異なっていた。
今まであの女の人の夢を見る事は何度もあった。
その度にあの女の人の姿は私の成長に合わせてその時の私そっくりの姿になって現れた。
でも、今まではあの女の人に触れられた事も声をかけられた事も無かった。
だから声も私に似ている事も初めて知ったし、あの人の肌の感触も初めて知った。
私が原作ゲームの時間軸に近づいてるのが原因なのか、それとも私が闇の魔法を使うに比例してああなっているのか、原因はさっぱりわからないままだけど。
じつは、もう今はあまり闇属性の魔法を隠していない。
というか、そもそも両親が闇属性の魔法を隠していない時点で、流石に10年近くもの間隠すというのは流石に無理があった。
だから必要最低限、基本は雷の魔法だがそれだけでは足りない時や闇の魔法が必要な時は使うようにしている。
最初は当然周りから良い反応はされなかった…というか、今でも他の町の貴族やコミエドールの町の人の一部からも良い顔はされないけど。
それでも使い方を誤らないように、使い道を誤らないようにしてきたからかコミエドールの町の人々には割と受け入れられて来た……と、自分では思っている。
あまり大きくない町であるコミエドールで受け入れられても国民の多くの人からの感情は変わらないとは思うけど、それでもそういう環境が出来た事が大きいのだ。
それに、私が受け入れられるようにソルスやフレリス、アルデールも手伝ってくれたというのも間違いなく大きい。
三人が私の為に中心となって動いてくれたのは本当に感謝しているし、だからこそ私もそれに応えようと支援や奉仕を頑張ってこれたのだ。
サンターリオ学園でもそうやって過ごせるかはわからないけど…そういう所は大事にしていきたい。
そういう風に色々と考えていると、だんだんと今日見た夢に対する恐怖心も薄れてきた。
「お嬢様?」
「何かな、フレリス?」
「いえ、先程はあまり良い表情では無かったのが、今は良い顔をされているので。何か考え事でも?」
フレリスの言葉に私は昨日魔力通話をした窓際を見る。
昨日魔力通話がしっかり繋がる事も確認したのだ、これからもソルスと夜や空いた時間は話せる。
フレリスも私についてきてくれた、これからも一緒に過ごせる。
唯一アルデールとはしばらく会えなそうだが…来年になればアルデールも恐らく入学してくるだろうし、一年の間でも会う時間はあるかもしれない。
コミエドールの人達とも、きっとソルスやフレリスを通して交流する事も出来るかもしれない。
私は、一人じゃない。
それが、とても嬉しく、誇らしく思う。
「ふふ、ええ。少し、ね。」
「少し、ですか、そうですか。」
何を考えているかはわからないだろうけど私が笑っているのならいいのだろう。
フレリスも笑ってくれた。
これから、フレリスの笑顔を見れる機会も増えるのだろうか。
(増えると、良いな)
そう思って私は制服に着替えた。
白いシャツに黒い生地に白のラインが入ったスカート。
個人的な指ぬきのロングの黒い手袋。
その上から今年の一年生の色である黒めの青い生地に魔力を通しやすいように、そしてサンターリオ学園の生徒を証明する証の一つにもなるフード付きのマントを着て衣服は完了だ。
この制服は特殊な生地であり、言ってしまえば「魔力に依存しない独立した魔法」のような物であり、見た目以上に暑さ寒さもシャットダウンしてくれるし簡単には切り裂けたりしないくらい丈夫らしい。
汚れも付きにくく落ちやすいらしく、フレリスが「この生地沢山欲しい」と言わんばかりの視線を以前初めて制服に袖を通した時に送っていた。
そして魔法の魔力も通しやすいんだから本当に不思議な制服だ。
私ももっと欲しいがやはり地方貴族くらいが簡単に手に入れる物では無いらしく無理だった、残念。
腰よりも伸びた黒髪はストレートで綺麗に整えられてもらって、薄い化粧をしてもらって。
前世ではあまりこういう事ができなかったからそれがとても嬉しい。
玄関は他の生徒も居るのでここでフレリスとは一旦お別れだ。
フレリスから必要な荷物を入れた皮の鞄を渡してもらう。
「行ってらっしゃいませ、お嬢様。」
私は鞄を受け取る。
「ありがとう…行ってくるわね。」
そう言うと、私は自室を後にした。




