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二つの秘密、二人の秘密

「あら、お嬢様、ようやく見つけました。」

「フレリス、もう終わったの?早かったわね。」

三人で話していると後ろから声が聞こえた。

振り向いたらフレリスが居た。

慌てたり様子は無い、いつも通りの表情だ。

「今大体の計画の話し合いが終わったばかりです、むしろお嬢様、もう結構時間が経っている事に気づいて無かったみたいですね。」

いや、違った。

ちょっと目つきがいつもより鋭い。

しまった、少し話が楽しすぎて待たせてしまったらしい。

流石に少し怒っているのだろうか。

……と、思っていたのだが。

「……それくらい、楽しいお話になりましたか?」

くす、とフレリスが微笑んだ。

…なんだか、フレリスがこうやって微笑むと不思議な気持ちになる。

いつも両親に仏頂面で対応しているからだろうか、それとも本来はこういう優しい笑顔をする人なのだろうか。

なんというかソルスの笑顔が暖かな春の花のような笑顔なら、フレリスの笑顔は絹の布に包まれたような柔らかい笑顔だ。

ソルスの笑顔とはまた違う意味で安心する。

だから、私も微笑んで返す。

「ええ、とても素敵な時間だったわ。」

「フレリスさん、私もマルニ様とのお話、楽しんでますよっ、もっともーっと話していたいくらいにっ!」

ソルスがフレリスに向かって「えへへ」と笑って言う。

可愛くてつい頭を撫でてしまいそうになる気持ちを心の中で抑える。

「ま、まあおれはまあべつにふつーだけど、まあつきあってやんなくもないぜ。」

対してアルデールは顔を逸らして、手を後頭部にやりながら言う。

口調はそっけないけど、今こうして嫌われずに話している時点で、ある程度は認められているのだろう。

ほんと、ツンデレさんだなあ、と思うのであった。

「ふふ、そうですか。ありがとうございます、アルデール様、ソルス様。ですが、そろそろマルニ様を返していただけると有難い所なのですが、良いでしょうか、お二方?」

ペコリ、と頭を下げるフレリス。

「えっ、もう行っちゃうんですか?」

残念そうにソルスは言う。

正直私も残念だが、あまり遅くなって両親に何か言われると今後の活動に支障が出る可能性もあるし、今後の家の中での立場の為にも躓くわけにはいかない。

だが、「あれ」の為にソルスにはもう少し付き合ってもらいたい…と思っていたら。

「どうせまたここにくるんだろ?またそんときはなせばいいだろ、じゃなー。」

そう言うとアルデールは小走りで駆けていく。

「先に行ってますから、早く玄関に来てくださいね、お嬢様。」

そしてフレリスも続いて歩いて行く。

(これは…チャンス到来。)

「また会える…か。そうですね。また会ってお話しましょう、マルニ様!」

そう言ってペコリ、と頭を下げると駆けだそうとするソルス。

「あ、待って、ソルス!」

「…?はい?」

慌てて声を上げる。

つい令嬢モードの口調が崩れてしまったがまあ今は咄嗟だったので気にしない。

私はソルスに近づく。

「…すぅーっ、はぁぁぁ…。」

深呼吸する。

今からする事は、もしかしたら取返しのつかない事なのかもしれない。

だけど……この子なら。

(信じるんだ、私を、ソルスを)

決心は、ついた。


「ソルス…今から、貴方に私の秘密を見せる。それをどう感じるかは…貴方に任せるわ。」

私はソルスの瞳を見つめて言う。

ソルスも最初はなんだか分からないという感じの雰囲気だったが、私が真剣な話をしようと気づいたのだろう。

真面目な顔になって私を見つめる。

「…分かりました、しっかり見ます。」

「わかった…。」

ソルスの返事を聞くと、私は手のひらを上向きにする。

魔力を手のひらの上に集中する。


…きっと、今私の色は紫黒の色に輝いているのだろう。


「……!」

ソルスが小さく声が漏れる。

そうして…


紫黒色の魔力の球が、手のひらの上に浮いた。


「……これが私の秘密。私は、闇属性の魔力を使えるの。知っているでしょ?私の心には、闇がある。」

「……。」

何も言わず私と魔力の球をソルスは交互に見る。

「…怖くなったなら、怖くなっていいのよ?」

…今の言葉は、強がりだった。

自分でも、そう自覚出来るくらいに。

「…昔から、不思議だったんです。」

「…ソルス?」

ソルスの言葉を待つ。

「闇属性を持っているなら、皆悪い人なのかなって。光属性を持っているなら、皆良い人なのかなって。…もちろん、良い人が沢山居る事は良い事だけど、悪いことをする人が必ず闇属性を持っているわけじゃない。むしろ、闇属性も光属性も持っている人が少ないなら、他の沢山の人達はどうなんだろうって。」

「ソルス…。」

…確かに、その通りだ。

闇属性を持っていない人でも罪人は居るし、光属性を持っていなくてもフレリスみたいな良い人は

居る。

この世界の常識に矛盾があるのなら…この世界にも、例外は居るのだろうか。

「私は信じます。マルニ様が闇属性を使えるとしても、マルニ様が良い人だって、心の綺麗な人も居るんだって!」

私の手に手を添えてソルスは微笑む。

「っ……やっぱり、貴方に話したのは、正解だったわね。」

ついつい、私も笑ってしまった。

「あ、今のマルニ様の笑顔、とても素敵ですよ!」

「そう、かしら…?貴方に言われると…嬉しいわね。」

もちろん今日来て他の子供達に褒められたりしてそれが嬉しくなかったわけではない、むしろお屋敷に居ただけでは絶対得られない喜びがある。

でも、それでもやっぱりこれは…特別なんだと、私は思う。

「なら…もう一つくらい、秘密を共有しても構わないかしら?」

「もう一つ…ですか?」

きょとん、とするソルスに私はポケットからあるものを取り出す。

「これは…ブローチ、ですか?綺麗な宝石がついてますけど…っ!?」

それは、磨かれたクリスタルの付いたブローチであった。

磨かれたと言っても最低限装飾品としての形を整えたくらいで、純度も低いのでほとんど透き通った色見よりも濁った白の色見に近い。

「安心してちょうだい、この宝石は純度の低い原石をほとんど加工せずに付けた物だから、大した値段にはならないわ。」

「で、でも、宝石は魔力の触媒になるんですよね…!?」

この世界では宝石は単純な装飾品としての意味を持つだけではない。

魔力を通して増幅させたり指向性を持たせたりする触媒としての働きもある。

「それが大事なの。ソルス、胸にそのブローチを当ててみてちょうだい。」

「え…こう、ですか?」

私に言われた通りに胸にブローチを当ててみるソルス。

「そう、そして目を閉じてブローチに魔力を通して集中してみて?」

「わかりました。」

ソルスが目を閉じるのを確認すると、私はもう一つ持っていたブローチを取り出すと自分の胸に当てて同じように目を閉じて魔力を通す。

そして、頭の中で思い浮かべる…話しかけるように。

『ソルス、ソルス、どう?聞こえるかしら?』

『えっ!?』

「い、今マルニ様の声が頭の中に響いて…!?」

驚くソルスに私は満足する。

どうやら上手く行ったようだ。

「これは魔力を通して私のブローチと貴方のブローチを繋げる事が出来るの。このブローチを通して会話が出来る…と、考えたら良いわ。」

そう、要するにこれはソルスと私専用の、【魔力で繋がった糸電話】のような物である。

これはせめて私の知っている知識で何かこの世界に流用出来る物が無いかと考えた結果作った物である。

私の魔力を両方のブローチに込めて、同じ魔力に触媒の宝石を共鳴させて電話のようにする、という仕組みだ。

本当はもっと携帯電話やスマートフォンのような複雑な便利な物が作れたら良かったのだが…私の知識も材料の調達も技術も足りなくてこれしか作れなかった。

「凄いですマルニ様!これでいつでも話せますねっ!」

ぱああっと表情が輝くソルス。

これでここまで喜んでくれるならやはりこれを作った意味はあったのだろう。

事実、似たような道具の話はこの世界では多分聞いた事が無い。

珍しいというのもあるし、それだけ画期的な物なのだろう。

「そこまで喜んでくれるなら私も嬉しいわ。それは安物だけど作るのには少し手間がかかるから、良ければ大事に使ってもらえると嬉しいわ。」

「もちろんです!これで沢山沢山、お話しましょうねっ!」

「ええ…私と貴方だけの秘密、よ?」

そう言いながらそっとソルスの手を握る。

「えへへ、はいっ。私とマルニ様の秘密、ですっ!」

そう言って、ソルスは私の手を握り返してくれた。

ソルスの、細い指に小さな手。

でも柔らかくて、暖かい、優しい手。

その手の温もりを、しっかり記憶に刻み込んだ。


この世界で、確かな、好きな人の命の温もりを。


「…そろそろ怒られそうだし、行きましょうか。」

「はいっ、一緒に、行きましょうっ!」

私達はフレリス達の元へと向かった。


そうして私達は様々な町の施設や店、催し物の手伝いや支援、町の環境整備や警備の手伝い、ある程度の歳になると両親に代わって仕事をやったりして町の経済活性や治安の清浄化に務めた。

オスクリダ家の息のかかった家庭教師にもなるべく強気な態度で接し、フレリスからの授業もあって、自分やオスクリダ家に都合の良いことではなくなるべく物事の正しい見方を教えてもらうようにした。

未熟で不勉強ながらも自分なりに努力して貴族令嬢としての振る舞いも身に着けてきた…はずだ。




そして月日は流れ____




『マルニ様!サンターリオ学園への入学おめでとうございます!』

「ええ、ありがとう。といっても、明日が入学式なのだけれどね。」

15歳になった私。

今ではすっかり令嬢モードの仮面も馴染んだ。

黒野心としての心がだんだん消えていくのかもしれないと不安に思っていたが、そんなことも無く、しっかり素の私と令嬢モードの私を切り替えれるようになっている。

こうやってソルスと話す時やフレリスと話す時は口調以外は少し素に近い。

もちろんソルスにはお姉さんとして、フレリスにはいずれ時期家を継ぐであろう者としての振る舞いや心がけは忘れないようにしているが。

「それより、ソルスやアルデールこそ頑張っているかしら?来年は私の後輩になれるようにしっかり努力しているかしら?」

『もちろんです!私もアル君も勉強も訓練も頑張ってますっ!大変な時もありますけど、マルニ様と同じ学校に通いたいですから!』

「ふふ、なら良かったわ。これからサンターリオに通うようになって、コミエドールでの活動もあまり出来ないようになるだろうから、苦労するでしょうけど…皆で頑張ってね、私もオスクリダ家として出来る支援はさせてもらうから。」

『ありがとうございます!でも、無理はしないように、ですよ?私達だって何も出来ないわけじゃないですし、マルニ様にいつも沢山感謝しているんですからっ!次に会った時はまた久しぶりにクールキャンデーを一緒に食べましょうっ。』

「あら、なら今度会うのが楽しみね。なら、来年はサンターリオで会う事も含めて色々楽しみにしているわよ。」

『はいっ、私も楽しみにしてますっ。ではマルニ様、今日はこれで、明日から楽しんで頑張ってくださいね、おやすみなさい。』

「ええ、おやすみなさい。これからもお話していきましょうね。」


ソルスとの魔力通話を終えると、ブローチを保管用の箱に入れる。

こうやって寝る前に二人でブローチを使った魔力での通話をするのが、すっかり日課になった。

私もソルスもアルデールも成長して、もう二人はゲームでの姿に近づいている。

アルデールは相変わらずツンデレ気味だが、普通に話したり冗談を言うような関係にはなれた。

姿もすっかりかっこよく男らしい、大きな剣を振るう騎士志望の青年になってきた所だ。

ソルスもその可愛さ、可愛らしさ、明るさはそのままに最近は何処か儚いような雰囲気さえ纏ってその姿の輝きは更に増した。

おまけに、剣術や魔法の力はまだまだだが、時折騎士志望の私やアルデールすら超えてくるような力を見せてくる時がある。

もしかしたら、元々ソルスの才能は私やアルデールより凄いのかもしれない。

これにいずれ光属性への覚醒もあるのだ、楽しみであると同時に末恐ろしい。


「…綺麗な月ね。」

窓の外に浮かぶ月を見上げた。

…今宵は満月である。

この世界にも、月や星がある事に安心した記憶がある。

私の生きていた地球の世界にも、繋がっているような気がして。

月や星に安心した記憶がある。

この空の元、コミエドールの町で出会った人達や、前世の人々に支えられている気がして。

桜に似た春の桃色の花びらが窓の隙間から私の元に入ってきた。

それを手で掬い、見つめて笑みがつい零れた。

そして、その花びらを外に返してあげると表情を引き締めてみる。


(明日からは、ソルスが学園で過ごしやすい環境を作るように、ソルスという光を導く為に私が居場所を作っていくんだ)

そう思うと、私は窓をそっと閉めて、決意を胸に眠りにつく事にした。




明日から、慌ただしい一年が始まる___


全ては、「世界の主人公」の為に。


この「物語の主人公」の新しい幕が、ゆっくりと開いていくのだった……。

予定より長くなってしまいましたが、これでこの作品の第一章、幼少期編完結です!思ったより文章も投間隔も長くなってしまいましたが、なんとか最初の節目を迎えられて良かったです、安心しています。この勢いのまま、この物語は次の章、「サンターリオ学園一年編」に入っていきます。どうか今後ともこの作品をよろしくお願いいたします!

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