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終編。ゆえに彼のもの千の貌。

「くーるくるくらくらサイクラノーシュ」

 一匹の猫が奇妙な歌を口ずさみながら、海神家へと向かっていた。

 そんな様子を土曜授業から帰り途中だったヤマトが発見、こっそりと後を付けている。

 

「声の調子からして雌猫か。喋ってるってことは、やっぱ神様なんだろうな」

 迷わず自宅の庭へと向かった謎の猫を見送り、ヤマトは帰宅する。

 

「ただいまー」

 荷物を置くのもそこそこに、ヤマトは台所へ向かう。

「あの神様たち、なんで中途半端に猫なんだろうなぁ」

 などと言いながら、一本のペットボトルと小さな皿を一つ持って庭へ向かった。その中にはなにか、水分ではない物が詰まっている。

 

 

「いくらこの家が、神の住まう家だからとはいえ。猫神われわれ以外にも喋る猫がやって来るとはな」

 謎の猫について、ニャーデスがやれやれと言った風情で溜息をつく。

 

「ティターにゃ、とか言ったか。どこの神だ、お前?」

「ツクヨミャ、あんたさ。女の子の扱い、少しは学んだら?」

 

「なんだとコラ? って言うと、姉上から注意が来てたのに、今はこの調子」

 姉に視線を向けたツクヨミャ。アミャテラスはニャーに寄りそうようにして、二匹揃ってお昼寝中である。

 

「あの一軒以来ニャーにやたら目を書けるようになったんだよな。どうしたんだろうか?」

「はぁ。あんたねぇ」

 

「ずいぶん仲良くなったよな、お前たち」

「おおヤマト……って、またその筒か」

「あんまり騒がしいようなら、お前たちにはこの中身を食べてもらう」

 

「ま、そうそうそんなことにはなるまい」

「あ、そうだニャーデス」

「どうした? 改まって……まさか?」

 

「なにを期待してるんだよお前は……例のあの気持ち悪い奴。あれ、どうなった?」

「ああ、あれか。一獄行く毎に、針串刺しの刑に処してたんだが、コキュートスに入ったとたん 煙になって消えてしまってな。行方知れずなのだ」

 

「そっか。って、どうしたんだニャーデス、雌猫のこと見て……あっ、もしかしてっ!」

「なにを勘違いしている。俺はお前にしか恋情など向けんぞ」

 

 さらっと言うニャーデスに、「ああ、そう……」と吐息交じりに言ってから、

「で? ならどうして見たんだ今、真剣な顔して?」

 と問いを返した。

 

「ティターにゃと言うこの雌猫を見たのには理由がある」

「どんなさ?」

 

 

「針串刺しの刑と聞いた瞬間、彼女がピクリと身を震わせたからだ。今、身を引いたな。貴様、なにものだ?」

 

「わ、わたしはただの雌猫、ティターにゃです。かわった猫がいると言う噂を聞きつけてここに来ただけです」

 

「喋る猫、俺達のような神でもなきゃそうそういないはずだけどな?」

「銀色兎の言うとおりだ」

 

「よし。なら、ちょっと、試してみる蚊」

 そう言って、ヤマトがペットボトルの中身を皿に開ける。

 

「食べてみてくれるか?」

 ティターにゃの前に差し出された皿を見て、ニャーデスたちは苦い顔をする。

 

「なんですか、これ?」

 なんの警戒もせず、ティターにゃはそれを食べた。

 

「不思議な味ですね。ピリっとして、でも病みつきになりそうですよ」

 もっとくれ、と言うように舌なめずりをするティターにゃ。驚愕するニャーデスたち。

 

 

「なんだと!?」

「おいおい、タマネギだぞこれ? 俺達にとっちゃ毒だ! なんで平気で食えるっ!?」

 

「ね、ねえニャーデス。もしかしてこいつ……」

「ああ。そうだな。こいつは間違いない」

「え? な、にゃんの話ですか?」

 突如、深く息を吸うツクヨミャ。

 

 

「こないだは俺はなにもできなかったからな。今回は一発、入れさせてもらうぜ」

「そんな、イッパツ入れるだなんて……」

 恥ずかしそうに俯くティターにゃは、皿に残ったタマネギをパリパリと食べ始める。

 

 

あら にぎ 並びて凪とあらんや。その瞬動は野分のわきと成りて。是万物憤砕たり、のちには微風のみ往かん」

 

「なんだなんだ? ツクヨミャ、えらいかっこいいこと言い出したぞ?」

 体を地面に付くほど低くして右手を引くツクヨミャ。

 

「見せてやる、叢雲むらくもこぶしを。混沌撃滅大戦争ティタノマキア、開戦の一撃だ!」

 

 言葉が終わったと思ったら、ティターにゃは地面に埋まっていた。

 ーーまるで、バステトに殴り飛ばされたにゃルラトホテプのように。

 

「今度は焼くなよ、またあの気持ち悪いの出て来られちゃたまんないからな」

 猫神ねこたちが標的おもちゃを手に入れてご機嫌だと判断したヤマトは、皿とペットボトルを持って家の中に引っ込んで行った。

 

「ああ、姉上たちに伝えておく」

「しかしこいつ。本当にあの混沌と同一神物なのか? あのぬめりすら一滴も滴っておらんが?」

 

「槍爪出して見なさいよニャーデス。それが答えよ」

 なるほどな、と答えながらジャキっと右手の二 三番目の指の爪を鋭くする。

 

「ひにゃっ! とんがってるのはー! とんがってるのはいやにゃー!」

「どうやら、本人だったようだな。お嬢さん、自分の爪は手入れしているかな? まさか、猫の姿をとっておいて爪を砥いでいないなどと、たわけたことを言うつもりではないだろうな?」

 

 ニヤニヤと、意地の悪い笑みで問いかける冥王に、ティターにゃはうぅぅと困り顔で唸ってしまう。

 

「さて。ぬめってないなら、あたしもちょっとひっかいて遊んであげよっかしらね?」

 フフフと楽し気な、しかしなにかを企んだ顔をするバステトは爪を出してにじりよる。

 

「ひっ」

 こないだひたすらおどけ続けていたものとは思えないほどの情けない声を揚げるティターにゃ。しかし再び晒し首状態では逃げることもままならない。

 

「あんだけ飄々としてた奴がこのざまか、フッ 面白えな。俺もぶっ刺してみるとするか」

 ツクヨミャも便乗し、爪をニョキリと出す。

 

「いや……おねがいですから、それだけは。それだけは……!」

 晒し首な雌猫の悲鳴に答えたのは、

 

混沌撃滅大戦争ティタノマキアだにゃああああ」

 という 混沌も泣いて謝るおどろおどろしい、冥王と太陽と月の声だった。

 

「いやあああああ!!」

 世界は今日も平和です。

 

 

 

 

 

       おしまい。

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