amsterdam xx3年10月11日
アムステルダムに居た。
そこから電車に乗り、ロッテルダムへ向かった。
ひどく疲れていた。
ロッテルダムに着くと、ある女性の家で世話になることになった。
オランダ人の、ほがらかなおばさんだった。
「この部屋を使いな」
そう言って、二階の部屋を案内してくれた。
この辺りのコーヒーショップ事情は知らなかった。
早朝から開いている店を探すより、確実に営業している時間帯に行こうと考えた。
コーヒーショップへ行く前に、午前十一時ぎりぎりまで眠ることにした。
目を覚ますと、そこは殺風景な部屋だった。
トイレは二階にあった。
普通の家というより、どこか合宿所のような建物だ。
廊下には部屋の扉がいくつも並び、その建物には百人以上の子どもや若者が暮らしているらしい。
皆、治療を受けるために集まってきているという。
病院なのか、更生施設なのか、それとも孤児院なのかはわからない。
そこの先生は、
「今度、赤坂に土地を買うつもりなんだ」
と話していた。
ここは不思議な場所だったが、町は下町情緒と近代的な街並みが共存する、雰囲気の良いところだった。
「この町に住んでみたい」
俺はそう思った。
その後、ロッテルダム駅へ戻り、トラムを探した。
正面玄関を出て左へ向かう。
乗り場は大勢の人で混雑し、皆、焦るようにトラムへ駆け込んでいく。
俺は慌てず、次に来たトラムへ乗った。
車内は人であふれ、まるでカオスだった。
やがてトラムを降りる。
目の前には、緑が生い茂る静かな住宅街が広がっていた。
その風景を見た瞬間、
「ああ、オランダに来たんだ」
と、ようやく実感が湧いた。
それでも俺は、ひどく疲れていた。
町をひたすら歩き回っていると、日本人らしき女性と出会った。
「少し休ませてもらえませんか」
そう頼むと、女性は快く家へ案内してくれた。
二階の部屋へ通される。
生活感のあふれる、少し散らかった部屋だった。
女性の部屋なのか、それとも別の誰かの部屋なのかはわからない。
つい横になると、いつの間にか眠ってしまった。
どのくらい寝たのかはわからない。
時計を見ると、ちょうど予定どおりの時間だった。
コーヒーショップはもう開いている時間だ。
だからこそ、十一時までには起きようと思っていたのだ。
身支度を済ませ、部屋を出た。
ふと、おかしなことに気付く。
この家は初めてのはずなのに、この時間の流れだけは覚えている。
見知らぬ誰かの家で目を覚まして、コーヒーショップへ向かう支度をする。
そんな出来事を、もう一度繰り返している気がした。
家も、人も違う。
それなのに、時間だけが同じ場所を回り続けているようだった。
部屋には誰もいない。
一階から生活音が聞こえてくるので、女性は下にいるのだろう。
急に小便がしたくなった。
俺は目を覚ましたことを知らせるように、わざと足音を立てながら階段を下りた。
トイレを探す。
一つ目の扉を開けると、そこは脱衣所だった。
二つ目の扉を開けると、トイレだった。
便器の中には、なぜか洗濯物が二、三枚入っている。
寮生の物なのか、子どものいたずらなのか、なんとなく触りたくなかった。
どうしようか迷う。
それでも我慢できず、小便をした。
流すべきか少し迷ったが、水を軽く流した。
洗濯物は流れずに済んだ。
そのあと、食卓へ招かれた。
次々と人が集まり、気が付けば二、三十人ほどになっていた。
俺は年配の女性に挨拶をした。
その女性は、
「今度、赤坂に土地を買うつもりなの」
と話した。
また赤坂か。
さらに、このロッテルダムの家は譲り受けたものだという。
そこにいた人たちは皆、治療を受けるために集まっているらしかった。
また治療か……。
何の治療に来ているんだ?
俺は、早くコーヒーショップへ行きたくて仕方がなかった。
おすすめの店を聞こうか、聞くまいか――。
聞くにしても、相手はどう見ても未成年たちだ。
もしかしたら、子どもたちの方が詳しいかもしれない。
でも、行き当たりばったりの方が楽しい。
早く出発したかったのだ。
その頃には、これは夢なのではないかと薄々感じていた。
そう迷っているところで、目が覚めてしまった。




