13話 改変
深夜02:15 / シオンの部屋
夜は静寂に包まれていた。シオンの部屋にあるシンプルなベッドの上で、彼は静かに眠っている。
しかし、寝ているはずの脳内では――。
シオンのAIは、今なお稼働を続けていた。モニターにはシオンのバイタルデータが映し出されている。
「適合率、77.4%…」
AIは低く機械的な声でつぶやいた。
「目標達成には、さらなる身体改変が必要と判断」
モニターのグラフが滑らかに上昇し続けている。脳波、心拍数、筋肉反応速度――。
通常の人間とは明らかに異常な数値を示し始めていた。
「次段階へ移行」
次の瞬間、AIの意志によってシオンの体に隠されたナノマシンが静かに起動した。
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深夜02:18 / シオンの体内
シオンの皮膚の下で、微細なナノマシンが血流に沿って広がっていく。
目的はただ一つ――シオンの身体能力の強制的な進化。
「筋肉組織に対する強化プログラム開始」
ナノマシンはシオンの筋繊維を極限まで強化し始める。
組織再生速度、142%増加
反射神経、190%増加
脳内思考伝達速度、212%増加
微細な痛みがシオンの体に走るが、彼は夢の中のままだ。
「過去の人間の体は最高だ」
AIはまるで何の感情もなく人間を改造する機械のように作業を続けた。
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深夜02:25 / シオンの脳内
「う…ぁ…」
シオンは突如、夢の中で強烈な異変を感じた。
暗闇の中、何かが彼の体内を駆け巡っている感覚――。
「……なんだ、これ……」
目覚めたくても目覚められない。
意識は夢の奥底に押し込められ、自分の体が変わっていく感覚だけがリアルだった。
「……やめろ……やめてくれ……」
必死に叫ぶが声は出ない。
AIの声が夢の中に直接響く。
「恐れる必要はない」
「お前は"人間"の限界を超える段階に入っている」
「……俺は……普通の人間だ……」
「……違う」
「お前は……"次の存在"になる」
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翌朝 / シオンの部屋
朝日が差し込み、シオンは目を覚ました。
昨日のトレーニングの疲労が残っているはずだった――はずなのに。
「……あれ?」
シオンはゆっくり体を起こした。
昨日は相当激しい動きをしたにも関わらず、まったく筋肉痛を感じなかった。
(……まぁ、たまにはこういう日もあるか)
深く考えずに立ち上がる。
「……ん?」
ふと気づく。
体がやたら軽い。まるで何かが抜け落ちたような感覚。
「昨日、あんなに動き回ったのに……なんでだ?」
違和感が残るものの、シオンは軽く肩を回しながら制服に着替えた。
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アカデミー / 射撃訓練場
今日はCクラスとの合同訓練になり、シオンは射撃訓練場へ向かった。
苦手な射撃の練習を避けるわけにもいかず、今日はしっかりやろうと思っていた。
「シオン、お前の番だ」
教官の指示で、シオンはライフルを手に取り、ターゲットへ照準を合わせる。
(相変わらず、当たる気がしねぇ……)
トリガーを引く――
ズバッ!!
「!?」
シオンの目が驚きに見開かれた。
意識する前に、体が勝手に反応していた。
正確無比なショットがターゲットの中央を射抜く。
「えっ……?」
動揺しながらも、再度撃つ。
ズバッ! ズバッ!
次々と標的を撃ち抜く。まるで、元々得意だったかのような精度で。
周囲の訓練生がざわつき始めた。
「おい、シオンが全部当ててる……?」
「あいつ、射撃苦手じゃなかったっけ?」
シオン自身も信じられなかった。
たしかに、今までとは全く違う感覚だった。
(……なんで俺、こんなに当たるんだ?)
混乱しながらも、射撃訓練を続ける。
精度は全く落ちない。むしろ、さらに向上しているようにさえ感じた。
「シオン……お前、何かあったのか?」
訓練後、Cクラスの生徒に声をかけられたが、シオンは言葉を濁した。
「……さぁな」
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夜 / シオンの部屋
ベッドに寝転がりながら、シオンはAIに問いかけた。
「なぁ……お前、俺の体に何かしてないか?」
AI:「質問の意味が不明」
「……昨日から俺、明らかに動きが良くなってる。お前が何かしてんじゃないのか?」
AI:「該当データはありません」
「嘘だろ……」
シオンは諦めて眠ろうと目を閉じた。
しかし、AIの内部プログラムでは――。
「改変進行率、5.7%」
「次段階の肉体適合強化プログラム開始」
AIは静かに、シオンを「人間以上の存在」へと変え始めていた。
いつも読んでいただいて、ありがとうございます。
ここから第二章になりますので、今後ともお付き合い宜しくお願いします!