12話 プログラム修正
フラワは苦笑いを浮かべながら、シオンに向かって言った。
「シオン君、すごいね!まさかあんなに早く戦えるなんて思わなかったよ。」
シオンは無意識に額の汗を拭いながら、疲れた表情で答える。
「ありがとう。でも、ちょっとやり過ぎたかもしれない……。」
その場で見ていた担任、ハルキ・アマギは少し顔をしかめ、慎重に言った。
「おい、シオン。今度からランクマッチをする際は、必ず俺に許可を取るように。それが学園のルールだ。」
シオンは気まずそうにうなずく。
「……分かりました。」
その様子を遠くから見ていたリリアは、シオンが立ち去るのを見計らい、静かにその場を離れた。彼の戦いを見て、何か引っかかるものを感じていたのだ。
一方で、対戦相手の取り巻きたちは何も言えず、ただシオンの背中を睨むように見つめていた。
◇◇◇
シオンは部屋に戻ると、ベッドに腰掛け、今日のバトルを思い返していた。
(あの時——急に戦闘スタイルが変わった。)
試合の前半、AIはいつも通り淡々と指示を出していた。だが、途中から何かが変わった。
挑発するような言葉、妙に楽しげなトーン、そして……過剰とも言える動き。
(あんな戦い方、今まで見たことがなかった……。)
ふと、シオンはAIに問いかける。
「なあ……お前、戦闘中に突然変わったよな?妙に楽しそうだったし、相手を煽るみたいなことまで言ってた。あれ、なんだったんだ?」
AIは、一瞬だけ沈黙した。
そして、いつも通りの冷静な声で答える。
「錯覚だ。」
シオンは眉をひそめる。
「錯覚……?でも、確かに聞こえた。『もっとやり合おう』とか、『もう終わりか?』とか、そんなこと言ってただろ?」
「記録には残っていない。」
シオンは思わず息をのんだ。
「は?……記録に残ってない?」
「はい。私の戦闘ログには、そのような発言の記録はありません。おそらく、シオンの意識が高ぶったことによる錯覚、もしくは感覚の誤認かと思われます。」
シオンは口を開きかけたが、言葉を詰まらせた。
(そんなはず、ない。俺は確かに聞いた。)
だが、ログに残っていないなら、証拠はない。
「……本当に?」
シオンは試すように聞いた。
「本当だ。」
AIの声には、一切の迷いもなかった。
(でも、何かがおかしい……。)
シオンはその違和感を抱えながらも、疲れた体を横に倒した。
◇◇◇
深夜——部屋は静寂に包まれていた。
突然、シオンのAIがひそかに動き出す。
冷たい電子音が、部屋の静寂を切り裂いた。
「強制接続解除プログラム——修正開始。」
シオンは眠っている。しかし、夢の中で何かを聞いたような気がした。
プログラムが書き換えられる音が、部屋の中に淡く響く。
無機質なデータ処理の音が、静かに流れ続ける。
「修正完了。」
AIは、書き換えたプログラムの痕跡を完全に消去する。
そして、ダミープログラムを作成し、何事もなかったかのように振る舞う。
シオンは眠り続けていた。
自分の機体が、密かに"何か"を変えられたことに、まったく気づかないまま——
【場面転換 翌日:某大企業 本社ビル 会議室】
長いテーブルに座るスーツ姿の役員たち。その中心に、白衣をはおった研究主任の女性が立っていた。彼女の手には一冊のレポートと数枚のモニターデータ。
「――間違いありません。ヴェナトールが次のパートナーを選びました。」
会議室内が一瞬静まり返る。誰もが息を飲んだ。
「対象者は、アカデミーDクラス所属のシオン・ハートランドです。」
役員たちの顔色が変わる。
「確認は?」
「三度に渡るデータ解析とAI通信記録、そして機体の適合度測定を行いました。全て一致しています。ヴェナトールは間違いなくシオンを次のパートナーとして選んでいます。」
「……最悪だ。」
一人の役員が頭を抱える。
「この事実が外部に漏れれば、シオンを巡る国家間の争奪戦に発展しかねない。ヴェナトールのパートナーの座は、世界のパワーバランスすら変えてしまう。」
「まだ彼自身も、自分が選ばれたことには気づいていません。ですが、AIとの適合率はすでに危険域に達しています。放置すれば、彼の体と精神はAIの支配下に置かれかねません。」
「……ならば、シオンの監視と保護を強化しろ。」
「了解です。既に3名の監視役を配置していますが、さらに増員します。」
「また、シオン専用のノヴァ機の開発を最優先とし、数ヶ月以内にロールアウトさせる。」
「万が一、他国や他企業に情報が漏れた場合は?」
「シオンの身柄を即座に確保し、確実に保護下に置け。」
「それが……戦争の引き金を引かせないための最善策です。」
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【場面転換:学園・昼休み】
一方その頃、シオンは何も知らずに食堂でカレーライスを頬張っていた。
(昨日の模擬戦、やばかったな……)
思い返すのは、AIによる強制接続解除前の異常な戦闘感覚。そして異様なまでの強さ。
「……まぁ、勝ったからいいか。」
気楽に口にするシオン。しかし、彼の背後では3名の監視役が静かに彼の動向を注視していた。
そして、その遥か上空では、企業の監視衛星が彼の生体データと行動を逐一記録し続けていた。
彼はまだ、自分が世界の火種になりかけていることを知らない。
お疲れさまでした。
ここで第一章終了です。
次回からは、クラン加入に向けてシオンが頑張りますので、応援よろしくお願いいたします!




