第8階 えぇっ?戦わないんですか?
「ついに8階か…」
階段を登り終えたノンビリが、座りながら言った。
「いや、まだこのダンジョンが何階あるか分からないのに、『ついに』とか言うなよ」
キマジメも座りながら言う。
「でもさ、体感的には100階層ぐらい登ったぐらいじゃない?俺、めちゃくちゃ疲れたんだけど」
「お前が疲れやすいだけだろ…」
ノンビリは大の字に寝転ぶ。
「じゃあ、私が回復魔法をかけますね」
シトヤカが言った。
「あぁ、シトヤカさん悪いね」
「いいんです。私、ヒーラーですから。こういうことでしかお役にたてないですから」
「そんなことないよ。シトヤカさんには俺達がショップで使いすぎないようにお金の管理をしてもらってるし」
「『俺達』っていうか、ほぼノンビリだけだけどな。勝手に俺を入れるな」
「え?キマジメだってショップに行ったら、めちゃくちゃ買うじゃん」
「俺は、余計な物は買わないんだよ」
ノンビリとキマジメが言い争っていると、
「…な、なんか音がしませんか?」
とシトヤカが言った。
「え?音?」
キマジメが耳をすます。
よくよく聞いてみると、地震が起きているような地鳴りのような音が遠くの方で聞こえる。
「確かに…、なんか音がするね」
ノンビリが言う。
「一体、なんだ…?」
キマジメも身構える。
地鳴りのような音は段々大きくなる。
どうやらここに近づいているようだ。
「こっちに来るみたいだ」
3人は戦闘態勢を取った。
音はどんどん大きく、そして近くなってくる。
「そろそろ来るかも」
ノンビリが身構える。
その時、石の壁にヒビが入り、音を立てて崩れ落ちていった。
3人は突如現れたその音の主に言葉を失った。
「…ゴーレムか…」
3人の前にあらわれたのは、ゆうに2メートルは越えているであろうとてつもなく大きいゴーレムだった。
「…ど、どうするんですか?こんなゴーレム、どうやって倒すんですか?」
シトヤカは、恐怖におののいている。
「どうするって…、逃げるしかないだろ!」
キマジメは背を向けると、一目散に走り出した。
「えぇっ?戦わないんですか?」
シトヤカは慌ててキマジメの後を追う。
「確かにこの大きさじゃ、勝ち目はないか…」
ノンビリも後に続く。
ノンビリ達は、岩場のちょっとしたスペースに身を隠していた。
「どうすれば、あのゴーレムをやり過ごせるんだ…」
キマジメは頭を抱える。
「何かゴーレムの気を引けるようなことがあればいいんですけどね…」
シトヤカが頬杖をつきながら言う。
「気を引くようなことか…」
ノンビリが空を見上げる。
「俺が囮になって引きつけるから、その隙に2人は次の階に行って」
ノンビリが2人に言った。
「…お、おい、じゃあお前はどうするんだよ?」
キマジメが「お前マジかよ?」と言った感じでノンビリに言う。
「そ、そうですよ!万が一ゴーレムにやられてしまったら…」
シトヤカもノンビリを心配する。
「大丈夫だよ。俺、逃げ足には自信があるんだ」
ノンビリはニヤッと笑って、親指を突き立ててみせた。
「いや、全然大丈夫そうに見えないんだけど…」
キマジメは声のトーンが一段階下がった。
「大丈夫だ。運だけはいいから」
ノンビリはまたニヤッと笑ってみせた。
「…キマジメさん、ここはノンビリさんに任せてみませんか?」
シトヤカがキマジメに言う。
「シトヤカさん…?」
キマジメがノンビリの方を見る。
「ノンビリさんはこれまで色んなピンチを乗り越えてきました。ノンビリさんだったら絶対大丈夫だと思います」
シトヤカがノンビリの目を見て言った。
「そ、そうか…。やってみるよ」
ノンビリは覚悟を決めた。
「それじゃ、行くよ」
ノンビリが深呼吸をする。
キマジメとシトヤカは、物陰から見守ることになった。
ノンビリは目を閉じた。
遠くの方で地響きみたいな音がする。
ゴーレムはこっちに向かっている。
タイミングを間違えれば大変なことになる。
ノンビリは頭の中で作戦を立てる。
地響きみたいな音は、どんどん大きくなる。
「…今だ!」
ノンビリは、道の真ん中に出る。
そこに、大きなゴーレムの顔が姿をあらわした。
「おい、こっちだ!」
ノンビリはゴーレムに呼びかけた。
ゴーレムは大きな体をノンビリの方に向けた。
「こっちにこい!」
ノンビリは手招きをしながら、走り出した。
「アイツ、どこに行くんだ?」
キマジメがノンビリの走る方向を見る。
「あ!」
シトヤカが何かわかったような声を出す。
「シトヤカさん、急に大きな声を出さないでもらえるかな?」
「あぁ、すみません」
シトヤカは体を小さくした。
「で、何か分かったの?」
キマジメがシトヤカに聞く。
「はい、ノンビリさんが走っていった方向って確か水たまりがあったような気がします」
「そうか、ノンビリはその水溜まりでゴーレムを足止めしようとしているんだ」
キマジメが言った。
ノンビリは水溜まりに向かって走っていた。
うまくいけば、この水溜まりにゴーレムをハマらせて足止めできるかもしれない。
それを狙ってノンビリは走り続ける。
「頼む…。うまくいってくれ…」
キマジメとシトヤカは祈っている。
ノンビリの目の前に水溜まりが見えてきた。
「今だ!」
ノンビリは水溜まりを飛び越えた。
ゴーレムは水溜まりにハマって動けなくなった。
「よっしゃ!」
ノンビリはガッツポーズをした。
「まさかこんなにうまくいくとはな…」
キマジメが言った。
「俺もそう思ってるよ」
キマジメもびっくりしている様子だ。
「スゴいですね…。私、感動しました」
シトヤカは感動した様子でノンビリを見る。
「じゃあ、俺、寝るから」
ノンビリは横になった。
「お、おい、次の階に行かねぇのかよ?」
キマジメが聞く。
「俺、結構走ったんだぞ?かなり疲れてるんだよ。ちょっと休ませてくれ」
ノンビリはそう言うと、寝転んだ。
「やれやれ、今日はここでテントを張るか」
「そうですね」
キマジメ達はテントを張り始めた。
ノンビリはそのあと、3時間ぐらい眠り続けた。




