第19階 あ、これは持ち込みです
「いよいよ、19階目だな」
ノンビリ達は、第19階層にたどり着いた。
「ここは特に魔物とかは出なさそうだな」
レイセイが辺りを見渡しながら言った。
「じゃあ、ここではのんびりしてもいいってことだな」
ノンビリは地面に腰を下ろした。
「いつものんびりしてるだろ…」
キマジメも腰を下ろす。
「じゃあ、今日はここでテントを張りましょうか」
シトヤカが提案する。
「そうだな。今日はもう疲れたわ」
ノンビリが肩を鳴らす。
「そんなに疲れるようなことしていないだろ…」
キマジメが呆れたような顔をする。
「俺も疲れたから、今日はここで休ませてもらうぞ」
レイセイも地面に座りこんだ。
「…仕方ねぇな」
キマジメも頭をかいて、その場に座りこんだ。
キマジメ達はテントを張る準備に取りかかった。
「今のテントってスゴイな。すぐに張れるからな」
ノンビリが言った。
「確かにな…。昔はペグ打たないといけなかったもんな」
キマジメが言った。
「うん、あれって結構難しいな」
ノンビリが言った。
ノンビリ達が依然使っているテントは地面に打つテントを固定するクギ、いわゆるペグを打たなくてはいけなかった。
このペグが外れたりズレたりしてしまうと、あっという間に崩れてしまうので、まっすぐ打たなくてはいけない。
実は結構面倒臭い。
しかし、今使っているテントはペグを打たなくても張れるテントなのだ。
これによりテントの設営が格段に楽になったのだ。
これは冒険者にとってもかなり朗報である。
「これでかなり野営が楽になったよな」
「お前、まだ『野営』って言ってるのかよ・・・」
キマジメがツッコむ。
「いいじゃん。『野営』の方がカッコイイじゃん」
「カッコよさって必要か?」
キマジメが顔を曇らせた。
「必要だよ。『キャンプ』より『野営』の方が響きが違うよ」
「『キャンプ』の方がカッコイイと思うけどな・・・」
キマジメは首をひねる。
「おい、そんな答えが出ない議論を続けていないで、こっちも手伝えよ」
シトヤカと一緒に食事の準備をしていたレイセイが言った。
「いや、こっちはかなり真剣なんだよ」
ノンビリがレイセイに向かって言った。
「いや、傍から聞いている限りじゃ、めちゃくちゃどうでもよかったけど…」
レイセイも顔を曇らせた。
それから2時間後。
テントも無事に貼り終わり、次は料理の準備をする。
「シトヤカさん、今日のメニューは?」
ノンビリはシトヤカに聞いた。
「今日は、ビーフシチューですよ」
「え?ビーフシチュー作れるの?」
ノンビリは驚きのあまり、一歩後ろに下がった。
「はい、家族に良く作っていましたよ」
シトヤカは笑いながら言った。
「シトヤカさんは本当に料理がうまいな…」
ノンビリは羨望の眼差しでシトヤカを見る。
「私の家は、母が働いていて家に帰るのが遅かったものですから、私の代わりに弟達に料理を作っていたんです。だから、料理が上手くなったのかもしれません」
シトヤカが照れながら言った。
「…弟がいるんだ」
「そこかよ!」
キマジメがノンビリにツッコむ。
「しかし、シトヤカさんは話を聞けば聞くほどいい娘だな」
レイセイが言った 。
「いや、そんな…」
シトヤカの顔はみるみる赤くなっていく。
「ある意味わかりやすい…」
ノンビリが言った。
「じゃあ、いただきます」
ノンビリ達はビーフシチューを口に運んだ。
「…うまっ!」
ノンビリは顔を綻ばせた。
「これ、どういう風に作っているの?」
キマジメが聞いた。
「これはですね、お肉をワインで煮込んで、サワークリームとデミグラスソースと一緒に合わせて煮込んであるんです」
「明らかに予算オーバーだな」
キマジメが言う。
「まず、そんな食材、どこにあるんだよ」
レイセイがツッコむ。
「あ、これは持ち込みです」
「え?持ち込み?」
キマジメが聞く。
「はい、私は美味しい物を食べられないのが嫌なので、こうして家から持ってきているんです」
「…それは、スゴイね」
ノンビリが言う。
「今のお肉はダンジョンで倒した魔物のお肉を使っているんです」
「え?そうなの?気がつかなかった…」
キマジメが言った。
「料理は工夫次第で色々美味しくできるんです。だから家にいる時も買える食材で色々工夫していたんですよ」
「もう料理研究家じゃん」
キマジメが言った。
「はぁ、食った食った」
ノンビリは腹をさすりながら言った。
「気に入ってもらえて嬉しいです」
シトヤカはニコッと笑った。
「シトヤカさん」
レイセイがシトヤカに話しかける。
「はい、なんでしょう?」
シトヤカはびっくりして後ろを振り返る。
「俺たちがこうして戦えるのも、シトヤカさんがこうして支えてくれるからだよ。本当にありがとう」
レイセイの言葉にシトヤカは照れ臭そうにしていたが、
「本当にありがとうございます」
と笑顔をレイセイに向けた。
「あんなシトヤカさんの笑顔、見た事ないな」
ノンビリがキマジメに語りかける。
「本当だな。スゴく嬉しそう」
キマジメが笑った。
ノンビリ達は明日に備えて寝ることにした。
心なしがグッスリ眠っているような気がした。