第1階 なぜかダンジョンを攻略することになった
まだ文明がそんなに発達していない時代。
人々は自分の腕を試すため、夜な夜なダンジョンに潜り込んでいた。
目的は人それぞれだ。
ただ単に自分の腕を試したい者、大事な人が魔物に囚われている者、己の強さを信じ強敵に挑む者。
彼らはいつしか「勇者」と呼ばれるようになった。
人々は勇者に憧れ、いつしか勇者は人々の希望となっていったのだ。
そして、ここにもダンジョン攻略に挑もうとしている勇者がいた。
彼の名前はノンビリ。
彼も一応勇者のはしくれなのだが、いかんせん行動がゆっくりしている。
とてもマイペースでついたあだ名が「ノンビリ」という訳だ。
そんなノンビリは、高い塔の前に立っていた。
「うーん、やっぱり行かなくちゃいけないのかな・・・」
ノンビリは頭をかいた。
「いや、行かなきゃダメだろ!」
ノンビリの横でノンビリより小さい男がツッコンだ。
彼はキマジメ。
ノンビリの幼なじみだ。
ノンビリよりは真面目でハキハキしているので、「キマジメ」と呼ばれている。
「でも、めんどくさいしな・・・」
ノンビリは躊躇している。
元々人より取り掛かるのが遅いので、こうして二の足を踏んでしまうのだ。
「お前の妹が、あの塔に入っていったんだろ?だったら助けないと!」
キマジメがノンビリを説得する。
妹とは、ノンビリの妹のユックリだ。
このユックリ、名前に反してとてもしっかり者で、ノンビリよりも早く勇者になっていた。
ノンビリよりも数多くのダンジョンを攻略しており、この塔にも数日前に入っていった。
しかし、1週間経ってもユックリは帰ってこなかった。
ノンビリはユックリに何かあったのだと直感で感じた。
本当はすごい面倒くさかったのだが、大事な妹が帰って来ないとなると話は別だ。
だが、やっぱり面倒くさい。
だから、キマジメを連れてきたわけだ。
「言っておくけど、俺は戦闘にはあまり向いていないからな。戦うのはあくまでお前だからな」
キマジメはノンビリを指さして言った。
キマジメはどちらかというと、回復などのサポート系の魔法が得意であった。
「えぇ?キマジメも一緒に戦ってくれるんじゃないの?」
ノンビリは不満そうな顔をした。
「ご期待に応えらなくて悪かったな」
キマジメはそっぽを向いた。
「ま、いいや。俺が全部倒せばいいんだから」
「切り替え早いな・・・」
キマジメがツッコむ。
「よし、じゃあ行くぞ」
「お、おう 」
ノンビリとキマジメは、ダンジョン攻略に挑むことになった。
ノンビリは塔の扉を開ける。
「うわ・・・。重い・・・」
ノンビリはぐったりした顔をした。
「もう疲れた…」
「まだ扉を開けただけだろ。ほら、行くぞ」
キマジメが促す。
塔の中は薄暗く、水を打ったように静まり返っていた。
「ほんとにここに妹がいるのかな・・・」
ノンビリはキマジメの後ろに隠れている。
「お、おい…。俺に隠れながら言うなよ」
キマジメが少し震えた声で言った。
2人はおっかなびっくりな足取りでゆっくり進んでいった。
「うわ!」
ノンビリが声を出した。
「おい、いきなり大きな声出すなよ」
キマジメが注意する。
「ス・・・」
「ス?」
「スライムが出た!」
ノンビリはまた大きな声を出した。
「なんだ、スライムかよ」
ノンビリとは対称的に、キマジメは冷静だ。
「こんなの剣を振り回せばなんとかなるよ」
「よ、よし・・・」
ノンビリは背負っていた剣を抜いた。
「…えい!」
ノンビリはそのまま剣をスライム目がけて振り下ろした。
しかし、剣はスライムに当たらず、そのまま床に叩きつけられた。
「あれ…?当たらない…」
ノンビリは床を見る。
「もっと相手を良く見て振り下ろすんだ!」
キマジメがアドバイスする。
「…相手を良く見て…」
ノンビリはまた剣を構えた。
「頼む…、当たってくれ!」
ノンビリはまたスライムに向かって剣を振り下ろした。
今度はスライムに当たり、スライムは消滅した。
「やっと倒せたな…」
ノンビリは額の汗を拭った。
「スライム1体にこんなに時間をかけてられないぞ。もっと修行しないとな」
キマジメが声をかける。
「…めんどくさいな」
「そうやって面倒くさがってるから強くなれないんだぞ」
キマジメが言う。
ノンビリは少しムッとした顔になり、立ち上がった。
「それにしても、ここは何階まであるんだ?」
ノンビリが辺りを見回しながら言った。
「んー…、どこにも書いていないな…」
キマジメも辺りを見回す。
やがて、2人は階段の所に着いた。
「あ、なんか書いてあるよ」
ノンビリが脇の看板を指差した。
「えーと…、『この塔は100階以上の階層のダンジョンから成り立っています』…だって」
キマジメが言い終わらないうちから、
「ひゃ、100・・・?」
とノンビリが声をあげた。
「こりゃ、大変なダンジョン攻略になりそうだな」
キマジメがノンビリの方を見る。
「じゃあね」
ノンビリはそう言うと、ドアの向こうに歩き出した。
「おい、妹を救出するんだろ」
キマジメはノンビリを引き止めた。
「だって、5階ぐらいだと思っていたから…」
「そんなに低いわけないだろ!ほら、行くぞ!」
キマジメはノンビリを引っ張って階段を登る。
「あ、キマジメ、俺、まだ心の準備が…」
キマジメはノンビリの声を無視して進んでいく。
こうして、ノンビリとキマジメのダンジョン攻略が始まったのであった。