無事に終わって……ない
結局、その日の学校は無事に終わった。
みんなからこそこそと見られはしたが、絡まれることもなく……。
そもそも、存在を認知されていないからどうしていいかわからないのかも。
あとは、葉月の奴が適当に何か言い訳したのかもしれない。
ひとまず安心した俺は、放課後に違う喫茶店で執筆を始めるのだった。
「ふぅ……書けたな」
不安が消えたからか、今日はスラスラと書けた。
「あとは、もう一つの作品を書きたいが……ん?」
スマホを見ると、そこにはアキラさんからの通知があった。
「しまった、電話きてたのか」
キリがいいので、会計を済ませて店を出る。
そして、自転車を押しながら電話をかける。
「もしもし?」
『やあ、天馬』
「すみません、気づかなくて。喫茶店で執筆してました」
『いやいや、気にしないでいいよ。それはとてもいいことだ。ということは……上手くいったのかな?』
「えっと……バレた件ですよね?」
『それだね。いや、気になって寝れなかったよ』
「相談しておいてすみませんでした。ひとまず、問題はなさそうです」
俺は今日の出来事をかいつまんで説明する。
『ふむふむ、なるほど……そういう流れか』
「流れ?」
『面白い……では、引き続き報告をしてくれたまえ』
「わ、わかりました」
『じゃあ、またね』
「はい、失礼します」
よくわからないが、アキラさんにはわかったらしい。
俺は電話を切り、家路を急ぐ。
家に帰り、家事を済ませたら、姉さんと夕飯を食べる。
「……うん?」
「どうかした?」
「いい顔してるわね?」
「……そうかな?」
「朝はどんよりしてたっていうのに。何かあったの?」
「いや、大したことじゃないよ」
「ふーん……まあ、いいわ」
まあ、一応の懸念材料が消えたからな。
とりあえず、黙っていてくれるらしい。
あとは、たまに感想とかもらえたら御の字だ。
それにしても食ったら眠くなってきた……今日は早く寝よっと。
◇
昼休みを終えて帰ってくると、みんなに質問攻めされる。
「ねえねえ! 何の用だったの?」
「あれだろ? ラブレターとか入れられたんだろ?」
「なるほど、それで人前では可哀想ってことか」
「結局、バレてるけどねー」
……どうしよう?
特に何も考えてなかった。
あの時は夢中になって、思わず声をかけてしまったし。
彼のことをバラすわけにもいかないし……かといって、勝手に振られたことにするのは可哀想だ。
私の都合で話しかけてこうなっちゃったわけだし……。
……そっか! そうすれば全て解決するかも!
「実は、彼に告白をしたの」
「「「「はい?」」」」
「ただ、返事はもらってないから。だから、みんなも放って置いてね」
「へえ?」
「何言ってんだよ!?」
坂本君と三浦君が、何やら慌てている。
……まあ、三浦君はわかるけど。
私のこと狙ってるみたいだし。
イケメンでスタイルもいいけど、私としては興味がない。
ただ、それだけって感じ。
何より、これで誤解が解ける。
「へぇ、そうなんだ?」
よくつるむ亜里沙は、三浦君が好きらしい。
だから、いつも困っていた。
友達と仲が悪くなるのは嫌だし、私としては好きじゃないから困るし。
「どこか良かったの? そんなそぶりなかったけど……」
親友の桜が、少しショックな顔をしている。
あとで、きちんと説明しないと。
「うんと……偶然、彼と街で会う機会があって。その時に、色々と話したんだよね。そっから、気になったというか」
「それだけで?」
「それ以外にもあるけど……恥ずかしいし」
作品が面白いとか、意外と書いてる横顔がかっこよかったとか……。
「か、顔が赤い……」
「まじか……」
あれ? なんか暑くなってきた……?
「そ、そういうわけだから! なるべく放っておいてくれると嬉しいかな!」
それで話を切り、私は机に突っ伏す。
……何これ? どうして、ドキドキしてるの?