みられてた
……まずい。
これが前門の虎後門の狼ってやつか。
挟まれて逃げ場がない。
むろん、逃げるつもりもないが。
「お、お前は、佐々木……な、なんだよ?」
「うるせんだよ、さっきから。ただでさえ雨が降って、屋上が使えなくてイライラしてるっていうのによ」
……しまった。
俺の声で来てしまったのか。
そのヤンキーは180センチ以上あり、俺や相手よりもでかい。
「そ、そうだよな。そいつがうるせぇよな」
「ちげえし、うるせぇのはてめーだよ。つまんねえことばっか言いやがって」
すると、ヤンキーが俺の前に出て、そいつの前に立つ。
「な、なんだよ、やるのか? 喧嘩が強いヤンキーだかなんだか知らないが、こっちは空手……」
「ごちゃごちゃうるせぇ。やんのか、やらないのか——はっきりしろや」
「……も、もういい。野崎、あんま調子こいてると……」
「きえろ、目障りだ」
「ひぃ!?」
その名もしらないやつは、情けない声を上げて去っていった。
状況はよくわからないが……どうやら、助けられたようだ。
俺はこわばっていたので、息をはいてから……姿勢を正す。
「えっと……ありがとうございました」
「勘違いするな、見てて気に食わなかっただけだ。だが……悪くない啖呵だったぜ。見た目と違ってやるじゃねえか」
「あ、ありがとうございます。いや、結構ひやひやしてましたし、身体が震えそうでしたよ」
「それでも、あれだけいえるなら大したもんだ。あいつはお前よりでかいし、空手をやってるとか言ってたからな……ところで、なんで敬語なんだ? お前、あいつとタメっぽかったし、多分二年生だろ?」
「は、はい、そうです。二年Ⅾ組の野崎天馬っていいます」
「じゃあ、俺ともタメってことだ。二年B組の佐々木和也だ、まあ……特によろしくすることはない。じゃあ、気をつけろよ」
それだけ言い、去っていった。
「……自分が恥ずかしい」
葉月の件でも、見た目とは違って良いやつはいるってわかってたじゃないか。
それにしても、かっこいい人だったな。
……小説のネタになるかも。
◇
爽やかイケメンで、私に興味がないから助かる坂本君。
ちょっと悪ぶってて、私に興味があるので困る三浦君。
三浦君を好きなので、私に対してかギャル系の恰好をする亜里沙。
美人系の容姿で、しっかり者の桜。
そして、私の五人がよくつるんではいるんだけど……。
うーん、なんだかなぁ。
昼休みに桜たちとご飯を食べているのは良いんだけど……。
「なあ、いつまであいつの相手やってんだよ?」
「うーん、どういうこと? 私は楽しんでやってるよ?」
「……あんな陰キャといて、何が楽しいんだか」
「ねえねえ、いつもどんな話してるの?」
「うーん、ファミレスで勉強のことを話したり……まあ、色々とね」
「まあまあ、いいじゃん。野暮な質問するもんじゃないし」
「そうそう、それよりもさ……」
最近は、こんな感じになってしまう。
三浦君は野崎君の悪口ばっかり言うし。
それを見て亜里沙は攻撃的になるし。
坂本と桜はフォローに回ってくれる。
……なんだかなぁ……どうしたらいいのかな?
少し疲れたので、外の空気を吸いに廊下を出て、階段を降りていく。
すると……外に出ていく途中で、嫌な人を見かける。
この間告白をしてきた高野って男の子だ。
……ここを通らないと外にいけないんだけど。
「やばっ……ん? 体育館に向かってる?」
なら、今のうちに外に行こうっと……。
気づかれないように、こっそりと廊下を歩いていく。
「まだ戻ってこないよね? あの人、上から目線で言ってきたから嫌だし」
付き合ってやるとか、よくわかんないこと言われたし。
俺なら満足させてやるとか……何言ってんのって感じだし。
「やっぱり、付き合うなら優しい人が良いし……まあ、そりゃね……たまにはガツンと言ってくれる人とか、男らしいところを見せてくれる人も良いけど」
野崎君は優しいし、ガツンと言ってくれるかはわからないけど。
でも、三浦君にははっきり言ったって聞いた。
まあ、私とはなんでもないって言ったらしいけど……むぅ。
「……いやいや、何を言ってるのよ」
別に、私だって野崎君のことは好きというか、そんなんじゃないというか……。
だから、あっちが関係ないって言ったところで、それは当然っていうか。
そもそも、秘密の関係だから迂闊なことは言えないし。
「……誰に言い訳してるんだろ、私」
……というか、ぼけっとしてる場合じゃないし。
戻って来ないうちに、廊下を抜けないと……。
「うるせぇ!」
「……野崎君の声? 」
気になった私は、恐る恐る体育館の方に近づいてく。
「あっ——高野君が野崎君に絡んでる? 」
どうしよう? 私のせい? だったら、私が行った方が……。
「……へっ?」
そこには逃げもせずに、私を擁護する野崎君の姿があった。
「……そんなこと思ってくれてたんだ」
確かに私は、見た目は派手だし、告白を断るから誤解されることは多い。
でも、見た目くらいしか私にできる自由がないから。
「あっ、そんなことより……あれ?」
何やら様子がおかしい。
どうやら、佐々木君って人が助けに入って……。
「……うん、平気そう」
私がここにいることがバレたらまずいので、ひとまずその場を離れる。
その後、逃げていく高野君を確認する。
……野崎君も平気そうだね。
「それにしても……嬉しかったし」
野崎君が、しっかり言ってくれたことが。
何処かで、迷惑かけてるんじゃないかって思ってたから。
何だかんだ優しいし、私が秘密を知ってるから付き合ってくれてるのかなって。
……もっと、野崎君と色々なことしてみたいな。




