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第4話「壁なんてもういらない」

おはようございます、またはこんにちは、

かぐらゆういです(*´ω`*)

ゴールデンウィークも後半戦、皆さまいかがお過ごしでしょうか?


さて、第4話です。

ではどうぞ!

挿絵(By みてみん)

黒百合の花言葉は「恋」、「愛」、「呪い」、「復讐」である。その見た目と半分怖い花言葉から非常に不吉なものを感じる。


大阪から帰宅した2人が見たものは、黒百合の花束を抱え、怒りに打ち震えるゆりえの母・光子の姿だった。



「ゆりえ…やっと見つけた」



正夢になった、ゆりえはそう思った。怖気づいたゆりえは古瀬の背後に隠れる。



「もしかして…あの人がお母さんか?」



「そうです…」



ゆりえの眼には恐怖で涙が溜まっていた。只ならぬ様子に今までよほど怖い思いをしてきたか痛いほど伝わってくるようだった。


古瀬はゆりえに耳打ちする。



「店側の方から自分の部屋に入り。俺がなんとか追い返すで、安心して行きぃ」



「はい、わかりました」



ゆっくり古瀬から離れると、走って店側の出入り口から入っていった。



「ゆりえ!」



ゆりえを追いかけようとする光子を古瀬は止めた。



「お嬢さんは…お嬢さんはあなたのことを怖がっている様子です!どうかお引き取りください!」



「怖がっている?!あの子は悪魔に取り憑かれているだけ!信仰している私をあの子に取り憑いてる悪魔が恐れているだけです!お祓いしなくてはならないのです!」



光子が話していることは古瀬にとってちんぷんかんぷんな話であった。とにかくまともではないのは光子の方であると古瀬は確信した。



「とにかくお引き取り願います!お引き取り頂けないのであれば、警察を呼びますよ!」



古瀬は必死で力づくであるがなんとしてでも店の中に入ろうとする光子を止める。



「警察を呼ぶですって?!あの子は私の娘です!私の許可なしにあの子を住み込みで働かせてる方が問題では?!」


ゆりえはもう20歳、大人である。別に親の許可なしでも働いていい歳である。光子とってはゆりえをまだ子供だという認識らしかった。


そして、ゆりえがここにいるのは、光子の肉体的、経済的暴力から避難してきたからだ。如何なることがあろうと、古瀬はゆりえを守るべきなのだ。光子を止める力がより一層強くなる。



「あなたには自覚がないんでしょうが、あの子から母親から虐待があると聞いています。経済的にも苦しめられていると。なので如何なる理由があろうと、あなたにあの子を引き渡すにはいかないんです!」



抵抗する光子の両腕を更に強く掴んだ。



「なのでお引き取りください!お引き取り頂けないのであれば警察呼びますから!」



光子はぎりりと歯をくいしばった。



「あんたも悪魔が憑いてるんだ!だから私のに抵抗するんだ!こんな小さな店で働かせるより、あの子はもっと教えを頭に叩き込んで先生のお導きの元、宗教活動に勤しむことがいいに決まってんだ!」



そう言うと光子は古瀬の手を振り切って黒百合の花束をバシバシと古瀬の背中に叩きつける。



ーーバシバシバシバシっ !



叩きつけられる黒百合は古瀬の背中の上から花びらを地面に散らせた。



「お母さんやめて!!」

挿絵(By みてみん)


ゆりえは2階の窓から声を上げた。



「ゆりえ…」



古瀬はその名をつぶやいて上を見上げた。同時に光子も見上げる。



「その人は私の大切な人なの!悪魔なんて憑いてない!黒百合ので叩きつけないでちょうだい!」



「ゆりえ、あなたは男というものを知らないんだわ。あなたのお父さんもろくでなしだったでしょう?素性をよく知りもしないでそうやってーー」



「古瀬さんは…古瀬さんはまだひと月しか一緒にいないけど、ほかの男の人とは違う!お父さんとも違う!古瀬さんは私を必死で守ってくれる、経済的にも何から何まで守ろうとしてくれる!温かいご飯も、なに不自由ない暮らしも、私に与えてくれた!」



古瀬がこれまでしてくれたことを一つ一つ思い返すだけで、涙がひとすじ溢れた。



「古瀬さんほど、私を大切にしてくれる人はいない…私の大切な人を悪魔呼ばわりして傷つけないで!」




ゆりえの心からの訴えだった。



「帰って…帰ってよ!私はあなたの元へは戻らないから!」



言うことは言った…ゆりえは精一杯、はっきりと訴えたつもりだ。


訴えが通じたのか、光子はゆっくりと古瀬から身を離した。



「帰ります… 」



光子は憔悴(しょうすい)しきった様子で歩き出すと、小さな声で「呪ってやる」と呟きそのまま帰っていった。



古瀬は光子の姿が見えなくなるとすぐその足でゆりえがいる2階へと駆けて行った。





「ゆりえ」



古瀬は窓辺でへたり込んでいるゆりえに声をかけた。



「…はい」



ゆりえは顔を上げる。



「うちに来ないか?」



唐突でゆりえは「へ?」と言う感じだ。



「ここはもう危険やと思う。うちはロフトが余っとるでぇゆりえ1人置いたところでなんの問題もあらへん」



「…いんですか?」



「ええよ、おいで」



ゆりえはすぐに荷物をまとめると、古瀬の車に乗り込んだ。


古瀬の自宅は店から車で10分ほどの場所にある10階建てのマンションの7階だ。



「ひとりでいるには少し広すぎんねん。ロフトの部屋、好きに使うてええよ」



黒を基調とした広い台所、8畳ほどのリビング、6畳ほどの寝室、そしてゆりえが使うことになったロフトの洋室…。確かにひとりでは持て余すほど広いかもしれないとゆりえは思った。



「これ使うてええで。クリーニング出したばかりやから綺麗やで」



早速古瀬はふかふかの布団をロフトに敷いてくれた。



「ありがとうございます、古瀬さん」



「礼なんていらんわ。“大切な人”って言われたで、こっちももっと大切にせなあかんやろ?」



“こっちももっと大切にせなあかんやろ?”その言葉にゆりえはどきっとした。もしかしたら従業員としての“大切にせなあかん”なのかもしれないが…。



その晩、ゆりえは夕食作りを手伝うことにした。いつもは店で賄い飯のような形で三食作ってもらっていたが、ここに住むとなれば手伝うべきだとゆりえは思ったのだ。


今夜はグーラッシュのライス添えである。グーラッシュとはハンガリーうまれの煮込み料理のこと。パプリカをたっぷり使った、色鮮やかで視覚的にも楽しめる料理である。


玉ねぎとパプリカ、マッシュルームをそれぞれ薄切りにしていく。料理慣れしていないゆりえは指を切らぬよう慎重に切っていくが、古瀬はプロのためか素早く、綺麗に切っていく。



「私も古瀬さんみたいにできたなぁ〜」



「ゆりえはまず基本からマスターせんと」



「そうですよね…」



光子と暮らしているときは貧乏暇無しでゆっくり料理する時間などなかった。でも今は古瀬の元で料理をマスターしたい気持ちでいっぱいだ。



「ええか?包丁はなぁまずーー」



古瀬がゆりえの背後に回り包丁を握る手とパプリカに添える手に軽く手を添えて切り方を教えた。



古瀬の息遣い、体温…全てが伝わり、ゆりえはドキドキしていた。



「初めはゆっくりでええからトントントンでリズムよくなぁ」



「はい」



ーートントントン…



「ええで、その調子や」



ーートントントン…



「よし、切れたなぁ。なかなか筋ええよゆりえ」



「ほんとですかぁ?!」



「ああ、俺が初めて包丁持った時よりええかもしれん。やっぱ女の子やなぁ」



「初めて持ったのはいつなんですか?」



「5歳の時やで。おかんが妹の世話で手離せんからばあちゃんに教わったんが始まりやなぁ。イタリアンなんか程遠い生活やったけどなぁ、ははっ」



古瀬から墓参りした両親以外の家族の話を聞いたのは初めてだった。



「妹さんがいらっしゃるんですね」



「ああ。4歳下の妹がな。今25歳かあいつ」



「古瀬さんの妹さんなら美人じゃないですかぁ?」



「キーキーうっさいだけで、全然美人でもかわいくもないわ」



「きょうだいいないから良いなぁ」



フライパンで玉ねぎを炒めながらゆりえは羨ましく思った。きっと、自分にもきょうだいがいれば宗教に洗脳されている母親から逃れられたかもしれない。



「俺を兄貴やと思ったらええ」



約3分炒めた玉ねぎにマッシュルーム、パプリカ、牛肉を加えて炒め合わせた。



「古瀬さんは…お兄ちゃんってより、もっと深い関係だと思います」



トマト缶を汁ごと加え、水、塩、粗挽き黒胡椒を加えた。



「“もっと深い関係”かぁ…確かにここまで来たらきょうだいでも雇用関係でも枠超えた感があるなぁ」



煮立ってきたところを2人でアクを取り除く。共同作業は2人にとって初めてだった。



「あとは煮込むだけやで。ゆりえ、食器棚から好きな器選びぃ」



「私のセンスでいいんですか?」



「器選びも料理のうちやで。器で印象変わるからなぁ」



「わかりました」



ゆりえは黒の食器棚全体を見、深く悩んだ。そして橙色に赤いラインが一本入った大きな陶器の深皿を2枚選んだ。



「これを選んできたか。この皿は俺があの店開店した時にばあちゃんが送って来たやつや。センスええよ、ゆりえ」



古瀬はゆりえの頭を優しく撫でた。大きな手に撫でられてゆりえの胸はきゅんと痛んだ。

挿絵(By みてみん)





夕食後、皿洗いと風呂をを済ませゆりえは早速寝床を整え始めた。



「今夜そこで眠れそうか?」



話しかけて来た古瀬にゆりえは弱々しく答える。



「…緊張して眠れるかどうか…」



そんなゆりえに古瀬はクスッと笑う。



「昨夜は俺の横で気持ちよさそうに寝とったやつがなに言っとんねん」



ゆりえは途端に恥ずかしくなった。



「そんなに私…気持ちよさそう、でした…?」



「また、一緒に寝るか?」



「…はい」



ゆりえは素直に答えると、2人の間を隔てていた戸を開けて古瀬に抱きついた。

挿絵(By みてみん)


「そないなことしたら…あかん、食べてしまいそうや」



「私はまだ青いトマトです…食べるにはまだ早いですよ」



「せやな」



今の2人に仕切りの壁などもういらなかった。


今回も最後までお読みくださりありがとうございます。数少ないファンの皆様のおかげで、かぐらも今日まで書き続けられています。改めてありがとうございます。


次は第5話…2人はどうなることやら(*´ω`*)

ではまた。

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