第2話「居場所を見つけろ」
ゴールデンウィークが始まりましたね。
皆さまいかがお過ごしでしょうか?
今年も特に予定がないかぐらです笑
さて、マドンナリリーも第2話でございます。
お時間ある方はぜひかぐら作品にお付き合いくださいませ。
では、どうぞ!
「コニーリョ・フォレスタ」で働き始めてから1ヶ月が経とうとしていた。
真夏の8月のため店の2階での生活は快適、とまではいかないが、冷蔵庫など必要なものは揃っていた。また、荷物が少ない殺風景な部屋はクーラがよくきいて、不眠症持ちのゆりえでも心地よく眠れた。
「ゆりえ」
「はい」
いつのまにか古瀬には下の名前で呼ばれるようになっていた。20歳のゆりえからみれば、9歳年上の古瀬とは兄妹のような感覚なので、嫌な感じはしなかった。
「そろそろ1ヶ月経つなぁ。親に連絡した方がいいんじゃないか?」
ここで働く条件として、落ち着いたら親に連絡するというのが第1条件だった。
「そうですね。それがここで働くための条件でしたよね」
「今のうちメッセージだけ送っておけよ。この時期お盆だから今の時間お客様こないし」
古瀬の指示に従い、ゆりえは2階でメッセージを送った。この店では従業員の携帯又はスマホの持ち込みが禁止なのだ。
「よし、これでOKかな…」
文面がおかしくないか確かめ、母にメッセージを送った。
「店長、送りました」
お客様はいないが、仕事中は古瀬のことを店長と呼ぶゆりえだった。
「じゃあ、正式採用でええか?」
「え?」
「試用期間は終わった。で、序でに関西弁で話してええか?」
「いいですけど…店長って関西のご出身なんですか?」
「うん、大阪」
「…ギャップがありすぎてついていけません店長…」
イタリアンのイケメンシェフがまさかコテコテの大阪出身だとは誰が思うだろうか。
「ゆりえ」
「はい、店長」
「墓参りとか行くん?」
「行かないです。母に限らず、親戚もみんな宗教漬けなんで、あったら大変なことになり兼ねません…」
「そらあかんなぁ」
「店長は大阪に帰らないんですか?」
「そこなんや、そこで俺は今悩んどるんや。行くなら店閉めんとあかんし、今はゆりえもおる…一緒に行こか大阪」
「え…それはちょっと」
ゆりえは顔を真っ赤にする。一緒に大阪に行くということは、たまたま会った親に紹介されたりとするかもしれない。そうなると、ただの上司部下の関係、店だが居候のようなこと関係が更にややこしくなり兼ねないのだ。
「ゆりえ、ゆりえ」
「は、はい!」
「今親に紹介されると思ったやろ?顔に出とるでぇ」
「そりゃ意識しますよぉ店長」
ゆりえの顔はますます赤くなる。
「りんごみたいやで?ははっ」
「だって、もしたまたまお墓でご両親、又は親戚に会ったとしたら、彼女だと勘違いされたりーー」
「安心せい、俺にはもう親は2人とも居らんから」
「え?」
「病死したんや、2人とも。親戚もそんなに居らんし。だからその心配はせんでええよ。もし彼女だって墓に向かって紹介してほしいんやったら、してもええねんで?」
「やだもうぉ〜店長のいじわる!」
ゆりえの反応を見てからかう古瀬であった。
お盆も明けて、雪国の短い夏も終わろうとしている時だった。
ランチタイムから店は活気を取り戻し、大繁盛した。他の従業員も帰省から帰ってきたのも助かり、忙しくても店をスムーズに回すことができた。
深夜の2時、イタリアンレストラン&バー「コニーリョ・フォレスタ」は本日の営業を終えた。
「お疲れ様でした」
他の従業員を見送り、店に2人きりになった。
「ゆりえ、お疲れ様」
「営業中は終始「花村さん」と呼んでいた古瀬だったが、2人きりになって再び「ゆりえ」と呼んだ。
「お疲れ様です、古瀬さん」
ゆりえも「店長」から「古瀬さん」になった。
「やっぱ『ゆりえ』の方が呼びやすいでぇ、ゆりえ」
「そんなに名前の方が呼びやすいですかぁ?」
「呼びやすいわぁ。『花村さん』はなんかなぁ…ファミリーネームやからかなぁ?」
「なんでもいいですけど、2人きりの時だけですよ?」
洗い物をしながらゆりえは古瀬に向かってにこりと笑った。
(なんか…この人に下の名前で呼ばれるの、全然嫌な感じしないんだよなぁ…それが自然というか)
洗い物を終え、次は店じまいの掃除に取り掛かる。元々掃除が得意のゆりえは、1ヶ月も経てば掃除も手際よく済ませるようになっていた。
「もうすっかり仕事が板に付いた感じやなぁ」
カウンターの隅で売上金を計算し終えた古瀬が関心した様子でゆりえを見た。
「そうですかね…夢中になって覚えたから自分じゃ自覚ないんですが」
「もう居場所、見つけたなぁ」
「え?」
「ずっとここに居ったらええ、ここを居場所にせい」
「いいんですかぁ?」
「ええよ、ずっと居ったらええ」
「はい!」
「てなわけで初給料、ご苦労さん」
「ありがとうございます!」
「あと、大阪一緒に墓参りせんか?」
「私も、ですか?」
「こないなとこに長いこと女の子ひとりにさせるのは危険やで。お母さんに状況知らせたからもしかしたら場所特定して俺の居らん時に来るかもしれへんやろ?」
「そうですね…」
「一緒に行こう。旅行やと思って俺に付いてきたらええねん」
「宿泊代や諸々のお支払いはーー」
「全部俺が出すから気にせんでええ」
「そんな…悪いですよ、全部だなんて」
「ええよ、ええよ。社員旅行や社員旅行」
「2人だけで?」
「そう。部屋はちゃんと別で取るから安心せい」
「それならいいですけど…」
「なんか文句あるか?」
「ないです」
「ならええ。とりあえず、来週やからゆっくり準備しとき。ほな、おやすみ」
古瀬は全て伝えると、そのまま帰ってしまった。
(自分の居場所かぁ…ここが私の居場所…)
ゆりえはそう思うことで、ほっと胸を撫でおろした。
大阪行きの当日。
2人は店の扉に休業日のお知らせの貼り紙をして空港へとやってきた。
「古瀬さん」
プライベート時のゆりえは長い髪をおろしている。
「どないしたん?」
「毎年帰省する際は、お店閉められてるんですか?」
「せやで。もう毎年のことやから常連さんも店の従業員もみんなわかっとるよ」
「なら良かった。申し訳ない気がして、古瀬さんの料理を楽しみに生きている人がいるはずだから」
「そうやなぁ…ここにもひとりおるし」
ゆりえは毎日三食まかないを食べているので、すっかり古瀬の手料理の虜になっていた。
「ほんと、毎日三食美味しくてお仕事も頑張れちゃいますよ。今回の旅行には無くて残念なくらい」
ゆりえは古瀬の手料理がないことに今回は残念に思っていたが、
「そないなことないで?ほれ」
古瀬はリュックの中からタッパーを取り出した。蓋を開けてゆりえに見せてやる。
「すごい、いつの間にサンドイッチとドルチェ(デザート)なんて作ってたんですか?」
ゆりえは大きな目を更に大きくして驚いた顔で古瀬を見る。
古瀬が作ってきたのはサンドイッチとビニエ(フランスとイタリア北部で食べられているシュークリームのようなお菓子)だった。パンや甘いものを朝ごはんに食べるのはイタリア式である。
「できる男はちゃうやろ?」
「私。幸せ過ぎて太っちゃいそうです」
「幸せで太っちゃいそうか?それはそれでええやろうな」
「何かいやらしいこと考えていませんか?」
ゆりえは古瀬に疑惑の目を向けた。
「いやらしいことってより、ゆりえは細過ぎるからもう少し太った方が健康的に見えるやろうなって思ったんや」
古瀬の言う通り、ゆりえはあまり肉付きが無く、いわゆる痩せすぎの傾向があった。体質もあるが、母と一緒に暮らしている時はろくに毎日食べていなかったからだ。
「貧乏してたから今のような満足いく食事なんてしてこなかったんです。菓子パンばっかりで済ませてたし。古瀬さんには本当に感謝しかありません」
そう言って優しく微笑んで涙を一筋流すゆりえの肩を、古瀬は思わず抱きしめた。
今回も最後までお読みくださいましてありがとうございます(*´∇`*)かぐら作品は数少ない読者さまで成り立っておりますので、読んで頂けるだけでこの上ない幸せであります。
では、第3話でお会いしましょう…。




