第六節 ヒロイン③
保健室に逃げ込んで、授業をサボり、そして自分に起こっていることをようやく知り、メイド苛めをする。
「ここにいらっしゃったんですか、お嬢様。探しましたよ。」
保健室に駆け込んだ私は「体操着」を脱ぐ事もできず、ベッドの上で座っていた。
長い時間、私は今日のことを思い返していた。
朝、知らない「知り合い」を傷つけた。一限目、授業がまったくわからない。二限目、わからないからボーとしてたら怒られた。三限目、更衣室でタマ辱められた?金髪妹に意味もなく嫌われた。ゴリラ先生にセクハラされた。
まだ、三限目なのに、何でこんなにいっぱい悪い事が起きる?
そう考えている内に、タマの声が聞こえた。
「お嬢様?どうしたのですか。」
「タマ...」
タマの顔を見た瞬間、一気に緊張が解けた。全身から疲れを感じで、数回深呼吸した。
それから、私は心配して私の肩を支えてくれたタマに、「制服に着替えたい」と言い、「換装」することを頼んだ。タマはすぐ私の隣に座り、校章を一回押して、「換装!」と言った。
「換装」はどういう原理で服を「着替え」たのかがわからないが、着替える途中必ず一回全裸になるらしい。私が校章を押したら全裸になるのは、「着替え」が途中で終わったからかもしれない。
けど、今はそんな事どうでもいい。
制服に戻った私は隣に座っているタマを暫し見つめていたら、不意に人肌が恋しくなって、無言でタマの腰に腕を回して、抱きしめた。
「お嬢様!?」
タマは私の行動に驚いたが、すぐその理由がわかったようなので、私の髪を毛の流れにそって撫でた。
その行動に安らぎを感じ、もっと撫でてほしいと思ったと同時に、自分はこんなにも脆弱な人だとわかり、ショックを受けた。
なんだ?私は人に優しくされないと、一人じゃないと、生きていけない人間だったのか。そんなにも心の弱い人間だったのか。
そう思うと、またむかついてきた。
その時、三限目終了の終鈴が鳴り、外が騒がしくなり、いきなりドアが開けられた。
入ってきたのは白いコードを着ている若い女性、おそらく保健室の先生だろう。
先生は変な顔で私とタマを交互見つめて、何故かちょっと挙動不審になっていた。
「すみません。少し、お邪魔しています。」タマは引きついた笑顔で先生に手を振った。そしたら先生がおかしな笑みを浮かべて、保健室を退室した。
ご丁寧に鍵まで掛けた。
その一連の行動の理由に、私は興味ないので、考えないようにして、一度タマから離れて、体勢を立て直した。少し顔が熱いが、気にしないことにした。
「お嬢様!どうかなさいましたか。」
タマが心配そうにしていた。その言葉からさっきまでの適当感がなく、とても真面目だった。
そんなタマの心遣いにとても感謝しているが、私は同情されるのを嫌いみたい。
「タマ、教えて。私はどうして『入院』したのですか?」
私はとても真面目な顔を作って、タマに向けた。
真面目な顔をしているかどうかわからないが、私は真剣だ。
タマは暫く私を見つめて、覚悟を決めたような顔で私に話した。
タマ 「お嬢様、これはあくまでも私が聞いた噂話です。お嬢様に教えていいものなのか、とても悩みます。それでも聞きますか。」
私 「聞きたい。」
タマ 「わかりました。単刀直入に言う、お嬢様が入院した理由は『ストレス』です。」
私 「ストレス?」
タマ 「はい。当時のお嬢様はストーカー・イジメ・盗撮の三つの問題を抱えています。盗撮犯は未だに掴まれていません。イジメに関して学園はノータッチ。ストーカーはつい先日に捕まえたばかりだが、その理由は、お嬢様が犯人に誘拐されたからだ。」
私 「誘拐?私、誘拐されたの?」
タマ 「はい。流石の旦那様もこれに本腰を入れた。どういう方法を使ったのかはわからないが、お嬢様の失踪後6時間、犯人の居場所を特定し、その一時間後、犯人を討ち取り、お嬢様を救った、と。」
私 「お父様...」
タマ 「お嬢様の『記憶喪失』もその直後です。」
私 「誘拐されたショックで記憶喪失。」
タマ 「そうだと思います。今回の旦那様の対応は正直遅いです。いくらお嬢様の通っている学園の学園長を同時に勤めているとは言え、『公平』に拘り過ぎている。そのせいでお嬢様が誘拐された事が起きたと思う。」
私 「そうなのか。結構早い対処だと思うが...何だかんだ言って、私は救われたからな。」
タマ 「一般人なら確かにできないことかもしれないが、お嬢様のお父上は現世界中最も多くの資産を持っているお金持ち。その気になれば、お嬢様が誘拐される前に犯人を捕まえたはずです。」
私 「お、応...」
タマ 「それに、盗撮犯は未だに捕まえず、イジメに『ノータッチ』...無責任だと思います。」
私 「そう、ですか。」
私 「...」
私 「私は何故苛められて、盗撮されて、挙句の果てにストーカーに誘拐されたのでしょう。」
タマ 「お嬢様!?何故そこに疑問を抱かれるのですか。お嬢様のルックスはとても男性受けがいいし、お父上は世界一のお金持ち、さらにまだお若いうちに、すでにその、ご立派な...お胸をお持ちではないですか。」
私 「どうしたの、タマ?声が震えてますよ。」
タマ 「なんでもありません!いいですか、お嬢様。背が低くても、お嬢様はまだ成長期です。将来美人になるのは目に見えている。世の中には今の時期の『女性』を好む『男性』はごまんといる。ストーカーと盗撮犯はおそらくそのような『紳士』で『あ』るでしょう。イジメはおそらく同級生の嫉妬によるものだと思います。」
私 「タマの言ってる言葉なんとなく判ります。それで、私は可愛いからこんな目に遭っているのか。」
タマ 「...そうだと思います。」
私 「では、顔に傷をつければいいのか。」
タマ 「と、とんでもないんです!ご自愛ください!お嬢様の可愛さは宝、他人の為にそれを壊すわけには行きません!ご自愛ください!」
私 「あ、ありがとう...」
タマ 「それに、例え傷を付けても、ちょっと高位の治療魔法使えば、すぐ無くなります。」
私 「やはり治療魔法はあるのだな...」
タマ 「はい。だからお嬢様の体に傷一つありませ...はっ!」
私 「どうしたの、タマ?」
タマ 「お嬢様!このタマ、命を懸けても、絶対、お嬢様を、守ります!」
私 「ほんとどうしたの、タマ?」
タマ 「もしかしたら、お嬢様は昔同級生に苛められた時に、殴られて、傷だらけにされたかもしれない。治療魔法があるから、『証拠』は残らない。だから苛められたのに、旦那様に言っても、信じてもらえないから、何も言わなかった!」
私 「黙ってたの、苛められたのに?」
タマ 「そうですよ、お嬢様!」
私 「誰にも相談しなかった?」
タマ 「そうです!お嬢様、そういうことをちゃんと言ってくれないと困るよ!」
私 「え、ごめんなさい?」
タマ 「まったくお嬢様ったら...私たちメイド隊がどれだけ心配しているのか、わかりますか。」
私 「ごめんなさい...」
タマ 「次はちゃんとしてくださいね。いい?」
記憶喪失したきっかけはタマから教わり、自分の今の現状がちょっと理解できた。それに関してタマに感謝するが、何故このタイミングで私は叱られているの?
「ねぇ、タマ。何で私が叱られているの?」
「え?」タマは聞き取れていないらしい。
「何で、私が、叱られているの?」
「ご、ごめなさい!」
さすかに空気が変わったことに気付いたタマは即立ち上がって、私に向かって頭を下げた。
「ねぇ、タマ。一メイドがお嬢様を叱っていいと思っているのか。」
「いいえ、思ってません。」
「もし、お嬢様を叱っていいメイドがいるとしたら、それは誰だ。」
「早苗さんです。」
「どうして早苗さんは私を叱っていいの?」
「それは早苗さんが教育係を兼任しているからです。」
「早苗さんが私を叱っていいのはメイド長だからではなく、教育係を兼任しているから私を叱れるのだ。そうだよね。」
「はい。」
「タマは早苗さんですか。」
「違います。」
「タマはメイド長ですか。」
「違います。」
「では、タマは教育係ですか。」
「違います!」
「じゃあ、メイド長ではなく、教育係でもないタマは、何故、私を叱っているのですか。」
「ごめんなさい!」
私の言葉攻めに耐えられず、タマは私に向かって土下座した。
その頭はとっても踏みやすい場所にある為、とりあえず靴を脱いだ。
「タマ。」
私はとっても優しい声でタマを呼んだ。その声を聞いたタマは少し頭を上げて、戦々恐々で私を見てた。
そんなタマに、私は無情な言葉をかけた。
「『ごめんなさい』ではなく、何故タマは私を叱っているのかを聞いているのだよ。」
タマは一気に頭を下げた。
「その、さっきのお嬢様はちょっと弱気になっているみたいで...」
「弱気になったから?」
「チャンスかな...」
ほう、「チャンス」、ねぇ...
「つまりそれは、チャンスがあれば私をタマに逆らえない都合のいいお嬢様に調教するってことでいいのか。」
ゆっくり、私は足をタマの後頭部に乗せた。タマは全身ビリと動いたが、逆らわずにそのままのポーズを続けた。
「ねぇ、そうでしょう。」
「そんなことはあ...」
「そうでしょう。」ちょっと強めに言った。
「そうです。タマめがお嬢様を調教し、楽な仕事ばかりする生活に変えようとした不届き者です。」
とても素直に余計な事まで答えたタマに、私は少し興奮した。そのまま足でタマの頭を撫でると、言葉にできない高揚感を得た。
――タマは可愛いな――
「タマ。一応先のお前の行動、つまり私を叱るその行動を忠誠心から来たものだと思うから...確かに悩みがあるのに誰にも相談しないのはよくない...だから今回はお前を許す事にする。」
「え、ほんと!」
調子に乗っていきなり頭を上げたタマ。私はまだ足をその頭に乗せている為、危うくバランスを崩され、ベッドに倒れこむところだった。
イラ...
「借り、一」
「借り?」
「そ。今回は追及しないが、後でまとめで罰を与えようと思う。」
「そんなぁ...」
「...」
「わかりました。」
タマはゆっくり立ち上がった。
「なに勝手に立ち上がってんの」と言ってさらに弄るつもりだったが、丁度四限目の授業が始まるチャイムが鳴ったので、タイミングを外した。
しょうがない。このくらいで我慢しよう。
「お嬢様。次の授業をどうします?」
タマはいつもの態度で話しかけてきた。先のことあまりタマを怖がらせなかったのか。
喜ばしい事なのか。
「サボる。」私は無愛想に言って、ベッドに体を倒して、横になった。
「わかりました。では、タマもお傍に居させて頂きます。」
「構わないが、タマ、私は寝るつもりだ。その間タマは自由にやりたいことをやっていいから。」
「はぁ...では、タマは自由にさせて頂きます。」
そういったタマは私の隣に座り、頭を撫でてくれた。
先ほど主従の力の差を見せ付けたばかりというに、タマはもう忘れたように、主人の頭を撫でている。その手の動きから安心感を得て、私はすぐ夢に落ちた。
ありがとう、タマ。ごめんなさい。
「お目覚めになりましたか、お嬢様。」
目を覚ますと、すぐタマの声が聞こえた。
私は大きなあくびをしてから、目を擦り、タマに目をくれた。
が、タマの隣に誰かが土下座したことで、すぐ眠気が吹っ飛んだ。
え、どういう状況?
土下座をしている人をよく観察する。
メイド服、デザインからしてこの人はうちのメイドだとわかる。動物の耳、最近目にしたばかりの耳だ、犬耳かな。そして...
いや、「そして」はない、もう「メイド服」の時点で誰なのかが予想できた。私が知っているメイドは二人しかいないから。
「早苗さん!」
何で早苗さんがここで土下座しているの?
「申し訳ありませんお嬢様。ご配慮を至らず、お嬢様に恥を掻かせてしまい、この早苗、メイド長としてあまりの失態でございます。」
え、なに!なに!どうしたの?
ていうか早苗さん、言い回しがややこしいよ。
「事情はよくわからないけど、もう立ってください。まず『何のこと』から説明して、土下座はやめて。」
急いでベッドから体を起こして、そのまま早苗さんを立たせる為ベッドを飛び降りだ。意外と硬すぎなく、ひんやりとした冷たさを持った床に立って、早苗さんに手を伸ばしたが...
「いいえ。お嬢様の事情を知りながら、万全な用意をできなかった私は、立ったままお嬢様にお話しする資格はありません。どうか、このままの体勢でのご説明をお許しください。」
長い!話が長い!
「わかった。では、簡潔の説明を許そう。」
雰囲気に当てられたが、私の言葉もちょっと変...
「はい。実は今までの『練武』の授業前、お嬢様はいつも一度ご帰宅してお着替えをするのですか。その理由についてお嬢様は堅く口を閉じていらっしゃった為、私もそれに尋ねず、結果、今日の授業前の着替えに、お嬢様に恥を掻かせた事になりました。全ては私がもっと注意を致さなかった為、どうかこんな私を罰してください。」
着替えの話?
そっか、昔の私は「着替え」の度に帰宅していたのか。近いとは言え、よくやれるな。
それを、早苗さんは自分の責任だと思っているのか。「堅く口を閉じて」たでしょう、私は。なら、早苗さんのせいじゃないじゃない。
「いいよ、早苗さん。それは私が言わなかったからでしょう。早苗さんのせいじゃないよ。」
「いいえ。メイドたるもの、主人のどんな小さなことにも気を配り、主人の悩みに気付き、力になれるように致さなければなりません。それをできなかった私はメイド長おろか、メイド失格でございます。」
「いや、普通はできないよ。いいからもう立って。」
「ですか、それでは私の気が晴れません。どうか罰をください。」
「早苗さんは悪くないのだから、罰なんで与えられないよ。」
「でも...」
キリがない...
「あーもう、わかったよ。与えるよ、罰を...与えればいいでしょう?」
「ありがたき幸せ。」
え、何?「ありがたき幸せ」?どこが「幸せ」なんだよ。
気のせいかな。このメイド達は罰して欲しいように見えてきたが、気のせいだろう。
でも、何の罰を与えればいいだろう。
まだ土下座している早苗さんを見る。
罰を与えるまでこのままでしょうね。
タマに助けを求めて目を向けると、タマは「私に振らないで」と言わんばかりの態度で目を逸らした。
自分の上司だから、恨みを買いたくないでしょう。
仕方ない。適当の罰を下そう。
「では、早苗さん。貴女の今日からの呼び方は『メイド長ちゃん』、それでいい?」
早苗さんは自分の耳が信じられないように、つい、頭を上げた。
「それは、罰でしょうか。」
「え、そうよ。」
「しかし、それではあまりにも軽く、とても私が犯したミスの釣り合いになりません。どうか、もっと重い罰をください。」
「何を言う。これはとても重い罰だよ。」適当な事を言った。
「申し訳ございません。とても私程度の頭脳では解りかねます。どうか、ご説明を頂けますでしょうか。」
嘘をつくと、その嘘を完璧にする為にもう一つ嘘をつく。だから私は嘘をつかない。
適当な事を言うけど...
「『ちゃん』付けしているとは言え、これから毎日私に『メイド長』と呼ばれるのだよ。その『メイド長』という言葉から生じる責任や義務は重い、なのに毎日私に言われるのよ。かなりのプレーシャーになり、ストレスが貯まるでしょうね、いやになるでしょうね。そう思いません?」
メイド長ちゃんは口を閉じ、長い思考をした。その後...
「そのような深いお考えがあるとはとても想像できませんでした。」
ごめんなさい。ないです。「深い考え」など...
「では、メイド長ちゃん。もう立ち上がっても...」
「はい。失礼をしました。」
ここまで言って、ようやく土下座をやめてくれた早苗さん。面倒くさいなぁ...
しかし、一つ疑問が湧いた。
「ねぇ、メイド長ちゃん。」
「何でございましょう。」
「一つ質問があるんだけど、私は毎回『練武』の授業になると、屋敷に帰って着替えをすると。それは確かなのか。」
「はい。嘘偽りはございません。」
「どうしてですか。」私は聞いた。
「この校章を押せば、『着替える』のではないのか。」私は校章に指を当ててさらに聞いた。
「お嬢様。」
メイド長ちゃんは少し迷いを見せたが、一回深呼吸をして言葉を続けた。
「お嬢様は生まれた時から魔力はございません。一般このような事例を夭折と呼び、赤ん坊は生まれてすぐ死ぬはずですが、お嬢様の場合は少し違います。当時、同時刻にお生まれになった妹君は類稀なる魔力を有していた為、その間近いにいるお嬢様にも影響を与えた。妹君の魔力がお嬢様に移り、無理やり魔力の補充をして、お嬢様を延命したのです。そして、本来夭折する筈のお嬢様ですが、何とか『生命維持魔力』を持つようになり、死から逃れました。しかし、やはり元々魔力のないお嬢様は体内で魔力を生成できないので、生きる為他者から魔力を補充をしなければなりません。さらに、『使用可能魔力』は例え他者から補充しようとしても、その魔力はお嬢様の体内に留まらず、大地に帰ってしまう始末...だから、お嬢様自身が校章を押して呪文を唱えても、魔法は発動しません...できません。」
「発動できない?でもさっき、服が消えたのだが、発動出来ていない訳じゃない...と思うか。」
「それは『換装』の仕組みから説明しなければなりません。『換装』は結界内で制服変更の魔法です。この学園の範囲なら、学園指定の制服・体操着・法律規定学生用水着の三種類の服を自由に着替える事ができます。しかし、それはまるでクロゼットから服を出すようなもので、服を着替えるなら魔法を使ってクロゼットを開けなければなりません。服を脱ぐ時は別にクロゼットを開けることがないから、そのせいでお嬢様がは、裸になったまま、体操着に着替えられませんでした。」
「え、何で?服が消えるまでの事は魔法じゃないってことか。」
「論理的に説明するとそうなります。」
「それはおかしいじゃないか。だって、服が消えるという不思議現象は魔法でしょう?」
「どうしてそれを『不思議現象』と称するのかは解りかねますが、服を消すだけなら魔法と呼べません。」
え?そうなの?私がおかしいのか。
「うぅ...よくわからないけど、とりあえずそれを置いといて...」
多分深く聞いても、答えられないか、私が理解できないかのどちらかになるだけだろう。パタンはもう読めたよ。
「私が屋敷に帰って着替えるということは、誰かに頼んで校章を押して貰っているということ...つまり少なくとも誰かがこのことを知っていると考えていいか。」
「あの、お嬢様...校章を『ボタン』と呼ぶのはやめて頂けると...いいえ。実は先ほど判明した事なのですか。どうやらお嬢様のクロゼットに予備の体操着があります。」
「え?あの鎧か?」
鎧は普通外に飾っているものじゃないのか。
「勝手にお嬢様のクロゼットを開けたことに深く謝罪を申し上げます。そしてそのクロゼットの中には殆ど学校用の服であることから、お嬢様の心労も伺えます。今まで、お嬢様はずっと誰にも気づかれず一人で『無魔』というハンデを背負っていた。せめて私だけでもそれに気づいていれば...申し訳ありませんでした。」
...
そっか...
昔の私は結構いじらしい娘だったのね。
自分で自分を褒めるとか、トンだナルシストだなぁっと思うが、あんまり自分である感じがしない。
――他人の話を聞かされてたみたい――
この時、誰かのおなかの音がした。
...自分のおなかだけど、心の中でも認めたくない...
「わかった。知りたいことは大体知った。この話はもうやめにして、まず食事しよう。タマが『文句』を言っているから...」私は話題を切り替えて、タマをだしにして、おなかの機嫌取りを優先した。
タマは「え?私?」と言って、「違うよ」と否定するが、メイド長ちゃんに信じてもらえなかった。
「お嬢様。弁当をお持ち致しました。」メイド長ちゃんはタマを無視して、どこからともなく小さな弁当箱一つ出した。
この用意のよさはさすが「メイド長」、準備がいい。
私は「ありがとう」と言って、弁当箱を受け取ったが、一つだけということに違和感を感じた。
「二人の分は?」タマとメイド長ちゃん両人を見て、疑問を口に出した。
それに対してタマが何か言おうとして、メイド長ちゃんが速やかにその言葉を封じた。
「私と猫屋敷はもう済ませました。主の前で食事するのはメイドとしてあるまじき行為の故、ご容赦ください。」
「そっか。しかし主より先に食事を済ませたことも、メイドとしてどうかと思うけど...」
別に気にしていないけど、ネタがあるならすぐ弄る。
私ってこんなに意地悪の人だったのか。
私の意地悪を受けたメイド長ちゃんがすぐに頭を深く下げた。
「申し訳ありません!嘘をつきました!実は弁当を持ってくる時、お嬢様のことしか考えていなくて、他の弁当を屋敷に忘れてしまいました。」
「そうなのか。案外ドジだな、メイド長ちゃんは。」
その言葉がかなりショックを受けたらしいメイド長ちゃんは「ドジ」という単語を何度も言い返して、最後は八つ当たりのようにタマを睨んだ。
「猫屋敷。お嬢様の弁当に関して、ちょっと話があるから、今晩私の部屋に来なさい。」「えぇ、また説教...」「いいな!」「はい...」
私に聞こえないように話し合っているみたいだから、聞こえないフリをして、私は弁当を開けた。
メイド二人に見られながら食べるのは少し心苦しい感じなので、二人に分けようとしたら、メイド長ちゃんは頑として受け取らないし、タマに受け取らせない。けど、二人を追い出して食事すると、ぼっち飯になるから、嫌な気持ちを我慢して弁当を食べた。
ちょっとした罰ゲームだ。