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第八節 違和感

イジメ問題。

金髪妹がムカつく。

カメレオンについての知識を知る。

  「ねぇ、タマ。」

  「はい、何でしょう、お嬢様。」

  「私、また記憶喪失したの。」

 

  私の突拍子のない質問にタマは苦笑いを見せた。

  「どうしてそんなことを言うのです。」

  「午前中の記憶がないんだ。」

  私は確かに、午前中に4限も授業を受けたのに、その内容のどれも憶えていない。

  「確か、1限目は『呪文』、そこからおかしくなっていた。」

  「呪文を簡単化したのはかの偉大な魔術師である...」とまでは記憶しているが、そこから先は何も思い出せない。

  「私にはお嬢様が真面目に授業を受けているようにしか見えませんでしたけど...」

  その言葉に偽りはない。何せ、私は聞いているフリをするのが得意みたいだった。

  「まぁ、それはとりあえずおいといて。タマ、なんで敬語に戻ってるの?」

  自分で話題を振っておきながら、あっさり別の話に移る。タマは「『おいとく』んだ」と呟いて、私の話に付き合った。

  「人目もありますし、メイドがお嬢様とため口は良くないと思います。私、こう見えても5年も敬語を使っていましたので。」

  「にしてはメイド長ちゃんから、『敬語もまだちゃんとできません』と教わったけど?」

  嘘だけど...

  「最低限の仕事もこなせていない」とは言ったが、「敬語」について何も言っていない。

  「...早苗メイド長はメイドをいじめるのが趣味の人なので、その言葉に素直に信じてはいけません。」

  いきなりの毒舌だな。

  もしかして、昨日のことを根に持っているのかな。

  「メイド長ちゃんが嫌い?」

  「いいえ、向こうがどう思っているのかは分かりませんけど、私は早苗メイド長のことを何とも思っていません。」

  見た感じ、「逆」なんだけど...

  「じゃあ、昨日メイド長ちゃんに叱られて、まだ機嫌が悪いということなの?」

  「...叱られるようなことを致しておりません。」

  「私の弁当を忘れたでしょう?」

  「何のことでしょう。」

  惚けるつもりだな。

  「分かった。この話は終わりましょう。今日の弁当は?」

  「こちらにございます。」

  そう言って、タマは手に持っている包みを机に置いた。

  包みの中身は二つの弁当箱。その中の一つはご丁寧に「お嬢様用」という札が貼られていた。

  「今日はばっちりだな。」

  「はい!昨日のような...」

  タマがうっかり口に出したその言葉を私が聞き取れないはずがない。

  「『昨日のような』?」

  「いいえ、何でもございません。」

  まぁ、自分の予測が正しかったと判れば、わざわざタマをこれ以上いじめるのも悪いし、弁当を食べよう。

  「お嬢様用」の弁当箱を開けて中身を見ると、そこには肉一つもない野菜まみれの「お寺料理」が現れた。

  「これ作ったのはタマ?」

  「いいえ、『爺』が作りました。」

  あの「老紳士」が?何の罰ゲームだろう。

  「肉がほしいな。」

  「お嬢様はあまり肉を食べない方がいい。」

  「え?どして?」

  流石に驚くようなことを聞いた。

  私は「肉アレルギー」なのか。

  「お肉には基本大量な魔力が含まれています。食べ過ぎるとお嬢様が胃もたれしてしまいます。『爺』は昨日お嬢様に飲ませた『ポーション』のことを考慮して、今日『精進料理』を作ったのでしょう。」

  「精進料理」?「お寺料理」のことなのか。

  でも、そうか。

  私、肉、食べられない。

  「では、私も頂ます。」

  タマはもう一つの弁当箱を開けた。

  その弁当箱の中身は「おいしかった」という紙一枚が入っていた。

  タマは驚きのあまりに箱蓋を開けた状態のポーズで動きを止めていた。私もつい我慢できずに噴き出してしまった。

  「これは『爺』のお茶目なのか。」

  「いいえ、お嬢様。犯人は『爺』ではありません。あの方はこんなことをしません。」

  「じゃあ、誰なの?」

  「桃子です。」

  モモか。

  仲良しだな。

  「すみません、お嬢様。少し失礼してもよろしいでしょうか。」

  「いいよ。いってらっしゃい。」

  「いってきます。」

  タマが空の弁当箱を持って、教室を走って出ていた。

  それを見て、私はタマとモモの仲の良さに嬉しく感じで、穏やかな気持ちになった。二人が仲良く喧嘩する微笑ましい光景を想像しながら、食事をし始めた。

  ツッ

  頭に小さな痛みがはしった。

  周りを少し見回ると、自分の机に一つ紙飛行機が落ちていた。

  「なんだこれ?」と思いながら開いてみたら、そこには「死ね」の二文字だけが書かれていた。

  私は速やかに周りをもう一度見回った。「クスクス」というような笑い声が聞こえるが、「飛行機」を投げ込んできた犯人が分からなかった。

  これが「イジメ」か...

  なんでこのタイミング?ああ、タマがいないからか。

  専属メイドの役割は一度誘拐されて、記憶まで失った私を守ること。それは精神面の守りも含まれていた。

  だから、タマがいなくなったら、私は残された二つの「問題」:「イジメ」と「盗撮」に直面することになる。

  ムカつく。

  しかし、無意味に周りに怒りをまき散らすのも愚かの行為だから、我慢して万が一の為の自分が用意したご飯を食べることにした。

  イライラする。


  5限目は「練武」。

  帰ってきたタマはお腹を押さえて少し背を曲げていた。

  「昼飯抜きだな」と思い、それ以上タマに気を回したくないと思って、昼の「飛行機」のことを教えなかった。

  しかし、あの時の苛立たしさは消えていなく、少し機嫌の悪い顔で授業に入った。

  「あ、ああ...皆ぁ前回のように二人一組で練習を始めてください。解散!」

  私が機嫌悪そうにしているのを気づいて、ゴリラはさっさと練武前の無駄話を終わらせて、皆を解散させた。

  が、「前回のように」ということは、私はまた金髪妹と一緒のペアになったということ。

  嫌だな。

  「お嬢様。私は少し遠くの場所で見守っているので、ご学友と一緒に頑張ってください。」

  何を頑張ればいいのでしょう...

  タマは昨日、「練武」の授業時にいなかったから、何も知らないんだから、仕方ないんだ。

  けど、金髪妹に話を掛けたら、きっとまた無視され、もしくは怖い目にあうだろう。

  ムカつく。

  なんで私が毛嫌いされなきゃいけないんだ?

  「あの、千条院さん!」勇気を出して話しかけた。

  「...」

  が、無視された。

  「私と練武?してください。」もう一度勇気を出して話しかけた。

  言葉、おかしくないよな。

  「...」

  が、また無視された。

  ムカッ

  「してくれないなら、勝手に始めますね。」

  私は近くにある武器立てから「槍」を取って、金髪妹の(体操着)に向けて刺した。

  尖っていないとはいえ、一応「武器」なのだから、怪我したらいけないと思って彼女の鎧に刺したが、彼女はそれを容易く避けた。

  あれ?

  諦めずにもう一刺しをしたが、やはり攻撃は当たらず、槍が彼女の横を通った。

  「どうして?」

  私の「攻撃」をものともせず、金髪妹は避けながら自分の「個人練武」に集中していた。

  当たってほしいと思っていないが、こうも容易く避けられると逆に意地になってしまうものだな。

  私はひたすらに彼女に攻撃し続けた。しかし「攻撃」は彼女に掠りもせず、私はただ己の体力を消耗するだけとなった。

  やけくそになって、私は彼女のいる範囲を薙ぎ払った。彼女は身に迫った槍を握っているレイピアを使って空に叩き上げた。

  空に飛ばされた槍は何回回転して、私の目の前に地面にまっすぐ刺した。一歩間違えば私の頭にまっすぐに刺してしまうその槍をしばし見つめて、いきなり足の力が抜けて、地面に座り込んでしまった。

  「...」

  金髪妹は私をしばし見下ろして、やはり何も言って来なかった。ただその目から「二度と近づくな」と言っているように見えた。

  なんで彼女は私に対して厳しいのだろう。昨日見た彼女は無口なところはあるが、決して無愛想ではなかった。

  でも、昨日の彼女も私に対して冷たかった。ならば、彼女は私だけが嫌いなのだろうか。

  ムカつく...

  「そこの金髪。」私は離れていく彼女を呼び止めた。

  彼女は振り向かなかったが、足を止めた。話を聞く気らしい。

  「どうして私を嫌うの?」ややこしいのは嫌いだ、直球で聞いた。

  彼女は顔だけをこっちに向けて、「貴女は卑怯者(カメレオン)だからだ」とだけ言って、自分の練武に戻った。

  私がカメレオンだから?それだけの理由で私を嫌うのか。

  ムカつく。

  ムカつくムカつくムカつく...

  私はそのまま、隅っこに座って見学することにした。

  「お嬢様。大丈夫ですか。」

  タマはいつの間にか私のそばに来た。

  しかし、私はまだイラついているので、「ほっといてくれ」と冷たくあしらった。

  その後の授業も、記憶に残らなかった。


  学校は嫌だ。

  そう思えたのは帰り前の一つ出来事からだ。

  常に地面に「清潔系」魔法を施されている学校内では、ほかの生徒は登校してそのまま授業に参加できるが、私は魔法の影響を最小限にする為に、靴を着替えないといけない。

  昨日は何も考えずに靴を着替えたが、靴入れの少なさにもっと気にするべきだった。

  そして、今日帰りに自分の靴入れを開けたら、そこから大量な写真が出てきた。

  その写真は様々な場所で撮られていたが、一つ共通のところがある。

  それは、すべての写真には私の姿があった。

  「お嬢様!...その写真をこちらに渡してください。」

  私はタマを無視して、静かに写真の一枚一枚を見た。

  私が昨日更衣室で裸になってしゃがんでいる時の写真、私が保健室でタマに抱き付いた時の写真、私がグランドで倒れている時の写真...

  全部昨日の私だな。

  なるほど。これが「盗撮」か。

  「タマ、この写真はどうやって撮られたのだ?」

  私はグランドの写真を見せた。その写真はずっと走っている私が転んだ瞬間をしっかり捕らえて、しかも至近距離だった。

  不可能だ...と思った。

  「かなり凄腕の念撮(ねんしゃ)魔法ですね。このレベルの使え手は多くありません。」

  「不可能じゃない」ということにびっくりしたが、「多くない」のなら...

  「犯人は特定できるか。」私はタマに聞いた。

  タマは眉を顰めて、「残念ですか、出来ません」と言った。

  「この学園のレベルは世界一です。各地から赴いてきた学生達の中に『魔法専門』ならきっと誰もが出来る。そして、一癖二癖のある教職員達も、全員出来ます。」

  「『かなり凄腕』の魔法なのに、犯人が特定できないのか。」

  「はい。こういう時だけはこの学園のハイスペックが恨めしい。」

  そっか。だから「盗撮犯」は捕まらないのか。

  うぜぇ...

  学校へ来る度にイライラさせる。

  なにこれ?

  ムカつく...


  屋敷に帰っても、自室に戻っても、私の怒りは収まらなかった。

  食事を飲むように食し、お風呂も湯に着けずに済ませた。

  今は自分のベッドに座って、心を落ち着くまで待っていた。

  「お嬢様、大丈夫ですか。」

  ...タマ...

  正直このタイミングに来てほしくないんだが...

  無反応する私を見て、タマはそっと私の横に座り、私の肩を抱きしめた。

  そして、タマは私の頭を撫でて、まるでか弱き少女を慰めているように、私のおでこにキスした。

  その行動は逆に「俺」の逆鱗に触れた。

  「誰の許しを得って私に触れているの?」

  タマはびっくりして、すぐに私から離れて、腰を深く曲げた。

  「申し訳ありません、お嬢様。決して無礼を働くつもりではありません。」

  私は腕を組み、左足を右足の上に載せて、タマを見下ろした。

  「『無礼』ならもう数え切れないほど『働いた』と思うか。」

  「すみません...」

  「言葉ならいくらでも言えるが、行動で示してくれない?」

  タマは「はい」と言って、私の前で土下座した。

  なんでこいつはこうも簡単に人に土下座出来るの?

  「それじゃあ足りねぇな。もっと誠意を見せてもらわないと...」

  私は徐に自分の足を前に伸ばした。

  タマは私の足を見つめて、恐怖の眼差しで私の顔を見た。

  何をさせるつもりは分かっているが、分からないフリをしているということだな。

  だったら、私がその背中を一押ししよう。

  「舐めろ。」

  タマは悲しそうな表情を見せて、ゆっくりに私の足に顔を近づけ、戦々恐々に私の足を舐めた。

  その瞬間、私は謂れのない興奮感に襲われた。

  なにこれ?すっごく心地よい。

  別に足が舐められて気持ちいいという感じではなく、私の足を掴み、舌で舐めているタマを見て気分が良くなっていた。

  先までは溜まっていた怒りに胸焼けして、呼吸も辛いのに、今ではすっかりこの高揚感に心を奪われている。

  これはなんだ?

  初めて体験した感覚だ。

  今までに様々なことを体験して、幾度もなく「違和感」というものを感じたが、これだけは「違和感」はなかった。

  本物の感覚だ。

  「いいぞ、タマ。すごくいい。もっと指の間を舐めろ。」

  タマは本当に私の言われるままに、私の足を舐めてくれている。とっても素直に私の命令に従っている。

  タマが愛おしく思えた。

  そんなタマを絶対に放したくないと思った。

  そして、もっとイジメたくなった。

  私はタマを呼び、両足を広げて、右手を自分の股の間に置いて、「次はここだ」と言った。

  タマはまるでありえないことを聞いたような表情で私を見つめた。

  「お嬢様、本気ですか。」

  私はその言葉の意味を分からなかった。

  何をいまさら...

  「お嬢様はまだそのようなことをしていい歳ではありません!」

  歳?そのようなこと?

  「一体どこからそのような知識を知ったのです?教えてください。」

  そのような知識?

  知識は本から得たもの。本を見るのは、興味があったからだ。そして、思春期を迎えれば自然と興味が湧くもの。

  あれ?

  「私はいつからこのような『知識』に興味を持った?」

  私は確かいつも自分の机で勉強していた。そこに座れば自然に本棚に手を伸ばそうとするから、それは間違いない。けど、勉強した内容、憶えた単語、書いた文字...何も思い出せない。

  では、この「知識」は一体どこから来た?

  「ななえ!」

  気が付くと、私はタマに強く抱きしめられていた。

  タマの体温を感じる、その心臓の鼓動が聞こえる、その微かに香る彼女の匂いに、私の心を落ち着かせる。

  そして、私はその時にようやく自分の髪を掴む両手に気付く。

  少し手に残っている黒い髪を見て、自分が混乱に陥っていたことに気付く。

  ――自分のじゃない記憶は体に残っても、魂には残らない――

  どこかで聞いた言葉だ。

  何故かこの時、私はその言葉を思い出した。

  私は何回深呼吸した。心を落ち着かせるにはこれが一番だと知ってた。

  「タマ、ごめんなさい。」

  それ以上に何かを伝えようとするが、何も思いつかない。

  「ごめんなさい。」

  結局「ごめんなさい」を繰り返した。

  タマは私の頭を撫でて、「私のほうこそ、ごめんなさい」と言った。

  一体私達は何に対して謝っているのだろう...

  そんなことを分からなくても、大した問題はない。

  何せ、「ごめんなさい」はただの仲直りの合図だったからだ。


  「タマ、結局『カメレオン』は何?」

  私の言葉に少し考え込むタマ。

  「ななえはカメレオンの特性について知りたいのか。それとも、その歴史について知りたいのか。」

  「全部。」

  私は答え、そして少し間を開けて、再び口を開いた。

  「今日の『練武』の授業を見て、どう思う?」

  「...」

  「あの金髪、感じ悪いよね。」

  「...はい。」

  「でもあれは、私に対してだけああいう態度をとっているよ。」

  「え!嘘!」

  「初日、『あれ』、他のクラスメイトに声かけられた時、普通に返した。『あれ』は『クール』だが、『無愛想』じゃない。だが、私にだけは『喋りたくない』という感じだし、無視を決め込んでいる。って、今日、そいつに理由を聞いたら、『カメレオン』だからって...『カメレオン』って何?なんでそれだけで私を嫌うの?」

  タマはまた考え込む...

  「では、私が知っている『カメレオン』に関する全てを教えましょう。」

  「うん。」

  「まずは貴族とはどういう...」

  「おっじゃましま~す!」

  突然、部屋の扉が開かれて、タマの話を邪魔した一人のメイドが入ってきた。

  入ってきたメイドはモモだった。

  「あ、モモ、いらっしゃい。」

  「こんばんは、お嬢様。なんか楽しそうにお喋りしているようで、混ぜてもらおうと思って来ましたわ。」

  モモは図々しく部屋へ入ってきて、私の隣に座った。そしてタマを見て、いきなり体が「ぴくっ」と小さく震った。

  その反応を見た私もタマの方に目を向けると、そこにはモモを恨めしそうに見つめるタマがいた。

  これは...ま、邪魔されて不機嫌になっていたということだろうな。

  「悪い、タマ。話を続けていいよ。」

  タマは満面笑顔で「はい」と私に向けて答えた後、一回だけモモを睨んで、話を続けた。

...どうでもいいけど、今の私はタマとモモに挟まれている状態になっているのだが...


 タマ 「人間は『王族』・『貴族』・『平民』の三階層に分けられているのはすでに伝えましたね。」

 私 「ええ。」

 タマ 「『王族』はその生まれながらの強さを持って、他の人間を支配し、王族となったが、『貴族』は元々『平民』との違いはありません。」

 私・モモ 「へぇ。」

 タマ 「桃子もう帰っていいよ。」

 モモ 「え、なんで?」

 タマ 「要らないので。」

 モモ 「酷いですわ!仲間外れは嫌だわ!」

 タマ 「じゃ、黙ってて。」

 モモ 「嫌だ。」

 タマ 「『嫌だ』って、お前...」

 私 「まあまあ、タマ。いいじゃないか、モモを仲間に入れても。」

 タマ 「...分かりました。」

 モモ 「ありがとう、お優しいお嬢様。抱き!」

 私 「『抱き』と言いながら抱き着くな...」

 モモ 「良いではないか。嫌いじゃない癖に...」

 タマ 「も~も~こ、しっぽ、引き千切るぞ!」

 モモ 「(私を放し)...あい...」

 タマ 「えっと、『貴族』は元々『平民』との違いはないが、『戦功』――戦での功績――によって、王族に地位を授けられて、『平民』から『貴族』になった。それは王族にとって、役に立つ人間とそうじゃない人間を区別する為のもの、最初から『貴族』というわけではありません。」

 私 「へぇ...(興味ない)」

 タマ(苦笑い) 「...でも、王族の時代が終わって、戦争は『力』だけのものではなくなり、様々な『平民』も活躍するようになった。例えば、そこのラビット。」

 モモ 「あ、あたし?」

 タマ 「ラビットは戦闘力高くないが、耳が良くて逃足が早い、そして誰よりも高く跳べる。その為、王族の時代ではあまり重用されていないが、貴族の時代では、情報収集に駆り出されることが多い。」

 モモ 「まぁね。その気になれば、何千メートルの先の会話だって聞き取れますわ。」

 私 「すごいね。」

 モモ 「えっへん!」

 タマ 「...爺のようなクロコダイルのは硬い肌を持ち、要人警護(ボディーガード)に任せることが多い。」

 私 「へぇ。爺は『黒子大留(クロコダイル)』なのか。すごいね。」

 モモ 「微妙にニュアンスが違うような...あの、お嬢様。ワニですわよ、ワニ。」

 私 「ワニ?爺は動物なのか。」

 タマ 「いや、そうではなくて...ななえ、『クロコダイル』は動物のワニではなく、ワニの特徴を持つ種族の名前だよ。」

 私 「はぁ、そうなんだ...」

 タマ 「...とりあえず話を続けますね。このように、戦争の形態が変わり、『平民』と『貴族』の違いが曖昧になり、その中で最も利益を得たのは『カメレオン』という種族だ。」

 私 「ほほーう。」

 モモ 「旦那様のような一代で巨大な財を手に入れた『カメレオン』は旦那様だけですけど...」

 タマ 「旦那様はちょっと特殊ですからね。」

 私 「むっ。お父様の話はいいから、早く先の話を続けて。」

 モモ 「お、嫉妬か。可愛いわね。」

 タマ 「くっくん。昔のカメレオンは今のように朝白髪・夜黒髪ではなく、環境に合わせて自分の髪の色を自在に変化できる。その上に自由に髪の長さを変えられる為、髪の毛を全身を包み、人から見つからなくすることができる。さらに耳もいい方なので、隠密活動に行かせることが多い。」

 モモ 「寧ろその力に頼り切りの国もある。」

 私 「え、そんなに?戦争左右できる?」

 タマ 「場合によっては...」

 モモ 「お嬢様!玉藻ちゃんは何が渋っているようなので、続きはあたしが話しますわ。」

 私 「え?ええ。かまわないが、何の話をしているのかを知ってんのか。」

 モモ 「ふふん。あたしの耳に任せれば、お嬢様達の会話くらい筒抜けだわ。」

 タマ 「千切ればいいのに...」

 モモ 「ひっどーい!玉藻ちゃん酷い!ね、お嬢様?」

 私 「え?ええ。それより話しの続きは?」

 モモ 「はーい。実は昔、カメレオンは自分達の特性を生かして、闇情報屋をやっていたわ。」

 私 「闇情報屋?」

 モモ 「そ。ヤ・ミ・情報屋。求めたものさい出してくれれば、どんな情報も提供する無節操な情報屋。」

 私 「...」

 タマ 「お嬢様は気になさらなくてもいいです!昔の奴らの仕業だから、今のお嬢様と関係ありません!」

 私 「ごめん、タマ。ちょっと『かっこいい』と思った。」

 タマ 「え?『かっこいい』?」

 モモ 「ぷっ、あっはは!かっこいいですか。さっすがお嬢様、常人と外れた思考をお持ちですわ。」

 タマ 「桃子!」

 モモ 「いたたたた!しっぽを掴むな!痛いわよ!」

 タマ 「なら、お嬢様に失礼なことを言うな!」

 モモ 「失礼かどうかを決めるのはお嬢様だと思うわ!」

 私 「まあまあ、二人とも落ち着いて...」

 タマ 「はい。」

 モモ 「...はーい。いっつ...」


  話をまとめると、カメレオンは「情報戦」上のプロで、情報売買する商人みたいなものだな。

  その上に「悪徳商人」である。

  「ねぇ、モモ、タマ。何か例を挙げてくれないか。ちょっとイメージがつかめなくて...」

  私の言葉に二人とも頭を傾けた。

  仲いいな、お前ら。

  最初に発言したのはモモだった。

  「例えば:『情報の代わりに、お前の娘さんを頂こうか』、とか?」

  「許しません!」何故かタマが先にリアクションをした。

  「ななえをものにしようとする輩を、このタマが成敗してくれるよ!」

  タマは勢いよく立ち上がって、居もしない敵を捜している。

  何故か私が「娘さん」役だった。

  「落ち着いて、タマ。ただの例えだし、そもそも私は出てないから。」私はタマを鎮撫した。

  タマは「ごめんなさい、取り乱しました」と言い、おとなしく座った。それを見たモモは「玉藻ちゃんはお嬢様のことになると、頭がおかしくなりますわね」とため息を吐いた。

  「後は『嫌いな人を殺して』とか、はたまた『二重スパイ―』とかにもなった人もいたとか。色々ありましたわ。」

  そっか、かっこいいものじゃないんだ。

  それなら、あの金髪に嫌われてもおかしくないよな。

  ...

  ムカつく...

  「タマ、モモ。私、決めた!」

  丁度私が一番信頼している二人?がここに居るので、その二人の目の前で誓おう。

  「私、必ずあの金髪に『ぎゃふん』と言わせてやる!」

  そんな私の言葉に二人は別々の反応を見せた。

  タマは「『ぎゃふん』ですか」と言った後、とても嬉しそうに私を抱きしめて、「偉いです!頑張ってください、ななえ」と喜んでくれた。

  反対に、モモは冷静に「いまさら『ぎゃふん』という人はいないと思いますわ」とツッコミを入れて、私とタマを見つめて、微笑んでいた。

 

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