第七節 眠り②
モコがモモに。
何故かよく寝ようとする自分。
時間が少し経って、モコがようやく泣き止んだ。
タマはまだメイド長ちゃんとお話があるので、先に帰ってもらった。
今、この部屋にいるのは私とモコ二人だけ。
私はモコの頭からとれた「ウサギ耳」を弄りながらモコに話しかけた。
「これは、どういうことでしょうか。」
薄ら笑いを浮かべて、私は「ウサギ耳」を見せつけて聞いた。
「いやだな、お嬢様。ただの『おしゃれ』ですわ。」
苦笑いを浮かべて、モコが答えた。
さっき、私はモコを慰める為に、その頭を撫で続けた。そして、いきなり「耳」が取れてびっくりした。
私はすぐに周りを見た。すでにタマのいないこの部屋の隅々まで。
「やっちまった?」とその時に思った。
しかし、その時のモコはまだ泣き止んでいないので、仕方なく「ウサギ耳」を自分の頭に付けて、彼女の頭を撫で続けた。
かなり動揺していた私は何故が「ウサギ耳」を自分に付けた。その理由はもう闇の中、二度と解れることはないだろう。
「ただの『おしゃれ』ね、かわいいですもねぇ。」
自分でも分かる。今の自分は顔が微笑んでいるが、目が笑っていない。
もし、その時の光景を第三者に見られたら、私はきっと恥ずかしくてベッドの下に隠れるでしょう。
モコは何を返せばいいのかがわからない、そのまま「あはは」と苦笑いをするだけだった。
はぁ...
今日は結構疲れているから、もうモコをいじめる気力もないので、弄るのはまた別の時にしよう。
「モコはラビットじゃないの?」
「いいえ、正真正銘のラビットですわ。ただ、耳はもう進化して、頭の上ではなく、神のように頭の両側に生えるようになっていますわ。」
目をこすって見ると、髪に隠されているが、確かにモコは別の二つの耳があった。
「じゃあ、どうしてこの耳を付けていたの?」
「それはお嬢様に言われて付けてた。」
私に言われて?
そういえば、早苗に男の声で喋らせたのも私だそうだから、モコのこれは「二つ目」と言えよう。偶然か?私にはメイドに変なことをさせようとする性癖でもあるのか。
「お嬢様はもう憶えていないけど、昔のあたし達はとても仲が良かったわ。だから、玉藻ちゃんとあそこまで仲良くなったのに嫉妬しましたわ。」
仲が良かったのか...これも「記憶喪失」の「被害」と言えるな。
「ごめん。」私はモコに記憶をなくしたことに対して謝った。
「お嬢様は悪くありませんわ。一番辛いのは記憶をなくしたお嬢様なのに、あたしに謝らないでください。むしろ、昔のことに囚われて、嫉妬して、お嬢様に怪我を負わせたあたしが謝るべきですわ。ごめんなさい。」
嫉妬?誰に?タマにか。それとも私にか。
「教えて、私達の馴初め。」私はモコに頼んだ。
モコは少し考えに耽って、「少し長いかもですわ」と言って、語り始めた。
「あたしは孤児だそうですわ。」
「孤児?」
「はい。養えない赤ん坊を捨てる親は少なからずにいますわ。あたしは偶々そのような人達の子供として生まれました。」
「辛くなかった?」
「いいえ。物覚えが始まった時に、あたしはすでにこの屋敷で働いていたわ。あたしを捨てた親に興味もありません、仕方のないことかもしれませんから、恨んでもいませんわ。ただ、そのせいであたしはどうも他人に無関心なところがありますわ。お嬢様のことも、5年前までは気にしていませんでしたわよ。」
「それで、どうして仲良くなったの?」
「それは、玉藻ちゃんのお陰ですわ。」
「タマの?」
「お嬢様はきっと知らないでしょうけど、あの娘ずっとお嬢様のことが気になっていました。」
ごめん、知った。
「あたしは玉藻ちゃんと初めて会った時から、波長が合う感じがして、それからすぐに仲良くなったのですわ。しかし、ある日から、玉藻ちゃんはよくあたしにお嬢様のことを聞くようになってきたの。しかも、いつの間にかお嬢様の世話を任せようと仕事を頑張るようになっていたわ。でも、あの娘は不器用だし、頑張りすぎて力んでしまって、結局お嬢様の世話を一度も任されなかったわ。」
健気なタマが少し可哀想に感じてきた。
「『馬鹿ですわ』とあの時思いましたわ。お嬢様と仲良くなりたいなら、自分から会いにいけばいいのに...けど、あたし達はノリが合うけど、玉藻ちゃんは『真面目ちゃん』だから、彼女に正攻法以外な方法は思いつけないわよね。あたしは不真面目だから、夜に入ってこっそりお嬢様の部屋に忍び込むという邪法をすぐに思いついたけど...」
「え!私の部屋へ入ったの?」
「はい...ごめん、実はあたしの最優先の仕事はこの敷地の警備ですわ。確かに付け耳をしていたが、耳がいいのは本当のことですわ。屋敷にいれば、敷地内のどこの音も聞き取れるから、変な音があったら、すぐにみんなに知らせられるわ。警告音替わりですわね。ですから、みんなが寝静まってからお嬢様に会いに行くのは造作もないのですわ。」
わるい人だ!
「もちろん、初めてあった時、お嬢様はかなり警戒していましたわ。でも、その時丁度旦那様と奥様の離婚が決まり、奥様と妹君の雛枝 (ひなえ)様が別の場所に移した頃。お嬢様にとって、お母様と別れ、ずっとくっついているように一緒にいる妹君とも離れ離れになったから、寂しかっていましたわ。そこにつけ込んだ形になったけど、それなりにお喋りしたら、すぐ仲良くなりましたわよ。」
わるい人だ!
うん?つい最近似たようなことがあった...ような気がする。
「私はそんなに落としやすかった?」
「お嬢様...今日一日ずっとお嬢様の声を聞いていたけど、変わりましたわね。」
一日ずっと?耳がいいから、人権侵害してもいいの?
「変わったって、どこが?」
「説明するのが難しいけど...姿形・声・喋り方、何もかもがお嬢様そのものなのに、他人の感じがしますわ。」
姿形・声・喋り方...そこまで同じなのに他人なのか。
「時々変なことをおっしゃいますから、雰囲気が変わりましたわ!前のお嬢様は人に『守ってあげたい』と思わせる雰囲気を出しているが、今は『近寄ったら火傷しそう』な感じですわ。」
――俺に触れると火傷するぜ――
心の中でキメ顔をしてみたが、近寄りがたい人になったつもりはないよ。どうしてそう感じるのだろう。
「はぁ...過去の映像を見せながら説明しますわ。」
モコは一回指パッチンして、「現れ」と言ったら、部屋全体の色が少し濃くなった。
その後、一人の少女が私の机の前に現れて、そこで勉強しているように見えた。
突然、開いた窓から人影が現れて、部屋に入ってきた。
「これは5年前、あたしとお嬢様との初対面の時の『記録』ですわ。あの少女がお嬢様で、今窓から入った人はあたしですわ。」
え?あれ、私?そして人影がモコ?
つまり、あれは本物の人間じゃないの?立体映像みたいなもの?
少女は人影に気づき、椅子から飛び上げて、「誰?」と聞いて、人影から少し離れた。
人影は「こんな時間になって、まだ窓を開けっ放しにする。悪魔さんに会いたいということですわね。」と言った。
少女は怯えて、「悪魔さん、なのか。」と呟いた。
人影は机に置いていたテーブルランプを使って自分を照らした。
「残念!メイドでしたわ。」と笑って言った。
それを聞いた少女は安心して胸を撫で下ろした。
「お嬢様見てください。ただ身につけている服と言葉だけで、素直に信じるのが昔のお嬢様ですわ。隙だらけだと思いませんか。」
思う、すごく思う...
まぁ、当時の私はまだ10歳くらいな子供だから、仕方ないよね。
「あ、すみません、高村さん。暗くて顔をよく見えませんでした。悪魔さんと勘違いしてごめんなさい。」少女が言う。
自分の名前を言われて、「人影」は驚いた表情を見せた。
「あたしのことを知っていますの?」人影が聞いた。
「はい。全員の名前をちゃんと覚えています。でも、どうしてこんな時間に?」少女が言う。
人影は「あはは」と笑い、倒れていた椅子を起こした。
「奥様とひなえ様がご実家へ帰られましてから、お嬢様はずっと元気がありませんわ。私たちメイド隊の皆が心配しています、お嬢様に元気になってほしいのです。」人影は言う。
「ごめんなさい、皆に心配させてしまって...」少女が言う。
「あたしがお嬢様のお話相手になりますわ。何かお悩みがございましたら、何でも相談してくださいな。」人影が言う。
「ありがとう、高村さん。でも、私個人の問題で高村さんに煩わせたくない。」少女が言う。
「何を仰るのですか。あたしとお嬢様はもうお友達でしょう?友達の悩みを聞くのが友達ですわ。」人影が言う。
「友達?高村さんは私の友達なの?」少女が言う。
「お嫌ですか。」人影が言う。
「いいえ、嬉しいです。ありがとう。なんでも相談するね。」少女が言う。
「お嬢様、繰り返し言いますが、これはあたし達の初対面の時の記録ですわ。」
「はぁ...」
「今のお嬢様はこれを見てどう思います?」
「...チョロイな...」
「...また変な言葉を使って...でもその通りですわ。あの頃のお嬢様は『チョロイ』ですわ。」
昔の自分にがっかりした。
なにあれ?
警戒しているように見えても、他人の言葉を鵜呑みにし、疑うこともしない!
バカか。
...つい最近、自分も同じことをしたような...
「あんまりいじけないでくださいませ。あの頃のお嬢様は母と妹と離れて間もない...旦那様の教育方針で、お嬢様は他人に頼ることもできません。お嬢様も素直に旦那様の言葉に従って、誰にも頼らず、一人で生きていこうとしてますわ。まだ9歳なのに、仕方ないですわよ。どうしてもお話相手がほしいでしょう。」
「私あの頃から友達のないぼっちなのか。」
「ボッチ?『独りぼっち』ということですか。はい、そうなのですわ。具体的な理由は分かりません。ただ妹君と離れてから、お嬢様は何かに追われているように必死に勉強をしていましたわ。結構仲良くなったと思ったのに、その理由は結局教えてくれませんでしたわ。」
何でしょう。
大切なことなのか。
「でもモコ、話に聞くと、私と仲良くなるのはただ『利用価値』があるから、お前に心の隙間を突かれたのだとしかない。なら、お前は何に嫉妬しているの?」
モコは「あはは」と笑い、恥ずかしそうに顔をそらした。
「その、ありきたりな話なんだけれど...一緒にいる内に、お嬢様のことが好きになったのですわ。」
はぁ...
...は!
「お嬢様は素直で、とても優しくていい子でした...なのに、他人に頼らないせいで、他人ともあまり喋りません。その結果、同年代の子に誤解され、いじめられるようになっていたわ。ほかのメイド達とも喋らないし、早苗メイド長とだけ話をしますわ。けど、メイド長は同時にお嬢様の教育係でもあるから、雑談しても、『説教』に変わりやすい。それで、お嬢様は友達を作れず、辛いことがあっても語られる対象がいません。あたしがあの夜に『大胆不敵』にお嬢様の寝室に侵入するまで...」
「私は、自分の悩みをあなたに言った?」
「はい、仰いましたわ。」
「どのくらい?」
「毎日、その日の起こったこと全部...」
はた迷惑な奴だな、私は。
「ごめん。うざかった?」
「とんでもございませんわ!お陰でお嬢様と本当の友達になったのでしたから、逆に良かったと思っていますわ。」
そんな風に考えられるんだ。
「それにお嬢様はいい匂いするし、柔らかくて抱き心地いいし、可愛くて甘えん坊で、世界の宝物ですわ。」
そんなことを考えているんだ!
「それは...良かったな。」
「はい、良かった、ですわ。」
そこまで言って、モコは少し沈んだ顔になった。
考えてみれば、モコは私とタマが仲良くしているのを見て、嫉妬して、私を怪我させることとなったから、むしろ仲良くなったのが良くなかったと思えるな。
だから今、彼女はもしかして私に怪我させたことを思い出して、後悔しているかもしれない。
あまりそんな顔をさせたくないな。
「モコ、私はいつからお前のことを『モコ』と呼ぶようになったの?」
「いいえ...実は昔のお嬢様は誰に対しても礼儀正しく、あたしのことも『高村さん』と呼んで、あだ名を付けていませんでしたわ。」
「それじゃ、どうして自分のことをモコと私に言わせたの?」
「その、玉藻ちゃんが『タマ』と...それにも少し嫉妬していて...」モコは顔を赤らめて、視線をそらして言った。
まったく、そんな理由で「モコ」と言わせたのか。
「モコ...いや、高村桃子さん。」私は改めて言った。
「はい。」
元気よく返してきたが、桃子の声が少し震えている。
「『モコ』というあだ名あまり好きじゃないんだ。新しいあだ名付けていい?」
桃子は「百面相」の内の「十面」くらい見せて、「いいのですか」と聞いてきた。
「それは私の質問ですよ。」私は悪戯な笑みを浮かべて、「新しいあだ名付けていいの?」ともう一度聞いた。
桃子は慌てて「どうぞ、何なりと」と言った。
「何なり」はやめた方がいいと思うよ。
「じゃあ...」私は「ウサギ耳」を桃子に差し出して、「はい、モモ、君の『耳カチュー』」と言った。
突然なことにモモは一瞬動かなくなっていた。そのすぐ後、弾けた笑顔で「ウサギ耳」を受け取って頭に付けた。
「懐かしいですわ。昔も同じようにお嬢様はいきなりこれを渡してきて、『ラビットなら耳もちゃんと持っていなきゃ』と言って、誕生日プレゼントとしてくれましたわ。」
「そうなのか。」
「もう憶えていらっしゃらないですわね。」
...ごめん...
「これ、お嬢様が初めて作った魔道具。名は兎耳、そのままの意味だけど、書かれた魔法文字の意味は頭部防御。あたしが常にいろんなものを耳にする為、いつか聞こえなくなるじゃないのかって心配してくれたお嬢様が作った『手動式魔装タイプ』魔道具。正直これ、燃費が悪いからいつもは付けないのですか...」
燃費?
「それなら、今日は偶々付けていたのか?」
モモは少し沈黙...
「これを付けてお嬢様の前に現れたら、思い出してくれないじゃないのかって、少々期待していましたわ。」
...ごめん...
私悪くないのに、また申し訳ない気分になった。
そして、また眠気が私を襲う。
私はベッドのヘッドボードに体を寄せて、目をちゅぱちゅぱして寝ないようにするが...
「もう夜遅いですし、今日はもう失礼しますわ。お嬢様もしっかり睡眠をとって、元気になってください。」モモが気遣って、「おやすみなさい」と言って部屋を出た。
私は何とか「おやすみなさい」を言って、モモを見送った。
そして、モモが出た直後、閉めていた窓が開かれて、「悪魔」が現れた。
「こんばんは~。また遊びに来ましたよ、ななえちゃ~ん。」
昨日のエロい悪魔さん。
そういえば、悪魔が人に毛嫌いされているっぽいが、どうしてなのだろうか。
眠い...
「うん?もうおねむなの~?」
彼女にとても申し訳ないが、目が私の意志を無視して、閉じようとする。
「折角遊びに来たのに、酷いじゃないのぉ~」
「ごめんなさい、テ、ティ...(何だけ?)まつりさん、私、もう眠いの。」
ごめん、元気出せなくて。ごめん、名前思い出せなくて。
いつの間にか涙が出てきた。なんで涙腺がこんなにも弱いのだろう。
「泣いちゃったの?可哀想に。」まつりさんは私の涙を拭きながら、変なことを言った。
「まだ私と会うと精神不安定になるみたいだね。可哀想に。」
また「可哀想」...私の何か「可哀想」だろう。
しかし、私はそれを聞こうとする意志も気力もなかった。
「このままでは、また、記憶がなくなるね...」
彼女の言葉は理解できない、眠気が思考を邪魔する。
そして、私は彼女にいきなりキスされた。
「いきなり」というのは語弊がある。予兆はあった、私は確かに彼女の顔が近づいてきたのを気づいてた。
だが、私は何もしなかった。
彼女の両手は私の顔を支え、とてもゆっくりに顔を近づいてくるが、私はただぼーっとそれを見つめるだけ、してほしいとも思っていないが、止めようともしない。
そして、私は彼女にキスされた。
頭がまるでボールになったようで彼女に動かされている、彼女の唾液から感じる熱に心が落ち着く、そのまま何も考えずに、彼女の好きなようにされても構わないと思った。
そして、ようやく「キス」が終わり、彼女は私の目を見つめて、「語り」掛けてきた。
「無理に記憶を戻そうとしなくていい。自分のじゃない記憶は体に残っても、魂には残らない。この体に馴染むまで、楽に生きていればいい。」
記憶?
なんだろう?なんの話をしているのだろう...
でも、いっか...
私は「はい」と答えた。
「いい子だ。」彼女は笑った。
「私はティシェ。ティシェとだけ憶えればいいよ。次の時は忘れないでね。」
ティシェは私の体を倒し、ベッドに寝かせた。私もこの時、ようやく気持ち悪さが消えて、本格的に眠くなった。
「仕方ないけど、今日はもう帰るね。貴女の親友・ティシェはとても貴女を大切にしているよ。おやすみ。」
私はティシェが窓から去ったことを確認してから、安心して夢に落ちることにした。
彼女は...
私は...




