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第六節 ヒロイン⑤

自分のことがわからない。

つい無茶をした。

タマからの告白。

 又してもチャイムが鳴った。私はその音に起こされ、自分が泣き疲れて寝てしまったことに気付いた。

 タマは隣に座り、私の頭を撫でながら、見守ってくれていた。

 その光景にデジャヴを感じて、彩ねーのことを思い出した。今のタマは彩ねーにダブっているように見えた。

 どうしてみんなは私の頭を撫でだがるの?

 背が小さいからか。くそっ、舐めやがって...

「お目覚めですか、お嬢様。」

「あーあ。」

 起きたばかりで頭が上手く回らなかったので、ぞんざいな言葉を言ってしまった。

「今のチャイムは何のチャイムだ、タマ?」

「5限目終了のチャイムです、ななえお嬢様。」

 5限目終わったのか...

「ありがとう、タマ、名前で呼んでくれて。」

 流石に突然過ぎて、タマは少し呆けてしまったが...

「お許しを下さるのですか。」

「えぇ。どうやらそっちの呼び方が好きらしい、私は。」

 タマは嬉しそうに微笑んでいたが、すぐ暗い顔になった。

「ごめんなさい、お嬢様。さっき、私はお嬢様の心に深入りし過ぎました。」

 あ、私を泣かせたことを言っているのか。別にもう気にしていないのに。

「タマ、私、人前で泣くのは初めてなのです。責任、取ってくれるの?」

 しかし意地悪の私はついついそれをネタにタマを苛めってしまった。

「え?」タマはまた驚いて口を開いている。中の小さな舌がぴくぴくと動いてる。

「その、どう責任をとればいいのでしょうか。」

「難しくて簡単なことをするだけだよ。」

 邪悪な笑みを浮かべた...つもりだ。

「それは一体...?」

「それはね...」

「...」タマが唾を飲んだ。

「さっきの私の八つ当たりを許すことだ。」

「え?」

 又しても呆け顔...可愛いな、タマは。

 でも...

 私はベッドの上で正座して、タマに向けて深い一礼をした。

「八つ当たりして、ごめんなさい。」

 よく思い返してみると、タマは主従関係を気にしているが、友達感覚で私を接しているのに、私の方は「メイド失格」とか考えて、主従関係を気にしていた。

 そして、私はそれを嫌っていることをさっきのタマの言葉からハッキリわかった。

 だから、私は平等のつもりで、タマに向かって謝罪のポーズを取った。

「おじょ、お嬢様!おやめください。」

「許してくれますか。」

「許しますから、お顔を御上げ下さい。」

「じゃ、今後敬語なしで話してくれる?」

 ちょっと付け上がってみた。

「はい!敬語なしで話します。」

「私のことを『ななえ』で呼んでくれますか。」

 どこまで行けるのかを試したくなった。

「呼びます!『ななえ』で呼びます!」

「私の足を舐めてくれますか。」

 調子に乗った。

「舐めます!いくらでも舐めます!」

 イけた!

 心が痛い...

 ここまでにしておくか。

「ありがとう、タマ!」

 私は頭を上げて、タマに抱き付いた。

 ようやく謝罪をやめた私を見て、タマはほっとした態度を見せた。

「お嬢様。お嬢様はすでに『貴族』なのですから、人に軽々しく頭を下げではいけません。ましてやたかが僕である私になど、寿命が縮みます。」

「ハーイ。」

 適当に答えた。

 しかし、人が本心から誰かに仕えるというのは、私はどうしても信じられない。

「タマ、どうして私に仕えるの?」

 どうして人に忠節を尽くせるの?

 タマは私の顔を見て、生易しい答えでは私を納得できないとわかったようだ。

「お嬢様。そろそろ次の授業が始まります。お嬢様に納得できる答えをちゃんと考えて、お家に帰ってから話しましょう。」

 私は今ようやく時間に気付いた。

「しまった!早く行かなくちゃ。」

 急いで保健室を出ようとした。しかしそこでタマに止められた。

「お嬢様!お嬢様は『体強』の授業に出なくていいのですよ。」

 え?

「どうして?」

「失礼ですか、お嬢様はその授業に出ても意味がありません。」

 唖然とした。

「意味...ないの?」

「はい。『体強』は身体能力の強化の授業、強くなれないカメレオンは免除されています。」

 ああ、うん、そうなんだ...

 え?強くなれない?私は結構弱いの?

「じゃあ、私は今までその授業の度、何していたの?」

「図書館で自習するか、屋敷に帰っていました。」

 衝撃的事実!

 そっか、|屋敷≪いえ≫に帰っていいんだ。

 でもなぁ、今日はもう三限の授業をサボったから、もうサボりたくないのよ。

 本気で「保健室登校」の不良になりたくない。

 なんだか負けだ気分だから...

「いや、出席する。」

「どうしてですか。」

「負けたくないから。」

「誰に?」

「さあ...というよりタマ、敬語はなしって約束したよね。」

「あ、はい。その通りです。」

「...」

「...その通り...だ。」

「じゃあ、私のことを何と呼ぶ?」

「...な、ななえ...」

「足舐めてくれる?」

「え、それ本気なの?」

「えぇ。」

 割と本気で見たい。

 足を舐めてくれるタマ...はぁ、はぁ...

 なんだ!今の気持ち?

「そ、その、理由もなく舐めるのは...でも、罰としてなら...受けま...受けるよ。」

「安心して、ちゃんと綺麗に洗うから。」

 自分が作れる最大な笑顔を見せた。

「やめては、くれないんだね。」

 もっちろん。

「急いで行こう。あと少しで授業が始まる。」

 私は早足で外に出て、タマに導かれたままグランドへ向かった。

「八つ当たりして、ごめんなさい」か。

 最も根本にある原因を誤魔化した「詫び」だな。

 タマは私を守りたいと言った、私を支えようとした。

 しかし私はやはりタマに支えられたくない、タマを信じられない。

 その理由はきっと失われた自分の記憶にある。

 記憶喪失は大したことない...そう思っていたが...

 実は私は、いまだにそれに苦しめられているかもしれない。


 グランドについた時に丁度チャイムが鳴ったけど、「クラスメイト」達はすでにばらばらに「体強」を始めていた。

 教師はゴリラ。

 最悪だ。

「タマ、私は何をすればいい?」

 タマは「その、あの...」と右往左往をして、笑顔で誤魔化した。

 私の出現に気付き、少し驚いた表情で、ゴリラはこっちに来た。

「守澄さん、どした?今は『体強』の授業だぞ。」

 なんだかこの人に呼ばれただけでも嫌な気分だ。

「私も『体強』の授業に参加したい。」私は答えた。

「しかし、お前が参加しても、あまり効果はないぞ。」ゴリラが音を発した。

「構わない。」ぞんざいに返した。

 仰向けたまま喋るのは首が痛いんだよ。早く森へ帰れ、ゴリラめ。

「そか。でも、もし俺に身を任せれば、お前にびったりな鍛えメニューを作れるぞ。」

 なんかすっげぇ嫌な予感がする。

「何をする気?」とりあえず聞いてみよう。

「いいや、これでもこの学園の教師だから、筋肉の付き方とはよくわかるんだぞ。その小さな体の隅々まで触ったら、どうすれば効率よく強くなれるかがわかるぞ。」ゴリラがだらしない顔で答えた。

 まともな返しを期待した私がバカだった。

「いらない。」ハッキリにゴリラを拒絶した。「私は自分で考えて鍛えるから、先生の助けはいらない。」

 そう言い終わった私はグランドの周りに沿って走り出した。

 あのスケベゴリラの助けはいらない。どうせエロいことをしたいだけに違いない。

 だから私は一人で鍛錬した。周りの人には協力して鍛錬する人もいるけど...

 しかし、一周もしない内に、私はすでに息が苦しくなっている。

 別に速く走っていないのに、「長距離走」のつもりで走っていた。なのにすぐへばってしまって、倒れそうになっている。

「ななえ、大丈夫?」

 タマが心配して、私の隣に来た。

 楽そうに走っているタマを見て、少しイラついた。

「大丈夫だ、問題ない。」

 自然に出した言葉なのに、何故か負けそうな気分になった。

 そして、無理して走り続けた結果、いきなり力が抜けて、「地面にキス」した。

「お嬢様!」

 タマは大声で私を呼び、私の体を抱き上げた。私は荒く呼吸をし、手足から力が全く感じない。

 呼吸すら辛いと思ったけど、止めたらいけないと思い、頑張って呼吸だけでも続けた。

 そんな私を見て、もはやこれ以上の鍛錬ができないと判断したらしく、私を抱えて保健室の方向へ向かった。


 再び保健室のベッドに横たわった私はしばらく話できなかった。ようやくできるようになった時、放課後のチャイムはすでになった後だった。

 自分はこんなにも弱いことを知った私は暫く何もする気も起きず、無言で横になったまま、時間が過ぎていくのを体感していた。

「ななえ、どうしたの?」

「...」

「体が弱いのはカメレオンという種族の特性だから、どうしようもないことだから、別に自分を責めなくてもいいよ。」

「ななえお嬢様。」タマは優しく私の頭を撫でた。

 タマは本当に優しいな。とても申し訳ない気分だ。

「タマ、いえにかえりたい。」小鳥の囁きみたいな声でタマに言った。

 タマは少し私を見てから、「わかりました」と言って、私に背中を見せた。

「お嬢様。少し乗り心地がよくないかもしれませんが、どうぞ私の背中を乗ってください。」

「けいご!」拗ねてみた。

 タマは小さく微笑みを見せて、「乗って」と言葉を変えた。

 私はタマの首に腕を絡めて、体の揺れに身を任せ、タマに背負わせた。

「では、屋敷に帰るまで、私の話を聞いてくれる?」

「なーに?」

「私はどうしてお嬢様に仕えるのかを、だ。」タマは小さく微笑み、ゆっくり歩き出した。


「私は生まれつきに体だけが丈夫だった。

 それは種族の特性でもあるが、私はそれなりに特性を恵まれた方だ。

 しかし、今の時代平和の世、強い兵士は要らない。

 だから、『恵まれ』ていても、私は不必要だ。

 父が道場を経営している優秀な師匠だ。

 お爺ちゃんほど達人ではなかったが、教えるのが上手かった。

 そのお陰で、私が生まれた時は門下生が千を超えて、生活の支障は全くなかった。

 それでも年々門下生が免許皆伝やら続けられないやらで、段々と減っていた。

 私が15歳の時に、すでに百人も満たないほど、広い道場が寂しくなっていた。

 私と弟、そしてボケ始めたお爺ちゃんを養う為に、母も日雇いバイトに出ていくようになった。

 自分はなんでこんなにも恵まれない環境に生まれたのかと思う時期もあった。

 そしてその時期に、旦那様にお目に掛かれて、屋敷に働くチャンスをくれた。

 給料は申し分ないし、やることもあんまり多くない、とても楽な仕事だけど、父と母は『娘を使用人に出すのはやはり無理』と言ってくれた。

 でも、二人きりになると後悔し、口喧嘩することになった。

 私はバカなので、当時は高校中退し、仕事を見つからない日々を送っていた。

 家計に苦しんでいる両親にさらに負担をかけている為、居なくなりたいとすら思った。

 だから、私は自暴自棄になり、勝手に旦那様と約束して、屋敷に働くようになった。

 家を出た時、母が泣きながら送ってくれたが、父は仏頂面のまま部屋から動こうとしなかった。

 結局父は送ってくれなかったし、私も逃げるように屋敷に来てメイドとして働くことになったが、全く上手くできないままだった。

 そんなある日に、退院したななえを初めて見た。

 同僚に聞くと、ななえお嬢様はよく『入院』・『退院』するらしく、屋敷にいる時間の方が短いじゃないかと言っていた。

 うちはケガしても、基本治療せず、治るの待つだけ。節約のために、病院に入らない。

 それに比べて、お嬢様は頻繁に病院を通っていた。

 そんな贅沢な生活を送っていたのかと逆切れしていた。

 それから、私はよくななえのことを観察するようになった。

 同僚からもよくななえのことを聞くようになった。

 しかし、長い間観察して、さらに同僚に何度もななえのことを聞いている内に、自分がななえを誤解していることがわかった。

 昔のななえはお嬢様なのに、毎月自由に使えるお金がほかの屋敷住まいの高校生たちより少ない。自分と同い年の生徒は屋敷に住まないから、いつも上級生達を怯えて自室に籠っていた。魔法を使えない上に、魔力を受け入れる量も少なく、ケガしてもあまり魔法を使って治療しない。カメレオンの生まれの為、体が弱いし、狡猾に世を生きている種族として蔑まれている。そして、唯一恵まれているのはその容姿なのに、同級生に遠ざけられて、女子に嫉妬されて、スケベな男によく絡まれていた。

 なのに、ななえはそれらのことに負けずに、私たちにも迷惑かけないように一人で抱えて、一生懸命勉強を続けていた。

 旦那様の方針で、この学園へ入学する人は例え自分の娘であっても、必ず何か人より優れているところがなければ、入学を認められない。

 ななえは生まれて体が弱く、魔力も弱いというハンディを背負っているのに、それでも努力によって勉学に高い成績を収めて、入学できた。

 そんなななえを見て、私もいつしかななえを支えたいと思うようになった。

 ななえを世話するために、私は本当に努力した。

 しかし、不器用な私は何故か努力すればするほど、逆にドジを踏む。

 そのせいで、ななえの世話をさせることから遠ざけていくばかり。

 そして、ついにななえが誘拐されることが起きて、帰ってきた記憶喪失になったことを聞いた。

 私は悔しい。

 助けたい人に近づくこともできないまま、その人が酷い目に合って、守れないことを後悔する。

 どうして旦那様はもっと早くななえを助けなかった?

 もっと気をかけておけば、ななえも酷い目に合わせずに済んだかもしれない。

 自分の娘なのに、生まれつき人より弱いのに...

 なのに普通の人のように扱う。

 実の娘が大事じゃないのか。

 そして、『誘拐事件』が起きた後、ようやくななえのことに気をかけて、専属メイドを当てる決定をしたが、私はやはり旦那様が許せない。

 でも、まさか自分がななえの専属メイドに任命されるとは夢にも思わず、旦那様への嫌悪もどうでもよくなって、今度こそお嬢様を守ると決めた。

 ななえ。私がななえに仕えるのは私がメイドだからだけど、私は本気でななえを守りたい。

 忠誠心なんで大層なものではありません。ただの後悔かもしれない。

 でも、ななえは報われるべきなんだ。

 結局どうしてそんなに一生懸命勉強するのを聞けなかったが、努力した人は幸せになるべきなんだ。

 だから私はななえを支えたい。

 ななえが幸せになるまで、ずっとそばにいてななえを助けたい。」


 静かにタマの話を最後まで聞いた。

 タマがそこまで私のことを考えているとは思わなかった。

 心が、体がとても熱く感じ、タマを愛しく思った。

「タマ、好き。」私はタマの耳元で囁いた。

 タマは少し顔を赤らめていたが、とても嬉しそうだ。

「でもタマ、私は充分、幸せだと思うよ。」

「え?」

「私は確かにハンディを背負ったかも。でも四肢は健全、頭も問題ない。生きていく為の...魔力?も他人から補充できる。その上に生活に不自由はなく、むしろ人より恵まれた環境にいる。これ以上を望むのは罰当たりだと思うよ。」

 素直な自分の気持ちだが、言ってて恥ずかしいな。

「でもななえ!ななえは魔法受けることもできないのよ!それは、ななえにとって治癒魔法ですら攻撃魔法になるのだよ。」

 タマは私より私を大切にしている。

「その代わりに、タマが私を守ってくれるでしょう。」

「お嬢様...」タマがポカンとした顔になった。

 また「お嬢様」だ。

「な・な・え、だよ。」私は全体重をタマに預けた。そのまま、タマの耳元で、自分の考えを伝えた。

「タマ、神様は不公平だと思うんだよ。生まれながら病弱な人もいれば、一生健康な人もいる。頭に欠陥のある人もいれば、なんでもそつなくこなす人もいる。私は元々夭折になるはずの赤ん坊、なのに奇跡的に生きられた。それだけでも神様に感謝するべきだと思う。」

 別に神を恨んでいないが...

「だけど、私は今まで生きてこれたのは、今の私の知らない様々な人のおかげだと思う。そう思うから、私はきっと彼らの為に生きなければいけないと思う。」

 神に感謝もしていない。

「『人の役に立ちたい。』きっと私はその為に一生懸命勉強しているでしょう。」

 何故か誰かを助けたいと思う自分がいる...

「今となってはそれも無駄になったけど...」

 人を助ける力全くないのに...

「それでも、私を必要とするときはきっとくる。」

 人の助けがなければ生きていくことすらできない自分なのに...

「私を必要とする人はきっといる。」

 それでも、人を助けたいという意思がある。

「私はもう自分の幸せを求めない。大切な人達が幸せであれば、きっと私も幸せでしょう。」

 一体どうしてこの考えが生まれたのかはわからない、でもそれは、確かに自分の中にある。

 私はもう囚われている、人を助けたいという思いに...

 ...なのに、私はその理由を忘れている...

「...ななえお嬢様は優しすぎる...」

 タマはそんなことを呟いた。

 でも、タマ...

 きっと今の君は私と同じだよ。違うとしても、それは単純に君は助けたい相手をはっきりしていて、私はハッキリしていないというところだけだろう。

 タマは私を「助けたい」...

 ふふっ...

「タマ、大好き。」私はもう一度タマの耳元に囁いた。

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