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奇跡のカケラ  作者: 光璃
13/16

No.12 木陰の花

「先生、私…助かるんですか?」

 悟が帰り、小口先生に診察を受けてもらっているときだった。

 先生は、優輝を真っすぐに見つめながら言った。

「それは、…今の状況では何も言えないけど、きみが“生きたい”と思うかが大切なんじゃないかな。ほんの少しずつだけど回復がみられる。でも、いつ悪化するか…」

 点滴を見つめながら優輝は思った。生きられる確立は――…低い。

 先生は変に気をつかったりしないで、真実を言ってくれる。優輝はそれが嬉しかった。

 先生が病室から出ていって、優輝はひとり窓の外を見上げた。鳥がはばたくのが見える。

「そういえば、“翼をください”っていう歌があったな…」

 この歌を作った人には娘がいて、もうあと数日の命だった。

 歌の作者は娘に聞いた。何が一番ほしい?、と。すると、娘はこういった。『翼がほしい。鳥のように飛んでいきたい…』

 その翌日、娘は亡くなった。その日、病院の天辺を真っ白な鳥がくるくると三回、回って、遠くに飛んでいった…

 これは、小学二年のとき、音楽の先生に聞いた話だった。なぜだか、ずっと覚えてる。

「♪今、私の 願い事が 叶うならば、翼が〜…」

 優輝は、歌いながら考えた。娘は、鳥になれたのかな?その、白い鳥だったのかな…なれて幸せだった?悲しみのない空に飛んで行けた?

 私は、ここにいたい…みんなと一緒にいたい。それは、願っちゃいけないこと?もし、私が願うことでみんなが不幸になるのなら、私は願わない。

 でも、願うことが許されるなら――…みんなと、ずっと一緒にいたいよ…

 歌いおわった直前に、ドアががちゃりと開いた。優輝が目をむけると、そこには小さな女の子がいた。

「どうしたの?」

 迷子?でも、ピンクの可愛いパジャマをきていた。小児科の子かな?

 女の子は、もじもじしながら言った。

「あの…歌が、きこえたから」

 優輝はくすりと笑って、おいで、とベッドのそばに座ることをすすめた。

「私、優輝って言うの。名前は?」

 すると、女の子は笑顔で

「美咲!」と元気よくいうと、尋ねてきた。

「ねぇ、お姉ちゃん。これから遊びにきていい?」

 優輝は驚いたけど、にっこり笑ってうなずいた。

 美咲は、本来小学二年生だけど、五歳のときから病院暮らしで一度も学校にいったことがなく、友達もいない。

 この子、淋しいんだ…

「いつでも来ていいよ。私も暇だから」

「うん!でも、お姉ちゃんの部屋のなかに男の人がはいるのみたことあるよ。そのときはだめ?」

 いつから、私のこと知ってたんだろう?勇気をだして、病室にきてくれたのかな…

 悟に、この子を紹介したい、と優輝は思った。確か、悟には同い年の弟がいたはず。

「ううん。そのときも来ていいよ。紹介するから」

 それから、美咲は検査があるから病室に戻った。優輝は看護士の原田さんに聞いた。

「あの、東病棟の…鈴宮美咲さん知ってますか?」

 原田さんはびっくりしたように答えた。

「ええ。なんで美咲ちゃんのことを知ってるの?」

 病室に来たことを話すと、原田さんは驚いていた。優輝は聞いた。

「東病棟…ってことは、悪いんですか?」

 病気のことだ。優輝も悪いから東病棟にいる。原田さんは、少し戸惑ったように見えて、でも微笑んで言った。

「大丈夫。…まぁなんでもないよ」

 優輝も病院に長くいるからわかる。重い病気のときこそ、大人は適当な言葉を言うのだ。

 優輝は、空を見上げた。ずっと飛んでいた鳥が、飛ぶのをやめた。

 それをみて、美咲のことを聞いて感じたのは、同情でもなんでもなく、たぶん…諦めだった。


     †


 美咲は頻繁に、優輝の病室に遊びにくるようになった。

 美咲がうける検査は、とても子供じゃたえきれないものがあり、でも美咲は頑張っていた。

「自分のためだからって、お医者さんが、言ってたから」

 そう言うだけだったが、本当につらそうなときもあった。優輝は、――自分に言い聞かせるように…言った。

「一緒に頑張ろう。――負けちゃだめだからね」

 すると、美咲は微笑んでうなずくのだった。

 美咲は、まるで木陰に咲く誰にもしられていない、小さな花のような存在だった。でもその笑顔は、誰よりも輝いてみえた。

「約束。一緒に、退院しよう」

 小さな指とかわした約束。でも、その約束は―――二度と、守られることはなかった。

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