2話「前世の魔王様も好きな人の前では乙女です」
「ただいま帰りました。
皇帝が結婚を白紙撤回してくれました。
国の独立を認めてくれました。
それから不可侵条約も結んでくれました」
報告することが多い。
「姉様、お帰りなさい!」
「姉様、凄いわ!」
「姉様、かっこいい!」
私には歳の離れた妹が三人いる。
全員金髪碧眼の美少女である。
彼女たちを皇帝の魔の手から守るために、記憶を取り戻す前の私は、皇帝に嫁ぐことを決めたのだ。
自分一人が犠牲になれば……と。
「レナ、よくやってくれた!
まさか皇帝と不可侵条約まで結んでくるとはな!
さすがは長女だ!
頼りになる!」
「私も母として誇りに思います。
ありがとう。
全てあなたに任せて正解でしたわ」
こんなほのぼのしてる奴らが、国王と王妃なのかと思うと頭が痛くなる。
こいつらでは、娘を売る以外に守る国を守る方法を思いつかないだろう。
ポンコツでも現世の父親と母親だ。
無碍にするわけにも行かない。
「そういえばジャックの姿は見れませんね……。
彼はどこに?」
ジャックは私の婚約者だった。
皇帝に嫁ぐことが決まり、婚約は解消された。
ジャックは、栗色の髪に琥珀色の瞳、丸眼鏡と愛らしい笑顔が特徴的な優男だ。
年は私の二つ上の二十二歳。
彼は勉強はできるが、剣術はからっきしの学者タイプの人間だ。
国全体が私を皇帝に売るしかないと判断する中で、唯一他の手当を探し結婚に反対してくれた。
まさかもう新しい婚約者を作ってしまったとか?
「それが……。
ジャックはあなたを取り戻すんだと言って、一人で帝国に向かったのです」
「凄い剣幕でな。
止める隙もなかった。
帰って来る途中で会わなかったか?」
父と母は顔色が悪い。
元婚約者を死地に送ったのも同然だ。
「あの馬鹿!
スライムもまともに倒せないくせに!
帝国の兵士と喧嘩するつもり!?」
私はジャックを探すために部屋を飛び出した。
◆
私は帝国へと続く道を上空から丹念に探した。
帰ってくる時は直線で城に向かったから、道はノーチェックだった。
「ジャックの奴!
弱いくせに!」
私が旅立ってから二週間以上経っている。
こんなことなら、国王を締め上げるのに一週間も使わなければよかった!
ジャック無事でいてくれ!
◆
『此度の勇者の進撃だが、魔王陛下に任せておけば問題ないだろう』
『そうだな。魔王陛下はお強い。我々など足手まといだ』
『北方の魔族が攻めてきているが、そちらも魔王陛下に委ねよう』
『南の大陸に巣食うドラゴン退治も、魔王陛下にお願いしよう』
『レナ、不作が続き食料が不足しているのですが……』
『難民がこの国に入り問題になっている。この件はレナに任せたい』
『姉様、髪がうまく結べないの』
『疫病が流行っている。レナ、早急に対策を立ててほしい』
前世でも現世でも、周りは私に頼りきりで、自分たちで問題を解決しようとはしなかった。
私が強いから、私が頼りになるから、私なら何とかしてくれそうだから……。
どいつもこいつも私に甘えすぎなんだよ!
だけどジャックは違った。
『レナ様だけでは解決は困難。僕も協力します』
私の仕事を半分手伝ってくれたり、役人に仕事を割り振ってくれたり、妹に髪結が得意な侍女をつけてくれたり、色々してくれた。
ほんの些細なことだけど嬉しかったんだ。
全部一人で背負わなくていいんだって、そう思えたから。
ジャック、お前はこの国に必要な人間なんだ!
こんなところで犬死にするな!
◆
「うわー!! 来るな来るな!!」
ジャックはコボルト相手に折れた剣を振り回していた。
彼の左腕は血に染まっていた。
カッと頭に血が登る!
私は彼の前に降り立ち、コボルトをぶん殴った。
「私の婚約者に何すんだこの犬っころ!!」
一匹を肉片に変え、残りを睨みつけると、奴らはキャインと悲鳴を上げ逃げ出していった。
全く、群れるしか能のない駄犬のくせに、ジャックに怪我をさせるなんて!
「レナ様!」
私がここにいるのは予想外だったのか、それとも私がコボルトをぶん殴る人間だとは思わなかったのか、彼は目を丸くしていた。
無理もない。
記憶が戻る前の私は、華奢で小柄な普通の女の子だったのだから。
「じっとしていろ、回復魔法をかける。
回復」
幸い致命傷に至っていなかったようだ。
回復魔法をかけると、彼の傷があっという間に塞がった。
青白かった顔に、少しずつ血色が戻っていく。
「レナ様! ご無事だったのですね!」
「それはこっちのセリフだ!
弱っちいくせに無茶をして!」
「すみません、レナ様のことが心配で……いても立ってもいられず」
ジャックがしょんぼりした顔でうなだれた。
可愛すぎるんだが……!
「だからって、帝国に一人で喧嘩を売る奴があるか!」
私がどれだけ心配したと思ってるんだ!
「はい、ですから家から籍を抜き、家ともこの国と無関係になってから旅に出ました。
最も僕が助け出す前に、レナ様はご自分で城を脱出されたようですが……」
「それだけではないぞ!
婚約を白紙撤回させた!
独立も承諾させた!
不可侵条約も結んだ!」
「さすがレナ様です!」
ジャックが胸の前で手をパチパチと叩いている。
「喜んでいる場合か!
私が来なかったら、お前は死んでいたんだぞ!」
「僕の命など、レナ様の命の尊さに比べたら……」
胸がキュンと音を立てる。
前世を含め、この私にここまでダメージを与えられたのはこいつだけだ!
「皇帝の評判はよくありません。
何人も妃を持ち、乱暴に扱い、飽きたら幽閉していると聞きました。
そのような輩にレナ様は相応しくありません!
命をかけて助け出す価値はあります!」
「本当に馬鹿だよお前……。
そんなことをしたら、帝国は有無を言わせずこの国を滅ぼしていた。
普段は頭がいいくせに……どうしてそんなことも考えられない?」
「国の災いになるのはわかってました
きっと、レナ様にもご迷惑はかけてしまう。
それでも、どうしても自分を止めることができなかったのです」
彼の瞳には強い意志が宿っていた。
前世も現世も含めて、私のためにここまでしてくれた人はいなかった。
皆自分の保身のことを考えていた。
前世の部下も現世の親もみんな……。
ジャックのしたことは、国のことを考えれば愚かだ。
だけど、そんな愚かで健気な彼がどうしようもなく愛しい!
「積もる話は後だ。
いったん城に変えるぞ」
「すみません。
助けていただいたんですが、城には戻りません。
僕は国を裏切り、あなたの略奪を考えました。
戻る資格はありません」
「ジャック……」
「レナ様が無事に帰ってきてよかった。
最後にあなたに会えて本当に良かった」
ジャックの瞳には涙が浮かんでいた。
私は彼に抱きつき彼の首元に手を回した。
「レナ様……!?」
「勝手に決めるな!
私がこの国を守った理由にはお前も含まれてるんだ!
お前がいない国なら守ったってしょうがない!」
ジャックがいなかったら、皇帝に嫁いだとき前世の記憶を思い出せなかった!
『皇帝に抱かれたくない! ジャック助けて……!』
そう思ったから私は……。
私は少し体を離し、ジャックの目を見て伝えた。
「お前は私の伴侶になるんだ!
誰にも文句言わせない!
お前を連れ戻したことに異論を唱える奴がいたら、私が拳で黙らせてやる!
だからどこにも行くな!」
素直な気持ちをぶつけられるのもジャックだけだ。
代わりなんていない!
「えっと……。
それはレナ様が僕のことを……」
ジャックが目を見開く。
「今のを聞いて、他にどんな結論があるって言うんだ」
ジャックの顔がみるみる赤く染まり、ボン! と音を立て爆発した。
「僕はあなたより弱いですよ。
コボルトにも勝てないし、なんならスライムだってあやしい。
皇帝のように領土も持ってないし、実家と縁を切ったからもう平民ですし、お金もないから使用人も雇えない」
「そんなもの全部いらない!
欲しければ私が稼いでお前に与える!」
「今の僕に与えられるのは、あなたへの愛だけです。
それでもよろしいでしょうか?」
「それが欲しいんだ!
それだけあれば他の何もいらない!」
それがどんなに尊いものか、お前は分かってない!
「ジャック!
愛しているんだ! どこにも行くな!」
私はジャックに抱きついた。
「僕でよければ、あなたの傍にいさせてください」
彼は私の背中に手を回しぎゅっと抱きしめた。
そんなわけで、私は前世では得られなかったものを得た。
私を守ろうと戦ってくれる戦士を、手に入れることができたんだ。
――終わり――
最後まで読んで下さりありがとうございます。
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後書き
※いつもとざまぁと恋愛の配分を逆にしてみました。
主人公の年齢を二十歳にしたのは、未成年だと色々と面倒だからです。
十八歳成人になったけど、念のために二十歳にしておきました。
他の異世界恋愛小説と違って、結婚適齢期が二十二歳前後の世界なんです。
「とつぐ」と入力したら、「凸ぐ」と変換されたことから思いついたネタです。
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★✩★ お知らせ ★✩★
「モブ王女に転生したら義兄に溺愛されました! 前世の推しを闇堕ちなんてさせない!」
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第一部完結しました!
転生、シスコン、ブラコン、義兄からの溺愛、兄妹でいちゃいちゃが好きな人におすすめです!
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