1話「凸ぎに来ました! よろしくお願いします!」
皇帝の宮殿は、実家の城より広くて大きくて豪華な内装だった。
玉座に座る皇帝は、いやらしい目つきをしていた。
皇帝は赤い髪にルビーの瞳、歳は二十代後半。
顔立ちは整っているが知性は感じない。
若さと顔以外に取り柄がない愚王と言った感じだ。
「お前がシュメッターリング国のレナ姫か。
国一番の美人と聞いて期待していたが……それほどではないな」
皇帝は、落胆したように目を細めため息をついた。
「ビーネ国の姫の方が美人だ。
お前はそうだな……五番手か六番手といったところか……」
いったい何人の妻がいるのやら。
「心配するな。
弱小国の姫でも、余は平等に愛してやる。
お前が余に従順に尽くせば、国の安全は保証してやろう」
いかにも大国の皇帝らしい横柄な口ぶりだ。
「そうだな、手始めに今日から七日間余に奉仕しろ」
皇帝は私の頭のてっぺんからつま先までじっとりと眺め、下卑た笑みを浮かべた。
現世の私は、金色の髪に青い目のお人形のような愛らしい見た目をしていた。
年齢は二十歳。
そのせいで、このような男に目をつけられた。
「陛下、お言い付けの通り七日間、昼も夜もなくご奉仕させていただきます」
私がにっこりと微笑むカーテシーをすると、皇帝はニタリと目を細め口角を上げた。
「それでは早速寝所へ。
いや待て、湯浴みが先か……」
「そのようなご配慮は無用ですわ。
ここでいたします」
「はっ? ここで!?」
皇帝は目をパチクリとさせていた。
「ではまず!
こぶしでご挨拶させていただきます!
陛下、歯を食いしばってください!」
皇帝が瞬きをする間に私は彼との距離を詰め、思いっきりぶん殴った。
皇帝は椅子ごと壁にめり込んでいた。
「お望み通り七日間お相手しますわ。
陛下、それまで死なないでくださいね」
壁の一部となった皇帝に向かってにっこりと微笑みかける。
「おのれ!
貴様皇帝に何をする!」
兵士が一斉に襲いかかってきた。
全員デコピンを食らわせてやった。
彼らの体は壁までふっ飛びそのまま壁の一部となった。
「どんどんかかってきてください。
遠慮は要りませんわ」
騒ぎを聞きつけて、別の兵士がやってきたようだ。
部屋の惨状を見て息を飲んでいる兵もいる。
また、壁のオブジェが増えそうですね。
◆
一時間もしないうちに全員が壁のオブジェになってしまった。
「全体回復」
私が全体回復呪文をかけると、皆が意識を取り戻した。
皇帝と兵士が壁から這い出てくる。
大きな石の下から虫が這い出してくるみたいでちょっと不気味だ。
私に殺意を向けるもの、戦意をすっかり喪失してるものなど様々だ。
「貴様〜〜!
皇帝である余を殴るという了見だ!
ちょっと可愛いから気遣いを見せてやれば、調子に乗りやおって!」
よかったよかった。
皇帝陛下は元気なようだ。
あの程度で戦意を喪失されてはつまらない。
「では陛下、第二ラウンドと参りましょうか?」
◆
そんな感じで私は七日間陛下に誠心誠意ご奉仕をした。
「頼む、いや、お願いします!
なんでもしますから、離縁してください!
ここの城から出てってください!」
皇帝陛下が鼻水号泣しながら土下座している。
彼の服はもはやボロボロの布切れとかしていた。
七日間のご奉仕しろと命じたのはそちらだ。
私はそれに答えただけだ。
何度も壁に兵士をめり込ませたせいで、壁のあちこちが崩壊していた。
青空が目にしみますわ。
「話が早くて助かりますわ」
私は皇帝の前に紙を差し出した。
「では、私と陛下の婚姻の白紙撤回。
シュメッターリング国の独立。
今後の政治的介入及び、軍事的な侵略をしないこと。
千年間、帝国の民は我が国には立ち入らないこと。
以上が条件となります」
シュメッターリング国は小さな国だ。
ある時、帝国に目をつけられ占領下に置かれたのだ。
国王の長女であった私は、家族と国民を守るため、人質同然に皇帝に嫁ぐことになったのだ。
皇帝のたくさんいる妃の一人になるために……。
「戦争を仕掛けてきても構いませんよ。
その時は、私が全力でお相手します。
そちらの兵力が減るだけです。
うっかり力加減を間違えて、極大呪文を放って帝国を滅ぼしてしまうかもしれません。
ふふふふ」
皇帝は涙と鼻水でぐっちゃぐちゃになった顔で、ブルブルと震えながら首を横に振った。
「ぜぜぜぜぜぜ……絶対絶対そのようなことはいたしません……!!!!
おおおおおおお、お約束は必ず守ります!
結婚を白紙撤回します!
独立を許可します!
絶対攻め入りません!
だから許してください!!!!」
七日間の調教がよく効いたようです。
瀕死の大怪我を負わせてから回復魔法をかける……このループを繰り返して、今まで心が折れなかった者はいない。
人間でも、魔族でもだ。
七日間留まった甲斐がありましたわ。
一発ぶん殴っただけでは戦意までは奪えませんからね。
「書類を確かに受け取りました。
これで契約成立ですね」
私はにっこりと微笑み、カーテシーをしその場を後にした。
せっかく壁に穴が開いてるので空を飛んで帰った。
「ああああ……悪魔が去った〜〜!」
「おおおお、俺たちは助かったんだ〜〜!」
城から男たちが号泣する声が聞こえたけど、まぁいいでしょう。
◆
私の前世はバーサーカーと言われた魔王だった。
一度暴れ出すと部下でも止めることは不可能だった。
そのことを思い出したのは、皇帝に謁見した時だ。
気づくタイミングばっちりである。
もう少し早く思い出していたら、武力でこの国を滅ぼしていた。
もう少し遅かったら私の貞操が……!
考えてただけで気持ち悪い!
私は背筋にムカデが張ってるような気持ち悪さを感じ、ブルブルと頭を振った。
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