練達の
「ゼンさん。ここは一つ。僕に命を預けてくれませんか?」
「…」
「ロッドール。君も死ぬには惜しい人です。ついでに風の魔法で周囲を覆って敵からの侵入を防いでください」
二人の苦労を労うようにレナードは微笑んだ。そして、アイゼンとロッドールは察した。
「母に似て美しい顔ですね」
レナードは一歩近付き、逆撫でされたイーリスは切っ先を向けた。
「貴方は…レナード?」
「僕を知ってるんですか?それは光栄です」
母が言っていた。「殺すのが難しいと思った唯一の人間」だと。
レナードのことは何も分からないが、母が何の理由もなしに誇張していたとは思えない。
アイゼンと魔法使いは底が知れた。殺そうと思えばいつでも殺せる。
ならば、この男を殺すことに集中するべきだ。
イーリスは最速の攻撃手段である突きを選択し、レナードに放った。常人なら反応する間もなく絶命するのだが、
この男は違った。
本来ならば何の抵抗もなく刃が体を突き抜けているはずだった。
人間ではあり得ない手応えに、イーリスは思わず後ろにいるアイゼンを見た。
能力、ネフィエルの瞳!
そして気付いた。
「なるほど…これは便利ですね」
能力、ディック・アイアン。
硬質化したレナードの拳がイーリスを捉えた。
イーリスはアイゼンから色が一つ消えていること、レナードにそれが移っていることに気付いた。
もちろん何がそれを成立させたかは分かっていない。
ロッドールが全ての鍵だった。
能力、フォース・イーレヴン。
アイゼンは「命を預けろ」と言ったのは遠回しに能力を借りることを示していると感じた。
一歩近付いたことでフォース・イーレヴンの射程内にギリギリで入った時、それらを察したロッドールはアイゼンの能力を奪い、レナードに受け渡した。
「ゼンさんには色々貸しがあるようなので、ここで一括返済しちゃいますかね」
体勢を崩したイーリスに対しレナードは構えた。その構えは不格好で攻防には向いていないように思えた。
「…どうしました?来ないんですか?」
「……」
イーリスはレナードの挑発と一撃を喰らってしまったことに激怒したが、それを瞬時に宥めた。先程のは油断が生んだ結果だ、視線を一瞬でも逸らした自分が悪い、と冷静に考え感情を抑えた。
能力、ネフィエの瞳。
レナードに硬質化する能力が移ったのは間違いない。が、両断すれば関係無い。突きよりも威力のある斬り払いで仕留める…!
イーリスは下段に構え直し、レナードに睨んだ。
能力、銀姫の鉄刀。
互いに反撃の構えだった。始動した相手を一撃、一刀で倒す。それだけを考えていた。
イーリスはレナードを観察し、体の些細な動きに注目した。微動でも反応できるほど研ぎ澄まされていた。
対し、レナードも冷静にイーリスを分析していた。反応速度、身体能力…。どれを取ってもイーリスが上。おそらくこちらの動きに合わせた反撃を狙っているのだろう。
「仕切り直そうか」
レナードは小さく後ろに飛び、構えを解いた。
動いた瞬間にイーリスが反応するも、動作には移さなかった。
刀の届かない距離を把握された…。
レナードは間を置くことで不利な状況を一転させようとした。
思ったより冷静ですね。このまま行くと長時間の睨み合いになるところでした。武器がある分迂闊には近付けませんし…。どうしましょうか……。分からないので正攻法で行きますか。
レナードは無造作に歩み寄った。
イーリスそこで考える。先程同様ギリギリで避けるつもりなのではないか、と。
回避できない距離まで引き付けて切ればいい。
イーリスは射程内に入ったレナードを泳がせることにした。それでも十分に間に合うと思った。
間合いにして二メートル。レナードが踏み込むと同時に切り掛かった。下段から振られた刀は脇腹から入り肩へ抜ける軌道を描いた。
歩法、蓮捻。
レナードが刀の描く軌道をすり抜け背後に回った。
イーリスは初撃の力を利用し、後ろへの回転切りを放った。
しかし。
刃物に対する攻防は“弾く”か“逸らす”のが有効である。
レナードは頭でそう言いながら、加速した刀身の側面を撫でた。完璧な動作と精度で攻撃を流し、懐に潜り込んだ。
一度逃げにも見える行動で、イーリスに待つ選択をさせた。それも全て描いた通りだった。
回避の速度を利用して接近し、さらにその力を拳に流動させイーリスの胸に重い一撃を放った。
衝撃で後方に仰け反り、辛うじて踏み止まるも片膝を着き深く息を吸った。
何が、起こった…!?胸に痛み!呼吸が!息が吸えない!
初めてのことにイーリス戸惑った。絶対的力を有してしまったがために攻撃を受けるということを知らなかった。
奴は!レナードは、何処に!?
相対するレナードを見失った時点で次の動作を制する権利は無い。
レナードの蹴りが背後から襲い掛かった。




