追い続ける理由
お前は天才だ。
物心付いた時にはそう言われていた。勉学も運動もやればできるし、それを褒められるのは嬉しかった。
でも、努力してもしなくても周りとの差は開くばかり。その時から頑張るということを止めた。適当にやっても一番でいることには変わらなかったからだ。
19の時、エスティアーナの部隊に入った。戦争は頭も体も使うから、遊びには丁度良いと思った。実際に全力を出さなくても勝てることが多かった。
そこで彼らに出会わなければ、なんとなくの人生で終わっていただろう。
天使相手に正面から殴り合えるゼノン。戦場の全てを把握するシェスナ。そして、年の近いアイゼン。
将官であったゼノンとティエナに憧れ、越えたいと思った。アイゼンには負けたくないと思った。
目標を持ったことで毎日が楽しいと思った。
だが、それが続くことは無かった。
エスティアーナの敗北で二人の死に向き合った時、胸に穴が空いたようだった。頭部の傷が癒える頃にはアイゼンもいなくなっていた。
頭の傷のせいか、それとも喪失感のせいか涙すら出なかった。あの時死んでいればと思ったこともある。
それでも生きている。
死ぬのは簡単だ。生き残ったことに何か意味があるのだろう。そう思ってこれからのことを考えた。
僕がしたいことは何か?
一度死んだようなものだ。だったら。今度は大胆に力だけで生きてみようか。
尊敬する知将と武将。二人の背中は常に追い続けていた。真似することは容易いが、それを越えることはとても難しい。
だから、全てをリセットして。無名からゼムレヴィンの階申にまで成り上がった。
僕の過去を知るのはあの時に生き残った僅かな部下とアイゼンのみ。
死んでいった仲間のため。何より自分のためにやるしかない。
失ってばかりの過去にしないためにも。
◇◇◇◇◇
ティエナ将官。僕はあなたの様にはなれない。代わりに卑劣な手でそれっぽいものになりつつあります。
ゼノン将官。僕はあなたの様にはなれない。代わりに技術で強靭な肉体を再現してみました。
そして今。
同じ能力を有した天使を圧倒しています。
この姿を二人に見せたかったです…。
アイゼンとロッドールは驚きを隠せなかった。平面で戦場を展開し、戦況を操っているところばかり見ていたから。本人にこれだけの力があると思ってもみなかった。
ましてや二人がかりでも苦戦する相手に格の違いを見せ付けた。
「ぐっ……うぅ……!!」
「サイリスの剣撃は今でも忘れません…。振りや構えは全く同じですが、ほんの少し遅いですよ」
サイリスの連撃を凌いだこともありますからね。この程度とは正直拍子抜けです。
「どうしますか?続けますか?」
再びの挑発。
イーリスは我を忘れレナードに飛び掛かった。
やはりサイリスには及ばない、か。
レナードは飽きたように攻撃を受け流し、胸の同じ箇所に攻撃を叩き込んだ。
「かっ、は……っ!!」
「やっぱり偽物。力を持った雑魚と同じです」
次は風穴を空けてやりますよ。
「僕に会わなければ…いや、母がサイリスであることを恨んでください」
伏したイーリスに拳を振り上げた。
…こんなはずではなかった。母の力は最強だ。間違いない。それでも、いや、上には上がいる。それがレナードなだけだ。
能力、ネフィエルの瞳。
これならレナードの動きを追える。そして、避けれる。
イーリスは柔軟な動きでレナードの攻撃を回避した。
動きが変わった?
レナードはそのことにすぐに気付いた。そして、考える。
天使は能力が遺伝する。しかし、二人の親から一つずつ受け継ぐことはできない。優秀な方をその身に宿す。強いものが生き残る摂理と同じだ。だが、ごく稀に二つの能力を持つ者がいるという。
目の当たりにするのは初めてですが。何とかなるでしょう。
余裕があるレナードに対し、イーリスは焦っていた。対等以上の相手とどう戦えばいいのか分からなかった。
銀姫の鉄刀で倒せない奴がいるとは思わなかった。ネフィエルの瞳は攻撃力が上がるわけではないからレナードを倒すことは難しい。どうすればいい?
母と父の能力で駄目なら私にできることは何もない。せめて同時に能力を発動させられたら……!
能力を二つ以上有するものは数少ないが存在する。それでも、二つ以上の能力を同時に発動する者は未だに確認されていない。
アイゼンが言うように私は、イーリス・ラグラウスは何か意味を持って生まれてきたのかもしれない。
天使の世界でも能力の同時発動は不可能と言われている。
どうせ駄目なら試してみよう。
能力、銀姫の……瞳…。




