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夢と幻のキネマ館  作者: 黒木 静
『白と黒のメリー 白黒編』
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70.灰石英〈グレイ・ウォール〉②



 70.灰石英〈グレイ・ウォール〉②



 ロバートはそれを聞き逃さなかった。


「それは助かる! サラ、あれを使う―――退避してくれ!」


「あんたが私に命令するなんてね! いいわよ、任せたわ!」


 紅蓮の炎がサラを取り囲み、彼女の操る炎剣が猛烈な勢いで振りかぶられる。


「邪魔するんじゃぁ……ないわよぉ!」


 鉄を溶かす高熱の前に怪物は膝を屈する他ない、しかし、更に舞い込んでくる怪物の猛威は炎剣の比ではない。炎をかき分けるようにやってくる怪物。


「全く……雑魚のクセに頑張るじゃあ、ないの! 褒めてあげるわ……お礼に、殺してあげるわ!」


 サラが両手を合わせる。手の中には高エネルギーが収束し、白い光を発している。

 それは、先程見た攻撃に似ている―――そう、あの『バハムット』の技だ!


「『爆炎弾メガフレア』!」


 一直線にその光線が発射される! しかしその猛威はビルの隙間を潜り込み、隠れていた怪物をも焼き滅ぼした。直線上に居た怪物はもちろん、高熱で蒸発してしまった。これには怪物驚いていた。一瞬の隙に出来た道を、サラが進む。


「いいわよ! ミニトマト!」


「『氷雪時計アイス・クロノグラフ』!」


 ロバートの目が変化する。負荷が激しいこの術は生身の人間には出せない“怪物の領域”。しかし、ロバートの瞳はすでに人間の者ではない。

 緑潜眼は、海を見通す目。深きものの系譜が継がれた人間を、海に帰すための目。

 しかし、ロバートの瞳は違う。

 それは魔界の王『天界のハストゥール』から与えられた、特別性の目だ。

 怪物の目は、決定的な力をロバートにもたらした。

 役に立たずじまいだった『アイス・クロノグラフ』の範囲指定拡張と、時間の延長。


「さあ、廻れ。『グレイ・ウォール』を捕らえるまで!」


 空気の色が変わっていく。ロバートを追随する石柱の猛威はすでに死に、ロバートの固有時間へと引きずり込まれた。

 実際、時間を止めている訳ではない。振りかかる方向全てに反する方向を与えることで“動かない”ようにする魔術で、『アイス・クロノグラフ』の範囲外は平常の時間が流れている。

 『アイス・クロノグラフ』に閉じ込められたが最後、全てにおける方向は停止する。ロバートの透視能力によって、肉体に駆け巡る動きさえ止まってしまうのだ。

 移動停止と凍死を兼ね備えたこの術は、ロバートが『ウェンディゴ』から奪い取った魔術。しかし、それだけでは贋作。『天界のハストゥール』に与えられた目によって、『アイス・クロノグラフ』は本物へと昇華したのだ。

 ――しかし、限界はある。ロバートの時間で三十秒。それ以上は動きを止めることはできない。止めた後、ロバートの瞳を焼く激痛と頭痛。

 ロバートが怪物の力を得たのは瞳だけ。脳の中では透視した世界を処理することが大きな負荷になるのは変わらない。それでも、延長した時間は貴重である。

 ロバートの足元に展開する“石柱”。これは間違いなく『グレイ・ウォール』の効果範囲内。ならば、そこから半径五十メートル。直径百メートルのこの円に張り巡らされた『アイス・クロノグラフ』の中に、必ず『グレイ・ウォール』の核がある!

 ロバートの透視が、ビルの間、ビルの中、さらに次のビルへと移り、半径五十メートルという広大な範囲から、一つの核を予想する――十の鼓動。

 そして、あらゆる方向に向けられた反方向を解析する。眼前の怪物に掛かる負荷はこちらを噛み砕こうとする前の方向。透視によって見透かされた方向は血液と心臓の流れる方向。物を考える神経と精神の方向。この時点でロバートの頭の理解を凌駕する光景であった。だが、彼の目はそれに頓着しない――二十の鼓動。

 ――その中でも異質な動きがあった。明らかに他の怪物とは異なる、体と方向を持った怪物だ。それは“緑色のミラーボール”!


「――見つけた。ここから二十メートル、四時のビル、五階だ!」


 二十五の鼓動が終わり、一の鼓動で全力疾走が始まる。風の力を受けて、風神のような猛烈さでロバートが地面を蹴る。

 一、二、目的のビルを見つけ、四拍目で五階のドアを突き破り―――


「見つけたぞ! 『グレイ・ウォール』!」


 最後の一拍が、ロバートの拳を突き出させた。

 ―――ぱりん―――

 ガラスのように脆く割れたのは、紛れもない『グレイ・ウォール』。


「……く、ふっふふ……どうだ……思い知ったか? 怪物!」


 ロバートがビルの中まで吹っ飛ばされる。勢い余ってデスクを吹き飛ばし、体はそのまま回転を加えて、壁にぶつかった。背中をしたたかに打ったロバートは身悶えした。


「……いったいな……つぅッ!」


 脳に走る鈍痛―――今にも立ち上がろうとするが、目眩は激しく、体を痺れさせた。


「――今すぐにでも戦わなくてはいけないのにッ! くそう……」


 しかし、ロバートがもたらした『グレイ・ウォール』の討伐は確実に戦況を変えた。『グレイ・ウォール』はずっとロバートを逃しながら、怪物の激震地たる『マンホールトラップ』まで誘導していたのだ。それをロバートは知らないし、他のメンバーも『グレイ・ウォール』の思惑に気付くことはなかった。

 だが、明らかに軍配が白蘭館へと上がったのは確実だ。

 しかし、悪魔の手は確実に迫っていた。

 白蘭館のビルに居る、夢見野へ………。




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