69.灰石英〈グレイ・ウォール〉①
69.灰石英〈グレイ・ウォール〉①
雨道が空を走る。巨体を持つ『バハムット』を討伐するには、手にした薙刀では小さすぎる。それに、『ウボ・サスラ』のようにすぐ傷口を直してしまう。
切っ先が、八枚の天使の羽の一つを叩き割る。鯨から生えたこの羽根は、どうやら『バハムット』を浮遊させるエネルギー体らしい。これは、もう数百年前に分かったことだ。雨道と黒兎はこの羽根をたたき割り、愛路橋の封印式で半殺し状態にして白蘭式として組み込んだ。いずれ暴発することがあると踏んでいたが、これはどうにも勝手が違う。
「―――誰かが、狙ってやったこと、か……」
雨道はすでに感じていた。図書館前に居た『穂群緋影』。スカイツリー前ビル群でマンホールトラップを展開する『境詩文』の存在に。
なら、他の奴らも、アブホースによって蘇った? 決してありえない話ではない。
雨道の警戒はすでにこの東京内に張り巡らされ、一つの気配すら逃さんとしていた。
しかし、感覚の包囲網には誰も捕まらない。敵も相当上手く隠れているらしい。
「ならば奴も……猫目……」
『古妖獣人研』猫目慧は、獣の力を有した怪人物だった。獣人研と言われる程だ、狼人間が普段、普通の人間であるように、異常を異常と感じさせない力を、彼が持っていないとも言えない……潜伏するなら、彼は適任だ。
――再び、鯨の口が開く。一度ビルで足元を整える雨道。いかに空中を歩けると言えど限度がある。人間には羽の無ければ、本来空を歩くようには出来ていない。
「おいッ! お前ら――生きているか?」
雨道の声はロバートとサラ、テレスに宛てられた。
テレスは雨道が空中を舞うために空の怪物を撃ち落としていた。しかし、集まる数は徐々に増しているのは確かだ。さらに、新参の蝶や蛾といった羽虫達が空を覆い始める。空中へと再び飛び上がるには、難しい量だ。
ロバートとサラは分裂させられていた。敵の軍勢に対抗するには、目の前に絡みつく獣の群れをどうにかする必要があった。更に――ロバートが相手にしているのは、他とは異質極まる力を持った怪物の姿だった。サラが周りの敵を焼き払う最中、ロバートを襲う奇妙な怪物……雨道はもう何度目になるのか分からぬほど驚愕していた。
「――あれは、『グレイ・ウォール』! アルプスに封じた怪物がわざわざこの場所に訪れるとはなッ!」
ロバートの周りに展開される石柱は先端が棘となっており、それは地面から生えてくる。ロバートが足を動かす度に、それは地面を抉りとって石槍の山脈を産み出していく。
ロバートは神速の移動力でそれを鮮やかに回避する……というよりただ逃げまわるだけだ。その軌跡を追うように石柱は地面から伸び上がる。ロバートの体を串刺しにしようとしているのだ。『グレイ・ウォール』は魔界の山脈を指す。その特性は、鋭利な山頂に人間を串刺しにする『針地獄』の能力。敵を自動追尾して、突き上げる。
「そいつの弱点は、その柱ではないッ! 五十メートル圏内にこの『針地獄』を展開する怪物の核がある! 十二角形程の、翡翠の色をした球体だ!」




