55.白蘭式②
55.白蘭式②
これには仲間の黒兎も驚かずには居られなかった。アブホースを倒して、日本人を蘇らせる? 馬鹿馬鹿しい話だ……でも、花音らしいやり方だ。微笑さえ浮かんだ。
これが愛路橋花音。黒兎を始めとする『白蘭館』の当主なのだ。
「反魂の成功率は高いとお母さまも言っています。命を引き換えに命を蘇らせるのは、反魂式の基本中の基本。賢者の石も、賢者の意思を捧げることで生まれる生命の塊であると、高名な錬金術師も言っていますね。花音さんの術式が上手く行くかどうかは別として、時限爆弾としてアブホースを傷つける方法は、確実にアブホースを倒す鍵となります。つまり、アブホース討伐は決して机上の空論ではないのです!」
ウェンディが断言すると同時に、今まで沈黙を守っていたメリーが口を開いた。
「アブホースが死ぬ時、必ず近くの人間に堕神点を仕組む。もし、あなたが行くというなら、あなたが次のアブホースの魂を背負って生きることになる――その覚悟はあるの?」
「――私は、それでも世界を救いたい――」
愛路橋花音には一点の曇もない……メリーはそう感じていた。
ロバートとの接触もあって、徐々に人に慣れ始めていたメリーの抱いた、純粋な思い。
信頼を置くには、十分すぎる器のようだ。
「ならば、私たちも全力で、日本を救うことを誓いましょう」
「私からも、是非」
花音とメリーが固く握手を交わす。それだけで、全ての目的は一つとなった。
「アブホースに白蘭式を当てるためにも、私とメリー様で図書館に向かうことにしましょう。黒兎さん。貴方は夢見野さんと、ここで命令をしてください。遠くから離れて、『ウボ・サスラ』の討伐の支援と、私に報告を――お願いします」
「今頃、断る必要もないわ! メリーちゃんもやる気になったみたいだし、俄然戦う気分が沸いてきたってものよ。ねえ? 絵本た~ん!」
「……うん」
いつの間にか、テレスと一緒にパズルをしていた絵本が憂鬱に答えた。半分の意識はパズルに向けられていた。
「作戦の日時は、また後ほど決めましょう。それまで、どうかごゆっくり……」
花音が天井を見上げていた。涙を抑えるようにしているのか、ぼうっとして、呆けてしまったのかは知れないが、今まで以上に白熱したことで、高ぶる気持ちが隠せないといった様子の方がしっくり来るようだ。風歌に連れられて、花音はエレベーターの中に姿を消した。




