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第1話 毒に慣れた男
「藩主暗殺の気配が漂う夜、最も切迫していたのは彼の腹具合。」
会津の冬は、刀の刃のように冷たく鋭い。
雪に埋もれた城下で、遠山家の旗が凍てつく風に揺れていた。
天保年間、世は泰平の夢に酔いながらも、会津藩士の胸には、忠義と疑念が静かに渦巻く。
ある夜、雪煙のなか、一振りの刀を携えた男が城下の闇に消えた。
その背を見送る影が、雪の向こうで息を潜めていた――誰かが、藩主の命を狙っている。
潔目処新左衛門は、藩の毒味役の家に生まれた。
その名は、主人に出された食事に毒などの異物の混入が無きこと、つまり潔の目処を立てたことが由来である。
幼少より毒に身を慣らす修練を積み、母の出す食事には常に少量の毒が盛られていた。
そのおかげで、藩主に毒が盛られた際も、四半刻後に軽い異変を訴えただけで、何事もなく徒歩で下城した。
しかし、毒を体外に排出する特異な体質ゆえ、彼は大汗をかき、大量の糞をする。
特に問題なのは、常なる便意である。
「ケツの目処がたたぬ」と自嘲する彼は、この日も物陰で野ぐそに励んでいた。
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