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乙女ゲーの世界に転生したモブが、公爵令嬢と付き合うことになった話  作者: 乙賛


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第11話 強制力の呪い

 俺の考察が終わるのと同じタイミングで、ケーキも食べ終わった。食後もアリシアと、たわいのない話をするが、そのなかで恐らく取り巻きらしい連中の話が出た。


 如何にもモブという名前だったので、俺の記憶に残っていた取り巻きは、何事もなかったようにアリシアと仲良くやっているらしい。イベントに絡んでこない限りは、アリシアの良い友人としていてくれたら良いと思う。そう、イベント外のアリシアは、彼女の素の状態のはずなのだ。そこに仲の良い友人がいることは、悪いことではないのだから。


「さすがに、そろそろ戻らないとな」

 しばらく話し込んだ後、俺はアリシアに授業に戻ろうと声を掛ける。少し残念そうな顔を浮かべつつも、アリシアは当然のように俺と腕を組むと軽い足取りで歩き出す。何かが腕に当たっているのは、強制力からの詫びなのか、そっち方面の経験値ゼロの俺に対する罰ゲームなのか……考えないようにしよう、無心だ無心。



 楽しげなアリシアとは逆に、俺の心はひどく冷静だ。この状況――ふたりきりでのケーキ屋デートが、イベントなのかどうか。そう、俺にはイベントかどうかを、判断する方法がないのだ。結果的に鑑定結果が更新されれば、イベントだったと判る。しかし、イベントの結果何もなければ、選択を誤ったり、内部パラメータの微増程度で、鑑定結果に現れる程のものでなければ、俺には判断できないのだ。


 今のアリシアの鑑定結果が変わらないことから、イベントではないと思いたいが、《《イベントであっても、フラグもパラメータも明示的に更新されない》》、という可能性。レベルは表示されるが経験値は表示されない、そんな感じのものだったら、もはやお手上げなのだ。


 それは、今俺と腕を組んでいるアリシアが、本心で俺を好きでいてくれているのかわかりようがないということ。親密度やフラグによる、強制力の結果ではないかという恐怖。


 強制力の呪いと言ってもいいのかもしれない――





「高貴な公爵令嬢ともあろう方が、授業をサボって男と何処に湿気込んでいたのかしら?!」

 教室に戻るなり、目ざとく俺たちを見つけたピンク髪が大声を上げる。何とも下品な内容だが、アリシアを貶めるためには手段を選ばない辺りが、悪役聖女らしいというべきか。


「大丈夫か、アリシア! 貴様、聖女とはいえ、たかが平民の分際で……」

 とてつもない既視感のある台詞。王太子のアリシアを庇う声は、俺にはとても哀しいものに聞こえた。恐らくこれは、日常パートの繰り返しイベント。定型だが、繰り返すことでパラメータが増減する、ゲームの作業工程でしかないパートだと思う。そこで自身の役割ロールを忠実にこなす王太子の姿は、強制力の恐ろしさを改めて知らしめるだけのものでしかなかった。


 しかも庇われたアリシアは、俺の背中に抱き付くように隠れている。それは王太子のことなど、目にも入っていないかの様子。恐らく、この後王太子が俺に絡んできて云々という、繰り返しのイベントが消化されていくのだろう……。


「貴様! アリシアになれなれしいぞ! 下級騎士の息子の分際で!」

 やはり日常パートなんて、使いまわしでしかないのだろう。再び既視感のある台詞と王太子の怒りの表情。その背後でモブに成り下がった、ゆかいな仲間たちが「そうだそうだ」と合唱するまでもが、定型化されている。そのあまりにも非人道的な仕打ちに、どうでもいい相手だと思っていた連中にすら憐れみを覚える。


「あらあら、公爵令嬢なのに、そんなに男を侍らして、下級騎士の息子に抱き付くとか。淫売として査問に掛けるべきかしらね? それに、私があなたの教科書を破ったなんて、言いがかりはやめてちょうだい!」

 ん? ちょっと待て。今のピンク髪の台詞……さっきと同じだが、「教科書」とか言ったよな。ひょっとして俺たちが逃げ出したことで、同じイベントが繰り返されているってことなのか? とすると、これは日常イベントではなく、ちゃんとしたイベントということ。選択をミスれば、どうなるか見当がつかない。なんせ、再構築なんていう、禁じ手を使ってくる強制力が相手なんだからな――


 ――落ち着いて、冷静に考えるんだ。


 このイベントは、悪役聖女による公爵令嬢へのいじめ。恐らくその初回イベントだ。再構築前は役割ロールが別ものなのだから、この逆いじめと言えるイベントのフラグなんて立つはずもないからな。


 本筋の乙女ゲーなら、ピンク髪がアリシアに虐め続けられて、それを王太子たちが庇い続けることで、アリシアの断罪イベントのフラグが立つ流れ。つまり、今のこのイベントも今後何度も繰り返されて、俺や王太子が庇い続けることで、《《悪役聖女が断罪される》》、ということか?!


 そう考えると、アリシアの動きも腑に落ちる。悪役令嬢にいじめられたピンク髪が、王太子の後ろに隠れるだけで後は丸投げと言うのは、よくあるパターンだ。アリシアも、俺に庇ってもらうことを期待――強制されているのだろう。


 乙女ゲーをやっていて思うのは、ゲームの世界でも先生ってのは見て見ぬふりだってこと。そして、どんな無茶でも、声が大きい方の主張がまかり通るってことだ。


 前者に対しては、今更だろう。後者については、ヒロインとはいえたかが平民がいじめられた程度、しかも相手は高位貴族令嬢なら、権力で蓋をして終りのはずなのに、何度も声を上げ続けるヒロインによって、権力構造を無視したストーリーが展開されるのだ――



 ……大体わかった。俺がこのイベントを、ぶち壊してやる!



「おい! 聖女といえども平民が、公爵令嬢に何て口をきいてるんだ。このことはきっちりと出るところに出て報告させてもらう。王太子殿下も、もちろん証言頂けるだろうし、そちらの高位貴族のご子息たちも同様だろう。もはや貴様に言い逃れの余地など無いことと知れ!」

 俺は背後のアリシアの手をそっと握りしめつつ、そう大声でピンク髪を断罪した――

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