ENDING. アンヌの計画
勢いで書いた話を読んでいただき、ありがとうございました。
シュシリアンヌは、勇者の故郷を知らない。行ったこともない。だから勿論、転移もできない。今更ながら気付くのは、セインのことを何も知らないということ。
結局最後まで、セインは一人で頑張っていたんじゃないか。思い至って、シュシリアンヌは躊躇していた。
旅が終わった今、シュシリアンヌはせめてセインの友人と名乗って良いのかも分からなかった。
「何言ってんの。アンヌもセインも、本当にお似合いのおバカさんねぇ」
マリーは、笑っていた。
「分からないこと考えても、答えなんて出ないよぉ。直接聞けばいいじゃない?」
北部高原の争いの仲介に行くって言ってたと言われて、シュシリアンヌは近くへ転移した。
苦労して着いたら、セインはいなかった。
人のこと、自由にしておいて。
一体、どこで、何やってるの。
シュシリアンヌは、僻地の近くへ転移した。
「セインの居場所を教えなさい」
例の、街長の息子を魔法で締め上げて聞いた。
教えられた道をたどり、セインの故郷に着いた。セインを買った民長にやっと会え、セインは何処だと聞いた。
「もう、とっくに恩人で息子にしたいと言ったんだが、聞く気がない。魔王討伐に旅立つ前にも、許可を得に来た」
帰る所がなくなるから、と言って。
「あいつは、何処かの高貴な生まれではないのか」
読み書き計算が出来る、学ぶことが好きな青年。
それに、魔法は高位の貴族ほど宿りやすい。
「あいつは多分、あいつの天幕で本を読んどるよ」
元々物静かで、読書が趣味だと言われて、シュシリアンヌは知らなかったセインを知った。
シュシリアンヌは、村の外れのテントに呼びかけた。返事が無いので勝手に中を覗いた。
見えたのは本棚ばかり。壁を見上げると見覚えのある剣が、壁に掛けられていた。奥へ進むと、セインがハンモックで丸まって寝ていた。床には開いたままの本が落ちていて、眠っているセインを見るのは久しぶりだった。
旅の初めは昼寝していた時もあったし、強い魔物に襲われて、危なかった時もあった。だけど、その後は一度だってセインはうたた寝すらしなかった。
一月ぶりに会うセインは、子どもっぽい青年に見えた。シュシリアンヌは本を拾ってから、寝顔を見ていた。
「セインは、姫じゃなくなった私には、一欠片の興味もないと」
セインを見て安心した。なんて能天気な寝顔。
「勝手に自由にして、置いてけぼり」
安心したら、苛立った。こんなに気の抜けたセインの顔。きっと旅の間じゅう、ずっと気を張っていたのだろう。
「本当の名も名乗らず、逃げて」
もう、セインが誰だって何だって構わない。だってやっぱり、好きだと思う。
ここまでの苦労のせいで、ふつふつと姫様モード、スイッチオン!
「どう責任取ってくれるのですっ」
だって、すごくすごく会いたかった。もう会えなかったら、また後悔するって。
「へへ」
セインが目を開けて、両手を伸ばした。
「アンヌ」
呼ばれてハンモックに座ろうとしたらコロンとして、そのままアンヌはセインの両腕に収まった。
いい夢だ。
何年も会えなかったときは平気だったのに、今は毎日アンヌのことを考えていた。昔の約束云々なんて、もうきっと関係なくて、日に日に好きになった。
ロンとマリーは離れても友達だと言っていたけど、人は忘れる生き物だ。自分と違って沢山の人に囲まれたアンヌは、これから忙しくなって、いずれ時々しか勇者を思い出さなくなるだろう。
俺の目標はアンヌの幸せだから、平和な世界がいい。アンヌには、ずっと幸せでいてほしい。
北部高原の仲介にいずれ行くけれど、今は少し休みたい。旅の間、らしくない自分を演じて疲れた。
ああ、いつかまた会いたい。
「好きだ」
寝ぼけながら、セインは会心の一撃を放った。
真っ赤になったアンヌは、一緒にハンモックに収まってセインに抱きかかえられていた。
「じゃ、ど、ど、どうして、黙って行ったの」
「うん」
「返事になってない」
姫様モードで、怒ってるアンヌも好きだ。だって誰かのために怒って、素直な気持ちをぶつけてくれる。
「私すごく困ってる。毎日、セインのことばっかり考えてて」
「好きなんだけど」
すごく、いい夢だ。
「一緒にいてくれる?」
頭上で、寝息が聞こえる。
セインの重みが掛かって、苦しいはずなのに嬉しい。
どうしよう。寝てる。
「ねえ、勇者」
「ねえ、セイン」
リセでも、まあ、もう何だっていいか。自分だって、シュシリアンヌでも、アンヌでも、リアでも、セインが呼んでくれるなら何でもいい。
それに既に、計画を立ててある。
セインを探しながら、これからどうしたいか考えた。
民長から、セインを金貨一枚で買った。これで、セインは逃げられない。でも、無理矢理連れて行くのは嫌だから、気付かれるまで内緒にしようと思っている。
それから、北部高原に行くセインの予定は潰した。
アーイウ国の姫と、ソーイウ国の王子を魔法使いアンヌの弟子にした。二人とも喜んで着いてきた。生まれてからずっと争っているのが、二人とも馬鹿馬鹿しいと思っていたそうで、帰ってきて欲しかったら争いをやめろと、両国を揺すっている最中だ。あの感じだと、最速で争いは終わるだろう。
セインが起きたら説得して、民長の所で待っている弟子を連れて、争いが終わるまでどこに隠れよう。二人とも勇者に会うのを楽しみにしていたから、説得に協力してくれるだろう。
もう、境遇を嘆くだけの姫でないアンヌは、ふふふと笑った。
魔法使いアンヌの計画では、この先もセインとやりたいことが沢山あって、時間が足りないくらいだ。
◆
『一緒に生きましょう』
計画は続いていく。
まずは目が覚めて、腕の中のアンヌが夢でないのに気付いてセインが悲鳴を上げるところから。
試験は、ギリッギリのミラクルな点数で合格しました。ホッ。




