魔物生態研究会
短いですが、少しづつでも
次の日のこと。
当然のことながら、ミリアからキリエラが辞めたことを話された。
「いきなり辞めちゃうんだもの! 驚いたわよ!」
キリエラは数日前から副部長に仕事の引き継ぎをしており、昨日になって部員への報告があったそうである。
事情は皆に説明したようであるが、一番の理由が「自分の居るべき場所が見つかった」という事らしい。
ボクとしてはなんとも息苦しくなることを言ってくれたと思う。
「それにしてもキリエラ先輩って意外に積極的だったのね」
ミリアはボクの方を見て、ニヤニヤとしながらそんなことを言っていた。
明らかに何か勘違いしている様子なので、キュドが顧問であることが魅力的だったらしいと伝えたのだが「そういう事にしてあげる」と、全くもって誤解は解けそうにない様子であった。
放課後、部活の設立願いを出すために生徒会を訪れたとき、アレオスは驚きながらも愉快そうに笑っていた。
「ハハハ! 本当に面白いなキミは! 認識を改めないといけないかな」
そう言って笑うアレオスを見て、他の生徒会のメンバーは意外そうな表情をしていた。
そしてボクに向けられる視線は何やら冷ややかであり、あまり歓迎されていない。
「顧問にマイオール先生、それにキリエラが部員とは想像だにしなかったな」
「えーと……まあ、成り行きといいますか……」
ボクは頭を掻きながらそう答える。
「フフ、カーズが知ったら、どんな顔をするのやら」
意外な言葉に少し驚いてしまうが、それだけアレオスも魔法騎士団には苦労させられているのだろう。
「うん、マイオール先生が顧問なら、実地調査も問題無さそうだね」
部活内容については特に問題は無いようで、さらりと目を通しただけであっけなく終わってしまった。
一生懸命考えただけに少し寂しくもある……
大体の確認が終わった後、アレオスは少し考えてから口を開く。
「最後に幾つか聞きたいのだけど。もし多くの入部希望者が来てしまったらどうするんだい? 部長の一存に任せられるのかな?」
「いえ、銀鈴さんやアエーラさんに確認してからになるかと……まあ、ボクがいたら来ないと思いますけど……」
「なるほど。では今後、積極的に部員募集は行うつもりかな?」
「いえ、二人とも多くの部員は望んで無いので……どうしてもという希望がなければ……」
ボクの答えに、アレオスはニコリと笑って頷いていた。
「うん、問題無いようだ」
問題無い。恐らくはボクが状況を把握できているのか確認といったところだろう。
あくまでもボクはオマケである。銀鈴とアエーラを中心として考えていれば、生徒会の立場としては「問題無い」のだと思う。
「活動はすぐにでも始めてもらって構わないよ。部室に関しては、そうだな……アシュクロット。どこか空いてる場所があったら案内してあげてくれるかな?」
腕を組んで壁に寄りかかっている生徒に声をかける。
金色のさらりとした短髪に、吊り上った切れ長の目、シワひとつない制服を着こなしているところからも真面目な性格が伺える。
明らかに不機嫌そうな表情をしており、ボクを良く思っていない雰囲気がプンプンと漂っていた。
「……はい。了解しました」
アシュクロットはそう答えると、ボクを見向きもせずに扉へと向かってしまう。
ボクは置いて行かれないように後を追いかけ、部屋を出る前にアレオスにお礼を言う。
「あの、ありがとうございました」
アレオスはいつものように微笑んで、小さく手を振ってくれた。
生徒会室を出た後、アシュクロットは一言も話すことなく歩き続ける。非常に気まずい空気であるが、ボクから何を話しかけることもなく、ただただ無言で追いかける。
彼も生徒会の一員であり、優秀な生徒なのだろう。只の一年生のボクのことなど相手にする必要はないと思うのだが……
それでも入ったばかりの一年生が目をかけられていれば、あまり面白くないと感じるのかもしれない。
まあ実際には、目をかけられているのとは違うのだが、そんなことは以前のやり取りを見ていなければ、分からないのも仕方がない。
暫くすると、アシュクロットは講堂の裏手へと進んでいく。
講堂の陰に隠れて日の当たる時間が少なく、少しジメジメとした雰囲気がある。
進行方向に古い塔の様な建物が見えてきたところで、アシュクロットは足を止めて口を開く。
「講堂の部室は埋まっている。空いているのはここくらいだ」
「へー、何だかおもむきのある建物ですねぇ……」
古くて蔦がはびこっている辺りはクレイ寮に似ているが、しっかりとした石造りの建物である。周囲に施された装飾からも歴史があるように感じられる。
一体何のために建てられたのかは分からないが、結構な高さがあることから見張り台のような役割だったのではないだろうか。
「……おもむきがあるか」
アシュクロットはそう呟くと扉を開けて中へと入る。
一階は倉庫として扱われているのか、埃をかぶった椅子やソファー、それに何に使われるか良くわからないような物が雑多に置かれていた。
壁を這うように螺旋階段が上へと向かっており、塔の一番上まで同じように続いているのだろう。
中の様子を見回していると、アシュクロットは何も言わずに階段を登り始め、ボクは慌てて後を追いかける。
塔の内壁に沿って一周するごとに内側の壁に扉が見られる。中央部分が部屋になっているようである。
方向感覚が無くなる程にぐるぐると登り続け、一番上にまで辿り着いたところで、ようやく足を止めて扉の鍵を開ける。
「下の部屋は学園行事の備品倉庫で空けるわけにはいかない。ここを使ってくれ」
扉が開くと、久々の訪問者を歓迎するように埃が舞い散り、薬品のツンとした匂いと、かび臭さが混じり合った何とも言えない異臭が出迎えてくれる。
部屋は予想通りの円形をしており、反対側に大きな半円形の窓が一つ。
壁に沿うように棚が並んでおり、色褪せた本やひび割れたフラスコ、薄汚れたビーカーなどの実験道具が乱雑に詰め込まれていた。
部屋の中央には、水平を保っていないテーブルが置かれ、統一感のない様々な椅子が積み上げられている。
何故だかベットが置かれており、その姿を隠すかの様に大量の箱が積み重ねられていた。
むしろ部屋というよりは、忘れ去られた物置に近い。いつ頃から使われなくなったのか分からないが、昔は何かしらの実験室に使われていたのだろう。
しかし、部屋自体は天井も高く、四・五人で使うには十分すぎるくらいの広さがある。
掃除は大変だと思うが、しっかりと整理すれば快適な部室になりそうである。
「こんな場所を使わせてもらってもいいんですか?」
アシュクロットはボクの言葉を聞いて、少し驚いたような反応を見せていた。
「誰も使いたがらない不要な部屋を選んだだけなんだがな」
「え? ここが?」
まさか不要と言われるとは思わず、驚きの声が漏れてしまう。
貰えるだけ有り難いと思っていたので気にもしなかったが、そう言われてみれば確かにそうかもしれない。
雑多で埃まみれな上に異臭が立ち込めているし、場所は講堂からも寮からも離れていて不便とも言える。
そういえば階段で一番上まで登るのも結構な労力だし、暗い感じも決して良い条件とは言えない。
まあ人目にも付きにくいのは、ボクとしては都合が良いのだけど。
「文句の一つでも言えば、部室は諦めろとでも言ってやろうと思ったんだがな」
アシュクロットは厳しい表情でボクの事を睨みつける。
「正直な話、会長以外はオマエのことを良く思ってない。たまたま運が良かったことを自分の実力とは思わないことだな」
ホントであれば、こんなことを言わたらムッとするところなのかもしれない。
けれどそんな感情が湧いてこないのは、何となくアシュクロットの言っていることが理解できるからだと思う。
普通に考えれば、滞りなく部活が作れたのは銀鈴やアエーラがいるからである。
それにキュドが顧問になったのも着任のタイミングが良かっただけ。キリエラだってキュドが顧問でなければ入るわけがない。
他の人からしてみれば、ボクは運よく優秀な人達に混ざれただけのただの一年生。調子にのるなと思われても仕方がないと思う。
んー、でも銀鈴とアエーラに対しての不敬になるんじゃないのかな……
まあそこら辺はボクには良くわからないけど。
アシュクロットは、ボクの手に鍵を落とすように渡して部屋を出ようとする。
「あの、案内してもらって有り難うございます」
「……まあ傲っていないことは救いだな」
アシュクロットは、お辞儀をするボクに少しだけ視線を送ると、そのまま部屋を出て階段を降りていってしまう。
【クックックッ、嫌われたもんだな】
んー、まあ仕方無いとは思うけどね。
一年生で部活を作ることだって、考えてみれば確かに生意気だし。
まあ、理由があるから仕方がないんだけどさ……
【生徒会にも嫌われ、騎士団にも嫌われ、他の部活にとて良く思われないだろうな】
グッ……時が経つにつれて、ボクの居場所がどんどん狭まっていくような……
『実力が認められれば良いわけです。これから地道に積み重ねていきましょう』
まあ焦る必要は無いよね……
とは言っても変に目立つ気は無いんだけど。
何はともあれ部室が貰えたのは非常に嬉しいことである。
皆の居場所が確保できたわけで、これでボクの狭い部屋にギュウギュウになりながら集まる必要もなくなったわけである。
今はまだ汚いだけの部屋だけど、どんな部室にできるか考えていたら、それだけでも楽しくなってくる。
先ず皆に伝えること。
それは「最初の部活は部室作りになった」と言うことである。




