入学式
*一部内容を訂正しております
数日ではあるが寮の生活にも少し慣れて、落ち着いてきた頃に皆の事を思いだす。
キュドはギルドの方に言付けを頼んどくと言っていたし、ロイズとカレンもギルドに顔を出してくれと言っていた。
入学式が終わってからではどうなるかもわからないので、今からでも訪ねておくべきだろう。
ギルドの場所を知らないけども、たぶん中心部にあるだろうと街へと繰り出した。
しかし、そんな考えが甘かったことは探しに出てから気づいたことである。ここまで広い街でそう簡単に見つかるわけもない。
クロには田舎とは違うと怒られ、シロからは準備をすることは大切だと注意を受けてしまった。
無駄な時間使ったことに反省しながらも、ようやくの思いでギルドへとたどり着くことになる。
ウハ……
やっぱり大きさが違うんだね……
眼の前に立つのはギルド本部であり、今までの支部とは大きさも規模も段違いであった。
学園の中央に立っていた建物位に大きく、立ち替わり入れ替わりで人が出入りしている。
中に入ってみると正面には受け付けが6つ並んでおり、どこも冒険者の対応に追われているようである。
受付の番号札を受け取ると、暫く待ちそうだったのでギルドの中をうろうろとしていた。
受付の左側には掲示板が有り、様々な依頼が張り出されている。
ざっと見た感じでは、ほとんどが護衛や傭兵の募集のようで、次に多かったのが素材の調達などの仕事である。
フーン……
魔物の討伐なんて素材目当て位なんだね。
『ゴブリンのような事態は稀なのでしょうね』
【そりゃ何の目的もなく討伐なんて依頼せんだろう】
そりゃ、言われてみればそうだよね。
ダンジョンの探索なんて依頼を出す人がいるわけないし……
じゃあボクが小さい頃に聞いていた冒険者の話ってなんだったんだろう……
現実を目の当たりにして、理想が崩れるような気分だ……
『それは勘違いではありませんか? 依頼が金銭に関係する事だけであって、ポコが想像しているのは金銭に関係ない事を成している者だと思います』
え、何々? どういうこと?
【相変わらず物わかりが悪いな!】
す、すいません!
【この間のダンジョン探索を考えてみろ。誰かの依頼を受けたわけではなかろう】
あ、なるほど。
お金にならなくてもダンジョンを探索したいと思う人はいるんだものね。
その人たちが報告したことが冒険譚になっているわけだ。
【ウム、むしろそう言った者が少ないのは仕方がない事だな】
うん、それは確かにそうだと思う。
生活だってあるわけだし。
冒険者と一括りにはしているけど、いろんな人がいるだろうしね。
依頼の掲示板を後にして、反対側の掲示板を見て歩く。
ギルドからの注意事項や呼び出しなどがいくつも張られ、その横には昇格に関する通知も張り出されている。
ヘー、昇格って張り出されるんだねー……
ってアレ……
[ポコ・コロネル 上記の者 A級への昇格を通知する]
ちょ、ちょ、ちょ!
飛び級すぎるでしょ!
名前もでてるし!
ボクのことを知っている人がいる訳ではないのに、焦って周りを見回してしまう。
入学式の前に来ておいて本当に良かった……
剥がしてもらえるようにお願いしよう……
番号が呼ばれて受付に行くと、女性が対応してくれた。
「御用件は何でしょうか?」
「言付が無いか確認に来たんですけど……それとあの張り紙を取ってもらいたいんですが……」
少し不思議そうな顔をしながら、ボクが指し示す掲示の方に顔を向ける。
「昇格通知に関してですか? 本人のライセンス更新が終われば剥がされると思いますが……?」
「じゃ、じゃあ、すぐにでも更新してもらえると嬉しいです」
ボクがライセンスを机の上に置くと、受付の女性は何度かボクの顔とライセンスを見た後に「本人で間違いありませんか?」と確認される。
本人だと伝えると「ちょっとお待ちください」と席を離れてしまった。
中々に戻ってこないので何をしてるのかと思ったら、奥で上司らしき男性に確認しているようだった。何度かこちらを見て、少し怒られているようにも見える。
女性はイソイソと他の場所へと移動してしまい、変わりに男性がボクの方へとやってくる。
「イヤイヤ、すいません。ちょっとした手違いだと思うんですけど……えーと、ポコ・コロネルさん本人で間違いないですね?」
「はい、そうですけど……」
「んー、困ったなぁ……少し待ってもらえますか?」
何だか少し面倒くさそうな雰囲気を出しながらそう言ってくる。
男は何度か席を離れ、戻ってくると書類をパラパラと捲っては、腕を組んで考え込んでいる。
アレアレ、ボクとしては言付を確認しに来ただけで、昇格とかどうでもいいんだけどな……
「あの……何か問題でも?」
「いや、業績の書類が見当たらなくてね……今確認を取ってるんでもう少し待ってもらえると……」
なるほど、ボクの様な子供が飛び級で昇格となれば、手違いだと疑うのは当然かもしれない。
ボク自身もおかしいと思っているわけだし、遅くなるのであれば今度にしてもらっても構わないのだが……
「あの、今日は言付を確認しに来ただけで、昇格の件は張り紙を剥がしてもらえればそれで良いんですけど」
「え? 言付け?」
先ほどの女性は昇格の内容に驚いて、言付については何も伝えていなかったようである。
「なんだ! じゃあ直ぐに言付を確認しますので」
男は面倒事を回避できたと思ったのか、ホッとした顔をして席を立って行ってしまう。
……でも確かに突然A級だなんておかしいよね?
ギルド関連と言ったらゴブリン事件くらいなんだから。
『あの一件でもそれだけの価値があったのかもしれませんよ?』
うーん、どうなんだろう……
【一緒に行った奴らも言っておったではないか、鬼人に対抗できるのなどA級数人がかりだと】
あ、そういえばロイズさん達がそんなこと言っていたような……
まあ今のボクには等級なんて関係無いからいいんだけど。
暫くすると先ほどの男性が戻ってくる。
「待たせてすいません、言付が1件、それと手紙をひとつ預かってました」
ボクの前に座ると、一枚目の紙を開いて差出人を読み上げる。
「言付けの方が……キュド・マイオール? さんからで……」
男は言付の差出人とその内容をみて少し驚いているようである。
「失礼ですが、この方はあのキュド・マイオールさんですか?」
「えーと、あの? と言われましても……」
「え、あ、すいません……」
男は言付けを読み上げる。
「敬愛するポコ様。住居が決まりましたので、会えることを楽しみにしております。とのことで地図もついております……」
キュドさん……
何ですか、この言付け……
皆の事がわからないじゃないですか……
男は怪訝そうな面持ちでボクの顔を見ながら地図を渡すと、次の手紙の差出人を読み上げる。
「えー、手紙の差出人は……ヨーゼル……ハイム……さん?」
男は先ほどよりも驚いており、目を見開いている様子であった。
あれ、ヨーゼルさんって確かギルドの調査員で来た人だよね?
てっきりロイズさん達の言付けかと思ったんだけど……
男は手紙をボクに渡すのかと思ったが、何やら固まってしまったようであった。
「あのー……どうかしました?」
「い、いえ、失礼致しました。では此方をお受け取りください」
何やら口調が丁寧になった気がするが、特に気にすることなく言付けの内容を確認する。
[これを読んでいると言うことは立ち寄って貰えたようで嬉しく思う。内々にではあるが君の業績は上層部において高い評価を得ることができた。内容は漏れない様にしてあるので安心してもらいたい。後の話はクネルから聞いて欲しい]
クネルと言えば、ヨーゼルの助手として一緒に調査に来ていた人だったと記憶している。
「クネルさんって此方にいるんですか?」
「え、あ、はい、おりますが……」
「あの、クネルさんから話を聞いてくれと書いてあるんですけど……」
「は、はい! 直ぐに伝えて参りますので此方に……」
何故だかボクも席を立たされ、奥の部屋へと案内される。
男はソファーに腰を掛けて待つように言うと、部屋から出ていき、ボクはひとり取り残されてしまう。
何だろうこの状況……
取り敢えずヨーゼルさんの手紙を読んで、何となく話が見えてきた気はする。
ダンジョン更新についても業績に加わっており、書類が無くなっていたのは約束通りに内緒にしてくれたということなのだろう。
でもそんな事ができるとしてヨーゼルさんは何者なんだろうか?
先程の男性の態度からも、ただの調査員といった感じでは無いようだけど……
そんな事を考えていると、男がクネルを連れて戻ってきた。
あの時と同じようにスーツを着こみ、少し脅えている様にも思える。
「何やら失礼があったようで……」
汗をハンカチで拭くような仕草をしながら正面へと座り、ペコリとお辞儀をしてくる。
「あ、いえいえ、お久し振りです」
「ヨーゼル様からの手紙を読んで頂けたと思いますが……A級への昇格は間違いありません」
「あ、そうなんですね」
そう答えると、何故だかクネルは少し黙ってから口を開く。
「あまり嬉しくは無さそうですが、何かご不満が……?」
「あ、いや、そんな事は……ただ実感が沸かないだけかと」
クネルはそうですかと、少しホッとした感じで話を続ける。
「それとヨーゼル様が連絡方法が知りたいと言っていまして……支障が無ければ連絡先を教えて頂けますと助かるのですが」
「それなら、学……」
学園と言いかけて少し考えてしまう。
今までこの言葉を安易に使い、何回も反省することになったわけで。
「何か問題が……? それでは掲示板に張り出しの形でも……」
「いえ! 学園に居ますので手紙を送ってくれれば!」
それはまずいと慌てて連絡方法を伝える。
もちろん掲示板にボクの名前を出すような事は無いようにとお願いした上である。
「了解しました。ではその様に伝えておきますので……」
そう言ってクネルは男性の方に目を向ける。
「先程は失礼致しました。此方が更新済みのライセンスになります」
男からライセンスを受け取り、何が変わったのかと確認する。
Dの記載がAに変わったことと、縁取りの色が変わった位で、他には特に変化は無い。
フーン……ますます実感がわかないけど……
テーブルの上に出された書類とライセンスにサインをして、更新作業を終らせる。
「他に何かありますでしょうか?」
「いえ、色々とありがとうございました」
そう答えて席を立つと、クネルはギルドの外まで丁重に見送ってくれた。
うーん……何だが仰々しい感じになってしまったような……
なんかクネルさんもそれなりの立場だったみたいだし……
ヨーゼルさんが何者なのか聞きたかったけど、申し訳なくて早々に出てきてしまったなぁ。
【クックック、面白い反応ではあったがな】
ボクとしては居ずらいだけですけど?
色々あって結構な時間を取られてしまい、既に日が落ちかけて街は赤みを帯びていた。
キュドの新居については一体どこなのか見当もつかない。きっとそのうちにまた連絡が来るのだろうと、そのまま帰路につくことにした。
寮に戻って部屋で休みをとっていると、扉がノックされパーマーが入ってくる。
「やあポコ。ずっと留守だったけど何処に行ってたんだい?」
明日の入学式のことで、何度かボクの部屋を訪ねたそうである。
「今のうちに街を散策しておこうかと思ってさ」
「えー、それなら声をかけてくれればよかったのに……」
「ああ、ごめん。今度からはそうするよ」
あまり同年代の友人というものが居なかったので、その辺の関係と言うものが分からなかったが、確かに一緒に出掛ければ楽しいだろう。
今度出掛けるときは……と思ったが、今日みたいなことがあったらと思うと、気軽には一緒に出掛けられないな……
二人で明日の入学式に必要な物の確認を取りながら、他にどんなクラスメートがいるのか、入学式はどんな感じなのかと盛り上がっていると、あっという間に夜となって寝る時間を迎える。
次の日、待ちに待った入学式の日を迎える。
「ポコー! 起きてるかい!」
扉をドンドンとノックする音が聞こえ、ベッドでまどろんでいたボクは、のそのそと扉の鍵を開ける。
「おはようパーマー……随分と早起きだね……」
「なんだ! まだ着替えてもいないのかい!」
入学式まで二時間はあるのだが、パーマーは既に制服のローブを羽織り、髪型もバッチリと7対3に固めてある。
「ちょっと早すぎないかな……」
「そりゃ遅刻するわけにはいかないからね!」
パーマーは鼻息荒くしてそう言うと、食事をとったら学園中央の建物である講堂で待ってるからと足早に出ていってしまった。
もう少しゆっくりしたかったのだが、仕方がないので準備を始める。
パーマーの奴、興奮しすぎじゃないですかね……
一緒に行こうと言っていたのに先に行っちゃうし。
いやボクも楽しみなんだけど、あそこまでではないかな。
『どんな同級生がいるのかはワタシも楽しみですよ』
そりゃもちろん。
これから6年間一緒に過ごすわけだしね。
【いや、まて、わからん! 気が付けば同級生が上級生になっているかもしれんぞ?】
うわぁ! 入学前からイヤなことを言う人がいますね!
流石に留年はしない! と……思いますよ?
『ポコは十分基礎を積んできましたからね、問題ないと思いますよ』
シロさん! ありがとうございます!
とは言え……どんな授業をするのか知らないから何とも言えないけど。
出来れば入学式前にフィリオに話を聞いておきたかったが、会うことができなかったので仕方がない。
今日は学生全員が参加しているし、顔を見ることくらいは出来るだろう。
準備を整え、食堂で適当な食事を取ってから講堂へと向かう。
やはりまだ少し早いようで、学生の姿もまばらにしか見られない。
「おーい! ここだよー!」
パーマーは入口の横で声を上げて手を振っていた。
いやパーマーくん……
そんなに人もいないから直ぐにわかるよ……
パーマーと合流すると「先頭に並ぼうよ!」「早く始まらないかな!」と、かなり興奮しており、一緒にいるのが恥ずかしいくらいであった。
講堂の中には入学式用の受付が出来ており、進行予定や席表が渡される。
式場には沢山の椅子が設置されており、正面奥が壇上になっていた。
新入生の席を確認し、ボクとパーマーは最前列に二人並んで座ることにした。
段々と人が増えていくと、パーマーはキョロキョロとして落ち着かない様子である。
「なんかお腹が痛くなってきた……ちょっとトイレに行ってくるね」
もうすぐ式が始まると言うのに、荷物を置いて会場の外に出て行ってしまう。
数分もすると会場の席はほとんど埋まり、ひとりの女性が新入生の席の前にやってくる。
少し太めの体型で白髪のお団子頭、つり目で少し厳しそうな表情をしており、新入生の人数を確認しているようだ。
「ひとり足りないようですが、この席の生徒は何処にいるか知っている人はいますか?」
新入生全員に聞こえるくらいの声で見回しながらそう言うと、隣に座っているボクに視線が移る。
「あの……さっきお腹が痛いとトイレの方に……」
「まったく……では戻ってきてから入学式を始めましょう」
生徒達が静かに座って待っていると、暫くして入口の方にパーマーの姿が見える。
会場が埋まっているのに驚いたのか周りをキョロキョロ見回していた。
「早くしなさい! アナタを待っているんですよ!」
パーマーは驚いた様に跳び跳ねて、ドタドタと走って席につく。
周りからはクスクスと言った笑い声が聞こえていた。
「ボク……昔から緊張するとお腹が痛くなっちゃうんだ……」
恥ずかしそうに真っ赤になり、俯きながら小さな声でそんな事を言っていた。
張り切って朝早くに起きて、新入生の中でも一番乗りに来たのに可哀想に思えてしまう。
全校生徒が揃うと講堂の灯りが一層明るくなる。
新入生を迎えるように、暫し音楽が奏でられていた。
音楽が鳴りやむと、講堂の入口から青年が壇上へと向かってゆっくりと歩いてくる。
見た目は30歳位に見えるが、その雰囲気からはもっと年配にも感じられる。
白髪でストレートの長髪を後ろに纏め、2メートルは優に越していそうな身長にしっかりとした体躯。穏やかな表情で瞳を閉じており、額や頬には紋様が描かれている。
新入生には戸惑っている者も多いが、壇上へと上がるまで教職員は静か見守っていた。
男性が壇上へと上がったところで、先程の女性が声を上げる。
「モントリア・デウス・クラウン学園長のお言葉です」
そう告げると女性は頭を下げる。
「新入生の諸君、この学園に来てくれたことを心から歓迎する」
静かでありながらも力強く、心に直接響き渡る様な声である。
会場は自然と静まり返り、全員がその声に耳を傾けている様であった。
「そして記念すべきこの日に、集ってくれた関係者の諸君に、心から感謝を述べたい」
微笑んで見渡すような動作と共にそう告げる。在校生の中には神を崇めるかのように、祈りを捧げている者もいた。
「ではイライザ先生、新入生歓迎の儀へと移ってください」
学園長は壇上に準備されていた椅子にゆっくりと腰を掛ける。先ほどの女性が、それを見届けて声を上げる。
「学園長、ありがとうございました」
壇上に大きな水晶のような球体が運ばれてくる。
よく見ると球体の中には様々な色の靄が浮遊して動いているようであった。
「名前の呼ばれたものから順に、ファルナを示して貰います」
女性は球体の方を示しながら、上級生の方へと目を向ける。
「まずは手本を見せましょう。生徒会長アレオス・ペルセリオン!」
「はい!」
生徒会長とよばれた生徒は、金髪青眼、精悍な顔立ちで身長も高く、その上に真面目そうな雰囲気が漂っている。
女生徒からは黄色い声援まで上がっており、学園内でも憧れの存在となっているのだろう。
パーマーが何かに気が付いたかのようにボクに囁いてくる。
「ペルセリオンって……ペルセリオン王国の王家の人かな? 格好いいよねぇ……」
憧れるような視線でアレオスの姿を追い、興奮しているようだった。
王家の出身で、学園に入れるほど優秀な上に生徒会長か……
皆の憧れの存在なんだろうなぁ。
【それは少し違うかもしれんな】
『確かに前提が異なる様に思えますね』
え、何々?
二人とも何を言ってるの?
『優秀だから入れたと言うわけではなく、優秀になるような教育が施されたのだと思いますよ』
【ウム、素質があろうとも指導する者が居なければ宝の持ち腐れである。逆にそこまでの素質がなかろうとも優秀な指導者が付けばこの学園に入ることは可能であろう】
なるほど……それはそうかもしれない。
確かに周りを見ると育ちの良さそうな人が多いような気もする。
そう言えばマルグリッド先生も、ボクたちが育った教会を優秀だなんて表現をしてたよね。
「ではアレオス、お願いしますね」
「はい、イライザ先生」
アレオスは学園長に向けて一礼すると、手にファルナを集中する。
ファルナを球体に向けて放出すると、ファルナは吸い込まれるように消えてなくなる。
球体の中の靄が渦巻くように動きだし、全体が赤に近いオレンジ色へと変化する。
新入生からは「わぁ!」と言った歓声が上がっていた。
「新入生の皆さん、自分の色を知り、その色をローブに示すと良いでしょう」
アレオスは後ろを向き、ローブに刺繍された同じ色の紋様を見せてくれる。
「アレオス、どうも有難うございます」
イライザ先生と呼ばれた女性は、アレオスにそう告げる。アレオスは一礼して自分の席に戻っていく。
『どうやらファルナを完全に解析するわけではなく、特徴を示唆する物のようですね』
じゃあ本当の意味での性質を知られる訳ではないんだね。
【クックック、真っ黒になれば闇の性質が強いことが示されたようなものだがな】
う……た、確かに……
変な色じゃないと良いけど……
まあ結果がどうなるかはさておき、自分の色が何色なのかは楽しみではあるかな。
「では早速始めましょう。カーター・ロックベル!」
「はい!」
後ろから眼鏡をかけた真面目そうな男の子が進み出てくる。
壇上へと上がりファルナを集中して放出すると、球体の中は薄い黄色へと染まる。
「黄色系統!」
イライザ先生が大きな声でそう告げると、一部の上級生から拍手と歓声が沸き起こる。
どうやら同系色を示した学生の様で、ローブの紋様の色を見せている学生もいた。
「では次、パンプ・パーマー!」
「は、はい!」
パーマーが呼ばれ、緊張した様子で前へと進み出る。
壇上に上がると、全校生徒に注目されている事に緊張が極限になったのか、今にも目を回して倒れそうな表情である。
「緊張するのは分かります、冷静になっていつも通りに行ってください」
イライザ先生が肩に手を置き優しく語りかける。
パーマーは深呼吸をしてファルナを集中し、球体へと放出する。
球体の中は渦巻くように動きだし、薄い黄土色を示す。
「黄色および茶系統!」
イライザ先生が大きな声でそう告げると、上級生から拍手と歓声が沸き起こる。
「良く頑張りましたね」
パーマーはイライザ先生に優しく声をかけられ、自分の席に戻るように促される。
自分の席に戻ってもまだ緊張しているようで、表情がこわばっていた。
「生きた心地がしなかったよ……上手くできて良かった……」
少し落ち着いてきたときに、ホッとした表情でそう言っていた。
その後も次々と名前が呼ばれ、色が示されるたびに上級生からは歓声が上がっていた。
中盤に差し掛かったあたりで、少し聞き覚えのある名前が読み上げられる。
「キース・ブラッドル!」
後ろを振り向くと、サラサラの銀髪に茶色の眼をした中性的な美少年と言った顔立ちの男の子が立ち上がる。
ローブの下から覗き見える服装も高級そうであり、身分の高い家の子供なのだろうと予想がつく。
自信に満ちた表情を浮かべ、堂々とした立ち振る舞いで壇上へと向かう。
一体どこで聞いたんだろうかと考えていると、パーマーが話しかけてくる。
「うわ……ブラッドル侯爵家と同級生かぁ……上手くやってけるかなぁ……」
その言葉を聞いて、セントリオで見た貴族の名前だと思い出す。
もしかしてあの時馬車の中に座っていたのが……?
うーん……そんな気もするけど、じっくり見たわけじゃないし……
まあ向こうも覚えてるわけないし、思い出したところで関係ないか。
キースは壇上へと上がると、余裕の表情で大きめのファルナを集中して球体へと放出する。
球体の中はほぼ黒の一色に染まり、若干ではあるが青も混じっているようにも思える。
「少し青みがありますが……黒色系統!」
イライザ先生がそう告げると上級生も歓声を上げる。
キースは上級生に手を振っており、視線の先を追うとキースにも似た銀髪で長髪の男が立ち上がって手を振っていた。
恐らくは兄弟なのであろう、満面の笑みを浮かべ嬉しそうにしている。
それを見てフィリオもあんな風に喜んでくれるだろうかと考えてしまった。
きっとボクが呼ばれるのを待ってくれているのだと。
終盤に差し掛かり最後の一人となった時にようやくボクの名前が呼ばれる。
「ポコ・コロネル!」
少しドキドキしながら立ち上がり、壇上へと向かう。
後ろからは「頑張って……!」とパーマーの小さな声が聞こえてきた。
壇上へと上がって全体を見渡す。学生全員の視線が自分に向けられており、パーマーが倒れそうな顔をしていたのも頷ける。
視線を球体に戻そうととしたとき、ふと視線の片隅に手が降られているのが映り込む。
さらりとした金髪に薄い青眼、優しそうな笑みを向けて手を振っているフィリオの姿が目に入る。
胸の中を何とも言えない感情が沸き起こり、危うく涙がこぼれそうになるのを我慢する。
ボクもこれが終わったら手を振って返事をしよう、そう思いながらファルナを集中して球体に向けて放出した。
ファルナは球体へと吸い込まれ、中の靄がグルグルと動き出す。
薄く光ったかと思うと、少し暗くなり、明滅するような反応を見せた後に元の状態に戻ってしまった。
暫く待っても色が示されず、会場はザワザワとどよめき始め、教員達も少し動揺している様子である。
「おかしいですね……もう一度お願いできますか?」
「は、はい……」
少し多めにファルナを集中し、確認するようにイライザ先生を見る。
イライザ先生は集中が間違いなく出来ている、そう言っているかの様にコクリと頷いていた。
球体に向かってファルナを放出すると、中の靄がグルグルと動きだし、先ほどより長い時間明滅していたように思えるが、やはりその後に元の状態に戻ってしまう。
数人の教員が立ち上がり、球体に異常がないか確認する。
球体は正常の様で、他の人の放出では色を示していた。
「彼も放出は間違いなくできています……」
「確かに動きは見られてるわけだし……」
「では原因はいったい……」
そんな声が聞こえ、ボクは壇上にポツンと取り残されたような状況であった。
そんな中で、会場からはクスクスと言った笑い声が聞こえ始める。
「色無し……?」
誰が言い出したのか「色無し」という言葉が聞こえ、会場からは笑いを堪えきれずに吹き出す人たちが現れる。
「ブフッ! 色無し!」
「誰だ上手いこと言ったの!」
「もしかして透明?」
「逆にすごいな! 色無し!」
会場は笑い声と嘲笑の言葉で溢れかえり、笑いの渦に包みこまれてしまった。
次回は……
ようやくプロローグの部分と重なりますね。
ちょっと長すぎたような……
*キュドの言付の内容が変更されています。




