第五話 食堂にて
――翌日・6月14日朝10時過ぎ・ウクライナ軍基地・食堂――
「おはよー和真。元気~?」
俺が朝食を取ろうと食堂でトレイを持って涼と並んでいると、ちょうど勇希がやってきた。
春奈、石田軍曹も一緒だ。
ちなみに「元気~?」と聞くのは勇希の口癖だ。
「あれ……珍しいわね。あんたの方が早いとは」
春奈はなんか物珍しそうな顔で見て来る。
「うるせぇ。昨日の戦闘のお陰で起床時間が10時に変わったからな。良く眠れたぜ」
戦闘が終了したのは0430頃(4時30分の事)。
戦闘開始が0125だったから実質3時間程度で制圧が完了した。
基地攻略としては異例の速攻だったが、あのヘリ以外は殆どまともな戦力無かったし、増援は到達する前に別動のウクライナ軍に殲滅されていたし、例外って言えば例外だ。
ちなみに、俺達WAPの基本起床時間は午前5時。
いくら屈強な(無理やり屈強に仕立て上げられた)WAP陸軍兵士とは言え、1時間半の睡眠じゃあ訓練もできやしねぇ。
ってなわけでさすがに起床時刻の変更が許されたのだった。
「って、実質的な睡眠時間はいつもより少ないじゃない」
と春奈は列に加わり、今日の日替わりメニューを見ながら言った。
「気分だよ気分。10時まで寝てるとなんか寝た気がするだろ」
うーむ、我ながら馬鹿の勇希みたいな単純思考だ。
「なるほど、今日の和真は絶好調か。こりゃあ30周追加の約束は期待できそうだ」
石田軍曹が憎たらしい顔でほほ笑む。
「ゲ、覚えてたんですか……勘弁してくださいよ」
この筋トレ馬鹿のせいで無駄な体力を消耗したくない……。
「軍曹、私は無罪です! 刑罰は是非馬鹿和真だけに……」
トレイに朝食を受け取っていると、春奈が抗議しているのが聞こえた。
「悪いが俺は公平な判断をしなくちゃならんもんでな。なに、30周位すぐに終わるさ」
はっはっは、と笑いながらトレイにメシを受け取る軍曹。
くそう……もはや回避不可能か……。
「それ以前に俺が課しちゃった50周の刑も残ってるけどなぁ」
俺がトレイを運んでいる途中、後ろから声がした。
「しっ、柴田中尉!?」
「敬礼!」
石田軍曹の声に反応し、敬礼しようとするが、
「いや、無理でしょ」
と柴田中尉が言うように、トレイ運搬中の俺らは敬礼ができなかった。
「別に良いって良いって。つーか今日の日替わり定食中華ソバ? 朝っぱらから良く食うねぇ~」
中尉は俺と涼のトレイを見ながら言った。
俺が毎日必ず日替わりを頼んでいるのを知っているからこそのリアクションだ。
ちなみに涼はただのラーメン好き。
「別に食えればなんでも良いんですよ。日替わりは飽きませんしね」
俺はトレイを持ったまま話す。
普通、上等兵である俺が6階級上の“中尉”に対しこんな言葉づかいは出来ないが、まあこの人は特別だ。
「日本人なら黙って日本食でしょうよ。ま、伸びるからさっさと食っちゃった方がいいよ~」
そう言って手をヒラヒラさせながら朝食の列(といっても夜出撃した部隊だけだが)へと混ざって行った。
そんな感じで俺達はテーブルを見つける。
「やぁみなさん。今朝は良く眠れましたか?」
さわやかスマイルで隣のテーブルから挨拶してきたのは、第三分隊の渡伍長。
「ああ。お前らの獲物をブン取ってやったお陰で、いい夢見れたぜ」
それに対し石田軍曹は、またも憎たらしいスマイルで渡伍長に返す。
「あ~あ~、村山さんのせいで石田軍曹増長してるぜ?」
ハムエッグをつまみながら言う優男、浦田。
「アハハ、やっちゃったね~。でもあの場面は、精鋭部隊に任せて正解だったと思ったんだけどな~?」
特に気にしてないサバサバとした様子でウインナーをかじるスポ根女、村山。
「まぁその分俺らは楽出来た訳だし、正解っちゃ正解だったかもな。天才指揮官石田軍曹殿の爽快な大活躍と、精鋭突撃兵黒崎兵長様の華麗なる演武も見れた事だしなぁ、ニシシ」
変な笑い方と過剰過ぎてイラつく褒め言葉を綴るのはダメオヤジ錦辺。
「錦ちゃんの褒め言葉は容赦ないなぁ~、コレだからウチの隊ってタチ悪いよね~」
やたら甲高い子供みたいな声で更に低い身長を持つガキにしか見えない男、風間が人ごとのように言う。
皮肉家眼鏡、浦田。
ダメオヤジ、錦辺。
スポ根女、村山。
ガキ、風間。
そして変態伍長、渡。
この五人が、第三分隊なのだが、個性的過ぎてやばい。
唯一まともなのは村山くらいか。
「……タチ悪いのに絡まれたわね……」
露骨に嫌そうな顔をする春奈。
「おいおい、人を不良集団見たいに言うなよ。にしても和真、聞いたぜ?」
浦田が嫌な笑顔をし、俺の方を見る。
「なんだよ」
「『あばよ、老兵バンディード』だって? っく~かっこいいぜ和真! だはははは!」
俺の台詞を言って、浦田は大笑いする。
「ちょ! なんで知ってんだ!? あれ無線で流して無かっただろ!!」
誰にも聞かれていないセリフを聞かれていて俺は困惑するし超恥ずかしい!!
「何々~! 和真そんな事言ってたの!?」
おい興味津々で聞き出そうとするな勇希!
「何それ! 詳しく聞きたい!」
お前は明らかに馬鹿にする目的だろ春奈!
「わっはっは、『あばよ、老兵バンディード』だと? 一端の口聞くようになったモンじゃねぇか黒崎!」
軍曹、声デカイです!
「ドンマイっす黒崎先輩。浦田さんに知れたってことはもう基地中に広まってるハズっすね」
笑顔で言うな涼!!
「だはははは! まあまあ落ち着けって。この話は第六小隊の斉藤から仕入れた話なんだがな、無反動砲でハンディードを撃ち落とす時、この台詞を和真が小声で言ってたのが聞こえたらしいんだぜ」
浦田が説明する。
斉藤の野郎……なんつー地獄耳だ……。
「アッハハ! でも、あの時バンディードが墜落したのはビックリしたよね~」
村山が言う。
「ああ。突然爆発したもんだし、味方に対空ランチャーとか持ってるヤツはいなかったからなぁ。何かと思ったぜ」
と錦辺。
「それにしたって突然なんだから。いきなり和真、『無反動砲でヘリを落とす!』とかって言うもんだから焦ったわよ」
春奈が戦闘中を思い出して言った。
「突然言い出すのは黒崎先輩っぽいッスよね~。まあ機転が利くのは凄い事ですけど」
「涼お前、もう少し素直に褒められないのか?」
「だって普通、無反動砲でヘリを落とそうとは思わないッスよ」
「まあー、無反動砲は普通対戦車用の装備だからね~、発想の転換だね」
涼に続き、風間がしゃべる。
「だぁーもう! お前らだからもう少し素直に褒められないのかって!!」
俺はだんだん自分の扱いに疑問を持っていた。
「ははは、良いではないですか。それ程慕われているという事ですよ、精鋭突撃兵殿」
厭味ったらしく渡伍長が言う。
「くそっ、何かおかしいぞこの扱いは……」
俺は間違いなく自分の扱いに疑問を持った。
そんな、いつも通りの平和な時間が流れた。
しかし、突如として俺たちの、いや人類全体の平和が崩れることとなる。
俺たちは、まだ、それを知らない。




