第二十一話 栃木戦(Ⅴ)
――6月31日早朝・日光市郊外・第七混成大隊・第三陸戦歩兵中隊・デルタ臨時分隊&第八機動隊――
《こちらデルタ臨時分隊指揮官、ヴォルコフ曹長だ! 今はアパート四階部分に居る。急いでくれ! オーヴァー!》
ヴォルコフ曹長は、救援に来てくれた第八機動隊に無線する。
《第八機動隊“タイガーリーダー”了解! タイガーアウト!》
タイガーリーダーが、無線を切った直後だった。
「まずいッ! 被弾警報! ロックされてる!」
HMDに、砲撃型のロックを示す、《被弾警報》の赤字が現れた。
くそっ! 背後は瓦礫だ! 逃げ場は無い!
『飛べ! 窓を突き破れェェッ!!』
ヴォルコフ曹長は、踊り場の窓を突き破り、外に飛び出た!
俺達三人も、それに続く。
空中に飛び出る。
直後、俺達のいた場所が、爆炎に包まれた。
およそ15mの空中、生身なら骨折じゃ済まない。
アドレナリンの過剰分泌だろうか?
周囲がやけにスローに見える。
眼下には既に、第八機動隊“タイガー隊”が辿り着き、周囲を攻撃していた。
その上空から、俺達は落下していた。
地面が迫るが、受け身など取れる状態じゃ無かった。
左腕から、地面に触れた。
直後、激痛と衝撃で、一瞬意識が飛びかけた。
その俺の右腕を、誰かが掴んで引きずり上げる。
『――黒崎、黒崎兵長ッ! 生きてるか! 生きてるなら撃てッ!!』
あ……、この、声……。
「い、石田軍曹……!? ――ッ!! 了解ッ!!」
意識が覚醒し、ようやく周囲の状況が見えた。
周囲には三輌の重機動車、そして一輌の高機動車が迫りくるスパイダーを必死に迎撃していた。
機動小隊の定数は六輌……。
他の二輌は、元々居なかったのか、来る途中の戦闘で撃破されたのか……。
俺は、石田軍曹から右腕を放して貰い、散弾砲の残った弾丸で高機動車に乗り込みながら、張りつく敵を射撃した。
《デルタ6リーダーよりタイガーリーダー! デルタ臨時分隊回収完了! 出せッ!!》
《タイガーリーダー了解! 発進するッ!!》
その声と同時に、高機動車と三輌の重機動車は発進した。
高機動車の定員は運転手を除けば8人だ。
ここにはデルタ6第四分隊員五人と、俺達デルタ臨時分隊の四人がいる。
ただし座席が8つなだけで、捕まって立つなら10人は入れる。
今は涼が壁側に捕まって立っている。
『ったくアンタはッ! どこまで心配かけんのよッ!』
隣に居る春奈は、こちらを見ず突撃銃でスパイダーを迎撃しながら言う。
「悪かったな! 暴れん坊のヴォルコフ曹長に付きあったらこのザマだ!」
『暴れん坊なのはアンタも一緒でしょ!』
俺は涼から貸して貰った突撃銃を握り、走行を邪魔するスパイダーを狙う。
ちなみに涼は、走行中の車からも正確に狙撃が出来るらしい。化けもんだな。
その時、段差で車内が揺れると同時に、勇希がイスから転げ落ちた。
「勇希!?」
俺は射撃を中断し、勇希の肩を揺さぶる。
「ははは……ごめん、少し、血を流し過ぎたみたい……」
弱々しい笑顔で勇希は答えた。
ヴェクトルが砲撃した時、肩を裂傷してかなり出血がひどかった。
今は応急処置で出血が止まり、包帯も交換したが、重傷には変わりがない。
「佐川は寝とけ。もうこの辺に敵はいねえ」
車載機関砲の銃座に取りついていたヴォルコフ曹長が降りてきた。
「軍曹、今車はどこへ向かっている!? 」
ヴォルコフ曹長が、葉巻を取り出して石田軍曹に尋ねる。
「バイパスを抜けて北西に向かってます! 部隊は壬生周辺で防衛線を張ってますが、そっちの方に合流してたら――」
《スネークアイよりタイガー隊! 現在位置はどこだ!? オーヴァー!》
石田軍曹の声を遮って、スネークアイの切羽詰まった声が聞こえた。
《こちらタイガー! 現在エリアA-11付近を北西に移動中!》
《A-11!? 急げ、反応弾は発射された! 弾着まで10秒ッ!!》
――10秒!?
急いで、車から外を覗く。
南東から、一つの飛行機雲と飛行物体が見えた。
間違いない、反応弾だ。
それは高速で接近しながら徐々に降下していき、そして、日光市上空で――炸裂した。
目を開けていられないほどの閃光と、高機動車が浮き上がる程の衝撃波が周囲を襲った。
幸い横転まではしなかったが、しかし衝撃波は凄まじかった。
再び南の方を見ると、まるで巨大な太陽がそこにあるように、巨大な白い光が日光市付近を覆っていた。
普通の爆薬と違うのは、炎や熱が無い事だろうか。
反応弾と言うのは本来、湾曲フィールド反応中和弾頭弾の略で、ようはヴェクトルのフィールドを消滅させるのが目的だ。
衝撃波による周囲攻撃は飽くまでオマケでしかない。
しかし、それでも凄まじい威力だ。
「これが……反応弾……」
自然と、口から言葉がこぼれおちた。
俺達は皆、その圧倒的な破壊力に唖然としていた。
――それから1時間後、2019年6月31日朝。
モールによる本土侵攻部隊の掃討完了。
こうして、栃木県宇都宮市周辺で行われた、北関東絶対防衛線死守戦闘は、無事WAPの勝利で幕を下ろした。
だが第二次防衛線の部隊は、背後からの奇襲に大損害を受け、最終防衛線の戦力もすり減った。
そして、最終防衛線直前での新型モール『ヘヴィモール』の出現と、ヴェクトルの強襲という情報は全世界に公開され、特に最前線を震撼させた。
最終局面での反応弾投入が成果を出し、結果的に敵部隊の殲滅には成功したが、モールでの奇襲は人類全体にとって、新たな課題となったのであった。
◆人物紹介◆
名前:渡透
性別:男
年齢:29歳
階級:伍長(分隊副隊長)
所属:第七混成大隊・第三陸戦歩兵中隊・第六突撃小隊・第三分隊
兵種:強襲兵(主武装:突撃銃、榴弾砲)
容姿:長めの茶髪ストレート(首元まで)、体格は細身だが意外と筋肉はある。
一人称:私
三人称:貴方
趣味:ヴァイオリン、豆知識集め
詳細:常に敬語で、礼儀正しい一見紳士。
だが実は人をからかうのが大好きで、ドSだったりもする。
石田軍曹とは付き合いが長く、よくなにかと競い合っている良きライバル。
趣味で始めたヴァイオリンは、一般人ながら高レベル。
ついでに豆知識収集が好きで、小隊の知恵袋的な存在でもある。




