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Day Of Destruction(改定前)  作者: スピオトフォズ
第一章 招かざる来客
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第一話 退屈な待機時間

――これは、現代世界と似た世界観を持つ並行世界の物語。


 1961年、世界各地でのテロの増加、国際情勢の悪化による世界大戦の危機感から、人類は世界連合平和維持軍(World Alliance Peacekeeper)通称WAPを設立した。

 国家や宗教にとらわれず軍事活動を行えるテロ撲滅の為の組織だ。

 当時は予算の問題などからそれ程大きな組織ではなかったが、国際的テロ組織"エルヴォリオン"を壊滅に追い込んだことからWAPの実力が世界的に認識され、組織は爆発的に巨大化し、10年後には世界屈指の軍事力を誇っていた。

 正式な軍隊を持たなかった日本ですら、エルヴォリオン壊滅からは積極的に活動しており、東京にはWAP極東方面軍の司令部が作られた。



――2017年6月13日夜・ウクライナ軍基地・兵舎――



 暇だ。

 実に、暇だ。

 野外戦闘訓練が終わり、俺は兵舎でイスに座り、ぼーっとテレビを見ていた。


 6月のウクライナの気候は少々蒸し暑いが、隣にある窓から涼しい風が吹き付ける。

 その風が俺の長くも短くもない微妙な黒髪を揺らし、適度に体の熱を持って行ってくれる。


 いつもなら、とっととめしを食って寝てしまうのだが、今日は違う。

 実はもうすぐ、テロリストの基地を攻撃するという作戦を決行するのだ。

 するのだが……待機時間が微妙過ぎて、とてつもなく暇だ。


 俺は脚を組み、部屋の中央にある木製テーブルにひじを付き、なんとなく辺りを見渡す。

 しかし、相変わらずここはボロい。


 中央の柱にある巨大な亀裂は、ちょっと寄りかかったら崩壊してしまうんじゃないかと心配になるくらい深く走っていた。

 金持ち軍隊と言われたWAPと違い、ウクライナ軍に金が無いのは分かるんだが、最低限の安全は頼むから保障してくれ。


 天井にある蛍光灯も、恐らく寿命はあとわずかで、ちょっくら電気屋にでも買いに行きたいくらいだ。

 ここに蛍光灯が新しい支給されるまでこいつは持ってくれるだろうか。


 その代わりかどうかは知らんが、この部屋はそこそこ広く、5人が生活するには十分な広さがあった。

 出来れば、広さよりも安全性を保証して欲しかったのだが。

  

 そしてこのテレビ……。

 日本じゃ何十年も前にほとんどのテレビが薄型なのに、これはいまだにブラウン管だ。


 今じゃ日本でこいつを探すのは非常に困難に違いない。

 むしろ持って帰ったら骨董品として高く売れるんじゃないか?

 そんな心底どうでもいいことを考えながら、テーブルの上に無造作に置かれたリモコンを手に取り、チャンネルを回す。


「……ニュースしかやってねぇし」

 俺は東京にあるWAP極東本部所属の陸戦歩兵上等兵、黒崎(くろさき)和真(かずま)だ。

 俺は窓から吹き付ける涼しい風の恩恵を少しでも受ける為、薄茶の作業服のような待機用服の腕をまくる。


 ちなみに、基地内で生活するときは基本的に全員この服装だ。


 さて、なぜ極東本部所属隊員の俺がこんなところにいるかと言うと、極東本部からテロ活動が活発になっているここウクライナに派遣されたのだ。


 それから2年はたった。

 最初に来た時はこのボロい基地に唖然としたもんだが、今は慣れてきた。

 住めば都、とはよく言ったもんだ。

 

 それはさておき、さっきから地下でガチャガチャと工具をいじくるような音がしている。

 正直、耳障りな音がうるさくて仕方がない。


 なんだって兵舎の地下に整備室があるんだか。

 せめてもう少し防音を考えて基地を設計しろっての。


 んで、その原因を探るため――と言っても誰が何をやってるかはほぼ分かってるが――地下に行くことにした。


 スライド式の扉に手をかける。

 例によってすべりが非常に悪いので、必要以上の力を発揮しながら扉を開ける。


 部屋の外に出て、味気ないコンクリートの廊下を数歩歩くと、すぐ地下整備室の階段がある。

 階段に近づくと、地下からはこんな声が聞こえた。


「くそ、やっぱ駄目か……まいったなぁ…」

 俺は手すりに手を添え、階段を下っていく。

 階段を踏むと、安っぽい金属の音が響く。

 そして、階段を下りきる前にこんな声がした。


「ひい……まさか軍曹……?」

 音に反応した男は手を止め、ゆっくりと首だけこちらを振り返る。


「違げーよ馬鹿。勇希、何やってんだ?」

 階段を下り終えた俺はそう言った。

 狭い地下室な為、自分の声が何重にも響きわたり、なんだか話し辛い。


「なんだ和真かぁ……脅かすなよ……」

 そこにいたそいつは安堵の笑みを浮かべながらため息をついた。

 ここにいるのは佐川(さがわ)勇希(ゆうき)


 一言で言うと、明るく元気な空気の読めない隊のムードメーカーだ。

 そんな勇希は分解した突撃銃(アサルトライフル)を見て、


「銃の調子が悪くて分解して直そうとしたらこれが意外と難しくて……」

 と情けない笑顔を作る。


「またかよ……ったく……なんで整備兵に頼まなかったんだ?」

 そう言って俺は整備室にある簡単なイスに腰を掛ける。

 このイスは金属で出来ているが、例によってボロく接合部分がギシギシ言っているのはさておき、

 これで三度目くらいになる銃トラブルを誘発したこの阿保に質問を投げかける。


「ほら、俺この前も軍曹に怒られたばっかりだし、この前整備兵がやってんの見て簡単そうに見えたからさぁ……」

 予想通りの安直な思考に俺は頭を抱えてため息を吐いた。

 だいたい陸軍兵士として訓練学校では銃の構造の基礎くらい教わってる筈なんだが、なぜこの馬鹿は出来ないんだろう。


 あ、馬鹿だからか。


「つーか、そうやって毎度毎度銃壊す方も珍しいけどな……ほら貸せよ」

 しかしこのまま見てるだけでは話が進まないのでとりあえず勇希から工具を奪う。


「悪いね。やっぱ持つべきものは親友だなぁ!」

 勇希はアッサリ銃修理を俺に託し、へぇー、ほぉー、としきりに唸って高みの見物をしだした。


「お前みたいな出来の悪い親友を持った覚えはねぇ」

 言いつつ俺は手を進めてゆく。


「え~、ひっでぁな~。この前の野外演習の時、和真が全く気付かなかった伏兵の奴ら1人で黙らせて来たの誰だよ」


「っ……お前、またその話か!? アレはなお前、俺は前方の狙撃警戒すんのに必死だったんだよ!」

 俺は事在る事に同じ事例を話してくる勇希に集中力を大幅に乱され手を止める。


「でもその結果伏兵にやられちゃ意味ないよな?」

「それを防ぐ為の2組連携だろうが! だいたい俺はちゃんと狙撃兵発見して撃破できたんだし、ちゃんと自分の任務は真っ当しただろ」


「え~? でも俺は5人撃破で和真はその1人だけだろ?」

「だぁー、うるせぇ。おら直ったぞこの野郎!」

 めんどくさそうに言い、俺はライフルを渡した。

 俺が暇で良かったな勇希よぉ。


 作戦始まってからじゃ、軍曹の鉄拳じゃ済まなかったぞ?

 だがこいつはそんな危険に全く気付いてないんだろうな。

 その勇希は、受け取った銃の動作を確認する。


「おお直ってる! ヘヘ、サンキュ。さっすが和真だぜ!」

 親指をグっと出して言った。

 その時、1階の階段の上から、誰かが叫んだ。


「こらぁぁアンタ達! どこにもいないと思ったら何やってんのよ!」

 とその女は階段の上で腰に片手を当てて怒鳴った。


「っ!」

 俺はうるささのあまり思わず耳をふさいだ。


「げー、春奈!?」

 勇希が驚く。

 まさかいきなり怒鳴られるとは思わなかったんだろう。

 俺もだけど。


 それよりもこいつに言いたい事がある。

「馬鹿野郎ォォ! んな大声出さなくても聞こえるっつーのっ! 鼓膜を破壊する気か!?」

 ここは地下室だ。

 自分の声が何回もやまびこするような場所で、いくら階段の上からと言ってもあんな大声を出すのは殺人行為に等しい。


 願わくば軍法会議をすっ飛ばして特攻隊にでもなってもらいたい。

 そんな俺の心の言葉を眼光に乗せ威嚇するが、廊下の蛍光灯が逆光でなんとも都合よく迫力を倍増させている春奈には、無効だったようだ。


 ちなみにこいつは草薙春奈(くさなぎはるな)という。

 コイツももちろん俺の分隊のメンバーだ。

 そして何か鬼気迫る表情でこう言った。


「馬鹿はアンタよ! アンタ以外の何者でもないわ!!」

 春奈はそこそこに膨らんだ胸を反らし、偉そうにそう言った。


「んだとこのクソアマ!」

「まあまあ、落ち着けって和真!」

 かっちーんと来た俺は半ばキレ気味な表情を作り薄笑いを浮かべると、勇希がおろおろした様子でそれを止めようとする。

 が、次の瞬間俺も全ての動作が停止する。


「良いから早く来なさいって言ってんの! ブリーフィング始まるわよっ!」

 ……………………。


「嘘ォ!? もうこんな時間かよッ!?」

 ブリーフィングの時間まであと僅か。


「あ~あ、遅刻しちゃったね」

 なぜか呑気に勇希は笑っているが、遅刻はシャレにならんマジで! 


「馬鹿野郎! てめぇのせいだ! 後で殴らせろ!」

 だいたい俺はさっきまでちゃんと上で待機してたのだが……。


「うぇぇ!? そんなぁ!」

 うろたえる勇希を置いて、俺は階段を駆け上がるのだった。


――――



「ったく、アンタのせいで私まで遅刻したらどうすんのよ!」

 階段の上で合流し、一緒にブリーフィングルームまで駆ける。

 ブリーフィングルームは兵舎を出て少し先にある本棟の3階だ。

 要するに、結構遠い。


 ちなみに出遅れた上に小柄で他の隊員に比べ体力の無い勇希は少し後ろを走っている。

 春奈は毛先が軽く跳ねたショートを揺らしながら、俺の隣を走っていた。


「知るかっ! だいたいあそこまで勿体ぶる事は無かっただろ! もっと早く言え阿保っ! ……痛っ!」

 春奈が、どこから出したのか丸めた雑誌で俺の頭を叩く。


「せっかく危険を顧みず知らせに来てあげたって言うのにひっどい仕打ちね! ここは1日奴隷券の1つや2つ差し出すのがそれ相応の礼儀ってもんじゃないの!?」

「1日奴隷券ってなんだぁー!! 死んでも渡すかんなもん!……ふごっ!」


「渡せって言ってんのよ!」

「恐喝じゃねーか!! 第一持ってねーよ!!」

 と、こんな具合に、春奈はかなり凶暴だ。

 それに理不尽だ。


 見た目だけなら上級クラスと言っていいが、性格が全て台無しにしていると思う。

 もったいない奴だが、この性格は多分死んでも直らない。

 この分隊が組まれて2年。

 知り合ったばかりではないにしろ、特別長い付き合いな訳でもない。

 だが不思議と、居心地は良かった。

 


――本棟3階・ブリーフィングルーム――



「――作戦概要の説明は以上!! ……解散!」

 ブリーフィングが終わった。

 中隊全員がそろってパイプイスから立ち上がり、この部屋を出ていく。

 もちろん、俺たちもだ。

 作戦概要の説明をしていたのは中隊長の柴田(しばた)幸樹(こうき)中尉。


 中隊長とはその名の通り中隊を預かる隊長だ。

 中隊は、人数にすると300人程で、今はこの部屋に300人が集まっていた。 

 遅刻ギリギリだった為、何を言われるかと思ったが、どうやら無事にすみそうだ。


「……第四分隊、以外の部隊はな」

 俺たちが出ようとした瞬間に柴田中尉は、ハの字の眉毛をピクリと動かしそう告げた。

 思わず分隊全員の動きが停止する。

 ……世の中、甘くないね。


 第四分隊とは俺が所属する分隊名だ。

 俺の右隣にいる分隊長――石田(いしだ)和義(かずよし)軍曹は、俺たち3人を横目で見て、


「貴様ら……」

 と小声で怒りをあらわにする。


「先輩、ご愁傷様ッス」

 と俺の後ろにいた男――若田(わかた)(りょう)は両手を合わせて合掌する。

 その涼に、いや、たぶん連帯責任でお前もだから……と言いたかった。


 やがて左から石田軍曹、俺、春奈、勇希、涼の順で中尉の目の前に座る。

 ちなみにこのメンバーが第四分隊で、その隊長が石田軍曹と言う訳だ。


「黒崎和真兵長」

 と俺は名前を呼ばれ、


「はい!」

 と言い、反射的に勢いよく立ちあがる。


「草薙春奈一等兵」

「はい」

 春奈は比較的落ち着いた様子で立ち上がる。

 いつもこのくらいおとなしかったら問題なかったんだがな。


「佐川勇希一等兵」

「はひぃっ!」

 ――ぶっ!

 っと吹き出しそうになったのは全身全霊をこめて防いだ。

 それにしても、かなりテンパって、空回りしそうな勢いで立ち上がる。


 その勢いで、整えそこねた茶髪の毛先がぴょんと踊るように跳ねた。

 まあこれで一番堪えるのは勇希だろうから、こうなるのも無理はない……のか?


「以上3名、作戦終了後、グラウンド50週の刑!!」

 体力の無い勇希にとっては、地獄となるだろう。

 ……って、ちょっと待て。


「あの~、柴田中尉。連帯責任じゃないんですか?」

 と聞くと、さっきまで真面目だった柴田中尉の顔が崩れ、


「ま~ま~、たまにゃぁいいじゃねぇか。いっつも同じだとつまんねぇだろ~? ま~俺としてはどっちでもいいんだけど、気分的にな~」

 と無精ひげに手を添えながらやる気のない、または覇気の無い口調でそう言った。

 実は、こっちが中尉の本性だったりする。


「ちい、久々にしごけると思ったんだがな」

 と分隊長の石田軍曹は残念そうに舌打ちする。

 あんたはいっつもしごいてるだろうが……と心の中で軍曹を罵る。


 軍曹は筋トレマニアで、そのせいか……っていうか絶対そのせいなんだがゴツイ。

 とにかくガタイが良く、腕相撲などすれば腕が複雑骨折して粉末状に砕かれそうだ。

 いや、本当になったら人間と呼べないが。


「ま、我が第三陸戦歩兵中隊の精鋭に限って無いとは思うけど、こんな残党狩りで死なないようにほどほどにね~、んじゃ、俺も行くかな~」

 中尉は黒い長めの癖っ毛をかきながら部屋を出た。

 一応中隊の精鋭という看板を背負っていたりはする。

 まあそれはそれとして……俺たち軍人は、「解散」の命令が無いと解散出来ない。


「…………」

 え? これ行っていいの? いいんだよな?

 と俺たち5人は目を合わせる。

 ――ガラガラ。


「あ~、解散~」

 苦笑いしながら中尉がドアから顔だけ出して言った。

 そして去って行った。


「…………はぁ」

 俺たち5人は目を合わせ、一斉にため息をついた後、部屋を後にした。


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