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第1話「魔王転生」

 真夜中。ノートパソコンのぼんやりとした明かりだけが、薄暗い部屋の中に灯っている。

『う、あ゛ぁ゛っ……! も、もう、出てしまうぅっ!』

 画面に映されたテキスト。プレイヤーである1人の男──有馬旺輔──がパソコンのキーを押すと、つい先ほどまで凛々しい顔つきで魔物と対峙していた女騎士が、恥ずかしそうに顔を歪めながら、普段の気高く凛々しい姿からは想像もできないほど弱々しく女の子座りになっておしっこを漏らしているカットインが画面に表示された。

『あぁっ! もう、限界です……っ! 神様っ、お許しくださいいぃぃぃ……』

 続けて、若く可愛らしい見た目をした聖女が、白いロングスカートを自らのお漏らしで汚してしまうカットインが表示された。背景では、先ほどまで魔物と対峙していた女騎士と聖女が力なく地面に座り込み、恥ずかしそうにうなだれる。

「うわ……このゲーム、最高だな。こんなにしっかり女騎士や聖女のお漏らしを描写してくれるなんて……」

 美麗に、そして写実的に描かれたそれに、RPGと女性のお漏らしが大好物な旺輔も満足げだ。

「あの魔物の立場で、尿意に苦しむ女騎士とかが見れたら最高なんだろうなぁ」

 大きな杖を振りかざし、女騎士たちのパーティに尿意を感じさせる魔法を放った人型の魔物に、旺輔はある種の羨ましさを覚えていた。

「……まあ、そんなことできるはずがないんだけど」

 自虐的に笑い、テーブルに手を伸ばす。

「ありゃ、エナドリ切らしてるな……仕方ない、買いに行くか」

 ノートパソコンを閉じ、軽く身支度を済ませ、旺輔はコンビニに向かった。そして──。


 彼は車がコンビニに突っこむ事故に巻き込まれ、死んだ。


──────────


「……ん、ここは……?」

 辺り一面、真っ暗な空間、広いのか狭いのかすら分からない暗闇の中で、旺輔は意識を取り戻した。

「俺、死んだはずじゃ……」

 その時、強い光が彼の視界を埋め尽くした。

「──よ」

 旺輔の脳内に直接語りかけるように、何者かの声が響く。

「──旺輔よ、聞こえておるか」

「な、なぁ、俺、死んだんじゃないのか……?」

「ああ、お主は死んだ。だが、運のいいことに、お主の魂を求める者がいてな」

「俺の魂を……?」

「お主が死ぬ少し前に言っていた願いがあっただろう? 『魔王になって、強い女を好き放題お漏らしさせたい』とな。その願いを叶えてくれるそうなのだが……、どうだ、転生してみないか?」

 謎の存在の問いかけに、旺輔は少し考えた後、頷く。

「その話、乗った」

「転生してくれるか。それでは、早速行ってもらうぞ」

 謎の声がそう言った直後、辺りの光がより強くなり、旺輔は再び意識を手放した。


──────────


 旺輔が再び意識を取り戻した時、彼は魔方陣の上に仰向けになっていた。重厚で黒を基調とした部屋。天井には巨大な魔力の結晶が輝き、壁には見慣れぬ紋章が刻まれている。

(……っ! 何だ、この感覚……)

 身体中に力が湧き上がるような感覚。と言っても、もはや彼は人間の身体ではない、言うならばRPGの魔王のような姿になっている。

(……ディ、リュー、ジア……? 俺の、名前か……?)

 コンピュータがアップデートされるように、彼の脳内に「この世界の自分」の情報が注ぎ込まれていく。

「お目覚めになられましたか、魔王様」

 魔方陣の光が消え、旺輔が「魔王ディリュージア」として転生を終えたと同時に、彼の前に1人の女性が現れた。

「私はリリア・ヴァルナール。魔女の末裔で、先代の魔王様に仕えていた側近でございます」

 美しい銀髪に、薄い紫色の肌、どこか冷たく、しかし忠誠を感じさせる目。落ち着いた微笑みを浮かべ、リリアが優雅に一礼し、静かに話し始める。

「まずは、現状をご報告させていただきます。先代の魔王様は、勇者たちとの決戦で……瞬殺されました」

「瞬殺、か。具体的にどれくらいだったんだ?」

「分かりやすく言えば……1つの王国に攻め入った翌日には、勇者たちに返り討ちにされてしまいました」

 ディリュージアは眉をわずかに動かす。

「そんなに……かなり一方的だったんだな」

「はい。……我々魔王軍の伝統的な戦法は、既に王国側に完全に研究され、対策されています。力押しの侵攻も、大規模な魔力戦も、もはや通用しません。正直なところ、正統派な魔王としては、世界を征服する手段は残されていないと言ってもいい状態です」

「そんなに劣勢なのか……」

 リリアは少し間を置き、再び話し始める。

「私は先代様が封印された後、長い間正体を隠し、世界各地を偵察しておりました。その中で、興味深い事実に気づいたのです」

「ほう、興味深い、というと?」

 ディリュージアがリリアに問う。

「この世界の女性たち──騎士や聖女、さらには王女といった地位の高い者たちは特に、『お漏らし』が死に等しいほどの最大級の屈辱とされているのですわ」

 ディリュージアの表情が、自身に求められたことを理解したように、わずかに変わる。リリアは静かに続けた。

「特に戦場で漏らすというのは、敗北そのもの。信用もプライドも失い、人によっては二度と表舞台に建てなくなるほどの汚点になるのです」

 リリアの声に、わずかな愉悦が混じる。

「私は世界を彷徨っている最中、何度もそのような姿を目にしてきましたわ」


  ──とある2つの王国を結ぶ道の途中に建てられた宿屋、その公衆トイレの前に、近くで訓練を行っていたであろう女騎士や魔法使いたちが長蛇の列を作っている。

「くうぅっ、早く、早くしてくれぇっ!」

 トイレのドアの前で、若い女騎士が太ももをきつく閉じ、顔を真っ赤にしながら耐えている。

「ちょっと、早くしなさいよ! もう、もう出ちゃうんだけどぉっ!」

 その後ろでは、気の強い小柄な魔法使いが杖を両手でつかみ、持ち手を股に押し付けて我慢を続けている。

「くっ、出るなっ、出るなぁぁっ!」

 列の半ばでは、1人の女騎士がその場にしゃがみ、両手で股を抑えてなんとか耐えようとしていた。

 彼女たちは思い思いに苦悶の表情を浮かべて漏らさないように我慢を続けていた。


 「誰もが『人前で漏らすこと』を極度に恐れているのが、見ていてよく分かりましたわ」

 リリアは薄い笑みを浮かべ、さらに続ける。

「そして、より身分の高い者──ある王国の王女が、護衛に囲まれながら公衆トイレへ必死に駆け込む姿も」


  ──同じくとある宿屋。トイレの前に並んでいた女騎士や魔法使いたちの元へとある王国の女兵士たちが駆け寄る。

「王女様のためにお手洗いをお譲りくださいっ!」

「王女様がお手洗いにお急ぎなさっているのです!」

 そうしているうちに王女を乗せた馬車が宿屋の前に停まる。

「もう我慢できませんわ! もう漏らしてしまいますわぁっ!」

「王女様、あと少しの辛抱でございます! お手洗いは目の前でございますから!」

 護衛兵に囲まれた王女が慌ただしい足取りで馬車を駆け降り、タイトスカートをたくし上げながら衆目も気にせずトイレに駆け込む。


「高貴な身分であるはずの王女のあの取り乱し様は、なかなかなものでしたわ」

 ディリュージアは満足そうに腕を組み、興味深げにリリアの方を見た。

「……なるほど。力で勝つことができないなら、彼女たちの最も恐れるものを武器にする、ということか……」

「はい。『お漏らし』の恐怖で世界を混乱に陥れる。それが、魔王として世界を征服する有効な手段だと考えます。そして、そのために『お漏らし』について詳しそうな魂を求め、ディリュージア様をこの世界に呼んだというわけですわ」

「なるほど、そういうことだったのか」

 ディリュージアは少し考えてから、再び口を開いた。

「1つ聞いていいか?」

「なんでしょう、魔王様」

「この世界に、男性の戦力はないのか? 女騎士たちをお漏らしさせると言っても、男たちが攻めてきたらどうしようもないんじゃないか?」

 リリアは静かに首を横に振った。

「ご安心ください、魔王様。その心配はほとんどございません。数百年前、まだ男性が戦力として扱われ、女性が戦線に立つなど考えられなかった頃、当時の魔王が王国側の戦力低下を目的として強力な呪いをかけたのです。その影響で、それ以来男性の生まれる確率が極端に低くなり、また男性の戦闘能力や魔力適性も著しく低下したのです。結果として、戦力は女性が担うようになり、現在では貴重な男性は保護され、戦線に立つことはまずありませんわ」

「……ほう。つまり男性に攻め入られる心配はないという訳か」

「はい。そして女性たちにとって、『お漏らし』は死に等しい屈辱。だからこそ、私はこの戦略のためにディリュージア様をお呼びしたのですわ」

 ディリュージアはゆっくりと口角を上げた。

「……面白い。魔王の権威が失われた今、『お漏らし』で再び恐怖と混乱に陥れる訳だ」

 リリアは満足げに目を細め、深々と頭を下げた。

「はい、魔王様。私は、そのお手伝いを全力でさせていただきます」

 こうして、ディリュージアによる『お漏らし』侵攻作戦は動き始めた。

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