表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
fORmulArS decipher(フォーミュラーズディサイファー)  作者: 澄田 葵伊
深果都市フリッス編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/72

閑話:融和

夕暮れの街を、三人は並んで歩いていた。


ソラ、イナミ、ドミニク。


校庭での騒ぎが嘘のように、今は穏やかな時間が流れている。


「いやでもさ、あの時の顔やばかっただろ」


イナミが笑いながら言う。


「お前が一番ビビってたけどな」


ドミニクが淡々と返す。


「いやいや!?あれは普通ビビるって!」


軽口を叩き合う二人。


他愛もない会話。


くだらないやり取り。


ソラは少し後ろを歩きながら、それを聞いていた。


(……なんだろうな)


不思議な感覚だった。


目の前にいるのは、本来なら“敵側”の人間だ。


王都を危険に晒した側。


クレアたちを、あの場所を、脅かした存在と同じ陣営。


なのに――


怒りが、湧かない。


それどころか。


どこか、懐かしいとすら思ってしまう。


イナミの笑い声。


ドミニクの落ち着いた返し。


その空気が――


ふと、重なる。


王都での日々に。


(クレア……)


脳裏に浮かぶ顔。


明るくて、真っ直ぐで、よく笑う少女。


(ユイ……)


少し不器用で、それでも優しい声。


何気ない会話。


何気ない帰り道。


あの時間と――


今が、重なる。


ソラは視線を前から外した。


気づけば、道は海岸沿いに変わっていた。


潮の匂い。


波の音。


視界が開ける。


広がる海。


そして――


水平線の向こうに、太陽が沈みかけていた。


空が、赤く染まっていく。


橙から紅へ。


ゆっくりと色を変えていく空。


水面にもその光が反射して、きらきらと揺れている。


ソラは足を止めた。


その景色に、見入る。


(……綺麗だな)


ただ、そう思った。


この街は異質だ。


魔力がない場所。


地下に魔法の街がある。


アバンという存在がいる。


理解できないことだらけだ。


でも――


この景色は。


この空は。


どこか、変わらない。


同じ“世界”のものだと感じられる。


その時。


「おーい」


声が飛んできた。


振り向くと、少し先でイナミが手を振っている。


「何してんだよ、ソラ」


いつもの調子。


「ぼーっとしてないで来いよ」


その隣で、ドミニクもこちらを見ていた。


「話、まだ途中だぞ」


淡々とした声。


だが、その表情はどこか柔らかい。


ソラは少しだけ目を細める。


二人の顔を見る。


そこに敵意はない。


警戒もない。


ただ――


“普通の同級生”として接してきている。


(……ほんとに)


胸の奥が、少しだけ温かくなる。


(なんなんだよ)


自分でも分からない感情。


だが、嫌じゃなかった。


ソラは小さく息を吐く。


そして――


少しだけ笑った。


「ああ」


軽く手を上げる。


「なんの話だったんだ?」


イナミがニヤッと笑う。


「お前の魔法の話に決まってんだろ!」


「いやそれもういいだろ……」


ソラが苦笑する。


ドミニクが静かに言う。


「よくない」


「普通に気になる」


三人の距離が、自然と縮まる。


歩き出す。


また、並んで。


イナミが楽しそうに話し始める。


ドミニクがそれに短く返す。


ソラも、その会話に混ざる。


気づけば。


さっきまで感じていた“よそ者感”は、少し薄れていた。


完全に消えたわけじゃない。


でも――


確実に、変わっている。


この街。


フリッス。


最初は、ただの“異質な場所”だった。


理解できないものの集まりだった。


けれど今は。


少しずつ。


ほんの少しずつ。


自分の中に入り込んできている。


笑い声が響く。


夕焼けが、三人の影を長く伸ばす。


波の音が、静かに寄せては返す。


ソラは歩きながら、ふと思った。


(……悪くない)


この場所も。


この時間も。


そして――


この関係も。


まだ分からないことばかりだ。


アバンのこと。


世界式のこと。


タペストのこと。


全部、重い。


全部、簡単には受け入れられない。


それでも。


今、この瞬間だけは。


ただの“日常”として、ここにいる。


ソラは少しだけ空を見上げた。


赤く染まる空。


沈みゆく太陽。


その光が、優しく街を包んでいる。


その景色を見ながら。


ソラは静かに歩き続けた。


仲間と共に。


新しい日常の中へと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ