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fORmulArS decipher(フォーミュラーズディサイファー)  作者: 澄田 葵伊
王都クレアレス編

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38/55

式典

正午。


王都中央大広場は人で埋め尽くされていた。


旗が翻り、楽団の音が空に響く。


「うわぁぁ!すごいすごいすごい!!」


ルカがぴょんぴょん跳ねながら前を見ようとする。元気全開。周囲の視線も気にしない。


「落ち着いて……まだ始まってないよ」


ユイがぼそっと言う。半分眠そうな目で城を見上げる。


ソラは周囲の警備や配置を確認しながら立ち、


レオンは腕を組んだまま無言で階段上を見据えていた。


鐘が鳴る。


扉が開く。


王族たちが姿を現す。


最後に現れたのは――クレア。


白と蒼の正装。


背筋を伸ばし、静かに階段を進む。


広場が歓声で揺れる。


「クレアーーー!!」


ルカが誰よりも大声で叫び、両手をぶんぶん振る。


「元気すぎ……」


ユイがぼそり。


「目立つじゃねーか」


ソラが苦笑する。


レオンは何も言わない。


クレアは階段上で立ち止まり、民衆へ向けて一礼。


そして微笑む。


完璧な、王女の笑顔。


誰に対しても同じ温度。


均等で、美しい。


「やっぱ別人みたいだな……」


ユイが小さく呟く。


レオンの視線は動かない。


「……遠いな」


そのとき。


クレアの視線が、ゆっくりと広場をなぞる。


儀礼的な視線移動。


――のはずだった。


止まる。


ルカの全力の手振り。


「こっちこっちー!!」


その横でユイが、片手をひらっと上げる。


ソラは静かに手を上げる。


レオンは腕を組んだまま、まっすぐ見ている。


クレアの瞳が、わずかに揺れる。


そして。


笑顔が変わる。


ほんの少しだけ。


でも確かに。


さっきより大きく。


さっきより柔らかく。


王女の笑顔ではない。


“クレア”の笑顔。


「見た!?今絶対見たよね!?」


ルカが興奮気味に振り返る。


「うん、まあ……分かりやすかった」


ユイが淡々と答える。


ソラは小さく頷く。


レオンの口元が、わずかに緩む。


「……ちゃんと、いるな」


クレアはすぐに王女の表情へ戻る。


だが一瞬だけ確かにあった。


距離が縮まる瞬間。


遠い場所に立っていても、


確かに繋がっているという証明。


ルカはまだ手を振り続けている。


ユイはもう腕を下ろしている。


ソラは静かに見守る。


レオンは、少しだけ軽くなった表情で空を見上げた。


王女と仲間。


その両方を持つ少女は、


もう一度だけ、ほんのわずかに目を細めた。




式典が終わり、歓声が遠ざかっていく。


控室。


クレアは重い正装を脱ぎ、いつもの学園用の装いへと着替えていた。胸元の装飾も外し、肩の力を抜く。


鏡の前で小さく息を吐く。


「……ふぅ」


そこへ、扉がノックされる。


「入るぞ」


国王ロイド。


その後ろに王妃ギギ、メガン、ヘルス、サラもいる。


「式典、ご苦労だった」


ロイドは穏やかに言った。王としての声音ではなく、父の声だ。


「ありがとうございます、お父様」


クレアは一礼する。


メガンが微笑む。


「堂々としてたわよ、クレア」


サラが腕を組んで頷く。


「まあ、合格点だな」


ヘルスは静かに笑った。


「民の反応も良かった」


ギギはクレアの頬に手を添える。


「少し疲れたでしょう?」


「いえ、大丈夫です」


クレアは微笑む。


そのまま一礼し、部屋を出ようとした――


「クレア」


ロイドの声が止めた。


「はい?」


「今日、広場に学園の友人たちが来ていたな」


クレアの目が一瞬だけ見開く。


「……どうして、それを?」


ロイドはゆっくりと歩み寄る。


「分かるさ」


そして、優しく笑った。


「お前が一番輝いたのは、あの四人を見つけた瞬間だった」


クレアは息を呑む。


「……そんなに、分かりやすかったですか?」


メガンがくすっと笑う。


「ええ、とても」


ギギも頷く。


「あれは王女の笑顔ではなかったわ」


サラが肩をすくめる。


「完全に友達見つけた顔だったな」


ヘルスも穏やかに言う。


「嬉しそうだった」


クレアは少し俯き、そして小さく笑った。


「……はい」


顔を上げる。


「ソラと、レオンと、ルカと、ユイは……」


言葉を選ぶ。


「本当に一緒にいて楽しい、大切な仲間です」


「王族だから近くにいるのではありません」


「私が、あの場所にいたいから……一緒にいるんです」


静かな空気。


ロイドはゆっくりと頷いた。


「そうか」


それだけで、十分だった。


ギギは嬉しそうに微笑み、


メガンは優しく目を細め、


サラは鼻で笑いながらもどこか誇らしげで、


ヘルスは安心したように息を吐いた。


王としてではない。


父と母として。


兄と姉として。


クレアが心から笑える場所があることを、純粋に嬉しく思った。


「……ありがとう」


ロイドが言う。


クレアは首を傾げる。


「何がですか?」


「お前が、そんな顔で笑えることだ」


クレアの胸が温かくなる。


「……はい」


一礼し、今度こそ部屋を出ていく。


扉が閉まる。


静寂。


ロイドは窓の外を見る。


「ソラ、か……」


小さく呟く。


式典中、群衆の中で一人だけ――


立ち姿が自然だった。


王族を前にしても、過度に畏縮しない。


だが、無礼でもない。


「……気になるな」


ロイドの声は低い。


ギギが隣に立つ。


「心配ですか?」


「いや」


少し考え、


「違う、そこじゃない...」


視線を細める。


「ただ、あの少年の目は――」


「何かを見ている目だった」


ギギは微笑む。


「あなたと同じですか?」


ロイドは小さく笑う。


「それは分からん」


だが胸の奥に、わずかな違和感。


静かな予感。


嵐の前触れではない。


だが、ただの学生ではない。


そう思わせる何かがあった。


「いずれ、話す機会があるだろう」


ロイドはそう言い、窓から視線を外した。


国王としてでもなく、


クレアの父としてでもなく、


一人のクレアレス王族として。


あの少年の存在が、静かに心に残っていた。

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