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fORmulArS decipher(フォーミュラーズディサイファー)  作者: 澄田 葵伊
王都クレアレス編

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閑話:王女としての朝

夜明け前。


学園はまだ眠っている。


クレアは静かに目を開けた。


今日は建国記念日。


昼から王城で式典。


それだけを意識していた。


(夜は合流できる)


それだけで十分だった。


静かに身支度を整える。


簡素な移動用ドレス。


まだ王女ではない、ただの少女。


静まり返った共同棟の廊下を歩く。


ソラの部屋の前を通る。


物音はない。


(まだ寝てるかな)


少しだけ口元が緩む。


レオンの部屋の前も通る。


ノックはしない。


今日は王城に戻る日。


それだけ。


正門前には王家の馬車。


護衛騎士が敬礼する。


「第二王女殿下、お迎えに上がりました」


その瞬間。


クレアの空気が変わる。


「ええ、参りましょう」


背筋が伸びる。


声が整う。


馬車が走り出す。


王都の石畳を進み、白亜の王城が見えてくる。


巨大な門。


高い塔。


厳かな空気。


学園とは別の世界。


門が開く。


「殿下、ご帰還です」


侍女たちが一斉に頭を下げる。


クレアは静かに歩く。


無駄のない足取り。


感情は奥にしまう。


式典準備室。


白と蒼の正装が用意されている。


王家の紋章入りのドレス。


髪を整えられ、


宝飾品を着けられ、


王女が完成していく。


大きな扉の前に立ち息を整えると、扉を侍女が開ける。


王城・東棟の朝餐室。


高い天井。


長い楕円卓。


窓から差し込む柔らかな朝光。


クレアは一礼して席に着く。


既に家族は揃っていた。


上座。


国王――

ロイド・クレアレス


威厳を纏いながらも、目は穏やかだ。


その隣には王妃――

ギギ・クレアレス


柔らかな微笑みを絶やさない。


向かい側。


第一王女――

メガン・クレアレス


整った姿勢。完璧な所作。


その隣には第一王子――

ヘルス・クレアレス


理知的な視線。


そして第二王子――

サラ・クレアレス


少し砕けた空気を纏っている。


「クレア、戻りました」


「よく戻ったな」


ロイドが静かに言う。


重い声だが、温かい。


侍女が料理を運ぶ。


焼き立てのパン。


季節の果実。


香草を使った卵料理。


王家の朝は質素だが洗練されている。


ギギが優しく微笑む。


「学園はどう?」


クレアは一瞬だけ表情を和らげる。


「充実しております。課題も多いですが、刺激的です」


メガンが紅茶を口に運びながら言う。


「刺激、ね。あなたは昔から“外”を楽しむ子だったわ」


声は柔らかいが、観察する目だ。


ヘルスが問う。


「成績は問題ないな?」


「はい、上位を維持しております」


「当然だ」


短い言葉。


評価というより確認。


サラが笑う。


「友達はできたか?」


クレアはほんのわずか迷う。


ソラ。


レオン。


ルカ。


ユイ。


胸の奥に浮かぶ。


「……ええ」


ロイドがその間を見逃さない。


「守るべき者か?」


クレアは視線を上げる。


「共に歩む者、です」


一瞬、静寂。


メガンの目が細まる。


ヘルスが微かに眉を動かす。


サラは楽しそうだ。


ロイドは低く笑う。


「よい答えだ」


ギギがそっと続ける。


「あなたは優しい子。でも、王族であることは忘れないで」


「はい、母上」


ナイフとフォークの音が静かに響く。


外では式典の準備が進んでいる。


ロイドが話題を変える。


「今日の式典。クレアは民衆席側の視線を受ける。堂々と立て」


「承知しました」


メガンが言う。


「午後の凱旋パレードでは私が先導するわ。あなたは私の後ろ」


「はい、姉上」


ヘルス。


「余計な感情は見せるな。象徴であれ」


サラ。


「でも笑えよ? 怖い顔は民が怯える」


ギギ。


「自然でいなさい」


全員、違う言葉。


だが意味は一つ。


“王族であれ”。


クレアは静かに頷く。


(私は第二王女)


だが同時に。


(私は、クレア)


学園で笑った時間が脳裏をよぎる。


知らない。


今この瞬間、


ソラとレオンが木剣をぶつけていることを。


歓声が上がっていることを。


王城と学園。


同じ空の下なのに、世界は交わらない。


食事が終わる。


ロイドが立ち上がる。


「式典に臨む」


全員が立つ。


王族の朝は終わる。


そして――


第二王女クレアレスは、


舞台へ向かう。

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