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夜も更け、見張りの人間以外が寝静まっている頃、俺は一人で出撃する為の準備をする。
とはいっても特別な事はない。
帰って来る時や森に行った時と大きくは変らない。
違うのはあの後に作った装備と道具、そして。
「はい、お兄ちゃんお弁当!」
「私とルイスの二人で作ったものです、限られたものしかないのでこれくらいしか作れませんでしたから、今度はちゃんとしたものつくります」
「だから絶対に帰ってきてね!」
笑顔で食べやすく作られた弁当と一緒に言葉をかけてくれるルイスとアンジェの二人。
何とも気恥ずかしいが、絶対に戻ってこようという意思が湧いてくる。
「ありがとう、絶対に戻ってくるから、二人とも気をつけていてくれ」
そういって弁当を受け取り収納したら二人の突撃を受ける。
避けようと思えば避けられるが、それは流石にな。
抱きつく二人の頭を撫でる。
「ひゅーひゅー」
「あついあついー」
棒読みな言葉が聞こえてきて3人揃ってびっくりしてその声の方を見る。
「リンちゃんにくぅちゃん、その言葉……」
「なんでそんな言葉を……」
絶句する二人に俺も同意である。
しかしそれを言われる方のリンはよくわかっていないのかコテンと首を倒して口を開く。
「お父さんがそう言えっていってた」
「ぼくもおとーさんからそういえって」
抱きしめられながらそういうクウと抱きしめながら言うリン。
訳が分かっていないようで不思議そうにしている、まぁそりゃそうか。
分かってたら自分達のほうがずっと(仲良し)なのにそれを言うかってなるからな。
「そういう事は言ってはいけませんよ」
「リンちゃんもクウちゃんも、約束ね?」
「うん、わかった」
「はーい」
アンジェとルイスに頭を撫でられながら教え込まれて素直に頷く二人、ここだけ見れば微笑ましいだけなんだけどなぁ。
二人の父親のしてやったりな顔が浮かんでげんなりするがそうも言ってられない。
これから出撃だ。
「二人とも、ルイスとアンジェの事、頼んだぞ」
「うん、まかせる!」
「がんばる!」
そう言って首を縦に振ってくれる小さくても頼もしい仲間。
二人の頭を撫でるとルイスとアンジェに向き直る。
「それじゃ行って来る」
「うん、気をつけてね」
「語武運を」
そうして別れ際に二人を抱きしめて俺は野営地から密かに出発する。
不死者溢れる都市に向けて。
街道を外れた獣道を走る。
今回の任務は極秘任務なので戦闘を行っていては感づかれるからだ。
本隊は街道をそのまま進軍して一刻の距離だが、それは整地されているのが前提である。
今通っているのは道なき道である。
当然街道を行くのとは比較にならない程の時間がかかる。
そして敵に遭遇しない為に大回りをする為そこでも時間がかかる。
本来なら自殺行為でしかない。
不死者の領域近くの暗い深夜の森を疾走するというのは人間のすることではない。
考えてもみてほしい、そこには凶器になるような石や意地の悪いとしか言い様のない木の根に唐突に崖になっているような場所や動物の掘った穴、その他諸々の障害物や自然の罠の溢れる道、そこには自分を獲物として狙う物がいるかもしれない。
そのような道を疾走しているのだ、正気の沙汰ではない。
ではなぜ俺はそれをしているのかといえば、見えているのだ。
明暗の森に行く時に作ったゴーグル型の魔道具、これが今回も役に立つ。
加えて今回は隠密作戦という事で外套にも付与をさせてもらっている。
臭いを消し、生物としての気配を消し、任意で色を変えられる機能をつけているのだ。
これは夜なら黒に、草原を行くときは緑に、森なら迷彩色にと任意で変えることが出来る。
おかげで行程は順調だ。
道程は順調なのだが状況は宜しくない。
何が良くないのかといえば生物の気配が希薄なのだ。
街道から部隊二つ分外に出て走っているというのにもかかわらずに生物の気配が薄い。
そこから導きだされるのは森に不死者の影響が出始めているという事に他ならない。
これはいよいよ懸念していた事が実際になりそうだと足を速める。
夜明けまでに街の北門に辿り着き開戦と共に潜入を開始、そして敵のキングの居場所の近くまで近付き疾風の英雄達の仕事を見届ける。
所謂お目付け役という奴だ。
本当はついていけばいいんだろうけども、あいつらとの仲は最悪でしかも何をするか分からない。
最悪こちらで止めに入らなければならないのでこうする事にした。
アルフレッドさんには正気の沙汰じゃねえって呆れられたけどな。
反対にリンとクウは当然という顔をしてた。
アンジェとルイスには心配されたけどな、明暗の森の事を話しても心配されたけどな!
そうして森を駆け抜ける。
生物の気配の濃い方に逸れる事で不死者に感知されないようにしている為多少予定よりも距離が増える。
それでも余裕を持って森を抜ける。
森を抜けた後は草原、当然ここも生者の気配は薄い。
あちらこちらに不死者の徘徊する姿も見えるが、手は出さない。
可能な限り音を立てずに姿勢を低くし慎重に歩を進める。
そして東の空が白み始めてきた頃、漸く街門が見える所まで辿り着く。
そこに辿り着いた所で待機する。
あとは時間になるまで様子を見てみよう。
アイ「ロイドの奴大分無茶したなぁ」
リリ「そうねぇ、私じゃあんな事無理よ」
アラ「俺だって無理だわ、もうあいつは俺達を超えてるな」
アイ「それは今更だろ」
リリ「うんうん」
アラ「そりゃそうか、あいつ、SSランクだって言ってたしなぁ」
リリ「私達は二人共Aだったしね」
アイ「私だって個人ではAだぞ、戦闘力にいたってはBだしな」
アラ「ヴァルザードなんて大物も一人でぶったおしちまうし」
リリ「ロードなんてほぼワンパンだったものね」
アイ「どれだけ強くなったんだうちの子は……」
リリ「誰ににたんだろうね」
アラ「あーそりゃーあいつだろ」
リリ「まぁそうだねぇ」
アイ「それしかないな」
アラ「あいつも浮かばれて欲しいが」
リリ「ほんとうにね」
アイ「なんとかしてくれ!」
「はい、なんとかします」
リリ「今何かきこえたような」
アイ「空耳じゃなかったのか」
アラ「本当に頼むよ……」
ということでそのうちそうします。
次回、戦闘開始!




