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「すぐに戻ってくるから、絶対に無事でいろよ!」


 そういって崖を飛び降りていくお兄ちゃんの姿を見送る。


 そのスピードは切り立った崖が段々になっているところを平地を走るように進んでいき、気がついたときには戦闘を開始していた。


「アンジェ、私達も行こう!」


「はい、そうしましょう!」


 そう言って私達は来た道を戻り始めるが。


「うそ、ここまで!?」


「下がりましょう、森の中では奇襲をうけます」


 その目の前からグールとスケルトンが湧き出してくる。


 私達が進もうとした道には森が広がっていて、道はあるのだけれども木々が生い茂っているので死角も多い。


 後衛の私達にとっては奇襲を受ける危険が高く戦いづらい場所。


 勿論私もアンジェも多少は対応できる、しかし。


「数が多いわね」


「こんな数のアンデッド、どこから持ってきてるのよ」


 この数に群がられてしまえばいくら聖龍の加護と防具を持っている私達でもひとたまりもない。


 振り払えずじわじわと嬲られたあとは……想像するのもおぞましい結果になるわね。


 そうならない為に私達は崖を背に相対する。


「お姉ちゃん達守る」


「クウも、お姉さん達も、守る!」


 そう言って私達の前に立つクウちゃんとリンちゃん。


 その言葉と共に姿が人から狐のそれとドラゴンのそれへと変わっていく。


 真っ白で神々しさすら感じられるその姿はこんな状況じゃなければ見惚れる位の美しさがあって。


 もふもふして愛でたい、そんな欲求がふと頭を過ぎってしまい頭を振る。


 こんな時に何考えてるのよ!


 そうは言うもののこの子達は本当に可愛いから、絶対に終わったら可愛がってあげなきゃ。


「みんな!命大事に!できるだけ怪我しないように気をつけて!」


 その言葉と共に私は魔力を解放する。


 返事の代わりとばかりに放たれたアンジェの矢と共に私達の防衛戦が幕を開けた。







 クウちゃんとリンちゃんが突撃して打ち洩れた敵をアンジェの弓が襲う。


 それでも洩れてきたらそこは私の役目、お兄ちゃんがくれたこのロッドは強度にも優れているのでメイス代わりにも扱える。


 とはいっても片手で持てるし振れるわけだけど勢いをつけて振るには私は非力。


 なので魔力を込めて触る程度に使う。


 それでも低級のアンデッドだから問題ない。


 この杖のお陰で込める魔力も殆どいらないし。


 皆に強化の魔法を使う為の魔法の精度と消費魔力も補助してくれている。


 おかげでこれくらいなら数時間は戦っていても大丈夫だと思う。


 聖属性の魔法には強化以外にも癒しの魔法もあるからね、もし傷を負っても問題はない。


 継戦能力の補助が今はありがたいわ。


 それはアンジェも同じみたいで、彼女もお兄ちゃんが作ってくれた弓を出して魔力を使って矢を放つ。


 何発も打ってるけど全然疲れてないみたいで、今までだったら10発打つとちょっと疲れてきてたのに、もう100発は打ってるけど平気な顔してる。


 弓を引く手も顔色も問題なし、きっとこれもお兄ちゃんの作った弓の効果ね。


 前で暴れているのはリンちゃんとクウちゃん。


 とにかく敵の数が多いから減らす為にその両手の爪を振るって敵をほふっている。


 普通なら二人で敵の集団に突っ込んだら袋叩きにあうんだけど、リンちゃんはその鱗があるから普段でも問題ないけど今回はクウちゃんもその長い毛で相手の攻撃を通していない。


 これは私の強化魔法もあってなんだろうけど、普通強化しててもあんなことにはならないから、きっとこれもお兄ちゃんのくれたこの杖の力。


 ほんと、なんてものくれてるんだろう。


 そう思って呆れる気持ちがないとはいわないけど、それよりやっぱり嬉しいかな。


 私の事大事にしてくれてるって証拠だもんね。


 普通こんなにしてくれる人なんていない。


 過保護王とかシスコンとか、色々言われてるけどこんなのを感じるとやっぱり私も大好きだなって、こんなところで思うことじゃないけどね。


 そう思うとお兄ちゃん、アンジェの事も大事に思ってるってことだし、将来はそうなるのかな?


 そりゃアンジェの事は親友だし、私も好きだけど、それを思うと少しモヤモヤしなくもないというか。


 兄妹だから、お兄ちゃんのパートナーにはなれない、その事が少し、ほんの少しだけだけど、悔しいな。


 一番近いけど一番遠い、その事がチクリと胸を刺す。


 単純な作業の相手だからか思考しながら動いていたけど、その痛みを忘れる為に目の前の敵に集中しよう。


 そう思い目の前に意識を移した事で違和感を感じる。


「ねえアンジェ、何か変じゃない?」


「なにかって、そりゃルイスが戦闘中に色ボケてることから指摘を始めたらいいのかしら?」


「それは、否定できないけど、そうじゃなくって、見て」


 そういって私は違和感を感じた場所を指差す。


「何も無い様に見えるけど?」


「うん、何もない、他はアンデッドで溢れているのに、あそこだけなにもないのは逆に可笑しくない?」


「確かに」


 そのことを伝えてからは話が早い。


 一瞬のアイコンタクトの後アンジェは弓を引き近寄りそうなアンデッドに向けて弓を放つ。


 その間に私は聖属性の魔法を発動する。


「#聖なる光__ホーリーライト__#」


 それは通常ならEランク程度の下級アンデッドの浄化程度にしか使われない魔法。


 聖なる光で照らす事により周囲の邪気を払うことにより浄化するのだが、広範囲を照らす程度のものでは大した威力が見込めない。


 そのはずだったのだが……


 そしてその魔力に気がついたクウちゃんとリンちゃんが何事か見る中その効果は発揮される。


「うそ……」


 Dランク程度までいた周囲のアンデッドが軒並み溶けて行く。


 そしてそれはCランクのアンデッドにも大きなダメージを与えているようで目に見えて動きは鈍くなる。


 そのおかげでクウちゃんとリンちゃんはそいつらを一蹴して私達の元に戻ってきたのだけれど。


「うげ!見つかった!」


 その声と共に空間が歪む。


 それは他のアンデッドがいなかった場所に現れた。


 私達の両親の墓と隣の墓の間の隙間に。


「しかたねえな、仕込みは済んだし、かくれんぼは終わりだ」


 その顔が私達を見て凶悪に歪むのを見て、私達の間に緊張が走る。


 そしてここから、悪夢のような時間が始まる事になる。

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