19
時間は昼下がりの午後、ルイスによる祝福を終えた俺達は街を歩いていた。
とはいえルイスはフラフラとしていたので手を引いているのだが。
曰く祝福したら疲れたらしい。
通常なら大したことないのだが、相手により疲れ方が変るのだとか。
「お兄ちゃんへの祝福が一番疲れた~~」
と言うのだがどうなのやら。
アンジェが苦笑いしてたのは腕に絡み付いて歩いているルイスに呆れているのだと思う、思いたい、そうだよな!
と現実逃避は置いておいて、大きな子供に手を塞がれているのでちびっ子二人はアンジェが手を引いている。
その後ろに上品なスーツ姿の身なりのしっかりした紳士が3歩遅れて着いてきている。
礼拝堂を出たときに挨拶された執事のセバスさん、どうみても武闘派と言わんばかりの隙の無さに加えて従者として完璧な振る舞いはこの人の立ち居地を示しているのだろう。
ちょっと離れた所には民衆に紛れた護衛と思しき人と警備隊と思われる人が動いているのでお忍びは大変だなと心の中で彼らをねぎらう。
そうして歩きながら祝福の光景を思い出す。
光の差し込む中、椅子に座らせた4人を前に立ったまま聖句を唱えるルイス。
一句一句を読み上げる毎に5人を覆う程の大きさの魔方陣の線が延びていき、魔力の燐光が舞い上がる。
そしてそれが差し込む光と混ざり合って幻想的で神々しい光に変わる。
その光はルイスに集まり、その身体は光に包まれる。
そして1歩、2歩と歩きだし、最初にクウの前で止まる。
「貴方に神の祝福を」
その言葉と共にクウを抱きしめるとクウの身体が光に包まれる。
それはクウの身体に吸収されていったと思ったところでルイスがクウを離して頭をなでる。
そしてその後リンも同じように祝福し、アンジェを祝福し、俺の番がくる。
「貴方に神の祝福と私の心からの愛を」
一人違う聖句の後同じように抱きしめられるのだがそこからは別だった。
光が奔流となり、強風が辺りを揺らす。
「巫女と眷属を救い愛されし勇者に心ばかりのお礼を」
そんな声が聞こえたと思ったとき口を塞がれる。
熱い何かが流れ込み、それと別に全身を魔力が包み、身体が熱くなっていく。
そして光が収まりに向かい、気がついた時、金色に光る何かが口から離れて胸に軽い衝撃を受ける。
全てが収まったときには意識を失い胸の中で眠るルイスと意識が飛んだまま椅子に座る3人が意識を取り戻すところであった。
あれは一体何だったのだろう、そしてあの感触……
思い出してルイスに目をやると自然と目が合い、頬が熱くなる。
いやまて、これはルイスだぞ!生まれて一緒に育ってきた妹だ、何を今更。
そう思うが頬の熱さは引かない。
「お兄ちゃん、妹の顔見てそんな赤くなって、まさか惚れちゃった?」
「馬鹿いえ!なんで妹相手にそんな感情もたなきゃならんのだ!」
「えー、でもそうムキになるってことは~」
「違うったら違う!」
「えー、アンジェはどう思う?」
「その話しを私に振りますか?」
そういってジト目の笑顔のアンジェにルイスは慌てて。
「ごめん!ごめんって、そんな分けないよね!うん!だからアンジェも落ち着いて!」
「私は落ち着いてますよ?」
「落ち着いてるならその目やめてえええ」
「はあ、貸し1ですからね」
「……はい」
そうしたやり取りで落ち着いてくれたので漸く落ち着いて進める。
少し周りの視線がいたいけど。
「ロイド様も貸し1ですからね?」
「……はい」
有無を言う隙もなく巻き込まれました。
「リンおねえちゃん、アンジェおねえちゃん怖い」
「あれが女を怒らせるって事よ、クウも気をつけてね?」
「う、うん」
リンのにこやかな笑みとは逆にクウは少し怯みながらうなずくのだった。
そのまま少し歩いてたどり着いたのは冒険者ギルドであった。
というのも昼を食べていない上に食堂も休憩時間に入る時間帯、常に開いているところと言えばギルドの酒場位なのだ。
ギルドに入るとまだ昼間だと言うのに酒盛りをしている一団が見える。
「いけすかねえくそがああ」
「そうだそうだ!ランクがたかいからってー」
「マスターのへたれやろう~~!」
何かあったのだろう、荒れている。
こういう奴等には関わらないようにして、5人を酒場の方にやって俺は受付に向かう。
「いってらっしゃい、お兄ちゃん」
という言葉をルイスが言った時には目線が集中したような気がしたが、今はもうない。
そしてちょっと落ち込んでいるような受付嬢を前に俺は口を開く。
「すまないが買取を頼めないか?」
「あ、えっと、はい!買取ですね?何の素材でしょうか?」
「それなんだが、量が量だから奥の解体所に出したいんだが、いいか?」
「はい、それではご案内しますね。」
仕事を始めるとテキパキと動き出し案内をしてくれる。
「それでは此方にお願いします」
解体所についたらそういって大きな台を指し示されたので順に出していく。
バーサーカービー、アーミーアント、グリズリー、パックウルフ、グレートボアー等々
袋から取り出す毎に最初は平気そうだったのだが、段々顔色が悪くなっていくようで。
「えっと、こんなのどこから狩ってきたんですか!?」
と驚かれてしまう。
「まだまだあるぞ、流石にこれ以上の格のはここに出せないからな。数もそれなりにあるしな。明暗の森様様だな」
「め、明暗の森!?」
「ああ、最奥まで行って帰ってきたところだぞ」
「そんな、あそこはSSSランクでも苦戦するって、あ!えっと、ギルドカード見せてもらってもいいですか!?」
その言葉にカードを取り出して受付嬢に渡す。
「え、うそ、Sランクなのになんで!?」
「あー、カードなんだけどな、更新暫くしてなくってさ」
「暫くって、どれだけですか!?」
「んーパーティー組んで2,3年くらいかな?それまではソロで回ってたし」
「いや、それもおかしいですけどソロでSランクなんてのも……」
絶句する受付嬢に頭を搔きながら言葉を続ける。
「あんまり目立ちたくなくってね」
その一言にジト目で言われる。
「えっと、それは今更では?聖女様と一緒に子連れで入ってきて目立たないって言うのはありえないかと、それにあんな美人な人と執事さんまで」
「えーっと、それはだな」
「それにルイス様のお兄様ですよね?巷で噂になっているので諦められた方がいいかと」
その言葉に言いかえす事は出来ないので溜息一つ。
「そりゃそうか」
諦めを口にする。
「それでは解体される物を出して頂いたら上に聞いてまいりますので、お願いできますか?」
「わかったよ、そうしてくれ」
「私受付のナディと申します、この取引を担当させていただきますのでお願いしますね」
「ああ、よろしくたのむよ」
そうして握手をして素材の取り出しを続ける。
取り出したら酒場で待っていてほしいと言われたので待つ事に。
その後、一番隅の席で食事をしているルイス達に合流してしゃべりながら食事を楽しむ。
そうしていたところでちょっとした騒ぎが起こり、暫くしたら熊のような大男とナディが現れたのだった。