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技術と魔術を駆使する魔術師 ─『異世界交通路』爆破事件の謎─  作者: どこかの平凡
第1章 魔術師学校学生編
9/11

第7話 基本級

─翌朝─


 今日からまた1週間が始まる。

 さて、今日から僕ら3人はあることを始める。


 


 トレーニングだ。


 


 魔術師が魔術を扱うにあたって大切なこと、技術、体力、集中力の3つの内、体力を徹底的に強化していく。

 

 体力は魔術を使う上で大切であるが、実戦の時でも非常に大切な要素の1つだ。

 体力があったから生き残り、無かったから死ぬ、ということはあり得る話だ。

 

 勿論、杖無しでの魔術にも体力は必要だ。


 この杖無しの魔術は、本来技術世界の人間では扱うことが出来ない。

 

 しかし、幸い僕らには魔術世界の人間である母の血が流れているから、扱えるようにはなるそうだ。

 

 しかし、半分は技術世界の人間である父の血が流れている。

 勿論、父の事を悪く言うつもりはないが。


 さらに、杖無しで魔術を操るには技術を要する。

 

 

 僕らが杖無しで魔術を操る事が出来るようになるのだろうか。

 いや、それ以前に基礎級の心配をした方がいいな。

 

 火と水の基礎級は使えるようになった。が、ここが終点ではない。

 いや、僕らはスタートにも立ててないのだ。

 

 まだ、氷、雷、風、土魔法の基礎級が出来ていない。

 これら6種類の魔法は、どうやら属性により、魔力の扱い方を変えねばならない。


 さらに、基礎級はあくまで基礎だが、これが今後の魔術師人生にとって非常に大切な土台部分となる。

 ならば、基礎級程度は無意識であっても扱えるようにならねばならない。

 

 

 魔術師学校でのタイムリミットは3年半。

 この期間でどれだけ手持ちを増やせるかだ。

 そしてそれは、基礎級、基本級をどれだけ早く習得するかが勝負になる。

 

 そんなことを頭の片隅に置きながら、トレーニングの準備を始める。


 僕は上下ジャージに着替え、ランキングシューズを履き、長すぎる寮の廊下に出る。

 

 早朝のため、人が全然いないと思いきや、案外廊下に出ている人が多かった。

 さらに見かけた人の多くは運動着を着ていた。

 彼らもトレーニングをしているのだろうか。

 



 


 寮の外に出る。

 空気は少しひんやりとしている。寒くはない。

 目の前には芝生広場が広がり、そこでトレーニングをしている者もいる。

 

 人間観察をしていると、兄と美奈が出てくる。

 兄は半袖半ズボンで、いかにも真夏の運動時の格好をしている。

 反対に美奈は色々着込んでいる。


 

 さて、トレーニングを始めるとするが、何をしよう。

 とりあえず定番のランニングだろうか。

 その前に準備運動だ。

 

 続いて、アップとして学校敷地内でのランニングをする。

 学校の敷地は広大のため、一周の距離が長めだ。


 とりあえず僕らは体力面はまだ大丈夫だと思っている。 

 僕と美奈は運動部に所属。

 よって、少しは体力に自信がある。

 兄は帰宅部だが、ワルガキとは思えないほど、日頃からコツコツ筋トレ等を続けている。

 

 兄曰く、ヒョロヒョロのワルガキより、逞しい体をもつワルガキの方がいいという。

 確かに一理ある。兄らしい動機だ。


 ランニングの後は筋トレ。美奈は引退してから時間が経っている割には頑張ってついてくる。

 時間にして1時間ちょっと。





 


 さて、今日も基礎級の習得に励もう。 

 火、水の次は氷かな。

 氷は元は水だ。それを凍らせる過程が必要となるだけで、基本は水と同じだろう。

 

 まあ、氷は割りと簡単に習得できてしまった。

 問題は次の雷だ。

 上手いこと魔力を注げない。

 と思っていると、兄が軽々と雷を生み出す。


 「ねえ兄ちゃん、どうやって雷生み出したの?」

 「あん?雷は簡単だよ。なんか魔力をこう...」


 うん、全然分からん。

 まあ、魔力の注ぎ方は感覚だからな。説明するのは難しいだろうな。


 「俺的には氷に苦戦してるな。」

 「氷は簡単だよ。水と途中まで過程が一緒だしね。なんかこう...」

 「ああ、全然わかんねぇ。もっと分かりやすく。」


 ですよね。僕だって自分で何言ってるか分からないもん。

 感覚を説明するって難しい。

 

 ちなみに美奈は氷、雷共に習得済み、今は土で苦戦をしている。

 土魔法は攻撃魔法の中で、最も魔力の注ぎ方の感覚が掴みにくいのである。


 残念ながら僕と兄は土以前に雷、氷で苦戦をしている。

 だからアドバイスは出来ない。

 美奈はエドワードに何度もお願いするが、何度頼んでも基礎級だけは教えてくれない。

 

 なんて言っていたら、何か分かったのだろうか。

 次の瞬間、土の塊を生み出した。


 「やったー!」 

 「はえ~」

 「まだ雷と氷でつまづいてるの?まだまだね」

 「やかましいわ。」

 

 すると、隣で兄が氷魔法の習得に成功していた。


 「はっ、お前はまだ雷で苦戦してるのか。まだまだだな!」

 

 うわー、なんかすごい腹立つ。

 どうせまだ風と土は習得してないんだろ。

 早いとこ出来るようになってやる。

 と、思っていたら


 「お疲れ様、基礎級を習得した2人にはこれから基本級を教える。」 


 ん?基礎級を習得?基本級?なんじゃそりゃ。

 いや、まさかね...


 しかし、エドワードは兄と美奈の2人に基本級の説明をしている。

 美奈はともかく、兄も既に風と土も習得していたそうだ。

 

 


 何だろうこの敗北感。いや実際敗北しているようなもんだけど。

 僕に才能が無いのか、はたまた2人に才能があるのか。

 後者だと願いたい。


 そんなことより、早く基礎級を習得しないと。

 僕はまだ雷、風、土の習得ができてない。

 このままだと置いていかれる。

 

 焦りが出てきたが、雷はなかなか形にならない。

 何度も試行錯誤して、何となくは分かってきた。が、形にはならない。


 「ああ~、何で出来ないの~。」


 僕は嘆く。すると、


 「それって魔力を注ぐことだけしか意識してないからじゃない?」

 

 美奈が声をかけてくる。


 「というと?」

 「修司兄ちゃんって見た感じ魔力の注ぎ方は分かってきたんでしょ?」

 「まあ、大体は」

 「問題はその後よ。魔力を注いだ後に上手いこと操れてないのよ。だから形にならないんじゃないの?」


 うん、確かにそうだ。

 技術、集中力の内のどちらか、もしくは両方が出来ていないかもしれない。

 

 正直技術面は何度もやるしかない。しかし、兄と美奈はあっさりとできた。しかも、基礎級だ。技術はあまり関係ないだろう。

 

 となれば、今僕に足りないのは集中力。

 確かに魔力を注ぐことには集中していたが、その後はしていなかった気がする。

 そうと分かれば後は早かった。


 その日の内に、とはいかなかったが、翌日中には基礎級を全て習得することができた。

 いや~、実に大変だった。


 さて、基本級からは本格的にエドワードの指導が入るだろう。


─基本級─


 攻撃魔術は、火、水、氷、雷、風、土の6種魔法を操ることができる状態を指す。

 基礎級はあくまでも生み出すだけ。基本級ではそれらの魔法を放出したり、抑制したりという操作が必要になる。

 

 一応、ある程度操れれば基本級を習得したと見なされるが、基本級に関しては極めようと思えばどこまでも極められる。

 例えば氷の彫刻を作ったりとか。

 

 日常で使われる魔術の多くは基本級を操ったもの。

 例えば、水魔法で水を出し、火魔法でお湯を沸かしたりとか。


 そして、基本級からは基礎級で扱わなかった守護魔術を扱うようになる。

 守護魔法は、治癒、解毒を主体とする回復魔法と、実戦時に敵の攻撃から身を守る守備魔法の2つから成る。

 

 基本級では、回復魔法の『ヒール』を使え、守備魔法の『シールド』を使える状態を指す。


 

 『ヒール』は、ある程度の怪我ならば、治すことが出来る。但し、骨折や出血多量などの大怪我は不可。

 


 『シールド』は、ある程度の物理攻撃から自分の身を守る。但し、魔術攻撃の防御は不可。


 

 というわけで、早速僕も基本級に取りかかる。

 一足先に基本級を習い始めた兄は雷魔法の基本級。   

 これは、流す電流の調節が出来ればよい。


 


「アギャギャギャギャァァァ!」


 

 どうやら兄は自分自身に電気を流してしまったらしい。

 エドワードの指導で、電気の放出は出来るようになったが、下に敷いてあるゴムに狙えていないし、調節も出来ていない。

 習得には程遠い。


 美奈は、守護魔術の回復魔法、『ヒール』の習得に向けて訓練を始めた。

 

 彼女曰く、女は攻撃より回復の方が似合うそうな。

 しかし、回復魔法というのは習得の判断が一番難しい魔術である。


 守備魔法は、自分を守るための壁を張るため、見た目や感触で判断出来るが、回復魔法は負傷人を治療するための魔術であり、それを確かめる術は、実際に治療する以外の方法はない。


 そこで登場するのが、技術と魔術の融合術で作られた、回復魔法の訓練用の機械である。

 これを使えば、魔力の流れから、成功か失敗の判断が出来るのだが...




 機械を取りに行ったエドワードは少し困った顔をしていた。

 これはもう嫌な予感しかしないよ。


 「機械が壊れてまして...」


 ほらほら、やっぱりそうじゃんか。


 「一応発注はかけたのですが、生憎在庫が0でして、届くのに時間がかかりそうです。」

 「そうですか...じゃあ修司兄ちゃん。」


 ビクッと体を震わせる。

 予想はついている。


 「実験台になってほしいな。」


 嫌に決まってる。

 裕也先輩の実験台にもならなきゃいけないのに、こんなところで実験台になってたまるか。

 

 「嫌」

 「そんな...お願い...お兄ちゃん...」


 美奈は僕から見ても美女である。

 愛敬もあるし、普通の男なら大抵は落ちてしまう。

 が、ここで落ちないのが僕である。

 なぜかって?兄だからだよ。


 「嫌にきまっ!?」


 なっ、なんだ!?なっ、兄が僕を押さえているだと!?

 

 「良かったじゃねえか、可愛い女の子に治療してもらえるなんて。」


 兄がにやけてる。

 美奈もニコッとする。

 ちょちょちょ、怖い怖い。

 エドワード先生、苦笑いしてないで助けてくださいよ。

 

 「ちょっ、やめやめやめ」


 足をバタつかせるが、兄の両足で止められる。

 

 「修司兄ちゃんありがとう!私嬉しい!」


 いや、何が嬉しいや。こっちは恐怖なんじゃい。

 すると美奈は自身の左手に杖を向ける。


 「ファイヤー!」


 彼女の左手には火ができている。


 「ちょっと我慢してね。」

 「キャッ、キャァァァァァ~~~」


 ジュワー──


 「あっ、つぅぅぅぅぅぅーーー、」


 痛い痛い痛い痛い。

 うわ、大胆に火傷してますやん。ヒリヒリして痛い。


 一応エドワードから指導を受けているので、やり方は分かってるとは思うが、さっさっと習得してほしい。

 が、なかなか出来ないのが現実である。

 腕のヒリヒリが止まらない。


 さて、僕はこの痛みから逃れるべく、水魔法の基本級習得を目指す。

 水の基本級は、水圧の調節が出来ればよい。

 

 とりあえずエドワードに指導をしてもらい、魔力を注ぐ、が、まあいきなりは出来ないだろう。

 魔力を注ぐも、水の放出が出来ず、基礎級で止まってしまう。


 ここからは美奈と僕、どちらが早く習得できるか勝負だ。

 

 まあ、美奈はこれまで失敗はしているが、回復魔法の訓練はしてきている。

 に対して、僕は今始めたばかり。

 早いとこ治してくれるだろう。


 だが、驚く結果に......はならなかった。


 

 「ヒール!」

 

 

 美奈が回復魔法を唱える。

 すると、僕の火傷が治った。


 「やっ、やった!」

 「おっ、痛みがない。」


 成功だ。美奈は回復魔法の基本級の習得に成功した。

 と思っていると、


 

 「ファイヤー!」


 

 ん?美奈の手から火が出てる。

 あれ?おかしいな。今成功したからもう一回やる必要なんて...


 「あっちゃぁぁぁぁーーーー!」    

 「ヒール!」   

 

 美奈が火を僕に近づけ、炙る。

 そして、再び回復魔法を唱え、火傷を治す。

 今度こそ終わりだな。


 「アチィィィィィーーーー!」  

 「ヒール!」

 

 いやいやいや、今の必要ないでしょう。

 2回目は100歩譲って良しとしよう。

 3回目は唐突すぎやしませんか。


 「ありがとう!修司兄ちゃん!」

 「......はい」


 相変わらず妹は怖い。

 いや、そんなことより今は水魔法の習得の方が先だ。

 

 放出か...

 

 基礎級はただ単に発生させるだけだから、魔力を注ぐ際に、勢いは要らない。

 むしろ水だから、滑らかさが大事なのだ。


 しかし放出となれば、勢いを出さねばならない。

 しかし、滑らかさも無ければ水にはならない。

 慣れれば簡単である。

 

 現に、基礎級は寮で反復練習をしているから、今は難なく6種を使い分けることが出来る。

 

 しかし、出来るまでが大変である。

 出来てしまえば、感覚を忘れない内に反復することで、体に感覚を染み込ませられる。

 

 まあ、これは魔術に限らず、大抵のことはそうだろうが。




 さて、朗報だ。

 水魔法を使おうと思っていたら、火魔法の基本級を習得してしまった。

 魔力を注ぐ際、水とは感覚が全然違うことは感じていた。

 

 しかし、それまでは水が形成されずに、魔力だけが外に放出されたり、形成されても、放出されなかったりした。


 が、今回の魔力の注ぎ方は火発生させるときに近かったのだろう。

 僕でもその感覚はあった。

 何となく可能性としては察していたが、こうも簡単に副産物が出来てしまうとは。

 

 ついでに言うと、そのまま火力の調節も出来てしまった。

 まあ、何はともあれ習得したんだから良かった。


 さて、2人の状況はと言うと、兄もいつの間にか火の基本級を習得していた。

 雷魔法ではなく、火魔法だ。

 雷は保留にして、とりあえず火魔法に切り替えたそうな。


 まあ、火と雷は似ているところがある。

 火と雷は共に発生させる際、爆発力を必要とする。

 つまり、勢いが必要だ。

 

 しかし、火魔法は継続的な勢いを必要とする。

 に対し、雷魔法は断続的な勢いが必要だ。

 魔力を溜め込み、一気に放出する勢いだ。その勢いは、火魔法の時よりも上回る。

 

 今は、基本級のため、基本的に慣れれば大抵の人が扱えるようになるが、範囲や威力が大きくなればなるほど、技術を要する。

 

 特に、雷魔法は勢いを出しきれなかったり、制御しきれなかったりする場合もあるため、扱いが難しく、難易度は高めの魔術だ。


 まあ、まとめれば、継続的な爆発(勢い)を必要とするのが火魔法であり、断続的な高火力の爆発を必要とするのが雷魔法である。


 さて、美奈はと言うと、守備魔法の習得に成功。

 美奈に1発お見舞いするが、返り討ちにされる。

 手がめちゃ痛い。

 

 彼女は守護魔術2種の習得を終えた。残るは攻撃魔術。

 だが、攻撃魔術の習得は若干手こずっているようにも見えた。

 

 もしかしたら、攻撃魔術より守護魔術の方が適性なのかもしれない。



 


 その後10日程かけて、僕らは基本級を完全習得した。

 まあ、習得には色々あった。

 

 兄の回復魔法の訓練に付き合わされたり、僕の番で仕返ししてやろうと思ったら、新しい機械が届くし...

 一応、出遅れた分は巻き返した。


さて、基本級を習得したし、裕也先輩に報告だな。

作者の呟き


肉まんとピザまん。自分はピザまん派かな。

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