第8話 魔術サポートは素晴らしい ※タイトル回収
基本級を習得した日の夜、僕は裕也先輩の部屋に行った。
ピンポーン─
「誰?」
「大江修司です。」
「ん?...あー、修司か。ちょっと待って。」
ガチャッ─
扉が開く。
「どうした?」
「いや、きほ...」
「まあ入れ入れ。」
話聞けよ。
まあいいか。
「失礼します。」
部屋にはいる。
裕也先輩の部屋も構造は一緒。
右手に洗面所と浴室、左手にクローゼット、奥に進み、キッチンや机、テレビにベッド、ベランダ。窓からは大都市ケイネスの高層ビル郡の夜景が一望できる。
キッチンには食材が置いてある。どうやら自炊しているようだ。
勉強机には何かの機械と、工具が散らばっている。
何かを修理しているのだろうか。
部屋を見回していると、先輩がお茶を運んできたので、席につく。
「で、何の用だ?」
「今日、基本級を完全習得しまして...」
「ほう」
そう言って、裕也先輩はコップを取り出した。
「じゃあ、俺に水を注いでくれ。」
そう言われ杖を取り出し、コップに水を注ぐ。
ジョロジョロ───
コップに水が溢れる。
若干水圧の調整に難ありだが、まあ許容範囲だろう。
後でちゃんと練習しておこう。
「うむ、合格だな。」
一応オッケーは貰えた。
「あの、先輩。」
「何だ?」
「一応基本級は習得しましたし、実験台になるんですよね、僕。」
「そう言えばそうだな。では、今週の日曜日空いてるか?」
「はい」
「じゃあ決まりだな。その日、俺の家に来てもらう。」
「はい。それで、一体何の実験台になるのでしょうか?」
「だから、親父の趣味だって。」
どうやら教えてくれないみたい。
基本級出来たら教えてくれるって言ってたのに。
「じゃあ、また今度。」
「はい、ではおやすみなさい。」
軽く話を終え、部屋に戻り、兄と美奈の3人で食堂に向かう。
最近食堂ばっかりで食べてるから、先輩を見習って自炊したほうがいいだろうか。
今度アルモ家にねだって、キッチンセット一式を買ってもらおう。
─日曜日─
休日でも朝のトレーニングは欠かさない。
普段は1時間ちょっとしかやらないが、日曜日は2時間たっぷり動く。
まあ、先週は動きすぎで疲れて、休みを棒に振ったが、今日はそんなわけにはいかない。
トレーニングを終え、部屋に戻り、シャワーを浴びて、朝食を済ませ、少しゆっくりしてから先輩の部屋に向かう。
ピンポーン─
「うーい」
「裕也先輩おはようございます!」
「お前準備早いな。にしてもお前の普段着は何だか豪華だな。」
「ええ、まあ」
そりゃ、あの屋敷から頂戴してきたものだからな。
部屋に入ると、裕也先輩は丁度朝食を終えたところらしい。
とりあえず準備を終えるまで部屋でウロウロする。
机の上にはまだ工具が散らばっている。
工具と一緒に、とある機械も置いてあるが、先日お邪魔したときより修理が進んでいる気がする。
魔術師目指しているのに、機械にも精通しているとはすごい人だな。
感心しながら機械をじろじろ見て、触ろうとすると怒られた。
「裕也先輩、これって何の機械ですか?」
「いずれわかるさ。」
教えないと言わないところ、何か怪しい。
もしかしたら、あの機械、僕が実験台になる事と関係しているのだろうか?
結論。
ドンピシャだった。
あの後、先輩が準備を終えて、裕也先輩の家に向かった。
先輩の家は、アルモ家の屋敷と比べれば雲泥の差だが、それでも大きく立派な家だった。
その後客間に1人で通される。
客間には、色々な機械の玩具が置かれていた。
それもただの玩具ではない。
技術と魔術の『融合術』で作られた物だ。
融合術で作られた物というのは、色々ある。
その中で代表的なのが、魔力を注ぐことで作動する機械。
例えばこの水鉄砲。
スイッチがいくつもあり、見た目は電子機械であるが、実際は魔力を注ぐことで、水鉄砲の中で魔力が水に変換され、発射されるのだ。
更にこの水鉄砲、スイッチ1つで水圧を変えたり、発射方法を変えられる玩具なのだ。
これはあくまでも例の1つであり、融合術は異世界交通路を通してこれまでも、そしてこれからも発展していく筈だったのだが...
融合術で作られた玩具に見とれていると、誰かが部屋に入ってきた。
「やーやー、どーもどーも。」
年齢は40代後半だろうか?
濃い髭が印象的な中年男性である。
男は、明るい顔で勢いよく腰を掛ける。
「いやー、今日はよくお越し下さった。私は裕也の父で、こういう者です。」
そう言うと、男は名刺を差し出してきたので、慌てて受け取る。
株式会社デイリーマジック、技術責任者、津田 伸一郎。
デイリーマジック? 恐らく融合術の会社名だろう。
こういう会社は魔力のこともあり、ケイネス側に会社を置くパターンが多い。
っと、僕も自己紹介しなくては。
「ケイネス魔術師学校1年、大江修司です。裕也先輩にはお世話になっています。」
まだ片手で数えられる回数しか会ってないけどね。
ま、ジュース奢ってもらったし、いいか。
「そうか、君が修司くんか。」
すると突然、先輩の父が僕の手を握ってくる。
僕は女の子に手を握られたいです。いや、そんなことはどうでもいい。
にしても彼の目が輝いている。何か訳ありだろうか?
「裕也にもようやく友達ができたか。よかったよかった。」
「ようやくって、先輩もう3年生ですよね?」
「そうだよ。でも、今まで裕也はボッチを貫いてきたからね。」
いやいやいや、あのノリからボッチなんて想像できませんて。
だっていきなり声かけて、冗談言って、ジュース奢るんですよ。
むしろあれでボッチを貫いてきたなんて逆に凄いわ。
「何はともあれ、これからも裕也と仲良くやってくれ。」
「勿論です。」
僕にとっても先輩は学校での初めての友達だからね。
今のところそれ以外に人間関係作ってないし。
「さて、今日修司くんに来てもらったのは外でもない。あるものを渡したくてね。」
「それで僕を実験台にするのですか?」
彼は苦笑いする。
「そう言われて否定は出来ないな。まあ、実験台より、お試しと言ってくれ。」
「そうですか。」
お試しか、よかった。
実験台って言われたら何かされるって思うじゃん。
最初はそう思ってたばかりに、今はちょっと安心感がある。
だって、趣味って地点で明らかに怪しいじゃん。
普通疑うでしょ。
なんて思ってると、先輩父は声を出した。
「裕也!例の物を持ってきなさい。」
ドアの向こうから小さく返事が聞こえる。
「修司くんは今、杖を持ってます?」
「はい。」
何かがあったとき用に、一応杖は携帯している。
最も、何の対処もできないと思うが。
ガチャッ─
先輩が入ってくる。
彼の右手にはとある物が握られている。
あれが例の物だろうか?
大きさはボールペンより一回り大きい程度。
ボイスレコーダーに似てなくもない。
先輩は例の物を机の上に置く。
色はシルバーで、ボタンが2つ付いている。
あっ、これは先輩の机にあった機械じゃん。
でも一体これは何だ?
と思っていると、先輩の父が口を開く。
「これは何だ?って思っただろう?」
「え?ああ、はい。」
「私はね、仕事をやっている傍ら、趣味で融合術の道具を色々作っているんだよ。」
この機械が何か教えてくれるんじゃないんですね...
「そうなんですか。」
「まあね。私の立場を分かりやすく言えば、きちんと仕事を持っている、某探偵漫画の某博士かな。」
おお、それを自分で言っちゃいますか。
腕に大した自信をお持ちで。
「そしてこの機械が、『魔術サポート』だ。」
「魔術...サポート...ですか。」
「百聞は一見に如かずだ。とりあえず見せて見ようじゃないか。」
まだ百聞すらしてないんですがね。
「では修司くん。杖を貸してくれませんか?」
「はい」
慌てて杖を渡す。
「ありがとうございます。では...」
すると彼は杖に例の機械を当てている。
まず最初に電源ボタンらしきボタンを押す。
次に、その下にあるボタンを押すと、機械の中からベルトのようなものが出てきて、杖を固定したではないか。
機械と杖はくっついている。
すると誰かが何かを喋った。
「杖ノデータヲスキャンシマス」
ん?今の声何だ?機械音?
ってことは、その機械からか?
「さ、修司くん、杖を握って。」
そう言われたので、杖を返してもらい、握る。
「スキャン完了シマシタ。続イテ、使用者ノ情報ヲ登録シマス。杖ヲ握ッテクダサイ。」
そのまま杖を握り続ける。
「...登録、完了シマシタ。」
次の瞬間、杖にくっついていた機械が消えた。
「えっ?」
ちょちょちょ、今消えたよね。待って待って、色々起きすぎて頭パニックだよ。
誰か頭整理してくれ。
「これが『魔術サポート』です!」
いや何も分からん。全然説明されてないし。
「...あの、説明お願い出来ますか?」
「修司くんも驚いてそうですし、そうしましょうか。」
いや、今の説明なしで全てを分かった人がいたら、それこそ神だよ。
「さて、今修司くんの杖に巻き付いている『魔術サポート』ですが...」
「何にも無いですよ。」
「見えないだけです。」
「感触も無いですよ。」
「感触も無いだけですよ。」
よく分からんが話を続けよう。
「この機械は、杖と一体化させることにより、杖の使用人に様々なサポートをしてくれます。
そうですね、修司くん、手をグーからパーへ勢いよく開いて見てください。」
言われたままやってみると、
ヴヴン──
「!?」
えっ?何か画面が開くような音がしたら、今度は空中に画面があるんですけど...
何か近代を舞台にしたアニメとか、逃◯中とか戦◯中のゲームマスターが使っているようなやつ。
「それは、この機械の機能の心臓部でもある空間ディスプレイです。そこから様々な操作や設定が出来ます。」
なるほど。
いや、凄い技術だな。
流石自称某博士だ。
「あの、この機械を使うことで、例えばどういったメリットがあるのでしょうか?」
「と言われても言っても色々あるのですが、例えば、魔術の発動が楽になりますね。」
「発動というと、その機械が勝手に魔力を注いでくれるってわけですか?」
それって凄いけど、何かずるのような気がする。
「というわけでは無さそうです。
実際裕也に実験してもらいましたが、魔力の調整は自分でやらなくてはいけない見たいです。」
「そうですか。」
「ただ、魔力を注ぐ時に、魔力の流れを安定にするので、発動が楽になるのです。」
「それって、未習得の魔術を使う時もですか?」
「それも無理です。
きちんと習得して、感覚が掴めたものだけです。
裕也曰く、魔力の注ぎ方が掴めているからこそ、安定するそうです。
今後のアップデートで、いつでも安定するように改良しますか?」
「それは止めてください。」
僕は即答した。
確かに、未習得の魔術を簡単に使えるようになれば凄くいいけどさ、何でもかんでも機械に頼っちゃうのはよくない気がする。
最悪、機械が壊れたとき、僕自身の実力が伴わなければ、それで命取りになるかもしれないからな。
「あと、魔力を安定して注げるので、術の威力アップも出来ますが...」
それもずるだよな。本来は魔力を安定させるのも自分で出来るようになるべきだよな。
機械があるから出来ても、それは自分の実力じゃないんだよな。
「もし、おきに召さなければ、その機能をOFFにすることも可能です。」
「そんなことできるんですか?」
「はい。ただ、自分の命を1番に考えてください。いざというときはちゃんと機能をONにして下さい。」
「分かりました。」
まあ、少なくとも訓練の時は使わないようにしよう。
「他には何がありますか?」
「無属性魔法の『収納術』をリスト化して、荷物の収納がしやすくなりましたね。」
よく分からない単語が出てきたので説明しよう。
─無属性魔法─
無属性魔法は、火、水、氷、雷、風、土、回復、守備の8種魔法のどれにも当てはまらない魔法である。
無属性魔法は魔力を基本的にそのまま使用することが多いため、様々な術が生み出されている。
例えば、今出てきた収納術も無属性魔法の一種で、荷物を圧縮し、透明化させ、空中を漂わせる。
これなら、手が空くし、荷物を盗まれたりする心配もない。
最も、杖を無くしたら終わりだが。
しかし、欠点もある。
勿論収納術は便利だが、使える荷物が1点までなのだ。
それを克服したのが、『魔術サポート』
収納術をリスト化することで、簡単に荷物を取り出すことができる。
荷物も1点から5点に増やすことに成功。
勿論、リストから選んで荷物を出せる。
ちなみに機械自体が消えたのも、自動的に収納術を使ったためである。
一応1枠使っているため、残りは4枠である。
といった感じである。
他にも、この画面を使って通信が可能である。
通信ができるのは、僕と同じく魔術サポートを持っている先輩と、先輩父である。
他にも機能があるそうだが、実際に使ってみた方がいいと言うことで、説明書が送られて、説明が終わった。
ちなみに、さっき言っていたアップデートというのは、先輩父側から自動的に送られてくるらしい。
勿論、アップデートの適用、保留もでき、かなり高性能な機械だ。
だが、1つ疑問に思う。
「どうしてこれを商品化しないんですか?」
「聞くと思ったよ。
私はあくまでも趣味としてこれを作っているんだよ。だから特別お金が欲しいわけでもない。
それに、誰かに悪用されても嫌だし、これを使って多くの魔術師が楽するようになるもの困るからね。」
「そうですか。」
「あっ、そう言えば、君に兄弟がいたりするかい?」
「兄と妹がいます。」
「彼らも魔術師を?」
「はい」
「では、彼らの分も作ろう。」
「ええ、いいんですか?」
「勿論、修司くんは裕也の友達だからね。」
「でもお代とか...」
「そんなこと気にしちゃいけない。これでも会社からガッポリ給料は貰ってるからね。」
「では、お言葉に甘えて。」
「それと、また新しい物ができたら使わせてあげるからね。」
「もう、本当にありがとうございます。」
「いいさいいさ、冒険は命懸けだからね。」
こうして、また1歩魔術師として磨きがかかった1日となった。
「大江ロイナさん。彼らはきっと帰る方法を見つけますよ。」
後で知ったことだが、先輩の父も僕の母に恩がある身らしい。
母はつい最近まで連絡をとっていたので、僕の存在を知っていたらしい。
ということは、彼が協力してくれるのは母のお陰でもあるのだろうか?
平瀬に帰れたら、本人から魔術師、大江ロイナについて色々教えて貰おう。




