第9話 実戦訓練
─時は流れ、季節は夏─
僕らは2年生になった。
本当はまだ1年通ってないのだけどね。
さて、本来この学校の方針に従うのであれば、2年生から専攻魔術を選択していくことになる。
─専攻魔術─
専攻魔術は、8種魔法(火、水、氷、雷、風、土、回復、守備)と、無属性魔法の計9種類の中から、自分が学びたい、極めたいと思う者を自分で選んでいくことが出来る。
無属性魔法は様々な術が生み出されているが、当然攻撃魔術も存在し、裕也先輩のお父さんから頂戴してきた魔術サポートの機能の1つである収納術も学ぶことが出来る。
そのようなことも踏まえて、自由に選択出来るが、必ずしもそれが自分に合うとは限らない。
もし、変えたいと思うのであれば、即座に専攻魔術の変更が可能であるし、例えば、火の初級を習得したら、次は水の初級の訓練をするという感じで、コロコロ属性を替えることも可能だ。むしろ、そういうやり方をしている人は案外多い。
ちなみに術の習得の認定は教師が決める。
無論、タイミングは人それぞれのため、一緒に訓練をするクラスメイトは年中入れ替わる。
また、杖なしでの魔術をやるかやらないかも選択出来る。
ん?僕は杖なしで出来るようになったかって?
勿論さ!
じゃあ、先輩の父から『魔術サポート』を貰ってから、今に至るまでの経緯を説明しようではないか。
基本級を習得した僕らが次に訓練するのは、初級魔術である。
メイティア王国においては、小学校卒業後、大半の人は中学校へ進学し、貴族を除く人々は基本級も習得する。
そのため、基本級は国民の多くが使え、真面目に訓練すれば習得は容易いのである。
しかし、初級からは完全に魔術師向けの魔術であり、その多くが攻撃するものや、戦闘から身を守るものとなる。
また、使える術によりポイントが決まり、魔術師の階級を決めるポイント制を適用するのも、この初級からである。
当然、基本級と比べて、術の難易度は上がるし、習得も大変になる。
さて、そんなことも頭に入れながら、僕らは初級の訓練を始めるのである。
と、同時に、ここで杖なしも訓練し始める。
杖なしで重要な体力づくりも今のところ順調である。
ここまで、学校に入学してからまだ1ヶ月足らず。
僕らの努力の甲斐もあってか、エドワード曰く、異例のスピードの習得らしい。
勿論、その努力をその後も怠ることなく、貫いてきた。
青春を犠牲にして訓練してきた結果、他の同級生と比べて、半年というハンデを抱えながらも、その差を埋めることに成功。
同級生達の専攻魔術で1つの術を極めている人のレベルには少々劣るが、僕らは、全魔術の底上げ、杖なし、途中から無属性魔法もエドワードに叩き込まれた。
要するに、僕らはどの魔法にも片寄ることなく極めているため、全体としては、かなり出来がいいのである。
まあ、得意不得意はあるけどね。
エドワード曰く、技の出来もそこそこ良いらしく、魔術師としての素質もあるらしいため、将来凄腕になれるかもと喜んでいた。
やってきたのは魔術だけではない。
まず、魔語の勉強もしてきた。
メイティア王国にいる間は、日本語だけでも大丈夫らしく、特にケイネスに関しては殆ど不自由がないレベルに浸透している。
が、冒険者の多くはメイティア王国に常駐しない。
なぜなら、平和だからである。
逆に捉えれば、国外の方が魔術師の活躍の場が多く、そうなると必然的に他の冒険者とのコミュニケーションが必要になる。
となると魔語は必要である。
一応、先日先輩父がアップデートで翻訳機能を新たに追加したが、基本それには頼らない方向で行く。
兄と美奈も魔語の勉強をしている。
いや、正しくはさせている。
『魔術サポート』を頂いたあと、先輩父は2人の分も作ってくださったので、当然のことながら、アップデートの事は知っている。
となれば、サボるのは必然で、そこを僕がムチを叩いているのだ。
ちなみに、訓練中は術の発動にサポートに頼る事はしていない。
サポートを貰ったときに思ったように、やっぱり自分の努力で実力をつけなければ、いざという時に命取りになるからね。
そしてもう1つ調べていることがある。
それは、『空間術』についてである。
アルモ家から依頼を受けたとき、ルートアは解決策については分からないと言っていた。
それ以来何か分かったという報告も受けていない。
冒険者はとりあえず闇雲に動くという選択をする者もいるそうだが、それでは効率がアホみたいに悪い。
とりあえず、解決策の命となる情報を集める。これ基本。
入学してからちょっとした休み時間や、訓練の後、休日を使って色々情報収集に努めるも、残念ながら今のところ有力な情報はない。
やはり禁術であるため、その事について記載されている本自体が少なく、仮に記載されていても、殆どが軽く流す程度の情報しかない。
休日は、学校の図書館だけでなく、ケイネス中心部で情報を集めてみたり、時にはケイネスの郊外から郊外まで足を運ぶが、駄目だった。
他にも、寮の他の部屋の人に聞いてみたりしたが、聞いた人によっては露骨に嫌な顔をした人もいたため、数人聞く程度で止めた。
一応、この行動をしたおかげで、少し僕の人脈が広がった。
やはり、禁術復活への道のりというのは相当険しいようだ。
まっ、ここまでの経緯はこんなもんである。
──
今日は週に2回しかない学問のお時間である。
一応、冒険者として必要な知識を学んだりするが、正直どうでもいい情報も多い。
それ以前に、エドワードが雑談好きであり、兄がそれに乗っかるため、なかなか授業が進まない。
でも、高校の授業みたいに全然重くないし、楽しい。
さて、僕ら3人...ではなくて、僕1人で教室棟へ向かう。
残りの2名は、寮仲間を中心に人脈を広げているそうで、友達もできたみたいだ。
兄は言うまでもなく、入学してから早い段階で色々な人に声をかけているそうだ。
声をかけるというより、絡みに行く感じだろうな。
美奈もこの数ヵ月間で友達を作り、休日には友達と出かけたりしているらしい。
兄も美奈も友達と教室に来るようになったので、僕はボッチだ。
でもいつもボッチではないぞ!
僕だって裕也先輩と行くこともあるからね。
それ以外にも多少は繋がりはできたはず...
ちなみに、今日は先輩、体調崩したみたいで、学校を休むそうだ。
─9:00─
3人しかいない小さな教室。
窓は寮がある方向と同じ東向きで太陽光が部屋に差し込んでくる。
そこにエドワードが入ってくる。
彼は片手にプリントを持ち、僕らに配った。
そしてプリントにはこのようなことが書かれていた。
「2年生実戦訓練について」
実践訓練ではなく、実戦訓練。
それは何を意味するのか?
エドワードが口を開く。
「紙に書かれている通り、君たちには実戦訓練として、実際のダンジョンに潜ってもらうことになります」
ん?ダンジョン?潜る?
確かに魔術のレベルも上がってきましたけど、まだちと早すぎやしませんかね。
「これはこの学校の伝統行事で、私が君たちに教えた魔術と、冒険者として必要な知識を使う事ができる数少ない大掛かりな訓練です」
ここで美奈が質問する。
「先生、ダンジョンに潜る訓練は素晴らしいと思いますが、まだ未熟な私達が潜ったら最悪死んじゃいませんか?」
それもそうだ。
ダンジョンに潜れば魔物が僕らを襲ってくる。
そして僕らは命を守るために殺さなければならないのである。
実践訓練とは訳が違う。
「だからこそ潜るんだよ。美奈ももうちょっと頭使えよ」
声を発したのは兄である。
「陸人兄ちゃんだけには言われたくないわ」
「ああん?いい度胸じゃねえか」
「だって後先考えずにすぐカッとなって色々面倒なことを引き起こす人に言われてもねぇ...」
「チッ...」
兄と美奈は仲が良いためか、こうした喧嘩も日常茶飯事である。
「オホンッ...」
エドワードの咳払いで2人の喧嘩が止まる。
「確かに、ダンジョンに潜れば死と隣り合わせです。が、今回潜るのは初心者向けのダンジョンです。また、この訓練で今のところ死者は出ていません」
「死者が出てないからとかではなくて...」
美奈が反論した。
「無論、それが理由ではありません。
そうですね、例えば美奈さんは学校の授業を受けただけで、テストで満点を取ることが出来ますか?」
「...出来ません」
「テストで満点を取るために何をしますか?」
「...勉強です」
「それはつまり、テストという本番の場で失敗しないために、練習をするということではないでしょうか?」
「......」
「魔術師とて同じです。
この学校を卒業した瞬間、君たちは冒険者という本番の舞台に投げ出されます。
冒険は知識だけで乗り越えられるほど甘くはないのです。
そして、いつもやっている訓練とは訳が違うのです。だからこそ、練習するのです。
君たちが冒険者として魔術師になって、失敗しないように」
「...分かりました」
美奈は納得したのかしてないのかよく分からない顔で答えた。
「これは魔術師としての訓練ではありません。冒険者として生きるための訓練です。しっかりと気を引き締めてくださいね。」
「はい」
冒険者として生きるための訓練という言葉に少し納得した。
冒険者になれば戦いの事だけ考えていては駄目だ。
きちんと明日の事も考えなくてはならないからね。
「さて、気を取り直して、実戦訓練について説明しましょう」
─実戦訓練─
内容はこうだ。
2年生全生徒を、それぞれの魔術レベルを考慮して5つのグループに分け、さらに1グループを30班程の6人班に分ける。
訓練は5週間かけて、Aグループから順に1週間交代で行っていく。
ちなみに2年生は1000人近くが在籍している。
大人数を一気に動かすわけにもいかないので、こうして各グループごとに時期をずらすのである。
各グループの班は、メイティア王国内の、パザゴ、フィーディア、ツバク、ラミーエ、ロメーアの5つの街に振り分けられ、街周辺の指定のダンジョンに潜る。
僕らが潜るダンジョンは学校側が決める。
同じ街にいくつかの班が指定されるが、それぞれの班で潜るダンジョンは違うため、1つの班で1つのダンジョンを攻略する形になる。
難易度は勿論初心者向けのD級ダンジョンである。
ダンジョンレベルは、昇順で
D級→C級→Bb級→Ba級→Ab級→Aa級→S級
に分けられる。
ちなみにこの時期の上記5つの街の指定されるダンジョンは、魔術師学校の古くからの伝統行事であるため、街側がダンジョンを貸し切り状態にするのだ。
─訓練内容─
・学校から各街への移動、ダンジョンの攻略を含め、期間は最大5日間。
・ダンジョン攻略は、ボスを倒し、証を持って帰るところまで行う。
・ダンジョン攻略後は、ダンジョン脱出魔法陣で外に出ること。
・お金の支給は学校が行うが、足りない場合は自分達で何とかすること。
・ダンジョンで獲得した素材等は、自分達の戦利品として使用してよい。
・ダンジョンは必ず6人で攻略すること。もし、はぐれた場合は、捜し出すこと。それでも駄目な場合は、魔法陣で脱出し、即座に学校に連絡を入れること。
・その他何かあった場合、解決できそうなら自分達で解決し、出来そうになければ、ダンジョンを脱出して学校に連絡を入れること。
とまあ、こんな感じである。
一応、緊急時の対応も書かれているが、初心者向けダンジョンは構造も比較的単純であり、魔物も大して強くなく、即死レベルの攻撃をする魔物は、ボスを含めていない。
そのため、今まで誰も死者は出していないし、緊急事態に陥る事など殆どない。
さて、訓練内容を知ったところで、次は共にダンジョンに潜るパーティーメンバー同士での顔合わせである。
暫くして、パーティーメンバーらしき人達が僕らの教室へとやって来た。
男子が1名と女子が2名である。
僕らは円を作るようにして集まり、自己紹介を始めた。
「では僕から。僕はペデス・オーグダット。現在水魔法を専攻している」
先陣を切って自己紹介を始めたのは、獣人族で、犬人族である1人の男。
見た目は限りなく人間に近いが、頭に耳が付いている。
「私はサラ・リリシカ。現在土魔法を専攻しています」
続いて紹介したのは、エルフ族の女。
肌は白めで、長い耳が特徴である。
「私、ミアナ・モルダーゼ。専攻は火ね」
そして、チャイナ風のしゃべり方で紹介したのが、人族の女である。
僕らもそれぞれ自己紹介を終えた頃、エドワードが1枚の紙を差し出す。
そこには、訓練についての詳細が書かれていた。
─
・メンバー
ミアナ・モルダーゼ
サラ・リリシカ
ペデス・オーグダット
大江美奈
大江修司
大江陸人
・Cグループ、第6班。
・指定場所
ラミーエ
・潜入ダンジョン
ラミーエ第7ダンジョン
・難易度
D級
・属性依存
低
─
という感じだ。
ちなみに、属性依存というのは、ダンジョンの魔物の使用属性の偏りを示す。
属性依存が低いというのは、魔術攻撃をしない、つまり物理攻撃をする、または全ての属性の魔物がいる、のどちらかになる。
とりあえず僕らはCグループのため、出発日まで2週間以上ある。
それまでは普通に授業はある。
訓練準備は、出発の3日前から与えられる。
この間に、食料を買ったり、装備や武器をを揃えたりする。
学校側から支給される額は、10メイティア、日本円にして10万円。
ちょっと少ないと思ったが、ラミーエの宿代はそう高くないらしく、一泊の相場は3人部屋を2部屋で1メイティア程。
ケイネスからラミーエまでの移動には馬を使用する。
僕ら以外の3人は、授業で馬術も習っているそうだが、僕らは一切やってこなかった。
よって、このままでは移動できないので、出発までの間はひたすら馬術に専念することにした。
ふと疑問に思い、質問したが、車は当然道路がないと使えない。
その道路というのは、ケイネスを含む、メイティア王国内の大都市、大都市同士を結ぶ街道及び、その間にある都市のみで、他の中都市や小都市へは、馬を利用するのだ。
ラミーエは街道上にはないので、馬でしか移動が出来ない。
あとは食料、そしてもう1つ揃えなければならないものがある。
それは服装である。
ダンジョンに潜るからには、冒険者の服装をしなければならない。
たが、残念ながら僕らはそのような服を持っていない。
一応、安物であれば、支給額の範疇に収められる。ローブは買えないが。
いや、この面に関しては大丈夫だった。
ということで、次の休日、アルモ家の皆さんに冒険者の服を揃えてもらうのであった。
ついでにローブも揃えてもらった。
お金に困ったらアルモ家。すごくありがたいけど、同時にすごく申し訳ない。
まあ、これも全ては異世界交通路復活のためである。
だから、アルモ家の人たちは快く承諾してくれるのだ。
そして僕らの出発日を迎える。




