幕間、きつと石英は帰ってくる・・・
その頃、隔離された龍の心臓の町———石英とルビの家では。
ルビは朦朧とする意識の中、ほぼ無い意識で考えていた。頭の中には石英の姿が。
(大丈夫・・・。きっと石英は帰ってくる・・・)
不安など欠片も無かった。死を目前にして、それでもルビは石英を信じていたのだ。
何故なら、これまで二度も離ればなれになろうと石英は必ず自分の許に戻ってくれたから。必ず自分を迎えに来てくれたから・・・。だから、きっと今回も帰ってくる。
そう、心から信じている。
石英の事を愛している故に。信じている故に。
それは、ルビの心からの信頼の証だ。石英とルビとの確かな絆の証拠だ。故に、ルビは信じる。石英の事を信じて待っている。
石英は必ず帰ってくると・・・。
『・・・本当に、そう?』
(・・・・・・・・・・・・?)
声が、聞こえた気がした。おぼろげなルビの意識の中、一人の少女がルビの前に現れた。
白髪に白い肌、赤い瞳をした黒いフード付きの衣を纏った少女だ。可愛らしい少女だった。
ルビは一目で理解した。この少女は、己の中の死神なのだと・・・。
死神は悲しげな瞳でルビを見下ろしている。
『本当に、あの人は帰ってくるの?どうして其処まで信じられるの?散々裏切られ続けた貴女が』
とても悲しげな声。きっと、この死神は彼女なりにルビの事を考えているのだろう。きっと、心根の優しい少女なのだろう。ルビはそう感じた。
ルビは口元を薄く歪め、微笑んだ。ぎこちない微笑みだ。
(ふふっ、ありがとう・・・私の事を心配してくれて。けど、それでも私は石英を信じているの)
何故なら、石英はルビが初めて恋し、愛した人だから・・・。
その返答に、それでも解らないと死神は首を横に振る。
『解らない。私には解らないよ・・・』
(今は解らなくても良いよ。何れ、解る日がきっと来るよ・・・)
ルビは力なく微笑んで、そう答えた。死神はそれでも駄々をこねるように首を振る。
『解らないよ・・・。だって、もう貴女は死ぬんだよ?私の手で死ぬの』
(死なないよ・・・。だって、石英が助けてくれるから)
『解らない・・・』
駄々をこねるように、解らないと繰り返す死神。ルビはそんな死神に微笑み掛けた。
(それと、私の事は母さんと呼んで欲しいかな・・・)
『・・・・・・?』
首を傾げる死神に、ルビは伝える。自分の想いを。
(だって、貴女は私の中に居たんでしょう?なら、貴女は私の娘も同然だよ)
その言葉に、死神は僅かに目を見開いた。死神の瞳が、悲しみに揺れる。
『私はっ、貴女を殺そうとしているんだよ?そんな存在をどうして受け入れられるの?』
(・・・・・・だって、貴女は今私の心配をしてくれてるじゃない)
『それはっ!!!』
死神の声は震えていた。そんな死神に、ルビは力の無い笑みを向ける。
(貴女は私の娘だよ・・・間違いなく、ね・・・・・・)
『・・・・・・・・・・・・』
死神はもう、何も答えない。そのまま消え去ってしまった。最後、悲しげな瞳をしていた。
死神登場。ちなみに、死神が自我を得た事にもちゃんとした理由があります。




