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神殺しの星辰《ほし》(旧題:不幸な少年と病の少女)  作者: ネツアッハ=ソフ
機械仕掛けの神
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生きろ!!!

 これは、ある世界の物語。ある世界の最後の物語———


 とある世界。可能性により分岐した、とある平行世界(パラレルワールド)にて。


 その世界は、端的に言えば魔術と科学の両方が発展した世界だった。


 科学技術により魔術を制御する。そんな技術の確立した世界だった。それを、人は魔道科学と呼ぶ。


 魔術と科学の双方が高度に発達したこの世界は、他の平行世界よりかなり進んでいた。文明レベルでは間違いなく最も発展した世界だ。最も真理に近付いた世界、と言っても過言では無い。


 しかし、当然欠点もあった。人類の道徳の欠如(けつじょ)だ。


 解りやすく端的に言えば、この世界はディストピアだった。極端な管理社会と言っても良い。


 道徳が欠如し、文明が高度に発達したこの世界は退廃(たいはい)し、管理社会と化していたのだ。


 人々はこの世界をユートピアと呼んだ。しかし、蓋を開ければ世界はディストピアだ。


 果たして、この世界を裁く者は———現れた。


 突如、この世界に現れた一柱の機械仕掛けの神。デウス・エクス・マキナ。


 白銀の光を放つ、機械仕掛けの神。凍える程に美しい神の姿に、皆呆然と立ち尽くす。


 ディストピアに出現した機械仕掛けの神は、幕を引くかの様に世界そのものを破壊した。


 それは、まさしく終末の光。デウス・エクス・マキナの放つ白銀の光。それは世界を、時空そのものを徐々に破壊していく。それは、破壊の性質を持った魔力光だった。


 それは、まるで全てを破壊し尽くす核の光。デウス・エクス・マキナの光に触れた物は、跡形も残らずに尽く消滅していく。


 やがて、この世界は消滅して多元宇宙から姿を消した。一つの世界が終焉(しゅうえん)を迎えた。


 ・・・・・・・・・


 時は(さかのぼ)る———


 ディストピアに、一つの家族が居た。とても仲の良い家族だった。父と母、姉と弟の四人家族だ。


 「俺、大人になったら姉ちゃんと結婚するんだ!!」


 「ふふっ、私もサンゴと結婚したいわ」


 姉のメノウと弟のサンゴ、二人はブラコンとシスコンだった。そんな二人を微笑みながら見守る両親。


 互いを異性として意識する姉弟に子煩悩な両親。かなり危うい家族だが、仲は良いのだ。


 そう、とても仲が良いのだ。


 「うふふっ、本当に仲が良いわね・・・貴方達」


 「だな」


 そう言う両親も、互いに寄り添い合いとても甘い空気を放っていた。胸焼けする程甘ったるい。


 「あっ、そうだわ」


 「ん?」


 唐突に、母親が何かを思い出したかの様に手を打った。きょとんっと、父親が不思議そうに見る。


 「あなた、学会で発表する論文はどうなったの?」


 「ああ、あれね。ちゃんと書類を纏めておいたよ」


 父親は鞄からA4サイズの封筒を取り出して見せる。封筒には手書きで、意識と宇宙と量子エネルギーについてと書かれていた。中々達筆(たっぴつ)だ。


 「論文?」


 どうやら、サンゴが論文に興味を持ったらしい。その瞳を輝かせている。


 父親は思わず苦笑する。


 「そうだな・・・、少しだけお前達にも講義(こうぎ)してやろう」


 そう言って、父親は鞄からタブレット端末(たんまつ)を取り出した。


 意識と宇宙と量子エネルギーについて———


 意識とは即ち量子的なエネルギーである。肉体は死んでも意識は滅びず、時空を超えて別の器に宿る。


 それを人は、輪廻転生と呼ぶ。時たま前世の記憶を持った子供が現れるのはその為だ。


 人間の意識は大宇宙と繋がっている。その意識の集合体を人は集合無意識と呼ぶ。


 意識のエネルギーは古来より魔力と呼ばれる精神エネルギーだ。それは、精神活動により増加する。


 そして、集合無意識の放つ魔力が大宇宙に干渉し、多元宇宙を形成するのである。


 理屈は簡単だ。つまり、宇宙が量子論的に観測によって成り立っているのはその為だ。


 宇宙は観測される事で形成している。それは、量子力学によって証明される。


 そして、宇宙がその様になっているのは大宇宙と集合無意識が深く繋がっているからだ。


 或いは、それを真の神と呼ぶのかも知れない。


 ・・・論文はそう締め括られていた。


 「・・・真の、神?」


 「ああ・・・実はつい最近、集合無意識の魔力を観測する事に成功したんだ。その魔力は正に、真の神と呼んでも差しさわりの無い物だったよ・・・」


 それを聞いて、サンゴとメノウは目を丸くした。実物を観測した。それは、何よりも勝る証拠である。


 父親はふっと優し気な笑みを浮かべると、鞄から今度は一つの結晶が入った小瓶を取り出した。


 七色の光を放つ綺麗な結晶石だ。宝石の様に、様々な色に偏光している。


 「綺麗~」


 メノウが七色の光に見入る。どうやら、結晶石に()せられた様だ。


 父親は楽しそうに笑いながら言った。


 「綺麗なだけじゃ無いよ。メノウ、サンゴ、魔力にはそれぞれ性質があると昔言ったね」


 「うん・・・」


 「確か、それぞれ魔力には色と性質があるんだったよね・・・?それ等が個人を特定するとか」


 父親の言葉に、メノウとサンゴはそれぞれ頷いた。父親は満足そうに頷いた。


 「そう、そしてこの結晶石の魔力性質は全と一だ」


 「えっ!?」


 「・・・は?」


 ・・・???


 メノウは愕然とした、サンゴは理解出来ない表情で、それぞれ結晶石を見た。結晶石は相変わらず七色に光り輝いている。それが、とても綺麗だ。


 父親は苦笑した。


 「つまり、この結晶石の魔力は全ての性質を一つの性質として宿しているんだよ」


 「———っ!!?」


 「・・・・・・???」


 父親の説明に、メノウは更に驚愕した。サンゴは・・・まだ理解出来ないらしい。


 父親は困った様に溜息を吐く。


 「つまり、此れは全知全能の神、その力の一端と言う事だ」


 「あー・・・えっ!?ゑっ!!?」


 サンゴはようやく理解したらしく、目を丸くした。そして、七色に輝く結晶石を凝視する。


 全知全能———


 全ての智慧と全ての能力を備えた、完全無欠の神の力。


 「この結晶が・・・全知全能?」


 「ああ、その———」


 通りとは続けられなかった。唐突に、世界を揺るがす大地震が襲う。


 並の地震では無い。震度にして7以上はあっただろう。大きく揺さぶられる。


 「きゃっ!!?」


 「姉ちゃん!!!」


 咄嗟にサンゴがメノウを(かば)い、覆い被さる。父親も、母親を庇っていた様だ。


 そして、次の瞬間———白銀の光が奔った。


 瞬く間に破壊され、家ごと吹き飛ばされる。暴風の前の枯れ木の様に破壊された家。


 四人は木切れの様に吹き飛んだ。


 「けほっけほっ・・・・・・」


 「なっ、何だ・・・!?」


 そして、メノウとサンゴの二人は見た。絶望を。


 二人の目の前には、機械仕掛けの神が白銀の光を放ちながら空中に立っていた。


 白銀の威光を放つ、神の姿を。


 「・・・・・・・・・・・・」


 瞬間、神とメノウの瞳が合った。びくっとメノウが震える。サンゴがメノウを背後に庇った。


 白銀の髪に薄い水色の瞳、白い肌。純白のシャツにロングコートを羽織っている。全体的に冷たい印象を受ける程に美しい。凍える様な美しさだ。


 表情は無い。凍える程に冷淡な表情だ。


 その美貌に、二人はゾッとした。根源的な恐怖を覚える。


 そんな二人の前に、一組の男女が立つ。両親だ。両親は覚悟を決めた瞳で、我が子を庇う。


 「父さんっ!?母さんっ!?」


 サンゴが叫ぶ。父親はそんな二人に何かを握らせた。


 サンゴの手に、赤いカードと結晶石の入った小瓶を。メノウの手に、白黒のカードを。


 二人はそのカードを知っていた。魔術を発動する為の触媒、魔術師の杖だ。名をカドケウスという。


 そして、二人に笑い掛けて父親は一言。


 「生きろ!!!」


 次の瞬間、メノウのカードが輝き———二人は知らない世界に居た。森の中の、湖の前に立っていた。


 「そんなっ!!!父さん!!母さん!!」


 二人が最後に見た両親の顔は、笑っていた・・・。悲しいまでに、覚悟の籠った笑顔だった。

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