うん、きっと大丈夫だ
夢を視た———
只の夢では決して無い。此れは、恐らく未来の光景。何時か来る、滅びの未来。
世界の滅ぶ夢を視た。
世界が燃えている。それは決して比喩では無い。そう、世界の全てが燃えているのだ。
死神が人々の命を刈り取っていく。病にさらされた人々が苦しみ、絶望の内に死んでいく。
苦しみも無く、即死した者はさぞ幸運だろう。死んでゆく者達を見て恐慌に陥った者達が暴徒と化し、世界を燃やしていく。正に、此れは地獄の光景だ。地獄絵図と言えるだろう。
そして、世界を燃やす滅びはそれだけでは無い。
人類の暴走。極大規模の天災。星や宇宙の寿命。
そう、人類はどうあっても滅びを迎える運命なのだ。世界はどうあっても滅びるのだ。
人類に希望は無く、未来も無く、目の前の滅びに屈するしか無い。正に、これは絶望だ。
———否、そんな筈は無い!!!
滅びの未来に、石英は否を突き付けた。黒雲に覆われ、赤く染まった空に石英は吼える。
本当に未来は無いのか?本当に、人類は滅びるしか無いのか?そんな筈は無い!!!
人類に救いはある筈だ!!滅びを回避する方法はある筈だ!!だから———
僕は絶対に諦めないっ!!!
石英の絶叫は滅びゆく世界に響き渡った。それは、人類の未来に対する宣戦布告だった。
・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・っ」
其処で、石英は目を覚ました。其処は、何時もの自分の家だった。自分の家の、寝室だった。
ルビと黒曜と石英の三人、川の字で寝ている。石英は乱れた息を整える。
「んんっ・・・、父さん?」
どうやら黒曜を起こしてしまったらしい。ルビは、まだ寝ているな・・・。
「大丈夫・・・。何でも無いよ」
石英はそう微笑み掛ける。その言葉に安心したのか、黒曜はまたすやすやと安らかに寝息を立てた。
石英は穏やかな笑みで、黒曜の頭を撫でる。そして、ルビと黒曜を包み込む様に抱き締めた。
「・・・・・・んっ、石英」
ルビが声を漏らし、口元に笑みを浮かべる。その表情はとても安らかだ。安心しきっている。
石英はルビと黒曜の顔を見て、呟く。
「大丈夫・・・。ルビも、黒曜も・・・皆の未来は僕が守るから・・・」
この世界に来て、石英は多くのモノを得た。ルビと出会った。コラン、サファイヤと再会した。黒曜も生まれ様々な人達と出会った。本当に、たくさんのモノを得た。
今の石英は幸福なのだ。満たされているのだ・・・。
だからこそ、あんな滅びは認められない。認めたくない。認めてなるものか。
だからこそ、きっと救ってみせる。自分が救う。その為なら何だってして見せる。どんな手段も使う。
石英はそう覚悟を決めた・・・・・・。
・・・・・・・・・
石化の王との戦いから一ヶ月が過ぎた———
ハイドレはヘリオドールと共に、天空都市へと行った。そのまま、他の竜種達と共に棲む様だ。
黒曜はその後、何とか人間の姿に戻る事が出来た。とは言っても、人化の術で見かけだけだが。
ゲーデは天界へと帰って行った。相変わらず、心から愉快そうに笑っていたが・・・。
全ては元通り。平穏な日常へと戻って来た・・・。筈だったのだが。
「・・・・・・・・・石英の様子がおかしい?」
きょとんっとした顔で、サファイヤは黒曜の顔を見る。黒曜は静かに頷いた。その顔には戸惑いと言うか困惑の色が浮かんでいた。
魔王の城、応接室。其処に黒曜とルビ、サファイヤは居た。
黒曜が重要な話があると、サファイヤに言ったのだ。黒曜の相談に、サファイヤは快く応じた。
「うん、何だか必死に何かを調べている気がするんだ」
「何かを・・・」
実際、その話は正しい。石英は此処最近、一人で大図書館に閉じ籠り、何かを調べていた。
大図書館に居なくても、何処かに出掛けている事が多い。何を調べているのか、聞いても上手くはぐらかされるだけだった。それが、ルビと黒曜の不安を掻き立てた。
「この前、石英が私に"何か、体調に変化は無いか?"って真剣な顔で聞いてきたんだけど・・・」
「体調の変化・・・?」
ルビが言うと、サファイヤは怪訝そうに首を傾げた。ルビが頷く。
「うん・・・。何だか、最近妙にだるい事が多くて・・・体調が悪い事が多くなって来たんだ」
「じゃあ・・・石英はそれを調べているの?」
サファイヤがそう言うと、黒曜が首を横に振った。
「いや・・・父さんが調べているのはもっと別の、もっと色々な事を調べていたと思う・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
実際、黒曜の言っている事は正しい。石英が大図書館で読んでいた本はというと・・・。
薬学書や病気に関する本を始め、天文学、地質学、集団心理学、その他様々な本を読み漁っていた。
本のジャンルが幅広すぎる。これでは何を調べているのか全く解らない。
「父さんは、何かもっと大きな何かを調べている気がするんだ・・・」
それこそ、石英一人では何とも出来ない様な・・・そんな大事を。
しかし、その何かが解らない。それが不安で仕方ないのだ。それが、実にもどかしい・・・。
サファイヤは少しだけ考え込むと、二人に笑い掛けた。
「大丈夫、私に任せて!!」
そう言って、立ち上がった。
・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・」
魔王の城地下、大図書館・・・。石英は黙々と本を読んでいた。
かれこれ、数時間は本を読み続けている。凄まじい集中力だ。机には分厚い本が山と積み重ねている。
そんな彼に近付く者が一人。サファイヤだ。
「石英———」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
無反応。
「石英?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「石英~~~~~~~~~っ」
「っ!!?」
がばっ!!!
無反応な石英に、サファイヤは背後から抱き着いた。柔らかい胸の感触が、背中に感じる。驚いた石英は思わず身体を硬直させた。
突然の出来事に、本を机の上に落とす。ゴトンッと大きな音が鳴った。地味にびっくりした。
「~~~~~~~~~っ」
「何だ、コランか・・・驚かせるなよ」
石英は思わず、胸を撫で下ろす。サファイヤはそんな石英を冷静に観察する。
・・・抱き付きながら。
(・・・・・・なるほどね)
今までの石英なら、近付かれた時点で気付く筈。それが、声を掛けても気付かなかった。
それほどまでに集中していたのだ。並大抵の集中力では無い。端的に言って、異常だ。
「今、調べ物をしている所なんだ・・・ちょっと向こうに行ってくれないか?」
「・・・・・・それは、何を調べているのかな?」
「・・・・・・・・・・・・」
石英は黙り込んだ。ルビや黒曜にはのらりくらりと誤魔化したが、彼女は上手くいかないだろう。
「とりあえず、一緒に来てくれないかな?」
「・・・・・・・・・・・・」
石英は少し黙り込んだ後、頷きサファイヤに付いて行った。
・・・・・・・・・
応接室———
其処にはルビと黒曜が居た。石英は首を傾げる。二人共、真剣な表情で石英を見ている。
「ルビ?黒曜?」
「石英、貴方は私達に隠れて何を調べているの?何をしようとしているの?」
ルビが真剣な瞳で石英に問い詰める。その言葉で、石英は状況を把握した。
石英は溜息を吐く。
「なるほど、そういう事か・・・・・・はぁっ」
「で、どうなの?」
サファイヤが問い掛ける。その瞳は真剣だ。嘘は、通じないだろう・・・。
石英は苦笑し降参の意を示す。そして語り始める、人類の運命を———
「ルビは、何れ体内の死神によって殺される」
「「っ!!?」」
「石英、それは———」
黒曜とサファイヤは愕然とし、ルビは顔を伏せた。それは、以前魔術師のクリスが言った事。
何れ、死神はルビの体内から解放され世界を滅ぼすと・・・。
それが、クリスの父が残した予言だった。
「それだけじゃ無いんだ、人類を滅ぼす要因は・・・」
「それは・・・?」
黒曜が息を呑んで問い掛けてくる。石英は瞳を閉じ、深く考える様にして言った。
「人類はどうしたって滅びる。人類の暴走、予期せぬ天災、星や宇宙の寿命。様々な要因が重なり、人類は必ず滅びる運命にあるんだ」
『・・・・・・・・・・・・・・・』
石英の下した予言に、皆絶句する。ルビなんか顔を蒼褪めさせている。
石英は軽く溜息を吐き、話を続ける。
「僕はこの世界で多くのモノを得た。だからこそ、僕はそれ等を守りたい」
そう言って、話を締め括った。
皆、何も言う事が出来ない。もし、石英の言う運命が真実だとすれば———
不可能だ。乗り越えられる筈が無い。誰もがそう思った。
「出来るか出来ないかじゃない。やらなきゃならないんだ。きっと、誰かが・・・」
だからこそ、僕がそれをやると石英は言った。力強い瞳で。
黙り込むルビとサファイヤ。黒曜は・・・。
「大丈夫だ、父さん・・・。俺も手伝うよ」
「黒曜・・・?」
「父さんがやるなら、僕も隣を行くよ」
黒曜は力強い瞳で、宣言する様にそう答えた。
「なら、私も手伝うよ!!!」
「わ、私もっ!!」
サファイヤとルビも続いて答えた。石英は目を丸くする。
当然だろう。石英は自分一人で事に臨むつもりはあっても、それに他者を巻き込むつもりは無かった。
だが、他の皆は違う様だ。皆は巻き込んで欲しいのだ。石英と共に歩きたいのだ。
それを察した石英は、ふっと穏やかに笑う。
「そうだな。うん、きっと大丈夫だ」




