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神殺しの星辰《ほし》(旧題:不幸な少年と病の少女)  作者: ネツアッハ=ソフ
石英とルビ
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決闘しようぞ!

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 「僕はあの()、アリアの前で人を殺した。たとえどんな理由があろうと、それによってアリアの心に深いトラウマを植え付けた事には変わらないよ」


 自身の過去を話した石英はそう言い、話を締め括る。翁は目を(つむ)り、黙り込んでいる。


 ・・・リュウスイも、黙したまま何も言わない。石英は自嘲する様に、溜息を吐いた。


 「確かに、僕が殺したのはどうしようもないクズな奴ばかりだ。だが、僕はそれ以上のクズだ」


 確かに、石英が殺したのは人間のクズと呼ばれてもおかしくない最低な者達ばかりだった。結果、石英に救われた者も少なくない。


 石英に感謝する者も多いだろう。しかし―――


 石英が人を殺したのはとどのつまり、衝動の発散でしかない。それこそが石英の本当の罪。罪悪感の根源であると石英は言う。


 殺したくない。もう、殺すのは嫌だ。死にたい。心の奥底では、常にそう考えていた。


 しかし、いつも殺人衝動に振り回されていた。心は疲弊(ひへい)していくばかり。


 そんな石英の救いだったのがコランであり、アリアであり、ルビだ。彼女達が石英に愛を注ぎ、人を愛する事を教えた。それが彼女達の功績、偉業である。


 それ故、石英は殺人衝動に疲弊する事はあっても呑まれる事は無かった。無差別殺人に走らなかったのはその為だ。


 要はギリギリの所で自制心を発揮したのである。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 翁は相変わらず目を瞑り、黙り込んている。石英は怪訝に思い、翁の顔を覗き込んだ。


 すると・・・。


 「zzzzzzzzz~」


 寝ていた。流石に石英とリュウスイは唖然とする。


 まさか、こんな状況で眠るとは。予想外である。怒る気にすらならないとはこの事か。


 「おい、翁!」


 「はっ!?儂は寝てないぞ!!」


 「いや、聞いてねえし・・・」


 石英は思わず溜息を吐く。リュウスイはぽかんと開いた口が塞がらない様だ。・・・もう、いろいろと残念すぎる。


 「まあ、話は理解した。とりあえず石英よ、決闘しようぞ!」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 何処かで聞いた様なセリフに、石英は閉口する。色々とツッコミたい気分だった。


 其処で決闘しようと言い出す理由も解らない。頭の中に竜女王の姿がちらつく。


 石英は心の底で深く、溜息を吐く。


 「とりあえず、何故決闘?」


 「久し振りに決闘がしたくなった」


 「はあ・・・」


 なるほど解らん。竜女王といい翁といい、何故こうも決闘したがるのか、石英には理解出来ない。


 ・・・いや、理解したくなかった。断固、理解したくなかった。


 「・・・・・・・・・はぁっ」


 石英の口から、思わず溜息が漏れる。何だか頭がキリキリと痛んできた。胃も痛む、気がする。


 空を仰ぐと、何処までも澄んだ青が広がっていた。嗚呼、憂鬱(ゆううつ)だ。


 ・・・・・・・・・


 ―――15:30―――


 石英と翁は互いに木刀を手に、向かい合っていた。翁は木刀を正眼に構え、石英は自然体だ。


 しかし、少し離れた場所で見ているリュウスイには理解出来た。二人とも、全く隙が無い。


 泉で遊んでいた妖精達は興味深そうに二人を見ている。元来、妖精は好奇心旺盛なのだ。


 ・・・だが、近付くのは危険だと解っているのか、妖精達も離れた所から眺めている。


 「はははっ!こうやって本気で決闘するのも久し振りだな!」


 「はあ」


 心底楽しそうに笑う翁とは対照的に、石英は気のない返事を返す。と、いうか心底面倒そうだ。


 「では・・・()くぞ!!!」


 翁の姿が消えた。と、思った瞬間石英ののど元に木刀の切先が迫る。それを石英は独楽(こま)の様に身体を回転させ、避けた勢いでそのまま背後から切り掛かる。


 しかし、翁はそれをしゃがみ込む事で難なく避ける。同時に石英に足払いを仕掛けた。


 石英はバックステップで、それを避ける。と、同時に木刀を横薙ぎに振るう。すると、斬撃が翁に向けて飛んで行った。


 斬撃を飛ばす技。以前、サファイヤが石英に向けて使った技だ。只一つ違うのは、その斬撃に黄金の魔力が籠められ、威力が大幅に増大している事だ。


 ・・・しかし、その斬撃は翁に当たらなかった。斬撃が当たる瞬間、翁は(かすみ)の様に姿を消した。


 「ははっ、よもやその様な(わざ)を身に付けていようとはな」


 見ると、翁は空中に立っていた。避け切れなかったのか、天狗面の頬に傷が付いている。しかし、それもすぐに消えてしまった。


 翁はとても楽しそうに笑っている。本当に楽しそうだ。石英は呆れた様に溜息を吐く。


 「まあ、天狗だもんな。その程度の術は心得ているか」


 「ほう、この術をその程度と言うか」


 翁は天狗面の奥でにやりと笑った。・・・気がした。


 「そうだな。今の僕は色々と規格外だから、あまり舐めない方が良い」


 「そうかそうか。それは良かった!」


 言うと同時に、翁は空気を圧縮した不可視の刃を複数石英に放つ。鎌鼬(かまいたち)―――


 その空気の刃が石英に殺到する。その刃の一つでも直撃すれば、只では済まないだろう。


 もちろん、当たればの話だが・・・。


 石英は空間転移で翁の背後に転移する。


 「っ、なっ!?」


 反射的に翁は木刀を振るうが、石英は手首を摑む事で防ぐ。そして、その勢いのまま翁を地面に投げ飛ばし叩き付けた。


 「せいっ!!」


 「がはあっ!!」


 背中から地面に強く叩き付けられた翁は、よろよろと立ち上がりかけて、がくりと膝を付いた。


 勝負ありだ。


 「・・・僕の勝ちだな」


 「くうっ、かなり強くなったの・・・」


 木刀を杖に、翁はよろよろと立ち上がる。そんな翁に近付き、石英はそっと翁の肩に触れる。


 ぼそっと何かを呟くと、急に翁の身体の傷が消えた。


 「お、おおっ・・・回復の魔術か。こんな物まで使える様になっているとは」


 「・・・言っただろ、今の僕は色々と規格外だと」


 石英は呆れた様に溜息を吐く。・・・その時、突然石英と翁の側に燕尾服の男が現れた。


 ムーンだ。


 「石英、ようやく見付けたぞ!」


 「・・・何だ?」


 ムーンはかなり焦っている。明らかに様子がおかしい。


 「とりあえず落ち着け。一体何があった?」


 「そんな場合じゃ無い!何も聞かずに来い!!」


 そう言って、ムーンは石英の腕を摑んだ。瞬間、その場から二人は転移する。


 その場に残された翁とリュウスイは呆然と、立ち尽くしていた。


 ・・・・・・・・・


 石英とムーンは"龍の心臓"前に来ていた。そして、その光景を見て石英は愕然。


 町が燃えていた。


 「何だ・・・これ・・・?」


 町を破壊しているのは、触手を生やした異形の生物達だ。どいつもこいつも、まともな生物の形をしていない異形ばかり。


 そんな奇形の生物達が町を燃やし、破壊している。逃げ惑う民達。それを襲う異形。


 「何だよ、これ・・・」


 「いきなり色の黒い神父姿の男が、異形の怪物を引き連れて町を襲撃してきたんだ」


 ムーンはぎりっと歯を食い縛る。町を壊され、民を殺され、怒りに顔を歪める。


 石英の胸がざわつく。気付けば石英は駆け出していた。


 目の前で一匹の異形が子供を襲っている。その異形に、ナイフを数本投擲(とうてき)した。


 「ギイッ!?」


 そして、そのまま異形が怯んだ隙に手に握った短刀で切り刻む。石英はそのままの勢いで、もう一匹の異形の元に駆けて行く。異形は触手を伸ばし、石英に襲い掛かる。


 しかし、石英はその触手ごと異形を切り裂いた。


 殺す。殺す殺す。殺す殺す殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。


 一体、何匹の異形を殺したか。そんな石英の目に、知っている人の姿が映った。


 ルビだ。ルビが一人、燃え盛る町の中を逃げ惑っている。


 「ルビ!!」


 「っ!?石英!!」


 石英に気付いたルビが一瞬、安堵(あんど)の表情を見せた。その瞬間。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごほっ」


 ルビの背後から漆黒の十字剣が飛来し、ルビの身体をを貫いた。・・・ルビの背後、燃え盛る建物の陰に色の黒い神父が、何かを投げた様な姿で立っていた。この神父が剣を投げたのは明らかだ。


 石英の胸がざわつく。心が軋む。一瞬、思考が真っ白になる。


 「っ、ルビ!!!」


 燃え盛る町の中、石英の絶叫が響いた。

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